森の中の魔神
二人の言っていた通り、隠し通路は見つかった。
部屋をくまなく調べていると、隅の方に割れた石があった。慎重に石をどかしたその下には、人一人通れるぐらいの大きさの穴がある。
『特に罠とかはなさそうね。』
「セリム〜。先進んでー。怖いのはいやだー」
「分かった……。はぁ」
足を滑らさないようにゆっくりと降りる。ある程度降り続けると、道に変わった。
四つん這いで進む。数分経つと突き当たったので、上に上がる。
「セリム〜!疲れた!おんぶ!」
「自分で歩け。もう俺は知らん」
「ケチー!」
少し上がると、出口に出た。
上がって、周りを見るとどうやら民家のようだ。外を見るともう夜だった。
ガチャン、という何かが割れる鋭い音がすぐ近くから聞こえた。
「なぜ……貴様が?」
割れた皿に目もくれず、驚いた表情を浮かべて立っているのは、俺をあの遺跡に閉じ込めた考古学者のジジイだった。
「そんな事はどうだっていいだろ?お前は死ぬんだから。」
ついついそう吐き捨て剣を引き抜く。剣は赤く血を待ち望むように妖しく光っている。
「何だと?!」
「お前を殺さなけば俺の気が済まないんだ。分かるか?」
「だからと言って………!」
「黙れ」
頭から綺麗に一刀両断する。
噴き出した血は剣が吸い取ってくれた。どうやらこの魔剣は人の血を吸って成長するらしい。
『綺麗ねー。』
「血の雨だ!」
「ウンディーネ。この家から金を掻き集めてくれ。集めたらすぐにこの街から旅立つぞ。」
「どうして?」
「明日の朝にはもうこいつが死んだという事はバレるからだ。それに、金は払って欲しいしな。」
「ふーん。集めてくる!」
ウンディーネはドタドタと音を立てて走って行った。次の行き先はどうしようか。
『森を通った方がいいんじゃないかしら敵も巻けるわ』
俺の考えを読んだかのようにあくび交じりでサキュバスは言った。
「なるほど。流石だな」
「持ってきたよー!」
頷く俺の所に、これ以上入らないくらい貨幣が入った白い麻袋を二つ、重そうにウンディーネは持ってきた。中では貨幣と貨幣が擦れ合いカチャカチャと嬉しい音を立てている。
「ありがとうな。サキュバス、伸縮魔法を使ってくれ。」
サキュバスが、片方の麻袋に向かって伸縮魔法をかける。伸縮魔法は、魔法をかけた者の魔力によって、伸びる長さは違う。サキュバスは魔法が得意な為魔力は多い。伸びた袋に、もう片方の袋に入っている金貨を全て入れる。そして、その袋にも伸縮魔法をかけてもらう。
「ウンディーネ、実体化解除。これから近くの【狩人たちの森】に向かおう。異論は無いな?」
【狩人たちの森】。それは、この地に住む狩人たちが一番最初に訪れるであろう場所だ。この地にしかない動物や、植物がそこそこ有名だ。
『さんせー!』
『あなたが決めたことなら、私は従うわよ。』
二人とも少し弾んだ声で言った。
街を出てから、数十分は経ったと思う。街を出る際に、警備兵に見つかるということが起きたが、安眠魔法を使って何とかなった。
森の中で泉を見つけた時、事件は起こった。
水を飲もうと泉に一歩足を踏み出した。その瞬間、恐ろしいほどの魔力を感じた。潰れてしまいそうな重圧感。少しでも気を抜いたら死ぬような。
『何……!?この魔力……。魔神、いやそれ以上………!??』
そこで俺は気を失った。最後にサキュバスがそう呟いたのを覚えている。それ以上は思い出せない。
目がさめると、そこは家の中だった。
かなりだるいが、無理やり起き上がる。家具は簡素な机と椅子だけ。あと、大きな瓶の中に詰められた次々と色を変えていく燃え盛る魔法の炎。机の上にはパン二切れと冷めたスープが皿に盛られていた。すぐそばには、《食べてくれ》と滑らかな字の書き置きが近くに置いてあった。
食べようかどうか迷っていると、いきなりドアが開いた。ベッドの近くに置いてあった剣を持つ。
「ふぅ、重いな……。あ、起きたか。」
入ってきたのは、女性だった。
滲む汗を拭い、目に掛かった青髪が混じった銀髪を払い、緋色の瞳でこちらを見つめてきた。一瞬見るとただの人間だが、狼耳が生えている。
「どうだ、調子は?お腹、減っているか?」
「腹は減っていないが、身体が怠い……」
「そうか、少し待ってくれ。」
持っていた荷物を机の上に置き、ベッドの近くに椅子を持ってきて座った。椅子に座り少し休むと女性は、俺の額に手を当てると何やら目を閉じて集中しはじめた。
「…………ふぅ、どうだ?楽になっただろう」
「確かにな。」
怠さと疲れが消え、身体が軽くなった。
「これで私の身体も少しは持つ。ありがたい。」
「どういうことだ?」
「………私の体は魔力を異常に溜め込む体質でな。溜め込み過ぎると、暴走してしまうんだ。」
女性はため息をつきながら、ウンザリしたようにぽつりと呟いた。ふと思いついた事を口に出してみる。
「もしかすると、泉の近くで感じたあの魔力は……」
「ああ、私だろうな。だが、貴殿を見つけた時の魔力は半分も無かったぞ。」
とんでもない事を女性は微笑みながら言った。半分以下で魔神以上の魔力とは、満タンの場合は一体どれくらいなのだろうか。
「所で、貴殿の名を教えてもらっても構わぬだろうか?」
「俺の名は、セリム。セリム・バトラーだ。」
「良い名だな。私はステラだ。その身なりからして、軍人か……。あと、もう一つ聞くが何歳だ?」
軍人という言葉に少し顔をしかめたが、すぐに笑顔に戻り身を乗り出して聞いてきた。
「23だが。」
「そうか。宜しくな。教官殿」
「教官?」
「?いけないのか?」
「別に構わないが…。」
少し変な気分だがまあいい。
『おっはよーっ♪』
『あれ?魔神以上の魔力は………?』
サキュバスとウンディーネが目を覚ましたようだ。今までは口に出していたが、久しぶりに契約者にしか使えない声を出す。
『おはよう。サキュバス、ウンディーネ。』
『あ、教官と契約した魔物も目が覚めたのか。』
サキュバスともウンディーネとも違う凛々しい声が響く。さっきまで話していたステラの声に似ているような気がしないでもない。
「教官は二匹の愛らしい魔物と契約しているのだな。私も、契約しているぞ。」
ステラが声を出して確かにそう言った。
「ほら、アルラウネ。実体化だ。」
ステラがそういうと、パンッという音がして人が現れた。
端正な顔立ち、悪戯っぽそうな光を放つ濃いピンクの目。金色の髪の毛は下の方で緩く巻かれている。頭には薄いピンク色の大きな膨らみかけた蕾が葉と一緒に二つ付いている。
白いシャツに黒の吊り半ズボン、黒いブーツ。少年はこちらの顔をじっと見つめてから、ステラに向かって言った。
「ステラーっ、このオッさん誰?」
「オッさ……っ!?」
『とうとうオッさんて呼ばれるようになったわね。』
『オッさんって……。あっはっはっは!』
笑い転げるウンディーネ。嘲笑うような表情でこちらを眺めるサキュバス。申し訳なさそうにこちらを見るステラ。
「申し訳ない。この子が変な事を言ってしまって。」
「………いや、別にいいんだ。うん」
実のところ結構傷ついた。
アルラウネ可愛いよアルラウネ。




