遺跡の中で
「くっ……!」
大広間を抜け、狭い道に入る。
襲いかかってくる敵を次々と斬り捨てる。
魔物の腹を切り裂き、様々な色をした血や臓物が頭から降りかかる。
『その剣、切れ味悪いわね』
『はいはい!ウンディーネが武器化する!』
「わかった。ウンディーネ、武器化だ」
雪白の剣を持ち替えた瞬間、ウンディーネは青みがかった鎖に姿を変え二の腕まで巻き付く。
鎖が巻きついたその手を敵に向かって突き出す。真っ白な光が全てを包み込む。
一瞬にして数メートル先までいた魔物が“消え去った。”なんの後も残さず、元々いなかったかのように。
『水魔の叫び』。
この技は、数メートル先までの全てのものを時空の切れ端に消し去る。
たまに魔力と精神力が強く、切れ端へと追いやれないものもいるが、大体は千切れた足、顔の半分などを残して消える。
「うぅ、手が痺れるな……」
手を揉んでいると、魔物が前から襲いかかってきた。どうやら、アレを避けたようだ。 防いだ左腕に鋭い牙がめり込んでいる間に頭から剣で斬り裂く。
道を通り抜け、先程よりも広大な広間に着く。部屋にぎっしりと詰め込まれた魔物たち。
流石にこの数を倒す事はキツいので、魔法を使うことにする。
身体の魔力を凝縮し、燃え盛る黒炎に具現化する。
放った黒炎は敵にあたり、いくつかの小爆発を起こす。爆風に巻き込まれ、大体の魔物は姿を消したことだろう。
ウンディーネの武器化も解く。
『あら、壁にヒビが入ってるわよ。』
「威力抑えたんだがな。」
『アレで!?……さ、流石天才だね。』
「天才じゃない。努力の賜物だ。」
そんな会話をしながら、先に進む。下に行けば行くほど、ジメジメとした嫌な空気が感じられる。
『不思議だね〜。聖なる場所なはずなのにゾンビやウルフがいるなんて。』
チャプンと水の音がすぐ隣から聞こえた。見ると、小さな少女がいた。
サキュバスの美しい桃色の髪とは違い、コバルトブルーの髪と瞳、青のレインコートと長靴。そして青の傘を差している。
「えへへ、驚いた?」
「……珍しいな。実体化するなんて。」
「可愛いでしょ?デザイン、変えてみたんだ♪」
「まぁ、お前にピッタリだが……。」
朽ちかけた石階段を下りる。
最後の一段を下りきった瞬間、嫌な空気が一層濃くなった。禍々しい何かがこの部屋にいるような気がし、辺りを見回すも何もない。
「アララ、やっぱり居たね〜。」
『ダグノザラスの暗黒騎士様。気配を消しても魔力は消せないわよ』
部屋の真ん中にある大きな七芒星の結界。それはかつて見た本の中にあったシルシによく似ていた。その中心を見つめて二人は言った。
『………流石だな。』
何もないところから急に姿を現したのは、漆黒の甲冑に身を包んだ騎士だった。
「大方、この遺跡を潰しに来たんでしょう?違うかしら?」
『…………』
いつの間にか、サキュバスは実体化していた。騎士は持っていた真っ赤な血に濡れたランスを構える。
「来るわよ!セリム」
サキュバスの言葉で、騎士は襲いかかってきた。その赤きランスで心臓を貫こうとしたが、間一髪で避ける。
「サキュバス。武器化だっ!」
サキュバスは黒い槍に変わった。穂先には赤く光る宝石がはめ込まれている美しいものだ。
槍で騎士を一突きしようとするも、物理攻撃を防ぐ魔法がかけてあるようで傷一つもつけられない。
騎士の鋭い突きを紙一重で避けながら、片手で魔防低下の魔法を唱える。騎士を目指すものは、守りを固めるが故に、魔法などに弱くなってくる。
物理がダメなら魔術で殴ればいい。
「そろそろ頃合いか……」
魔防低下の魔法を唱えつつ、魔力を溜めた槍を天に掲げると、穂先から赤い光が飛び出す。赤い光は八つに分かれ騎士を八方から攻撃する。
『ぐあぁぁあ………!!』
「ふん。格の違いが分かったか。」
そう言い捨て、青白い聖なる光を静かに放つシルシの方に向かう。
『私の命に…………変えても、アレは…………』
騎士は残る力の全て振り絞って、放った解呪の魔法は黒い結界に吸い込まれる。
彼が最期に呟いた言葉は、夢魔にしか聞こえてなかった。
シルシは、青白い光を放ち静寂を湛えていた。
「ねぇねぇ、セリム〜。コレ浄化しといた方がいんじゃない?」
「浄化?」
ウンディーネが楽しげな声で聞いてきた。聞いた事がない言葉だ。いや、一度くらいは聞いたことあるだろうが。
「知らないの?穢れたものを清めるんだよ。浄化すれば聖なる結界、シルシは長く保つようになる。スゴイよね♪」
「やってみるか。で、やり方は?」
「えっとね。まず、サキュバスのその槍に魔力を集めるの。」
シルシの真ん中に移動し、槍を両手で持ち、意識を集中する。身体中の魔力を、少しずつ槍に注いでいく。
「集めたら、ドルンガ・ティアンゲル・ガンザルグって呪文を3回唱えるの。さぁ、私の後に続けて言ってみよー!」
言われるままに、ウンディーネの後に続け、呪文を3回唱える。
「最後に、集めた魔力を解き放つっ!」
身体の力を抜き、槍の魔力を解き放つ。魔力は遺跡中を走り抜け隅々まで浸透した。なんだか懐かしい気がしたのは気のせいだ。
「………武器化解除。」
少しの間呆然としていたが、すぐに武器化を解除する。魔力を大量に消費する作業だな、と誰にも聞こえないように呟く。
『………ちょっと何すんのよ。ウンディーネ。コレ悪魔の身にはキツイのよ?』
「えーだって、サキュバスはお姉さんだから痛いの我慢できるかなーって」
「あのさ。この後どうすればいいんだ?」
出入り口は既に塞がれている。逃げ場などないに決まっている。
サキュバスはおかしそうに笑った。
『そんなの、簡単じゃない。』
「こういう遺跡はねー、盗賊たちの隠れ場所とかに使われてたことが多いから。何処か、逃げ道はある筈!」
『それだから、絶対に隠し通路はあるはずよ?』




