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最後まで抗い続けた英雄の物語  作者: 夏蜜柑
第三章〜桜の大戦・前半〜
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茶屋の娘

『………あらぁ?』

勝負に負け、不機嫌そうに札をめくっていた手が止まった。美女の異変に気がついた男が、傾けていたお猪口をちゃぶ台に置き、赤みが差した顔で不思議そうに首を傾げる。

『どうしました?何か変な事でも?』

『いや………変な奴らが入ってきたみたい。』

『変な奴ら?』

変な奴ら、と言って思いつくモノは数多い。男はさらに不思議そうに美女の言葉を反芻する。

『変な奴ら……?』

『そ。なんか人なのかそれ以外なのかよくわかんない奴ら。まぁまぁ、放っておいても大丈夫っしょ。』

手をヒラヒラと動かし、美女は改めて別の札をめくる。柄は仮面を被った船守。男の酔いが一瞬にして覚める。

『………あの、コレの意味って』

『…………全ての、滅亡ね。』

美女の占いが外れる事はそうそう無い。夜影ノ霊闇(ヨカゲノレイアン)と、鳴神鬼道(ナルカミキドウ)はほぼ同時にその言葉を発した。

『『コレって………ヤバいんじゃ(では)?』』



「教官殿っ!桜が咲いているぞっ!」

「分かった。分かったから落ち着け。」

静かに咲き誇る桜を指差し、はしゃぎ回っている少女。

「綺麗だなぁ………。本の中でしか見たことなかったから、本当に見れて嬉しいよ。」

ヒラヒラと舞い落ちてくる花弁を掴もうとするも、するりするりと逃げられる。淡い、薄い桜色の花弁は全ての物を人目から隠すように降り注ぐ。

「ねえねえ!教官殿、お茶屋だって!お茶屋ぁっ!早く早くっ!」

「うん、本当に落ち着け。茶屋は逃げないからな。」

白い暖簾の掛かった入り口、それの前には赤い長椅子が二つ、間隔をあけて置かれている。

暖簾をくぐり、店内に入る。

薄桃色の服を着た女性が甲斐甲斐しく妙に豪勢な板に乗せたお茶を、客に配っていた。

「あら、いらっしゃい。席はどこにでも座っていいからね。」

高いところで結いあげた髪に付けている銀色の鈴は、女性が動くたび美しい音色を響かせる。



「教官殿、これはなんだ?」

小さな木の机と薄っぺらい濃紺の布団のようなものが置かれた個室に入ると、ステラは色んなものを指差し、無知な子供のように問うてきた。今は、床に敷き詰められた草の絨毯みたいな厚い敷物を指差している。

「えーと………それは。」

「それは『畳』って言うんよ。」

回答に困っていると、先ほどの給仕の女性が、先程の豪勢な板に乗せた緑色の茶が入った、妙な形のコップを人数分置いた。

「へー。何で出来てるんだ?あとこの布団みたいなのは?」

「井草っていう草を編んで出来てるんよ。お客さんら、この国は初めてなのかい?」

子供のようにあれはこれはと質問責めにするステラに苦笑しながら、首を傾げ聞いた。彼女が顔を動かすとなる鈴の音は疲れを癒しているように感じる。

「ああ。そうだ。観光で来たんだ。」

変な事を言い、怪しまれないように適当な理由をつけて誤魔化す。

「この辺は珍しいもんが多いからねぇ。【殿様のお城】とか、結構綺麗やしおススメよ?」

他に何があったかなーと、女性は呟き、顎を触れながら考え込む。よく見ると、衣服の胸元に刺繍された変な文字の下にセブレイスがあった、アロウィッグ大陸で使用されている文字でコトノハとある。それが、彼女の名前だろうか。



「うーん……あ!あった!あのな、ここからちょーっと行った先にある【龍水橋】のすっごく桜が綺麗で、そっから古くから伝わる郷士のお家が見えるの!そこもすっごいのよ!」

長い間悩み、ようやく思い出したようで、手を大袈裟に動かし、喜びと場所を伝える。

「あとな、あとな。宿が決まってないなら、お向かいの【白露】っていう旅館が良いよ。彼処のお兄さん、優しいし。」

「ふーん。じゃあ、今日はそこに泊まってみるよ。ステラも良いだろ?」

「うんっ。教官殿が決めた事ならそれでいいよ。」

「オルフェは………寝てるか。」

緑茶、と呼ばれるこの地域特有のお茶を熱そうに飲んでいるステラの横で寝ているオルフェは、まるで高価な華奢な体つきの人形に見える。



「あ、ちょっと待っててな。」

そう言うと、彼女はお盆を片手に厨房へと走っていったかと思うと、またお盆に何かを乗せて戻ってきた。

ドタドタという足音で、敏感な羽耳を持つオルフェを目を覚ましてしまった。

「これ、話に付き合ってくれたお礼や。美味しいよ?」

「ん…………?」

ステラの頭に疑問符が浮かぶ。

それもその筈、目の前に置かれたのは黒っぽい物体がたっぷりと乗り、四角く透明な何かと果物が乗ったお菓子 (のようなもの)。

どう見ても、変なものにしか見えないのに、何故か美味しそうに見え食指が動く。これが何かと、聞く前にコトノハはハキハキと答えてくれた。

「これはな、餡蜜(あんみつ)って言うんや。すっごく甘いお菓子なんだ。」

彼女はお盆で、口元を隠して嬉しげに笑った。

セリムさんは甘い物好き。苦い物と辛い物は大っ嫌い。

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