古き記憶
「…………一体何でだ?」
彼女は震える声で呟いた。
ステラの悲しげな瞳に映るのは、山となった無残な死体と争い続ける人々の姿だった。
「何で、人は争い続けるのだろうか。」
『そりゃ、誰もが正義だと思ってるからだよ。』
アルラウネが楽しげにクスクス笑いながら言った。その濃いピンクの瞳はゆらゆらと、燃える炎を写している。
『千の人がいたら、そこには千の正義がある。そういうもんだよ。』
「………とりあえず、先に進もう。ここにはもう用はない。」
『たった一つの地位を得る為に、血を血で洗う戦いを繰り広げる。愚かな事だけど、本人たちにはそれが正義ってヤツだね♪』
ウンディーネはこの争いが楽しいのか、やけに弾んだ声で先に行こうと手を引っ張った。
「ゴメンな。野宿をさせてしまって。」
「別にいいよ。そんなことより、夕飯でも食べよう。私は腹が減った!」
癒しの国と次の村の中間の草原。今日中に、村には着きそうにもないので野宿する事に決めた。
三十分程度かけて簡易テントを張る。
オルフェをクーシーに任せ、焚き木を二人で拾いに行く。
ある程度集まったので、一旦オルフェたちの元に戻り、火をつける。干し肉の塊を一つ袋から取り出す。
「切り分けて炙っておいてくれ。俺は少し散策してくる。」
「分かった。」
先ほど、焚き木を拾った場所に一本の木があった。そこに行ってみよう。あと、草原鶏がいたらそれも捕まえてこよう。
「草原鶏が三羽と、樹蜜が一瓶分か。十分だろう。」
つい先ほど、巨木から作った簡単な弓で草原鶏を仕留めた。矢尻は、木を最大まで削って作った。
魔法を使って仕留めるということも出来たが、弓を使って見たかったのでやらないでおいた。何回か練習すると、油断しきっている獲物だったら仕留められるようになった。
「母から、教えて貰った方法が役立ったな。」
昔、母がおやつに焼きたての胡桃のクッキーと甘い樹蜜をくれた。
樹蜜はラヴェルドの木から採れるという事と、その採り方まで教えてくれた。
採り方をどこで知ったのかと聞くと、貴方のお父さんが教えてくれたとも言っていたな。
「樹蜜は蜂蜜のような甘味と樹の清々しい香りが特徴なんだよな。母さんが俺が十になるくらいに作ってくれ………」
回想が止まる。何かが、おかしい。
母が狂い出したのは七のときで、十になる頃には料理なんてまともに作れなかった。いや待て、九のときにはもう死んでいたような。狂い出したのは三のとき?。
何で、何で、こんな記憶があるのだろうか。
「………気のせいだ。そうに違いない。」
樹蜜をもう一瓶取りに行こうと考える。これ以上昔の事を思い出したくない。




