第1話-少年と狗-
「腹減ったー」
幕府の街、江戸に一人の少年と狗が歩いていた。
「何、心配することはない。それは俺も同じだ。」
「貴様に食わせる餌はない。」
「ほう、なら貴様を食べてやろうか。」
「すまない、冗談。」
狗の方はクックック、と笑う。
「それでよろしい。ほら、もうすぐいつもの場所に着くぞ。」
少年はため息をついた。
「はぁ・・・金無いのに。」
「金と命どちらが大事なのだ?腹が減っては戦はできぬぞ。」
「やっぱお前には敵わんわ。」
少年と狗は笑いながら団子屋へと向かった。
「いつもの2つ頼むよ。」
「かしこまりました。」
時代は江戸。黒船といい、新撰組といい、最近は治安が乱れてきた。
幕府は混乱し、奴らはやりたい放題・・・。
まったく、だらしないよな。
「団子2つどうぞ。」
「ありがとう。やっぱり団子と花見は最高だな。」
「そうですね〜。」
「…ん?見ない顔だけど新入りか?」
「あ、はい。真院寺鈴といいます。よろしくお願いしますね。」
「お鈴か。俺は六道時雨・・・と呼ばれている。この狗はシロウ。」
鈴は首を傾げる。
「リクドウシグレ・・・?珍しい名前だね。」
時雨は団子を食いながらこう答える。
「偽名だ。本名を明かすなと主人が言ってるからな。」
そして飲み込んだ後こう言った。
「主人からの命令でね。妖怪退治というものをやってる。暇なときは女性をくど・・・」
「それをいうな。軽蔑されるぞ。」
シロウは時雨の頭を殴る。
「いてっ!」
「…? よくわからない仕事やってるんですね。陰陽師・・・とかいう奴ですか?」
時雨は、フッとした顔で
「まあそんなものだが、そんな野蛮な輩と同じにしないで欲しいな。」
「す、すみません・・・。」
「いや、別にいいよ。間違えられることはもう慣れたし。しかし本当にこの団子はおいしいな。」
「黙れ、この食いしん坊。」
再びシロウは時雨の頭を殴る。
「いてーなコノヤロウ!」
「どうしたバカヤロウ。反抗すれば腕を一本もらうぞ。」
「んだとー!やってみやがれ!」
「あのー誰と会話してるんですか?」
「ああ、目にゴミが入った。」
体勢を元に戻す。
その時、大男が団子屋にやってきた。
「また来た・・・。」
「おうおばちゃん。いつもの団子くれや。」
「何なのだ?あの大男は。」
「最近この団子屋に来るようになってね。勘定も払わずに団子を大量に食っていっちゃうんだよ。」
時雨はピンと来るような顔をした。
「ほらどうした。さっさと団子もって来んかい!」
「お前、妖怪だな?」
「ああ!?ん・・・」
「妖刀『七月』反応している・・・。容赦なく行くぞ。」
「き、貴様はもしかして───」
「はああぁ!」
時雨は刀で大男を斬りつけた。
が血は出ること無く、煙が吹き出た。
「ぐぎゃあああぁぁぁ・・・。」
「成仏しろよ・・・なんてな。」
そのまま大男は消え去った。
「まったく、団子を盗み食いするなど許されんことだな!」
「・・・団子の方が大事かよ。」
シロウが突っ込みを入れる。
「・・・今のは一体なんなの?」
「今のが妖怪だ。普段は人に化けてるから、外で歩く時には気をつけるんだな。」
「・・・この妖怪というのはいつ頃から現れたの?」
「黒船が現れてからだ。外の国のものが連れ込んできたらしい。」
ふぅ、とため息をついて刀を収めた。
「あ、ありがとうございました!」
団子屋のおばちゃんがお礼を言った。
「いやいや、たいしたことじゃありませんよ。ああいう化け物がいるので気をつけて下さいね。」
「は、はい!」
「時雨〜。詩音様が呼んでいるぞ〜。」
相方の柳の声が聞こえた。
「ではそろそろ行くとしようか。」
「待って!貴方達は一体何者なの!?」
「森羅宗───俺たちが所属している宗はそう呼ばれている。腹が減ったときにまたいくぞ。鈴ちゃん。」
そう言って時雨は軽くウィンクをして立ち去った。