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不安  作者: 壇希
4/8

顔2

 「仕事が立て込んでてね、休日出勤した代休ってやつかな」

 

 佐野さんは月曜日の正午前に目が覚めたという。


 「なんていうか、平日の朝に二度寝するってのは、なんともうれしい気分になっちゃうね」


 佐野さんが遅い朝食をとっていると、インターホンが鳴ったのだという。

 

 「誰が来たのかと思ってね、玄関の覗き窓見ても誰もいないんだよ。悪戯かと思って玄関開けて確認したんだ」


 その男は目の前にいたという。


 「声が出なかったよ。まあ、覗き窓で確認したときは居なかったってのもあるんだけど……、その男、顔が真っ黒だったんだよ」


 唇まで黒く、血走った眼を大きく見開いた黒い顔が、佐野さんの鼻先に触れんばかりのところにあったのだという。


 「焼け焦げたり、血塗れていたんじゃない。本当に皮膚が黒色をしてたんだよ。黒人なんて比じゃないくらいに」


 黒い顔は、真っすぐに佐野さんを見つめていたという。


 「見つめるだけで何も言わないんだよ。こっちも恐怖で声も出なかったけどさ」


 しかし、その黒い顔は、唐突に絶叫をしたという。


 「あーーってね。白い歯剥き出しにして、口の中が異様に赤かったのも気持ち悪かったよ」


 あまりの恐怖に、佐野さんは意識が遠のくのを感じたが、次の瞬間には黒い顔もその声も忽然と消えていたという。


 「そのあとは、一人で部屋にいるのがあまりにも怖くてね、そのまま近くのファミレスに逃げ込んだよ」


 ようやく気持ちも落ち着き、家に帰ろうかというとき、携帯が鳴ったという。


 「会社の上司が、仕事中に急死したって連絡が入ってね」


 くも膜下出血だったという。その日の晩に、佐野さんは亡き上司の通夜に赴いた。


 「思わず声が出ちゃったよ……。なんでも、くも膜下出血で亡くなった人ってのは、顔に血が溜まってるらしくてね、それが徐々に変色したみたいで」




 柩に納まった上司の顔は、真っ黒だったという。

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