顔1
Hさんはその日、会社に向かうため、朝の通勤ラッシュのいつも通りの電車に乗り込んだ。車内はいつも通りのすし詰め状態で、Hさんは自動扉の窓に張り付く格好になっていたのだという。
Hさんは緩やかに流れる車窓の風景を何の気なしに眺めていたという。そして間もなくトンネルに入ろうという時、途切れる寸前の景色の中に妙なものを見た。
線路沿いに建てられている二階建ての家。その二階の部屋が、ベランダ越しに見えたのだという。その部屋の中に、大きな顔が横向きに転がっていたというのだ。
大きな顔の脇には、人影が立っているのも見えたという。赤い服を着ていたようだが、直ぐにトンネルに景色を遮られてしまった為、よくわからなかったそうだ。大きな顔は女のようで、長い髪が顔面に被さっており、表情はよくわからなかった。髪の間から覗いていた大きな目は、無表情のようにも、怒っているようにも見えたという。
その後トンネルに入った為、車窓には車内の乗客が映し出された。大きな顔に気付いたのは、どうやらHさんだけのようだったという。
その日、Hさんは自転車と衝突し、小指を切断する大怪我を負ったという。




