ギルドの方向性
僕は空いていた右手の通路側の席に座った。右に小竹さんで、正面に許斐さんがいる。
「さて、まずはテーマを決めよう」
「最初は、自己紹介とか雑談とかでよくないですか?」
小竹さんが長崎さんの進行に茶々をいれるが、長崎さんに聞く気はないようだ。
「ユースギルドの会議は時間と回数が限られるんだ。一回目で方向性だけでも決めないと」
一回一時間の会議を月二回の半年間という、合計十二時間で結果を出すことを求められる以上、確かに悠長なことをしてはいられない。
「公式の会議以外でもプライベートなミーティングを入れていきましょうよ」
「それはそれぞれの都合というものがあるからな」
長崎さんの言葉に、許斐さんが頷いた。
「私は、クランのほうでいろいろと抱えているので、あまり時間が取れないんです」
「えと、私もです」
許斐さんの隣の千川さんも言葉を添える。
「ということだ。自己紹介カードは先週の時点で各自の承認を得て、お互いに配布されている。このまま会議に入っていいと思うが?」
「それでいいと思います」
僕は同意した。
「わかりました。それでいきましょう」
小竹さんもしぶしぶ頷いた。
自己紹介カードによれば、長崎さんが二十五歳のほかは、三人とも僕と同じ二十一歳だ。
その長崎さんは立法系行政クラン所属で、すでに外交政策立案を主に行うギルドの一員として働いており、実績がいくつかある。コーディネーターとして、ギルドのまとめ役をシステムに委任されたのはそのためだろう。
小竹さんは電子系工業クラン仮所属で専攻は有機光素子。システムでのレポートの評価は高く製品開発にむけて動いている企画もあるらしい。
許斐さんは生物系科学クラン仮所属で細胞工学専攻だが、レポートは専攻をこえて多方面のアイディアにあふれている。
そして、千川さんは支援系行政クラン仮所属で、楚々とした外見に反してすでに海外の難民キャンプでの活動実績がある。
実用系科学クラン仮所属の僕としては普段なかなか話をする機会のない人たちで、こんな場所に五分とはいえ遅刻してしまったのが悔やまれる。
それもこれも、こんな日に限って得意先へのあいさつなんてものが組まれて、相手方に話の長い人がいたせいだが、仕事のつきあいでは文句も言えない。
システムがこの五人の組み合わせを選定したのは、直近のレポートで途上国支援に関する提案が共通するキーワードになっていたからだろう。
思えば、レポート提出期限が迫るのに狙っていた結果が出なくて苦し紛れに数年前に書いたメモを探し出してきて半日で書き上げたレポートだったが、アイディア勝負だった割には我ながらよくできていたとは思う。
おかげでこうした機会を得られたわけで、書き上げた三か月前の自分に感謝しなくてはならない。
「資金や物資も確かに足りないのですが、問題は『これからをどうするか』という展望が彼らにないことなんです」
千川さんが静かなトーンで熱く持論を述べる。
「人はパンのみにて生きるにあらず、なのよね」
許斐さんがうなづく。
「この五人全員のレポートが、そこを理解しているよ」
小竹さんは話をまとめに行く。
「そう。僕はだからこそ、道具を提供するべきだと思う」
長崎さんが話題を展開させる。なかなか巧みだ。
「無料での提供は、資金面で評価が低くなりませんか?」
僕は話の流れにのってみた。システム上での相互評価で、資金面での評価はシビアに判定されることが多い項目だ。
「善意に見返りを求めるほうが低くならないか?」
長崎さんが軽く返す。
「あの、それについてなんですけど。無償援助の物資は扱いが雑というか。感謝はされるんですけど、大切にはされていないような」
千川さんの体験談は貴重だ。
「つまり、物を売るということですか?」
小竹さんがまた要点をつかみに行く。急ぎ過ぎだ。
全員がしばらく黙り込む。
「努力の対価として得たものを人は大切に使おうとする、という研究があるわ」
許斐さんがぴったりの一言を放り込んできた。
「長く使ってもらえる製品を安価で提供するというのが一番いい支援じゃないか、という点では一致点が見いだせそうだな」
長崎さんが意見をまとめながら机にメモを取った。
タップすると、背後の壁に「製品を安価で提供」という文字が浮かび上がる。
「やはりインフラがまだ整わない地域も多いですから、そういう点に配慮したものが喜ばれると思います」
千川さんが情熱的だ。
話に興が乗ってくると饒舌になるタイプの人のようだ。