白い光と黒い光
リベラは包みを解き、石像の欠片を広げる。カーペットに座り込み、ひとつひとつ手にとっては何やら調べ始めた。
「そろにしても、なぜこんなものが必要なんです?」
フェーリークスは、リベラの肩にとまり手元を覗き込む。
「だから、それは世界の均衡を保つためだよ。」
「世界の均衡は、世界均衡監視局が保っているのではないんですか?」
「そうだけど、そうじゃない。」
「はい?」
フェーリークスは首をかしげる。
「考えてもみろよ。それだと、監視局を運営しているコンコルディアが、世界を支配してるような構図になるだろ?」
「はぁ…。言われてみれば。」
「この世界は、白い光と黒い光が半々にバランスをとることで成り立っている。」
「それは知っています。昼と夜のようなバランスですよね?」
「そう。じゃあ、白い光を保っているのは?」
「ノヴァ様とオリエンス様…ですか?」
「正解。クラルスの国王ノヴァと、古の白竜オリエンスだ。」
リベラは懐から天秤をとりだし、欠片の脇に置く。
「じゃあ、黒い光を保っているのは?」
フェーリークスは考え込む。
「テネブレの国王ラケルタ・インサニアと、古の黒竜オブリウィオだよ。」
「お会いしたことはありませんね?」
「あいつは根暗だからな。」
「相手は王様ですよね?それは暴言ですよね?」
「まぁ、それは置いといて、つまりそのふたりの王と古竜が、自分達の役目を果たすことで世界の均衡は保たれてる。」
「じゃあ、監視局は何をしているんですか?」
「名前のとおり、監視してるんだよ。どちらの力が強くても、世界はうまくいかなくなるらしい。」
「らしい?」
「平和だからな。小さいいざこざはあっても、世界の均衡に影響が出るような出来事は俺は知らないんだ。」
リベラは話ながら天秤のふたを開け、中を覗き込む。
「小さいいざこざ?」
「そう。今回みたいなやつ。」
リベラは天秤をフェーリークスに見せる。
「黒いですね。」
天秤の中で揺れる光は、黒の分量が少し多い。
「この世界に存在するものは多かれ少なかれ、ふたつの光の恩恵を受けてる。それと同時に、良くも悪くも影響を受けやすい。」
「じゃあ、この石像を壊したのは…。」
「光のバランスを崩した何者か、だな。」
リベラは、手の中でパチンッと天秤のふたを閉める。
「バランスを崩した?」
「石像は本来、どちらの影響も受けない。だからその近くで、均衡のチェックをする拠点になる。」
「それは、青浄石が入っているからですよね。」
「そう。青浄石は何にも染まらない。たがら俺たちが持っている天秤も、青浄石で作られてる。」
「正確に量るためですね。」
「そういうこと。だけどこの石像には、天秤が反応するくらいの影響が出でてしまっているだろ?」
フェーリークスはリベラの肩を離れ、窓際に用意された止まり木に飛んでいく。
「危険はないんですか?」
「自分だけ逃げるのは、使い魔としてどうなんだ。」
「いえ、お邪魔かと思いまして。」
「邪魔じゃないし、危なくもないから戻ってこい。」
手招きするリベラの肩に、フェーリークスは渋々戻る。
「お前も見ててくれ。」
「何をするんですか?」
「こいつらに見せてもらうんだよ。壊された時の状況をね。」
リベラは、包みの横に置かれていた自分の荷物を引き寄せる。捕まった時に没収されたものを、ステルラの侍女達が運んでくれたのだろう。
その中から革製の道具入れを取りだし、紐を解いて自分が座っている脇に広げた。そこには、細々(こまごま)とした魔法道具が乱雑に詰められていた。