均衡の像
ノヴァと別れ、あつらえられた部屋へ入る。藍が基調の爽やかなインテリアで、リベラはこの部屋が気に入っていた。それもそのはず、公私共に関わることが多い親友のために、ノヴァが用意させたものだ。
バルコニーに面した窓を開けると、遠くに城下の灯りが見える。リベラは手すりにもたれ、部屋に置かれた白い包みを見た。例の、バラバラになったノヴァの石像が入っている。
「リベラ様!」
部屋の明かりを頼りに、フェーリークスがどこからともなく飛んでくる。
「お茶会は楽しかったか?」
「はい!もちろん!あなたと違ってここの皆さんはお優しいですから!」
「お前はいつも一言多いな。」
「事実を述べたまでです。」
「城を発つ前にまたオリエンスに会うからな。その時は連れていくぞ。」
「いやいや、恐れ多くてとても無理です。」
「いやいや、遠慮しなくていい。」
「ヤですよ!おっかない!今日だってあの咆哮を聞いただけで、心臓が一度止まったんですから。」
「フェーリークス、それは死んだんじゃないのか?」
「生きております。」
「…。オリエンスの声は、あの部屋の外には聞こえないだろ?」
「使い魔なめてるんですか?近くであんな大きな力が発動されて、分からないはずないでしょう。」
フェーリークスは、手すりの上で胸を張ってみせる。
「じゃあ別に恐くないだろ。あれは光を正常にしたんだから。」
「作用の問題ではありません。」
「オリエンスはお前なんか捕って喰ったりしないぞ?」
「リベラ様は、私の心臓が止まってもいいんですか?」
「う~ん…。」
「ふつう、そこで悩まないでしょう?!」
「まぁ、立ち話もなんだから、部屋に入るか。」
リベラはバルコニーを離れる。
「ちょっと!聞いてますか?私の心臓がですね!」
フェーリークスは、バタバタしながらそのあとを追った。
部屋の中、リベラはふかふかのソファに体を沈める。フェーリークスは、そのとなりにちょこんと座った。
「ところでリベラ様、あの包みは何です?」
「ああ、ノヴァの残骸。」
「ノヴァ様の石像の!残骸ですよね?」
「いちいち細かいやつだな。」
「細かくありません。変なところをはしょらないでください。」
「あんまり変わらないだろ?」
「だいぶ変わります。」
フェーリークスは全身の羽根を膨らませる。
「で、何をなさるおつもりですか?」
「石を探すんだ。」
「昼間もおっしゃってましたが、石って何の石ですか?」
リベラはおもむろに立ち上がり、開け放っていた窓を閉める。ついでに、分厚い遮光カーテンもひいた。
「青浄石だよ。」
「青浄石?」
「そう。お前でも運べるくらいの、正方形の小さいやつ。」
リベラが手で大きさを示す。
「小さくても、かなりの力がありますよね?そんな貴重なものが、なぜ街中の石像の中に?」
「あれはただの王様の石像じゃない。均衡の像だ。」
「均衡の像?」
「そう。均衡を保つ拠点になってる。」
「初めて聞きましたが…。」
「おおっぴらには公表されてないよ。」
「王都にだけあるんですか?」
「いや、姿は違うだろうけど、各地にあるはずだ。」
フェーリークスは、石像の破片が入った包みをまじまじと見つめた。