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白鳩の魔導士と天秤の光  作者: 寿堂 有希
王都編
1/56

白鳩の魔導士

 魔導士がひとり、縄でぐるぐる巻きにされ長い廊下を引きずられていく。

「だから、正装で行こうと言ったではありませんか!」

 小さな籠の中から白い鳩が言う。

「バカ言うな。休暇にあんな派手な格好できるか。」

 鳩に答えた縄でぐるぐる巻きの魔導士は、シンプルな濃紺のマントを着ている。

「そのしょーもないこだわりのせいで、こんな鳥籠に入れられているこっちの身にもなって下さい!」

「しょーもなくない。このマントは今年の流行だぞ。それに、いい鳥籠じゃないか。」

「籠の作りを言ってるんじゃありません!使い魔としては屈辱的ですよ!まったく!」

「おい!うるさいぞ!」

 衛兵がピシャリと言う。

「そうそう。口うるさいんだよお前は。」

「あなたがいつも適当だからでしょうが!」

 なんやかんやと、魔導士と鳩のコンビの声が大理石で造られた廊下に反響する。

「何を騒いでいるんですか?」

 その廊下の先で、書類を抱えた神経質そうな青年がこちらを振り返った。

「これは事務官殿。」

 ふたりの衛兵は姿勢を正す。

「ただいま、破壊された石像の付近にいた不審者を護送中であります。」

「犯人ですか?」

 事務官は捕らえられている魔導士に目をやる。

「そんなわけないだろ。」

「濡れ衣です!」

 籠の中では、白い鳩が窮屈そうに訴える。

「分かりました。鳩は私があづかって武官に報告しましょう。その男は取り合えず牢へでも放り込んでおきなさい。」

 そう言い残すと、鳥籠を受け取り、事務官は広間の方へ歩き去った。

「はっ!お願い致します!」

「え?ちょっと!」

「ほら。さっさと歩け。」

 衛兵は練兵施設に程近い牢へと、不審な魔導士を連行していった。


 一方、事務官に託された鳩は広間にいた。

「ノヴァ様、来客です。」

 そう声をかけ、鳩を籠から放つ。

「フェーリークス!久しぶりじゃないか。」

 若いながら風格のある男が手を伸ばす。フェーリークスと呼ばれた白い鳩は、フワリとその腕にとまった。

「国王陛下におかれましては、誠に御機嫌麗しく…。」

 鳩はノヴァの腕の上で、優雅にお辞儀をする。

「堅苦しい挨拶はいい。リベラは一緒じゃないのか?」

「はぁ、それが…。」

 フェーリークスはチラリと事務官を見る。

「先ほど、破壊された石像の付近で不審な男を捕らえた衛兵とすれ違いましたよ。」

「ユース、それは本当か。」

 ノヴァの近くに控えていた大柄な騎士が身を乗り出す。

「はい。貴方には私から報告すると伝えたので、今頃は牢かと。」

「フェーリークス、もしかして?」

 ノヴァに訊かれ、フェーリークスはうなだれる。

「ウィクトール、悪いがその者を見てきてくれないか。」

「はっ!」

 大柄な騎士は、一礼すると広間を後にした。

「ユース、わざとか。」

「リベラ様であれば、縄も牢も無意味でしょう。大人しく捕まっているのであれば、ニセモノかもしれないと思いまして。」

 ユースはしれっと答える。

 ノヴァとフェーリークスは、やれやれといった様子で顔を見合わせた。


 牢に着いたウィクトールは、衛兵から事情を訊き、ふたりを引き連れ中に入った。蝋燭と、小さな窓からの微かな光しか入らない牢の中は、昼間でも薄暗い。その内のひとつの鉄格子の前で、ウィクトールは腕組みをして立ち止まった。

「やぁ、ウィクトール。相変わらず怖い顔だね。」

 牢の中では、濃紺のマントを着た魔導士が、冷たい床に転がっている。

「何をしておられるのです。」

「何って、捕まってるんじゃないか。ユースには見捨てられてしまったからね。」

 縛られた体を芋虫のようにウネウネ動かして、牢の中の魔導士が言う。

「酔狂が過ぎますぞ。リベラ様。」

「何を言うんだ。貴重な体験じゃないか。ただ、魔導士を捕らえるなら、これじゃあ甘い。」

 魔導士が指を鳴らすと、パラパラと縄が落ちる。起き上がり、人差し指を回すと、牢の鍵がガチャリと音を立てて開いた。

「なっ!」

 驚いた衛兵が槍を構える。

「やめろ。」

 ウィクトールが片手で制す。

「しかし、隊長!」

「心配ない。この方は上級監視官のリベラ様で陛下のご友人だ。」

「上級監視官?!この若造がですか?!」

「陛下のご友人?!このヘラヘラしたやつがですか?!」

 衛兵が唖然として、先ほど自分達が引きずってきた魔導士を見る。

「ひどい言われようだなぁ。」

 魔導士は服に付いた土を払いながら、牢から出てくる。

「どーも。世界均衡監視局上級監視官のリベラ・グラーティアです。」

 リベラは不審そうな顔の衛兵に笑いかけ、懐から細い鎖に繋いだ青い懐中天秤を出した。その円い蓋の表面には、ふたつの光を量る天秤の姿が刻まれていた。

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