第97話『傭兵戦争〜Vol.7〜』
シリーズ第97話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
リモーネ率いる巨大傭兵団との戦いに挑み続ける一行。ルーシーの手配していた別働隊が予定より遅れたものの到着し、遂に体勢が整った。彩りの戦士達は皆が想いを1つに、目の前に立ちはだかる脅威に毅然と立ち向かっていく。
「さあ、準備万端ですわね。それにギャラクシアの皆様の協力も仰げるなんて、嬉しい想定外ですわ!」
「ミノア、ありがとうございます。私達の理想とギャラクシアの理想、互いの理想を戦って実現しましょう!」
「はい。共に参りましょう。この戦いの勝利を、我ら自身が歩む道を掴むのです!」
一方、手練れ揃いの巨大傭兵団も黙ってはいない。オールとテレーズの攻撃から逃げ延びたマチルダは慌てて拠点に控える大将リモーネと客将リベラのもとへと駆け込んだ。
「リモーネ!リベラ!アイツら、増援が来やがった!」
「はあ!?増援ですって!?アイツらいつの間に…したたかな奴ね…」
「リモーネ、マチルダ、慌てんな。ちょっとくらいの増援で数的有利は変わらない。捻り潰すくらいわけないじゃないか!」
「…まあ、それもそうね。明日には精鋭部隊の出番だし、問題ないわ!余裕余裕!」
「そうそう!余裕だって!マチルダも菓子でも食ってのんびりしてな!」
「…そんなもんかねぇ。まあ、あたしゃ金がたんまり手に入りゃそれで良いんだけどよぉ…こんな調子でいいんかねぇ…?」
「マチルダさんの言う通りだ。このままだと俺達、足下をすくわれるんじゃないか…?」
「まったくだわ。余裕だなんてよく言うわよ。自分達は戦っていないのにね…」
依然としてリモーネとリベラは余裕気な姿勢を崩さない。が、それはあくまで客観的な──更に言えば他人事のような──戦場に立たぬ者の傍観者的な視点での見解でしかない。増援の到着を目の当たりにしたマチルダにしてみれば糠に釘だ。数万の兵達を統べる大将が数的な優勢を笠に着て傲り、大局を見ていない“裸の王様”であることに対し懐疑的な目を向ける者も現れ始めていた。
「ハァ…どうも足並み揃わねぇよなぁ…ブラック、グレイ、どうするよ?」
「……」
「……」
「やれやれ、2人揃ってだんまりかよ…盗賊もいるし、裏切る奴もいるし、リーダーはあんな感じだし…この傭兵団、大丈夫なのか…?」
そんな中、一行は彩りの力を以て傭兵団を相手に奮戦する。中でも一団の大将を担う2人──モニカ・リオーネと獅子座のミノアは敵味方が入り乱れてごった返す戦場でも一際存在感を放っている。金色の剣聖モニカとゴールデンイエローの獅子皇ミノア──誇り高き黄金の双剣は臆することなく切り開くべく仇である傭兵達を叩き伏せた。
「ブライトエッジ!」
「エンペラーレオファング!」
「ぐわぁッ!つ、強い…!」
「ひいぃ…か、勘弁してくれ!お助けを〜!」
共に大剣を得物とするモニカとミノア──並び立つ2人が両手で降り下ろす剛剣が敵を打ち砕いていく。2人の鬼気迫る様相に怖じ気付いて逃げ出す者も現れるほど、その戦い振りは圧倒的だ。
「モニカ、強いわね。さすがはこの軍の大将、相当に修行を積んだ剣士であることも太刀筋を見れば解るわ」
「ミノア…貴女のような一流の勇者にお褒めいただき光栄です。これに驕らず、更なる修練に励む所存にございます!」
「フフッ…真っ直ぐな貴女の姿を見ていると希望が沸いてくるわ。なるほど、皆が貴女を大将と認識しているのは、真摯な想いで戦う貴女に希望を見出だしているからなのですね」
「その通りです、ミノア様。私もモニカの姿に何度も励まされています。大将としても剣士としても皆が認めております!」
「…そうね。モニカ達と一緒ならきっとソシアルナイツの仲間達を救うことが出来ると信じられる。私もモニカに希望を感じているわ」
「モニカ殿、ミノア殿、お見事です…ボクも妖精王様の近衛騎士として恥ずかしくない戦いをしなければ──」
『うおおぉぉ〜ッ!』
「次の敵が来る…覚悟!」
「ブライア、共に参ります。統制を欠いた荒くれ者なんかに負けたらバーミリオンの騎士の名折れだわ!」
蛮勇を誇る傭兵達を相手に1人1人が臆することなく彩りの力を振るう。モニカ、ミノアと共にスクラムを組む者達も黙って見ているだけではない。魔族に囚われた仲間達を救うべく戦うテラコッタの騎士ブライア、長として先頭に立って騎士団を統べる騎士ティファ、そして新たに加わったベビーブルーの彩り──妖精の騎士シュシュが勇ましく自身の誇り高き武を振るった。
「せいやぁぁッ!」
「シュシュ、見事ね。貴女の騎士としての誇り、この肌で感じたわ!」
「はい!ティファ殿、ありがとうございますッ!」
「フフッ、その意気よ。私もこのブルーノ国の、テラコッタの騎士としての正義を体現していくわ!このブルーノの地で負けるわけにはいかない!」
別働隊の加入を皮切りに一気に攻勢が加速する。大剣や大鎗を得物とするモニカ達のすぐ後方に位置するスクラムはリタ、ヒイラギ、テレーズ、イオス、ナハト。モニカ達とはうって変わって様々な得物を操る一団は巧みな連係で傭兵達を退けていった。
「夜鳳発勁!…リタ、共に修羅の刃となれ!」
「了解♪シャドウバレット!」
「キャ〜ッ!リタ様素敵〜!さすがウチの王子様〜♪」
「イ、イオス…!首に抱き着かないで…く、苦しい…」
「ハハハ!リタはモテモテだなぁ!軍師様、聖女様、毒の槍兵さんに東方の暗殺者様…罪作りだねぇ〜♪」
「アハハ…まあ、俺もテレーズに負けないようにって頑張ってるだけなんだけどな」
「ああ、こうして一緒に戦えて、リタが腕を上げたって一目瞭然だぜ。負ける気がしないな!」
「ええ、私達の彩りの気は勝利へ向いている…私達はきっと勝てるわ…」
「うん、ナハトの言う通り!その証拠に軍師のルーシーの策が積極的になってるもんね、リタ様♪」
「そうだな、イオス。ルーシーもなんだか大胆になってきたよな…俺達も負けずに頑張ろうぜ!」
攻勢に火が点き、前線が軌道に乗ってきた頃、軍師ルーシーが更に思い切った策を講じる。拠点をフルウム国との国境付近のものとは別に平原の一帯にもう1つ増設させたのだ。拠点の増設は制圧圏となる陣地を広げると同時に、より確実な補給線の確保の意味合いも併せ持つ。知略を巡らせ、勝利への更なる一手を躊躇うことなく打っていった。
「ルーシー、設営出来たよ〜!これでバッチリだね!」
「そうだな、ビアー!まあ、あっしらにかかればこれくらい楽勝ぞなもし♪」
「ありがとうございます。ヴェレーノ・ノーヴェの皆様は拠点設営が丁寧で早くて助かりますわ♪」
「ヘヘッ、まあな。わっちらは不良だった頃は空き家や廃ビルを拠点にしとったから、拠点の設営や整備はお手の物だがや!」
「エヘヘ、ウチら超イケイケだよね〜!芸は身を助けるって感じ〜?」
「そうだね、トック。1人1人が役割を果たしていけば強い傭兵が集まってきたってへっちゃらだよ!」
「おう、オトロヴァ!バリバリ協力してガンガン助け合っていくんで夜露死苦ゥ!」
皆がそれぞれの役割を担い、頭数の劣勢を補い合うモニカ率いる彩りの戦士一団──数的な優勢に傲り、必死に戦う前線と高見の見物を決め込む拠点とで軋轢が生じ始めたリモーネ率いる巨大傭兵団──バーント平原を舞台にしてぶつかり合う双方で明暗がくっきりと分かれ始める。戦いは頭数だけが全てではない。それぞれが個々の為すべき役割を自覚し、1つのチームとして機能しなければ勝利を手繰り寄せることは出来ないのだ。ドルチェ、ヴァイン、エレナ、アルフォンゾ、ヤンタオのスクラムのもとへ戦いとは異なる役割を担う一団が駆け付けている。
「ほいほい〜、補給物資お待たせやで〜!」
「傷薬どうぞ!みんな、無理しないでね〜」
「アミィ、アイラ、ありがとう!ちょうど疲れてたから助かったよ〜!」
「うむ、補給班がいてくれて助かるでごわす。これなら気兼ねなく暴れられるでごわす!」
「あ、あの…気を付けてね、エレナ…」
「ありがと、セレナ!この怪傑カンタループが荒くれの傭兵どもを成敗してやる!」
「プロトさん、次はビクトリアさん達の陣営へ向かいます。この調子で効率的に補給を進めていきましょう」
「了解しました、フェトル様。参りましょう」
アミィ、アイラ、セレナ、フェトル、プロトが物資補給チームとして縦横無尽に前線を駆け回る。戦闘する各スクラムを補助する役割を担い、皆の戦いの潤滑油として機能していった。
「よっしゃ、次行こか!まだまだウチらが働かなアカンで──」
「待ちやがれ!補給なんてさせねぇぞ!」
「嬢ちゃん達、命が惜しいなら荷物全部置いて行きな──」
「そうは行くかい!あんたらの好きにはさせないよ!」
「よくもやってくれたわね!私の仲間達に手出しはさせないわよ!」
「さあ、かかって来なさい。アザレア近衛兵、ルーティ・スアレスがお相手します!」
「チクショウ!邪魔が入った…ここは逃げるぞ!」
「ああ、リモーネさんに報告だ…じゃあな、嬢ちゃん!せいぜいお家に帰っていい子にしてな!」
アミィら補給班への妨害をビクトリア、サンディア、ヴィボルグ、ケイト、ルーティのスクラムが阻止する。皆が手を取り合い、助け合いながら戦闘する様相は自身の蛮勇を荒々しく振るう傭兵団の中には見られない光景だ。
「傭兵には野蛮な奴も多いわね…みんな、大丈夫だった?」
「大丈夫やで!サンディア姉ちゃん、おおきに!それにしても、ちょうどええとこに来たわ!傷薬の補給に来たで〜♪」
「おおっ、あんた達、良いタイミングじゃないのさ!助かったよ!」
「アミィちゃん達は補給チームですか…ルーシーさんの策の賜物ですね!」
ルーシー、アンジュ、エリス、イレーヌ、ミノリは司令塔として拠点付近に陣営を敷く。前線とも密に連係をとりながら戦局を優位に進めていく。アンジュが双眼鏡で平原を見渡し、戦略を練りながら仲間達を見守っていた。
「アミィ達補給班がフェリーナ班に到着したみたいだね…よし、補給は順調だ」
「ええ。こうして補給専門の編隊を組めるのも別働隊が無事に来てくれたおかげね。ルーシーの策、頼りになるわ」
「ありがとうございます、エリスさん。もうすぐ日が暮れますわね…ミノリさん、みなさんに撤退の伝令をお願いしますわ!」
「御意。これより行って参る」
「ルーシー、だいぶ軍師として自信を持ててきたみたいね。指示を出すときの顔付きが引き締まってきたわ!」
「イレーヌさん、恐縮ですわ。勝利のため、わたくしはわたくしの出来ることに力を尽くします!」
リモーネ傭兵団の士気が下がるのに反比例するように彩りの戦士達の意気がどんどん高まってきた。2日目の陽が沈み、空は爽やかなスカイブルーから暖かなサンセットオレンジに染まり始める。雲1つ無く夕焼けに染まった1日目とは少し違い、ちらほらと厚めの雲が浮かんでいた。
To Be Continued…




