第95話『傭兵戦争〜Vol.5〜』
シリーズ第95話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
穏やかなブルーノの地に猛々しい戦いの旋律が木霊する。祝福の証の彩りの戦士達とリモーネ率いる巨大傭兵団との戦いは依然として予断を許さない状況だ。加えて日が傾き、視界が少しずつ夜の闇に染まり出していた。
「さ、流石は名うての傭兵達…皆手強い──」
「モニカ殿、ルーシー殿より日の入りが近く、即時撤退せよとの指令でござる。早々に拠点へと戻られよ」
「ミノリ、ありがとう。みんな、撤退します!撤退ッ!!」
ミノリが伝令に現れた頃、空は既にオレンジ色から紺碧に移ろい始めていた。日没が間近に迫り、一行は拠点へと撤退せざるを得ない状況に立たされた。が、傭兵達は尚も追い縋り、撤退を許さない。傭兵は行く手を遮り、躊躇い無く剣の切っ先をモニカに向けてきた。
「よう、嬢ちゃん、ちょっと遊ぼうぜ〜!」
「クッ…今は貴方達と戦ってる時間はありません…!」
「嬢ちゃん、そう堅いこと言うなって。夜はこれからなんだからさぁ…踊ろうぜぇ!」
「ブライトエッジ!…に、逃げないと…!」
「オラァ!逃がすかよぉ!」
「シャドウバレット!…モニカ、こっちだ!」
「リタ…ありがとう…」
皆が協力して傭兵達の猛襲を振り切り、無事に一行の面々58人全員が拠点へと帰り着いた。ホッと一息着いたものの、翌日もまた大軍勢との戦いが控えている。作戦会議の場にも緊迫した空気が漂っていた。
「なんとか乗り切りましたが…今日だけでもかなり消耗してしまいましたね…」
「ああ、今日相手した先鋒隊だけでも数千人らしいね…取り逃がした奴もいるから、僕達はまだまだ戦わなければならないね…」
「ええ、これだけの数なら敵軍はきっと全部で数万人規模に昇るわ。かなり厳しい戦いになるわよ」
「そうね、エリス…まさかこれほどまで膨れ上がってるなんて、我が青国空軍に勝るとも劣らない規模だわ…」
「す、数万人!?敵がそんなにいるなんて…だ、大丈夫かな…?」
「クレア、恐れるな。ヒイラギとピカンテも戦列に加わってくれたし、これから別働隊もやって来る。皆で協力して戦えばきっと大丈夫だ」
「群れるのは性に合わぬが…良かろう。修羅は未だ終わらぬ!」
「我が身に宿る邪竜の力、覚醒させよということか…フッ、明日、邪竜の暴走をその眼に、邪竜の咆哮をその耳に焼き付けるのだな…!」
「ルーシー、そう言えば別働隊の状況はどうなってるの?今日は合流出来なかったけど…」
「はい、別働隊はブルーノ国に入り、現在はテラコッタ領に停泊しているとのことです。明日の正午頃には増援として加わってくださる見込みですわ」
「それは助かるのである。敵は予想以上の数、こっちもたくさんの仲間が必要なのである…」
「や〜れやれ、大変な仕事だなぁ…まあ、金にはならねぇが悪くねぇ。こうしてたくさんの仲間と一緒に戦える機会なんて、そうは無いだろうからな!」
「そうね、アルフォンゾ。手練れの傭兵と戦えるのも良い経験だよ!」
「やる気満々だね、サンディア!よ〜し、ドルチェ自警団、明日も頑張るぞ〜!」
『おおおぉぉ〜ッ!!』
「ハッ、血気盛んなこったねぇ…頼りにしてるよ!」
「今日一緒に戦ったけど、ドルチェ自警団もやるもんだねぇ。私らヴェレーノ・ノーヴェも気合い入れていくよ!!」
『ウイィッス!!』
「心強いわ…あたくしの可愛い家臣達…」
「ビアリー様、どうかご無理はなさいませぬよう…と言うのは貴女様の本意ではございませんね。運命の導くまま、共に参りましょう」
「そうですわね、アヌビス。あたくし達が歩む道はたくさんの出会いと絆によって美しく彩られていく…皆で一緒に運命を切り拓く戦い…昂りますわ…!」
その夜、拠点に見張りを数名ずつ交代で配置しながら夜営を行う。一行は束の間の休息をとり、静かに夜を過ごした。
「リモーネ傭兵団…予想以上にすごい脅威ですね…」
「確かにとんでもない人数ッスね…でも、自分らは絶対に負けないッス!闘魂燃えてるッス〜!!」
「大丈夫やって!敵がすごいのは数だけや!ウチも自慢のリュックでサポートするで〜!」
「ああ。1人1人が自分の役割をこなしていけば絶対勝てるぜ。俺も俺に出来ることを頑張っていくよ!」
一方、ガルセク渓谷──リモーネ率いる巨大傭兵団が拠点を構えている。現在、体勢上は守勢ではあるものの、兵力で大きく勝っており、大将リモーネと客将リベラに慌てた様子はなく、寧ろ余裕気な表情を見せていた。
「先鋒隊のみんな、初日お疲れ〜!でもまだまだ余裕だよね〜!」
「いや、リモーネさん…アイツら強いッス…ただの女の子じゃないとは聞いてたけど、予想以上ッスよ…」
「大丈夫大丈夫!ここには世界中から傭兵が集まってるんだから!数でドドンと押し切っちゃおうよ!ね、リベラ?」
「ああ、明日で主導権を握りたいところだね。一気にカタをつけるよ!」
「イエーイ♪というわけで、明日もよろしく〜♪ゆっくり休んでね〜!」
「う〜ん…リモーネさんは大丈夫って言ってるけど、あの娘達、強いよな…」
「リモーネさん自身は戦っていないものね…百聞は一見に如かずだと思うんだけど…」
「まあ、報酬はたっぷり貰えるんだ。もう少しだけ頑張るとしようぜ!」
翌日、再びバーント平原に戦いの旋律が響く時間が迫ってきた。モニカを先頭に勇んで戦線へと踏み出していく。救護班の5人が見送る中、彩りの戦士達は巨大な脅威に毅然とした立ち向かう決意を燃やしていた。
「みんな…気を付けてね…」
「姉貴…大丈夫だよ。今日もバリバリのボルテージで、誰が来ようとブッ飛ばしてやる!」
「そうだね。カタリナ達の仕事がないくらいにあたし達が圧倒してやろう!」
「別働隊の皆様も近く到着しますわ。皆で頑張りましょう!」
「みんな…私達には切り拓かねばならない道があります。たとえ目の前にどんな脅威が立ちはだかろうとも…切り拓き、突き進みましょう!」
『祝福の証の彩りのもとに!!』
一行は数名ずつの一団に別れ、バーント平原へと駆けていく。傭兵達も待っていたとばかりに一行の組んだスクラムへ荒々しく飛び込んできた。
「ブライトエッジ!」
「ロアッソフレイム!」
「ぐえっ!クソッ、このガキども…!」
「私達は皆で数多の試練に立ち向かい、乗り越えてきたのです。仲間との絆がある限り、断じて負けません!」
2日目、昨日とは異なるスクラムを組む一行は拠点の守りを固める布陣を敷く。ステラ、ティファ、ブライア、サンディアの防御に秀でた一団を拠点のすぐ近くに据え、諜報と指揮を担うルーシー、エリス、アンジュ、ミノリの一団と双璧で拠点の防衛に臨む陣形をとっていた。
「私達は謂わば砦の役だわ。ルーシー達やカタリナ達と連係して臨みましょう」
「ええ、どれだけ有利に戦いが進もうと、拠点が占拠されてしまっては元も子もない。気を引き締めてかかるに越したことないわ」
「つまり、私達は防衛戦担当ってわけね。アーマーナイトの腕の見せ所だわ!」
「サンディア、気合い入っとるのう!敵軍は今日も満員札止めみたいじゃ…この一番も張り切って行くぞい!!」
「御免!ルーシー殿から指令でござる。これより一刻の後、バーントの平原中央部へ敵軍を誘き出し…」
「な、なんですって…!?それなら私達に出番が来るかどうかわからないわ。その作戦さえ始まってしまえば…」
「そうね、ブライア。ルーシーも思い切った策に出たものね…さすがに驚いたわ」
ティファ達が戸惑うほど過激な作戦は程無く実行に移される。前線で戦うスクラムが思い思いのタイミングで撤退を始めた。敵軍の唐突な撤退──戦意に満ちた傭兵達は戸惑いを禁じ得ない。
「な、なんだ…?まさか逃げるつもりか──」
「よそ見するなッス!チェストッ!!」
「ぐわあぁッ!」
「よ〜し、一丁あがりッス!今日も燃えてるッス──」
「あ、ビアリー達が来たよ!そろそろだね…」
「そうね、コレット。みんな、撤退しましょう!…ビアリー、よろしく。貴女達の精霊の力、信じているわ」
フェリーナの言葉にビアリーが微笑みを返す。皆が撤退するのと入れ違いにビアリーが先陣を切って踏み込む。闇の皇女ビアリー率いる毒の彩り達がバーント平原に集結した。
「な、なんだ?アイツらは撤退しないぞ…?」
「うひょ〜!すげぇ美人がいるぜ…ヒヒヒヒッ!」
「あら…あたくし達の花園へようこそ…歓迎しますわ!」
「私らヴェレーノ・ノーヴェ!売られたケンカはもれなく買うんで夜露死苦ゥ!」
「フン、こんな不良どもに負けるわけないぜ…って、なんだ!?足下に沼が現れた…!?」
「な、何よこれ!?気持ち悪い…変な匂いもするわ…」
「チッ、先に進めないぞ…これはいったい…!?」
傭兵達は足を止め、青ざめながら呆然と立ち尽くす。毒の力がブルーノの豊かな大地を糧に集束し、バーント平原の辺り一面が毒の沼になっていた。昨日はポワゾン達が先鋒隊として誘導を担っていたために出来なかった足止め戦術だ。闇が滲む沼に妖しく薫る色とりどりの毒の華は仇なす者の行く手を遮り、尚も踏み越えようとする贄を蝕んでいた。
「体が重い…け、剣が持てない…!」
「よっしゃ、飛んで火に入る夏の虫!やっちまいな!」
「オッス!スモッグバースト!」
「ピトフーイスラッシュ!」
「スライムウェーブ!」
ポワゾンの指示でポソニャ、ペソシャ、オトロヴァが躊躇うことなく連撃を仕掛ける。ルーシーが見込んだ別働隊との合流時間である正午が刻一刻と迫る中、頭数の劣りを補うべく徹底した守りの布陣を敷いていた。毒氣に冒された敵に肉を貪るハイエナのように群がり、容赦なく討ち伏せる姿はかつての不良だった頃を彷彿させた。
「片付けます。ファンガススポール!」
「うぐ、ああ…動、けん…」
「ケケケッ!往生こいたか!おみゃあらのだだくさな戦いにゃ負けんがや!」
「イエーイ!超イケてる〜!これなら楽勝じゃん──」
「み、見て!あの娘…あわわわ…」
イオスが指差す方向へ視線を移すや否や傭兵達がしていたのと同じようにビアリー達も呆然とする。紫の髪を長く伸ばした黒い法衣姿の1人の少女が毒の沼の真ん中を平然と表情1つ変えずに歩いていた。更に驚くことに毒氣に蝕まれるような様子もなければ、沼の泥濘に足を取られる様子もなかった。
「ギギギッ…テメェ、どうしてあっしらの毒の沼を!?」
「当然よ…私だって貴女達と同じ闇の力を持ってるんですもの…」
「本当なのだ…祝福の証なのだ!」
消え入りそうな陰鬱な声で話す少女の左手にはマジカルパープルの紋様が印されていた。その彩りはビアリー達と同じという闇の力で妖しく煌めいている。彼女の得物である杖はビアリー達に共鳴するように毒氣を纏っていた。
「チッ、味な真似するじゃないか…アンタはいったい何者!?」
「私はナハト。闇の魔道士…そして、貴女達と同じ毒の魔道士よ…」
「あら…では、この薫りに包まれながら、あたくしと気持ち良いことしましょう…」
ビアリーは怪訝な表情を見せる毒の魔道士ナハトへ静かに歩み寄る。だが、その瞳は一切敵意を秘めていない。家臣達が不安げに見守る中、無防備にナハトに近付くビアリーの真意とは?一行はリモーネ傭兵団の猛襲を振り切れるのか?
To Be Continued…




