表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter5:彩りの義勇軍篇
92/330

第92話『傭兵戦争〜Vol.2〜』

シリーズ第92話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

ブルーノ国ガルセク渓谷を拠点とする巨大傭兵団との戦いの火蓋が切って落とされた。先鋒隊として飛び込んだ毒の戦士達は敵編隊をバーント平原へ誘導する重要な役割を担う。有利に戦いを進めるための重要な初手は今後の戦局を大きく左右すると言っても過言ではない。否応なしに掛かる重責に表情も心も引き締まっていた。



「スラッジとテメリオの銃声だ!撤退するぞ、ペソシャ!」


「おう、相棒!急げ急げ!!」


「ポソニャさん、足下に注意してください。このような不規則な地形は転倒の危険もあります」


「はいよ!フェトルも気を付けて!」



スラッジとテメリオの放った銃声を耳にし、毒の戦士達は次々に背後に広がるバーント平原へと撤退を始める。が、ただ1人戦いに没頭し、撤退する素振りを見せない者がいる。猛毒の凶闘士アンブラだった。後ろ髪を引かれながら撤退の歩を進める皆に焦燥が滲む中、浄化の神官バラキエルが見るに見かねて傭兵達を引き裂く腕を取り、傍目には強引に見えるほど強く引き離す。アンブラは赤黒い怒気を全身に纏いながらバラキエルを睨み付けた。



「ガガアアァァッ!」


「アンブラ、お止めなさい!撤退です!戦いを止めなさい!!」


「バラキエル…離セ!モット戦ワセロ!!」


「いい加減になさい!貴女1人の身勝手な行動で共に戦う全員に迷惑がかかるのですよ!?戦う機会は後でいくらでもあります。今は我慢しなければならない時なのですよ」


「…グルゥ…ワカッタ…」


「フフッ、わかっていただけて何よりですよ。さあ、急ぎましょう!」


『ハッキリ言っておく。私は貴様のことが嫌いだ。だが、貴様にむざむざ死なれるのは私も気分が悪い。コレットに償うためにも、勝て。そして、無事に戻って来てくれ』


「…ゼータ…」


「アンブラ!どうしたのです?先を急ぎますよ!」



アンブラはバラキエルの説得を聞き入れ、渋々撤退を始めた。一度は同士討ちにまで至ったほど険悪な仲のゼータが自身に投げかけた言葉が脳裏をよぎる中、アンブラはバーント平原へと駆けていく。アンブラが狂気に駆られ、戦いだけに傾倒することで作戦が頓挫する事態を予感していた面々は安堵していた。



「よし、アンブラ姐さんが撤退を始めた!よかった…これで一安心だよ!」


「ああ…だが、ヤート、この戦いはまだ始まったばかりだ。私らは最初の一手を打ったに過ぎない。チェックメイトの瞬間まで気を引き締めていくよ!」


「そうだな、ポワゾン。我が毒の力、主君ビアリー様のため、そして共に戦う仲間のために…!」


「アヌビス、1人で思い詰めないでよね!私達が一緒にいるよ♪」


「オトロヴァ…了解、共に力を尽くそう」



一方、その同じ頃──バーント平原に控えていた一行の本隊は先鋒隊の報せを受けて拠点の前に集結する。遂に間近に迫った手練れ揃いの巨大傭兵団──世界中から一堂に介し、一国の軍に匹敵するほどに膨れ上がった脅威に逃げることなく立ち向かう決意を皆が持っていた。



「スラッジとテメリオの銃声…ポワゾン達が撤退を始めたようです。私達も迎撃の体勢に入りましょう!」


「あ、あの…モニカさん、ちょっと待っていただけます?ハァ…どうしましょう…」


「えっ…ルーシー、どうしたの?何か不都合なことでもあった?」


「エレンさん…困りましたわ…先ほど別働隊から連絡があったのですが…スプルース国で魔物に襲われて、足止めを喰らっていると…」


「ゲゲッ、ホンマかいな!?タイミング悪いやっちゃなぁ〜…」


「それなら到着までワシらが持ちこたえるしかないのう。いきなり正念場じゃい!」


「すみません…わたくしの考えが至らず、ここまで想定していませんでしたわ…策を一から考え直さないと…」



軍師としていかなる時も平静を保ち、毅然とした態度で指揮を執ってきたルーシーの表情が苦悶に歪む。その困り果てた様相に皆が同じ思いを巡らせ──知らず知らずのうちに作戦をルーシー1人に任せきりにしていたことを悟った。苦悩するルーシーを中心に仲間達が集い、彩りの輪が自然と形作られていった。



「ルーシー、確かにあんたの策は頼りになるよ。だけどねぇ、だからってあんた1人で全部背負うことないじゃないのさ!」


「そうだよ!わたしも一緒だよ!困ったときは1人で悩まないでね?」


「大丈夫、力を合わせればきっと勝てるのである。私も一緒に策を考えるのである!」


「みなさん…すみません…」


「確かに相手は強者揃い…だけど、この仲間達なら大丈夫…貴女のおかげでそう思えるわ。いつもありがとう」


「俺達はいつもルーシーに支えられてるよ。その分、ルーシーが困ったら俺達が支えるからな」


「イレーヌさん、リタさん…畏れ入ります。心強いですわ」


「さて、そろそろ僕達も行こうか。急いでポワゾン達と合流しないと!」


「ああ、出発しようじゃん!傭兵団なんてブッ飛ばしてやる!」



やむ無く別働隊の到着を待たずに本隊が始動する。誘導のために撤退してきたポワゾン達先鋒隊と合流し、到着の遅れている別働隊を除くおおよその体勢は整った。



「ポワゾン!皆も無事でよかった…あたくしの可愛い家臣達…」


「ビアリー様…貴女の仰せのままに、無事に帰って参りました…」


「みんな、大丈夫だった?ケガしてない?」


「ああ、なんとかなったよ、カタリナ。それにしても凄まじい数だ…私らが相手しただけでもかなりの数だったよ!」


「いよいよッスね…鍛練の成果、見せてやるッス!」


「ああ、私もドキドキしてきたよ!相手は名うての傭兵達…腕が鳴るね!」


「そうね、サンディア。あたし達自警団の力がどこまで通用するか…頑張ろう──」


『うおおおぉぉぉぉ〜ッ!!』


「ひょええっ!?すごい大勢で押し寄せて来るよ!?どうしよう…あわわわ…」


「クレア、慌てるな。私達が共に居るぞ…さて、任務開始だ」


「みんな、私達の絆の力、今こそ見せつける時です。行きましょう!!」


『祝福の証の彩りのもとに!!』



傭兵の大軍勢は鬨の声をあげながら荒々しく迫り来る。モニカ達一行は傭兵団の先鋒隊を毅然とした意思と左手に煌めく彩りの力を以て迎え撃つ。モニカ率いる彩りの軍は臆することなく彩りの力を振るった。



「ブライトエッジ!」


「ファイアボール!」


「スターダストボムや!」


「カンタループブレード!」


「隙あり!斬ッ!」


「ぐわぁっ!クソッ、なんて強さだ…」


「キャプテンの言ってた通りだ。コイツらただの女の子じゃない…!」



一行は協力し合いながら奮戦する。が、別働隊の遅れの影響は予想以上に大きく、傭兵達の猛襲を受け、次第に守勢を強いられていった。



「オラオラァ!」


「ぐぅっ…ぬうぅ…!」


「ヴァイン、しっかり!クッ、やっぱり手強い…」


「いや〜、こりゃ骨が折れるねぇ…ちょ〜っとキツいかも──」


「うぐっ!?あ…あ……」


「ひいっ!?な、なんだ!?誰だ…!?」



ほんの一瞬、滅紫の拳閃が駆け抜けるや否や傭兵は生気を抜かれたようにその場に倒れ込んだ。僅かに時を置いて拳閃の主が皆の視野に捉えられる。滅紫の殺手ヒイラギだった。



「愚かな。私利の為、徒に蛮勇を振りかざすなど無益也…」


「貴女は…ヒイラギ!」


「チッ、なんて奴なの…こんな時に…!」


「…お前さん、まさかネイシアの首を狙っとるんか?」


「否。我、此より修行に赴きし時分也」


「へぇ…それなら俺達に力を貸してくれないか?」


「ええっ!?リタちゃん、何を言ってるのであるか!?」



リタの思いがけぬ提案に一行は仰天する。孤高の暗殺拳士ヒイラギに協力を求めたのだ。かつて敵対した者への躊躇い無き交渉に一行は懐疑的にならざるを得なかった。



「リタ、あんた正気かい!?こんな奴が協力してくれるってのかい…!?」


「ああ、今の俺達には少しでも多く戦力が必要なんだ。お前なら腕も良いし、修行にもなるだろ?お願いだ!力を貸してくれ!」


「リタ…アンタ、本気で──」


「良かろう。蛮勇なる烏合の衆など我が拳を振るうに及ばぬが、幾分の足しにはなろう。共に参ろうぞ」


「リタちゃん…そんな…」


「ネイシア、大丈夫だよ。俺の目の届くところで一緒に戦ってもらうから。万が一、ネイシアに手を出すことがあったら俺がどんな手を使ってでも止めるぜ──」


「…滅!」


「うわあぁッ!」


「つ、強いぜ…よし、俺も言ってくる。ネイシア、回復頼むぜ!」


「リタちゃん!…神よ、どうか私の愛する人をお守りください…」



突如として一行に加わったヒイラギは更に磨きをかけた闇夜の拳で傭兵達に挑んでいく。別働隊が到着しない間の予期せぬ援軍に一行の胸中には安堵と懐疑心とが渦巻いていた。



「ヒイラギ…やはり強者ですね」


「うん、心強いと言えば心強いけど…アタシらの味方って考えていいのか?」


「大丈夫よ、トリッシュ。でも…きっとリタじゃなかったらヒイラギは断っていたと思うわ。彼女はリタの力を認めているし、同じ冥の精霊の気を感じているんだと思うわ」


「そうだね、フェリーナ。ヒイラギ、なんだか前より穏やかな顔してる…リタと一緒に戦えて嬉しいのかもね♪」



カタリナの言葉通り、ヒイラギはリタとの共闘を密かに歓迎していた。リタと同じように冥の力を司る彩りが煌めき、躍動していく。ヒイラギ自身も胸の奥底から静かに沸き上がる高揚を確かに実感していた。



「よ〜し、まだ弾の届く距離だな…おっと…ヒイラギ、背中借りるぜ!」


「承知。我も己が身命、汝に委ねようぞ」


「ヘヘッ…背中合わせってなんか良いよな。頼りにしてるぜ」


「うむ。しかし、ゆめゆめ油断する勿れ。参るぞ」



リタとヒイラギが背中合わせになり、互いに体を預け合う。その様相から2人が互いを信頼し合う心模様が容易に見てとれる。ヒイラギは滅紫の気を両掌で練り、新たな彩りの力として解き放ち、リタは冥の気を銃口に込めて放っていった。



「夜鳳発勁!」


「シャドウバレット!」


「…リタ、腕を上げたな…見事也」


「ヒイラギこそ…よし、盛り上がってきた!ヒイラギ、援護頼むぜ!」


「フッ…良かろう」



リタの薄紫とヒイラギの滅紫──2つの紫が呼応して重なり、冥の気が辺りに充ち満ちる。息が詰まりそうなほどに立ち込めた彩りの気は静かに燃える2人の闘士を昂らせ、更なる冥紫の力へと昇華していった。



『我らに仇なす者を黄泉へ送りし修羅の刃!冥紫葬艶舞!!』



ヒイラギが突きを放つ間合いに合わせ、リタが冥の気を纏った蹴りを見舞う。ヒイラギの拳とリタの蹴り──2人の息の合った踊るような連係は荒んだ傭兵達が蔓延る戦いの舞台──蒼く広がるバーント平原に冥府の儚い薫りを放つ艶やかな冥紫の花を咲かせた。



「ヒイラギ…俺達2人、息が合ってるみたいだな」


「応。これぞ阿吽の境地也。だが、修羅は未だ終わらぬ…参るぞ!」


「ああ、行こう!皆も必死に戦ってる…まだまだこれからだぜ!」



リタとヒイラギの葬送の舞いは名うての傭兵達を戦慄させる。だが、次々に武勇を誇る戦士達が雪崩れ込み押し寄せてくる。2人は息を整え、仲間達と傭兵達がごった返す闘争の坩堝に再び飛び込んでいった。




To Be Continued…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ