第91話『傭兵戦争〜Vol.1〜』
シリーズ第91話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
フルウム国郊外の森にて依頼の品である薬草アオカゲミツバを探し求めて歩を進める一行。離れ離れになってしまった毒の戦士グィフトを捜索すべく深奥へと踏み入る道中、見知らぬ2人組が姿を現した。が、ドルチェと自警団の面々は見知っているような様相だった。
「おいおい、誰かと思えばドルチェだったのか〜!ビックリしたなぁ!」
「こんな所までわざわざ来てくれたのね。みんなも元気そうで良かったわ」
「アルフォンゾ、ヤンタオ!やっぱりここで仕事してたんだね!」
ダークレッドの衣装を着て鮮やかなオレンジの髪を無造作に纏めたマンゴーオレンジの銃兵アルフォンゾと青紫の服を身に纏い黄緑の髪を短く切り揃えたキウイグリーンの弓兵ヤンタオ、人里離れた森の中でも動じることなく落ち着いた佇まいは戦い慣れした手練れの風格を漂わせていた。
「な〜んだなんだ、随分と賑やかだなぁ〜…こりゃただものじゃないな!」
「自警団の人ではない人が大勢いるわね…ドルチェ、この方々は…?」
「あたしのお父ちゃんの宿に来てくれたお客さんだよ。魔物や巨大傭兵団と戦うんだってさ!」
「ほ〜う、そりゃ御大層な団体さんなんだな!たしかに見たところ腕も立ちそうだ!」
「ええ、この辺りは魔物が手強くて素人が来られる場所じゃないわ。それだけでも実力はお墨付きってわけね」
「そうよ。魔物退治も盗賊団の制圧もこの方々が来てくれて捗ってるわ!」
「うむ、モニカ殿達の腕は小生も励みになってるでごわす。鍛練の相手としても素晴らしいでごわす!」
「へぇ〜、サンディアとヴァインが言うなら間違いないな!あんたら、強いんだなぁ〜!」
2人とは旧知の仲であるドルチェ達は和気藹々という雰囲気だが、血紅色の零戦士ゼータは深い悲嘆に暮れていた。魔物退治の途中、苛立ちに任せて毒の凶闘士アンブラとの同士討ちを始めてしまい、大切に愛しく想っていたコレットを傷付けてしまった。自責の念と過ちへの後悔は膨らみ続け、ゼータの心を赤黒く染めていった。
「コレット、すまない…いくら詫びの言葉を並べても足りないくらいだ。本当にすまない…」
「ゼータ…わたしは大丈夫だよ。悲しい顔しないで…あと、アンブラさんと仲直りしてほしいな…」
「コレット…了解した。ただ、今後はお前を守ることを最優先に行動させてもらう」
「うん、ありがと!アンブラさんもわたしとお友達になっていこうね!」
「……」
「そういえば、私らの仲間とはぐれたんだけど、見てないかい?グィフトっていう薄紫の髪の娘なんだけど…」
「ありゃ〜…まさかさっき会ったあの娘じゃないか?」
「ええ、その娘なら私達の山小屋で留守番をしてます。立ち話もなんだからご案内するわ」
一行はアルフォンゾとヤンタオに連れられ、2人が拠点としている山小屋へと通される。扉を開けた先には青鈍色の彩りグィフトがおり、緊張感の欠けた表情で暖かい飲み物を飲みながら寛いでいた。
「あっ、みんな!良かった〜!心細かったよ〜!」
「グィフト、無事で何よりぞなもし!あっしもホッとしたぞなもし!」
「やれやれ、心細かった割には随分とのんびりしてたんだね…まあ、無事ならよろしい!」
「ところで、みなさんはどうしてこの森に入ってたのかしら?この辺りは危険な区域だから、あまり長居するのはお薦めしたくないんだけど…」
「はい、私達はアオカゲミツバを探しているんです。薬の材料調達の依頼を請け負っていまして…」
「アオカゲミツバねぇ…な〜かなかの難題だけど、まあ、この辺りなら見つかるかもしれないよ。ヤンタオ、あたしらも手伝おうじゃないか!」
「そうね、薬草に精通したエルヴァさんも心強いお方だけど、この辺りの勝手がわかる人がいた方が良いわ。私達も一緒に参ります」
改めて2人を迎え、薬草アオカゲミツバの探査を再開する。フルウムの地を熟知した2人が見守る中、薬の素となる秘草を探し求めていった。
「よし、エルヴァさん達がいれば安心なのである。頑張るのである!」
「あ、あの…あれ、もしかしてアオカゲミツバ、ですか…?」
「ええっ!?ホ、ホントだ…木陰の青紫…まさか…!」
「リデルちゃん、すごい…これは間違いないわ…アオカゲミツバよ!この眼で見られるなんて、嬉しいわ!」
「よっしゃあ!これで目標達成ッス…って、うおわわわっ!?」
「ブライトエッジ!…テリー、大丈夫ですか!?」
「大丈夫ッス…コイツ、そっくりさんどころか魔物だったッスか…!」
蒼き秘草を見つけ出した歓喜は一瞬にしてかき消される。道行く者を欺くためにアオカゲミツバに化けていた魔物だった。もぎ取ろうとしていたテリーはモニカの援護を受けて間一髪で逃げ延びたものの、みるみるうちに辺りに繁茂していく。魔の奇襲に一行が慌てふためく中、脅威に立ち向かうのはフルウムの優しき大地に育まれた瑞々しく煌めく9人の彩りの戦士達だった。
「モニカ殿、ここは小生達に任せるでごわす!」
「こ、怖いけど…怪傑カンタループが成敗します!」
「その意気だよ、セレナ!我が正義の刃で悪の根を断ち切る!ミノリも準備はいい?」
「エレナ…御意。参るぞ」
「はい、頑張りましょう。傷は私が治しますけど、無理しないでくださいね」
「ありがとう。傷を治してくれるペルシカがいれば安心して仕事に打ち込めるわ」
「や〜れやれ、とんだ糠喜びさせてくれたな…礼はたっぷりとしてやるよ!」
「フルウムの地を魔物なんかに汚させるものか!やってやろうじゃない!」
「みんな、いくよ!ドルチェ自警団、出陣!!」
フルウムの平和を守るために戦う9人の彩りの戦士達は勇ましく果敢に立ち向かっていく。何気無い日々を家族や仲間達と笑い合いながら暮らしていく祖国を大切に想う誇り高き精神が自警団の1人1人に息づいており、臆する気持ちは微塵も感じられなかった。
「せいっ!斬!」
「てやぁ!はああッ!!」
「くらえ!ブチ込んでやる!」
「フッ、そこだっ!」
「とうっ!えいやぁ!」
「えいっ…それっ!」
「ぬぅん!ぐぐ…しぶとい奴でごわす!!」
「ヴァイン、焦らないで!あたし達の“絆の力”があれば、絶対に負けないよ!」
ドルチェを筆頭に自警団の面々が果敢に挑みかかる。1人1人が各々の役割を担い、自警団の正義を体現していく。魔物を相手に攻めの勢いが着き始めた頃、優しいピーチピンクの光が皆の傷を癒していった。
「ペルシュヒーリング!」
「サンキュー、ペルシカ!…よし、そろそろ頼むよ、キャプテン!」
「…うん、やってみせるよ!」
ドルチェの剣に9つの色彩が集束する。ドルチェ自身の彩りであるバナナイエローを筆頭にウォーターメロンレッド、グレープパープル、ピーチピンク、栗色、メロンオレンジ、メロングリーン、マンゴーオレンジ、キウイグリーン──瑞々しい鮮やかな色が煌めく剣は一切の違いが無い自警団の皆の想いを乗せて魔物を切り裂いた。
『この彩り、この刃、我が祖国フルウムのために!オープスト・シュヴェルト!!』
瑞々しく煌めく豊穣の一閃を受けた魔物は瞬く間に縮んでいき、元の薬草──アオカゲミツバの姿に戻った。一度はかき消された歓喜が何倍にも膨れ上がって再び一行のもとに帰ってきた。
「アオカゲミツバ…見つかりましたね。やりました!」
「うふふ、よかったわ!ところで…傭兵団さんとの戦い、私もご一緒していいかしら?」
「エルヴァ!?私達に協力してくださるのですか…?」
「ええ、戦いはあんまり好きじゃないけど…みんなのおかげでアオカゲミツバを見ることが出来たし、私もみんなのお手伝いしたいわ〜」
「ありがとうございます…よろしく、エルヴァ」
アオカゲミツバは無事に見つかり、また1つ依頼を果たした。それから準備や鍛練に時を過ごし、日々は流れ、1週間後…遂にリモーネ率いる巨大傭兵団との決戦の日を迎えた。軍師として陣頭指揮を執るルーシーが皆の前に立ち、作戦の最終確認を行っていた。
「まずはポワゾンさん達先鋒隊にバーント平原に敵軍を誘導していただきます。あまり長引かせず、早急な立ち回りをお願いします」
「ああ、私らがちょっとだけご挨拶してやって、下がるときにスラッジとテメリオの銃で合図するって手筈だったね。任せときな!」
「失敗は許されんがや…絶対に負けられねぇがや!」
「ああ…あたくしの可愛い家臣達…離れてもあたくしの心は常に貴女達と共に在りますわ」
「ビアリー様、身に余るお言葉、謹んで頂戴致します…よっしゃ!こんな機会は滅多にないよ!みんな、思いっきり暴れてやろうじゃないか!」
『ウイィィ〜ッス!!』
「ガウウッ!倒シニ行クゾ──」
「待て、アンブラ」
強張った声で呼び止めたのはゼータだった。その呼び声の響きは冷やかだったが、アンブラに向けられた眼差しは“仲間”として認めた敵意のないものだった。
「私と貴様は共に戦う仲間であることは間違いない。だが、ハッキリ言っておく。私は貴様のことが嫌いだ」
「……」
「だが、貴様にむざむざ死なれるのは私も気分が悪い。コレットに償うためにも、勝て。そして、無事に戻って来てくれ」
「ゼータ…勝ツ、勝ツ!敵、叩キ潰ス!」
ポワゾン率いる毒の戦士達が勇んでガルセク渓谷へと向かって歩を進めていく。遂に巨大傭兵団との戦いの火蓋が切られようとしていた。
「さ〜て、早速ぞろぞろとお出ましだよ!すごい人数だねぇ…」
「ウチらは上澄みの部分だけ相手すればいいんだよね…でも緊張する〜…」
「イオスさん、落ち着いてくださいね。“力”だけで寄り集まった彼らよりも“絆”で繋がる私達の方にこそ勝算はあるのですから」
「フェトル…ありがと!頑張ろうね!」
「よし、来たか…トック!はじめましてのご挨拶、アンタに任せたよ!」
「は〜い!リーダー、見ててよ〜…モールドスプレー♪」
トックが不意に飛び込み、傭兵の1人に毒氣の催涙スプレーを見舞う。唐突に視野を遮られた傭兵はのたうち回り、仲間の傭兵が怒気を帯びて詰め寄ってきた。
「ぐわぁ!な、なんだ!?め、眼が痛い…!」
「オラァ!俺らの仲間に何しやがる!このクソガキィ!」
「えぇ〜ん!バラキエル〜!ちょっと悪戯しただけなのに、このおじさんに怒られた〜!」
「まあ、なんと醜いのでしょう…子供の悪戯を真に受けて逆上するなんて、心が貧しい哀れな人ですね…」
「貴様…よくも私の仲間に手を出してくれたな。このアヌビス、相応の覚悟があると判断させてもらったぞ!」
「チッ、言いがかりを着ける気か…テメェら何者だ!?」
「ウチらは泣く子も黙る猛毒のギルド、ヴェレーノ・ノーヴェ!売られたケンカは買うのが主義なんで、夜露死苦ゥ!!」
『ウイィッス!!』
毒の彩りは巨大傭兵団の先鋒軍を毅然とした意思で迎え撃つ。しかし、対峙するのはあくまでも氷山の一角──長き戦いの最初の一手を打つに過ぎないのだ。
「ロトンレッグだがや!」
「ベノムナックル!」
「よ〜し、そろそろ頃合いだ!撤退するよ、撤退!」
「テメリオ、あっしらの出番ぞなもし!」
「あいよ、2人で同時射撃なのだ!」
『せーの!!』
ドンッ!ドンッ!
ポワゾンの号令を受け、スラッジとテメリオが虚空に向かって発砲する。2人の銃声を聞くや否や毒の戦士達は少しずつ後退りを始める。モニカ達が待つ本隊と合流すべく背後に青々と広がるバーント平原へ確かに近付いていた。
To Be Continued…




