第90話『蒼き秘草』
シリーズ第90話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
十二星座の1柱である山羊座のエルヴァと出会い、フルウム国の薬草探しに奔走する一行。薬の材料となる目当ての蒼き秘草アオカゲミツバを求め、森の奥へと踏み入ろうとしていた。
「アオカゲミツバ、なかなか見つからないッスね…でも、これも世のため人のため、頑張るッス!」
「森の奥地は魔物もいるかもしれないよ。気を付けていこうね!」
「了解した。まあ、魔物が現れたら私が斬ってやる。皆は安心して探査に励むといい」
「グルル…敵ハ倒ス!叩キ潰ス!」
「チッ…どうも貴様はいけ好かないが、やむを得ん。同舟相救うという言葉もある、仕方無く協力してやろう」
「あらあら…ケンカはダメよ?2人とも仲良くしましょうね〜」
「エルヴァ…了解。極めて困難ではあるが、最善は尽くそう」
「…グルル…」
「うむ…2人の仲違いを宥めるエルヴァさん、なんか保母さんみたいなのである…」
「ハッ、なんだか甘ったるい物言いだねぇ…とにかくチャチャッと終わらせるよ!」
「う〜ん…アンブラ姐さんとゼータさん、どうもイマイチ反りが合わないね…困ったなぁ…」
「ヤート、2人は互いに我が強いからなかなかの難題ぞなもし。あっしらが間に入って取り持つしかないぞなもし…」
ゼータとアンブラの間に未だに不協和音が紡がれる中、一行はアオカゲミツバの捜索を再開する。果たして秘薬の素となる蒼き薬草が一行の前に姿を現すのはいつになるのか?勇んで森の奥へと踏み込み、いつもとは違う戦いに身を投じていった。
「ねえねえ、エルヴァさん!これ、アオカゲミツバじゃない!?」
「あら…これはよく似てるけど違うわ。これはムラサキヨモギよ。薬草ってよく似た別物があるから大変なのよね〜」
「そ、そうなの〜!?これじゃ途方もないよ…うへぇ〜…」
「クレア、仕方無いさ。これが薬草探しの難しいところなんだろうな…頑張ろうぜ」
「はい…リタさんの言う通りです。薬草探しは難しいですけど、すごく楽しいんです。どんどん探しましょう!」
「なんやなんや、リデル姉ちゃん、妙に張り切ってるなぁ…」
「うむ、そうじゃのう。なんだかいつもより元気な気がするわい。まあ、元気なのは良いことじゃ!」
「そうですね、ステラ。リデルに負けずに私達も頑張りましょう!」
「モニカ、アンタもブレないね…やれやれ、いつまでかかるのかな…」
皆が不慣れな作業に疲労するのを尻目にリデルは普段とは違う快活な様子で大自然に触れている。エルヴァは活き活きした表情で一生懸命に薬草を探すリデルの小さな背を優しい眼差しで見つめていた。
「リデルちゃん、楽しそうね〜。自然に触れるのが好きなのかしら?」
「はい!私、自然が大好きなんです…森に来られてとても嬉しいです!」
「あらあら、うふふ…私も自然の中で薬草を探すのが大好きなの。同じ気持ちのお友達が出来て私もとても嬉しいわ。一緒に頑張ってアオカゲミツバを見つけましょうね」
「お友達…私とエルヴァさんが友達、ですか…?」
「ええ、こうして一緒に同じ事を楽しみにして笑い合えるんですもの。私とリデルちゃんはお友達よ」
「エルヴァさんと、“友達”…あ、ありがとうございます…!」
「うふふ、こちらこそありがとう。“お友達”としてよろしくね、リデルちゃん」
若草色のリデルとエバーグリーンのエルヴァ──2人の緑の戦士が確かな絆を紡ぐ中、一行は尚もアオカゲミツバの捜索に苦心する。次第に奥へ奥へと進んでいくが、山あいに入っていくにつれて次第に足場が悪くなっていき、焦る気持ちとは裏腹に足取りはどんどん重くなっていった。
「ビアリー様、お飲物をお持ちしましたのだ。お納めくださいなのだ!」
「あら、ありがとう…テメリオ、素敵よ♪」
「なかなか困難な任務だな…だが、失敗は許されん。懸命に探すぞ」
「アヌビスは仕事熱心だなぁ…まあ、それがアンタの良いところなんだけど──」
「うわああぁぁッ!た、助けてええぇぇッ!!」
「グィフト!?ギギギッ、大変なことになったぞなもし!」
「すご〜い、あっという間に消えちゃった!手品みたいだね〜!」
「ビアー、そんな呑気なことを言ってる場合じゃないって!こんなところではぐれたら超ヤバいじゃん!」
「トックさんの言う通りです。山中での遭難には様々な危険が伴います。まず衛生面で──」
「フェトル、おみゃあも冷静に分析してる場合じゃねえがや!急いで探しに行くがや!」
「よっしゃ、グィフトを助けに行こうか!ポソニャ、行くぞ!!」
「おう、相棒!オトロヴァ、みなさんに伝えてきてくれ!」
「はいよ。早く探さないとちょ〜っとマズいかもね…グィフト、待っててちょうだいよ!」
毒の戦士の1人であるグィフトが足を滑らせ、坂から転げ落ちてしまった。オトロヴァから報せを受け、アオカゲミツバの探索を中断した一行は獣道を掻き分け、グィフトの行方を探る。人里離れた山林での別離に少しずつ不安を募らせていった。
「ビアー、グィフトが落ちた場所はこの辺りですか?」
「うん、たぶんこの近くにいるはずなんだけど…足跡も見つからないなぁ〜…」
「こんなところに1人じゃグィフトちゃんがかわいそうね…先に進んでみましょうか〜」
「ああ、グィフトはどうも危なっかしい娘だからね…早く見つけてやらないと──」
「ひいっ!?あ、あわわわわ…」
「ケイト、どうしたのですか!?…こ、これは…!」
眼前に広がる光景に一行は息を呑んだ。薬莢と矢が辺りに散らばっており、地面は鮮血で赤く染まっている。ケイトは眼の前の紅き惨状に血の気が引き、戦慄して蒼くなっていた。
「ここで戦闘があったようだな…しかも、生命体が発する熱気がまだ残っている。終わってからあまり時間が経っていないな」
「僕達以外にも誰か森にいるみたいだね。まさか蛮族の類だろうか?」
「銃と弓を使う蛮族ねぇ…ルーヴ、人を襲う蛮族なんているの?」
「う〜ん、少なくともアタシの集落では人様を襲うのは禁止にしてるんだけど…賊はいろんな所にいるから、もしかしたら人様を襲う輩もいるかもしれないねぇ…」
「まさか…そんな奴にグィフトが襲われたなんて、一大事ぞなもし…ギギギギィッ!」
「いや、これは人じゃなくて魔物の血なのである。独特の匂いがするからわかるのである!」
「そっか、じゃあ逆に魔物に襲われたグィフトに味方してくれたのかも…」
「うむ、イオスの言う通りなら良いがなぁ…誰だかわからん奴と一緒にいるのは不安だがや。早く合流するに越したことねぇがや!」
「みんな、こっちに足跡があったッスよ!何人かいるみたいッス!」
「グィフトはきっとこっちね。急ぐわよ!」
エリスが先陣を切るや否や、我も我もと皆が続く。足跡を追い、一行は森の更なる深奥へ踏み込んでいく。が、行く手を阻む影が突如として現れた。
「グルルルゥッ!」
「ま、魔物や…間の悪いやっちゃなぁ…」
「私達はグィフトの探索任務中だ。退いてもらう!」
「ええ、いきましょう。わたくし達には為すべき使命がありますわ!」
一行は即座に武器を構え、魔物の群れを迎え撃つ。獣道で足場の悪い地形であるため、ルーシーの指揮のもと、慎重に体勢を整えていった。
「ふう、足が疲れる場所ですね…ゼータ、いけそうですか?」
「ああ、バスターの射程距離内に入った。モニカ、こちらは私に任せろ──」
「ガウアアァァッ!」
ダスティパープルの彩りが妖しく蠢く。思うように活躍出来ず、フラストレーションの溜まっていたアンブラが待っていたとばかりに群れに飛び込む。ゼータの間に割り込み、毒氣に染まった魔爪で魔物を引き裂き、両手を血で赤黒く染めながら荒々しい咆哮を轟かせた。
「ガグアァァァッ!」
「チッ!貴様、邪魔をするな!」
「ゼータ…グオオォォ…」
「フン、お前の行動の動機は闘争本能と破壊衝動だけか…所詮は化物どもと同じということだな!」
ドンッ!
ゼータは苛立ちを抑えきれず、威嚇の意でアンブラに向かって発砲する。敵対者ではないため火力は弱めていたものの、遂に重なった軋轢と御しきれなくなった懐疑心が形になり、一行に大きな衝撃を与えた。
「ゼータ!?なぜアンブラに向かって…!」
「…ポワゾン達の仲間として容認していたが、もう我慢ならん。ここで倒す!」
「グルルルゥ…オオォォォッ!」
一行の想いも虚しくゼータとアンブラの同士討ちが始まってしまう。一行の悲哀が包む中、ゼータのビームソードとアンブラの魔爪が哀しくぶつかり合っていた。
「せいやぁ!」
「ガアァッ!」
「ゼータ、アンブラ!そ、そんな…」
「ちょっとちょっと!アンブラ姐さん、ゼータさん!?」
「このままじゃヤバいぞなもし!ヤート、止めに入るぞなもし──」
「ガウ、ウウッ…!?」
「ううっ…痛い、よぉ…」
「何ッ!?どうして…」
予期せぬ事態に一行は凍り付いた。スラッジとヤートに先んじて2人の間に入ったのはコレットだった。魔爪に引き裂かれ、傷口から毒が流れ込んでいる。ゼータは言うに及ばずだったが、本能のままに戦うアンブラさえも一瞬にして戦意を失った。
「ケンカしちゃ…イヤ…ゼータ…アンブラ、さん…」
「コレット…すまない。な、なんてことだ…」
「ガウウ…ゴメン…」
「ゼータ…痛いよぉ…」
アンブラの魔爪から自身を庇ったコレットの様相はゼータを悲嘆の淵に突き落とす。アンブラの猛毒に冒され、虫の息になっている。人として一度死に、彩りの戦士として蘇ったゼータの瞳から涙が零れ落ちた。
「そんな…私の衝動的な怒りでお前を傷付けてしまうなんて…コレット…うううっ…うわああぁぁ〜ッ!」
「……」
「ゼータさん、アンブラ、下がりなさい。ここは私が…アンチドート!」
「では、こちらも…ファーストエイド!」
ダスティピンクとホーリーホワイトの彩りがコレットを優しく包み込む。バラキエルの浄化の力でコレットの肌に血色が戻り、アムールの聖なる力で傷が癒えていった。コレットはゆっくりと体を起こしたが、ゼータは心底不安そうな様子で見つめていた。
「…コレット、大丈夫か?」
「うん…ゼータ、心配かけてゴメンね…」
「いや…悪いのは私だ。怒りに任せて我を忘れ、守るべき存在のお前を傷付けてしまった…私はいくら償っても許されぬことをしたんだ…すまない…すまない…」
「ゼータ、泣かないで…わたし、ゼータにニコニコ笑顔でいてほしいな…」
「しかし…!」
「ゼータさん、貴女が背負っているのは“罪”ではなく“業”です。コレットちゃんを大切に想う貴女ならいくらでも清算することが出来ますよ」
「ああ…そうだな。それに俺達がすべきことは他にあるだろう?今はそれに集中しようぜ。ゼータの力が必要なんだ」
「ネイシア、リタ…了解した。任務を続行する──」
「そこにいるのは誰だ!…むむ、すごい大人数だな…何者だ?」
「大丈夫ですか?この辺りから魔物の声が聞こえたけど…って、ドルチェ!?」
「あ、あれ〜!?ひょっとして…!」
一行の前に現れた2人組にドルチェが素っ頓狂な声をあげる。果たして蒼き秘草アオカゲミツバは見つかるのか?そしてグィフトの行方は?疑問と不安が一行の脳裏を駆ける中、現れた2人の左手にはキウイグリーンとマンゴーオレンジの彩りが煌めいていた。
To Be Continued…




