第9話『黒き帝国』
※
シリーズ第9話目です。気付けば師走、寒くなってきましたが創作の情熱は決して冷めません!どうぞごゆっくりお楽しみください♪♪
アイビー国大草原で魔物の脅威から獣達を救ったモニカ達一行はフェリーナに招かれ、草原で遊牧生活を営むキヅタ族の集落へと足を運んだ。テント状の民家が立ち並んでおり、どの家の軒下にもミントグリーンの装飾が施されたお守りが吊り下げてある。
「ただいま帰りました!」
「おお!フェリーナ、お帰り!」
「わ〜い!フェリーナお姉ちゃんだ〜!」
フェリーナのもとに自然と人々が集まってくる。フェリーナの周りに瞬く間に人だかりが出来る光景にモニカ達は目を丸くする。
「すごい…フェリーナは人々に慕われているのですね…」
「ああ、私達キヅタ族にとってフェリーナは英雄なんだ。風の精霊シルフの魂を持つ娘だからね。ほら、左手の甲に精霊の刻印があるだろう?」
「左手?あれって、祝福の証…じゃないってのかい?」
「世界にはそう呼ぶ者の方が多いようだね。ただ、私達にとっては“精霊の刻印”なんだよ。」
「独自の文化なんやなぁ…そしたら、ウチらの力ももとになっとる精霊がいてるってことなんかな…?」
アミィが左手を見つめる。男は視界にアミィの左手を彩るマゼンタを捉えるとハッと目を見開いた。
「…なんと!貴女様にも精霊の刻印…!」
「そやで!ウチらは祝福の証の使命を果たす旅をしてんねん!ほれ、みんな持ってんで〜♪」
一行が色とりどりに煌めく左手の紋様を見せると、男は腰を抜かしてへたり込んだ後、その場に跪いた。
「ふぇっ!?ちょ、ちょっと…どうしたの?お腹痛いの!?」
「なんじゃ!?ほれほれ、顔を上げんしゃい!」
「精霊に導かれし勇者様…どうか我が非礼をお許しください!」
「あの…やめてください!恥ずかしいです…」
「だよな、姉貴…悪いけどぶっちゃけドン引きだわ…アタシらが悪者みたいだから、マジやめろって!」
「も、申し訳ございませんっ!みんな、宴の準備だ!この方々をもてなさねば…精霊によって神罰が下るぞ!!」
「大袈裟過ぎ…なんか釈然としないぜ…」
一行はキヅタ族によって“精霊の勇者”として歓迎された。歓迎の宴は盛大に催され、人々が代わる代わる料理を“貢物”として差し出していく。
「勇者様…ありがとうございます!ありがとうございます!お納めください!」
「いやぁ、こりゃ愉快!ガッハッハッハ〜!」
「うおおっ!ウマいッス〜!」
「精霊の勇者様…どうか我らにご加護を!」
「あ…ありがとうございます。慎んで頂きます…」
「やれやれ…なんかよくわからないけど、英雄扱いだなんてねぇ…」
「うん…ま、悪い気はしないし…いいんじゃない?あっ、この芋はこの地域じゃないととれないトキワイモだよ!美味しい〜♪」
「みんな…楽しんでる?」
「フェリーナ…その格好は…」
「キヅタ族の巫女の衣装よ。このあと精霊に祈る儀式があるから、みんなも左手に刻まれた印に念ずるといいわ。」
「はいよ!あ、フェリーナ、これもう一杯もらえる?このお酒旨いねぇ!いッくらでも呑めるってもんさ!」
「ビクトリア…あまり飲み過ぎてはいけませんよ?」
「なんだい!モニカは堅いねぇ…酒は百薬の長っていうし、こういう機会は楽しまなきゃ損じゃないか!ほら、あんたも呑みな!」
「ビクトリア!?私は…未成ね…〇♯☆※〜ッ!」
宴の締めとしてキヅタ族伝統の“精霊の儀”が執り行われた。賑やかだった宴の場が一転して厳粛な空気に包まれる。フェリーナが巫女を務め、精霊へ祈りを捧げる姿を一行は左手の紋様に念じながら見つめていた。
「精霊よ。刻印を受けし勇者達の歩む道に祝福をもたらしたまえ!!」
フェリーナの凛とした言霊は祭壇に焚かれた焔よりも強く轟き、銀色の月明かりに照らされた夜の虚空よりも高く響いていった。一行は祝福の証の使命を改めて深く噛み締めるのであった。
翌朝、モニカ達は集落を発つことになった。フェリーナを一行に加え、更に旅路を歩んでいくのである。
「おもてなしして頂き、ありがとうございました。」
「いえ、とんでもない。勇者様方の旅路に精霊の祝福がありますように。フェリーナ、気を付けて行っておいで。」
「はい。長老もどうかご自愛ください。」
「ああ、ありがとう。さて、勇者様…」
「はい…なんでしょうか?」
「皆様にはそれぞれに異なった力が宿っております。そこにはそれぞれの力を司る精霊の存在があることでしょう。勇者様方には些細なことかもしれませんが、頭の片隅にでも置いていただけると幸いに思います。」
キヅタ族の見送りの声援を背に受け、一行は歩き出す。草原を撫でる風が穏やかで心地よい。朝露で少しばかり湿った草原を歩いていくが、次の目的地が決まっていなかった。
「うおおぉ〜っ!朝の澄んだ空気!緑の美しい草原!爽快ッス!クレア、一緒にランニングをするッス〜!」
「オッケー!あっ、テリー早いって…待ってよ〜!」
「ねえねえ、これからどうしよう?私達、どこに行くの?」
「う〜ん、このあたりだと…ビリジアン国が一番近いはず─」
突如として激しく暴風が吹き荒れ、一行の目の前に黒を基調とした厳めしいヘリコプターが姿を現した。その機体には巨大な機関銃が装備されており、側面には『NOIR』と記されている。着陸するや否や、甲冑に身を包んだ兵士達が次々と降りてきた。
「ようやく見つけたぞ!モニカ・リオーネ、並びにその同行者だな。皇帝陛下の命により、我らと共に来てもらうぞ!」
「なんだい、あんた達!名前を聞くときはまず自分達から名乗るのが礼節だよ!」
「黙れ!無駄に大きな胸を張るな!目障りだ!」
「ちょっ、あんた…どこ見てるんだい!セクハラだよ!セクハラ!!帝国の兵士がこんなに下品だったなんてガッカリだねぇ!!」
「うるさい!お前らは黙って我々に着いて来れば良いのだ!」
「あんたが黙りな!だいたいなんだって帝国に─」
「ビクトリア。今は従うより他にありません。不安なのは皆同じです。とにかく、帝国へ行きましょう…」
「…ああ、わかった…ゴメンよ。」
一行は何の説明もされぬままヘリコプターに乗せられ、北方にあるノワール帝国へと移送された。クローマ大陸でも屈指の国土面積を誇り、軍事力も世界規模で1、2を争うほど強大である。ヘリコプターから降ろされ軍の収容所へ通されると、軍服を着た壮年の男が一行を待っていた。
「ようこそ、ノワール帝国へ。私の名はスレート・ブラック。ノワール帝国軍大佐だ。君達が祝福の証を持つ者達ということで相違無いね?」
「はい、私ども全員左手の甲に祝福の証の紋様があります。間違いございません、こちらに…」
「…うむ、結構。では、早速だが本題に入る。この度君達をお招きしたのは、ある重大な仕事を頼みたいからだ。」
「じ、重大な…仕事…ですか…?」
「うむ。明日の夜、帝国城内ガーデンパレスにて各国の要人を招いた会合が行われる。君達には要人の護衛、会場内外の見回り、会場の設営、配膳の補助…各種業務を分担して行ってもらう。」
「はぁ!?なんだよそれ…たしかノワール帝国軍って世界トップレベルの規模じゃないのか?それぐらい自分達でやればいいじゃないか─」
けたたましい銃声がリタの発言を遮った。後方から不意に放たれた銃弾はコンクリート打ちっぱなしの壁に当たって弾けた。
「貴様!大佐に向かってなんだその口の聞き方は!慎め、馬鹿者めが!!」
「フ…無知の罪、とでも言おうか…まあ、よろしい。…もちろん、我が軍からそれぞれに補助をする者は出すので安心してほしい。しかしながら、昨今魔物達が人々の生活を脅かす事例も増えた。帝国及びその近隣も例外ではない。我ら帝国軍は万に一つ…いや、億に一つの危険性であっても、その芽を摘み取らねばならん。そのために君達の力を欲したのだ。それに─」
「もうよろしくてよ、大佐。」
大佐の言葉を遮り、1人の女性が姿を現した。濃紫の髪を背中辺りまで伸ばしており、雪のような白い肌である。更にややタイトで大きくスリットの入った黒い衣装がその妖艶な色気を持つ体型を強調していた。
「ああ、皇女様…御機嫌麗しゅう…」
「お、皇女…貴女が…」
「ええ。貴女がモニカ・リオーネさんね?私は…ビアリー・フォン・ノワール。こうしてお会い出来て嬉しいですわ。ウフフ…」
ビアリーはモニカを上から下へと視線を移ろわせながら見つめた。左手の紋様が金色に煌めくのを見ると、艶っぽい微笑みを浮かべながら近付き、不意に左手でモニカの頬を撫でた。
「ちょ…ちょっと!何するんですか!」
「ウフッ…可愛いわね…貴女の光は私の闇を照らし、私の闇は貴女の光を包む…」
「あっ…見て、トリッシュ…皇女様の…左手…!」
「ああ…紋様だ…間違いない!」
ビアリーの左手が濃紫に煌めいている。それはモニカの頬に触れる行為をシグナルにしてより一層輝きを増しているようだった。ビアリーは左手で何度かモニカの頬を撫でると手を止めて一歩後へ下がり、一行に微笑みかけた。
「同行の皆様も遠路遥々ご苦労様でした。本日は宿舎でごゆっくりお休みください。さあ、この方々を宿舎まで御案内してください。」
「はっ!さあ、宿舎はこっちだ!着いて来い!」
「あのビアリーっていう人…彼女も私達と同じ、祝福と精霊に導かれし者なのね。」
「そやな…それにしても…エロかったわなぁ…ん?テリー姉ちゃん、どないしたん?」
「ハァ…皇女様…美しいッス!自分、メロメロッス…うおおぉぉをを〜っ!!皇女様〜ッ!!!」
「そこ!喧しいぞ!黙ってさっさと歩け!!」
「まったく…皇女様の色香に迷っとる場合じゃなかろう!しかもお前さんも女じゃろうが!」
「まあ、とにかく…“郷に入っては郷に従え”だね。考えてもしょうがない。みんな一緒だから、不安なんて燃やしちゃおう!やるしかないよ、うん…」
突如としてノワール帝国に連れられた一行。更には翌日に控える要人達の会合という大要が降りかかってきた。モニカ達を待ち受ける運命は?そして皇女ビアリーの真意とは…?
To Be Continued…