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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter5:彩りの義勇軍篇
88/330

第88話『怪傑カンタループ〜後編〜』

シリーズ第88話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

フルウム国にて都市部に蔓延る盗賊団の討伐に赴いた一行。真っ直ぐな意思を持つ正義の怪傑カンタループとの新たな絆を紡ぐが、二手に別れてカンタループと離れた直後に盗賊の奇襲を受けてしまった。



「ま…待てッ!え、えっと…あ、悪は許さん!」



正義を謳う声の主が一行の間をいそいそと掻き分けて現れた──そんな締まりのない登場で一行を唖然とさせたのは怪傑カンタループだった──しかも、先ほどとは明らかに体型が違っており、盗賊に向けた口上にも勇ましい色合いが欠けている。その正体は誰の目にも明らかだった。



「セ、セレナ…?」


「あ、いや、その…セ、セレナではない!私は怪傑カンタループだ…!」


「なんだぁ?強いって聞いてたけど、随分とちっこいんだなぁ〜…相手になるのかよ?」


「わ、私は悪には絶対に負けないぞ…!か、かかって来い!」


「カンタループ〜!がんばれ〜!」


「そうだそうだ!盗賊なんかやっつけろ〜!」


「あ、ありがとう!我が愛するフルウムに悪は栄えない!行くぞ!」


「ふえ?あのカンタループさん、偽も──」


「コレットちゃん、それは禁句なのである。フルウムのみなさんの夢を壊してはいけないのである…」


「モガモガ…ごめんなさい…」



気が付くと一行の後には騒ぎを聞き付けた野次馬が人だかりを作っていた。明らかに小柄になっているにも関わらず、フルウムの人々は街の覆面ヒーローに変わらぬ声援を送る。怪傑カンタループは小さな細身の剣を携え、果敢に盗賊に立ち向かっていった。



「オラァ!!」


「おっとっと…それっ!」


「クソッ、すばしっこい奴だ!逃がすな!」


「隙あり…えいやっ!」


「ん…?攻撃…してるつもりか…?」



セレナは小柄な体躯を生かして華麗に身を翻し、勇気を振り絞って剣を振るう──が、非力なため盗賊達にまともにダメージを与えられない。あまりにも貧弱な攻撃にモニカ達一行は唖然呆然、セレナは焦燥に駆られ、盗賊はセレナを嘲り始め、野次馬もざわつき始めていた。



「なんだなんだぁ!?虫に刺されたみたいな攻撃じゃねぇかよ!ナメてんのか!?」


「おいおい、手加減してるのか?それともまさかそれが全力かよ!?ギャハハハハ!」


「カンタループ様、押されてるぞ…大丈夫なのか?」


「うん…き、きっと大逆転してくれるはず!信じよう、信じよう…」


「う、うう…どうしよう…」



群衆の不安が募り始めるのを尻目にセレナ扮する怪傑カンタループは窮地に立たされていた。ここはセレナの見せ場──と静観していた一行だったが、業を煮やす者が現れてしまった。



「もう!見てられないよ!私達がなんとかしなきゃ!」


「エレンの言う通りッス!正義の拳で叩きのめしてやるッス──」


「エレン、テリー、待って。手を貸すにはもう遅すぎよ。今になって私達が手を出したら、怪傑カンタループとして戦っているセレナの名誉を傷付けてしまうわ」


「そんなことを言っとる場合じゃないじゃろう!今はセレナが危ないんじゃぞ!?」


「それは解ってるわ。だけど、彼女に恥をかかせることはカンタループという英雄の消滅と同義よ」


「ええ、私はフェリーナお姉様に賛成です。怪傑カンタループはこの街の人々の希望の象徴…それを汚してしまっては、彩りの戦士を名乗れませんわ!」


「俺もフェリーナとリーベに賛成するぜ。セレナだって街を守るために強い覚悟を持って戦ってる…きっと大丈夫だよ」


「この戦いを乗り越えることがセレナにとって自信に繋がると思う。心配なのはわかるけど、セレナに任せてやろう!」


「うむ、小生もセレナを信じたいでごわす。歯痒いかもしれぬが、どうか頼むでごわす…」


「あたしからもお願い!セレナを信じてあげて!!」


「サンディア、ヴァイン、ドルチェ…わかった、ワシもセレナを…怪傑カンタループを信じるぞい!」



ドルチェ達の嘆願もあり一行は武器を収める。が、戦局は一向に変わらず、遂に手詰まり寸前まで追い込まれてしまった。



「あわわ…た、助けて…」


「フン、もう諦めな。じゃあ手始めにそのふざけたマスクを剥がして──ぐわあっ!?」


「だ…誰!?」



セレナの眼前をメロンオレンジの彩りが閃光となって駆ける。賊達と毒の戦士達を連れて盗賊を追っていた姉エレナが突如現れ、悪を一閃する。追い詰めたと思った矢先に正義の怪傑カンタループが2人並び立っている──という予期せぬ事態に盗賊達は慌てふためいていた。



「エレナ…!」


「遅くなってゴメンね。セレナ…じゃなくて、怪傑カンタループさん!」


「ど、ど、どうなってるんだよ!?カンタループが2人…!?」


「貴女なら出来る!正義の刃をお見舞いしちゃえ!!」


「うん…必殺、カンタループ・ラッシュ!」



碧色に染まった剣で目にも止まらぬ刺突の応酬を見舞う。勇気を振り絞ったセレナの左手にはメロングリーンの紋様が煌めいていた。



「せ、精霊の刻印!まさかセレナも持っていたなんて…」


「セレナ!ダメ押しいくよ!!」


「エレナ…私、頑張るね!」



エレナのメロンオレンジとセレナのメロングリーンが呼応して瑞々しく煌めく。2人の彩りにはフルウムを脅かす悪に毅然と立ち向かう意思が耀いていた。



『悪を断ち切れ、正義の剣!必殺、カンタループ・キャリバー!!』


「ぎゃああぁぁッ!!」


「やったね、セレナ!能ある鷹は爪を隠すってやつだよね〜♪」


「セレナが主張しないだけだと思うんだけど…まあいいか。セレナ、お疲れ様」


「ありがとう…みんながいてくれたおかげだよ。私1人じゃ──」


「フッ…敵前で勝利の余韻に浸るとは余裕だな」



左手を玄く彩るコーヒー色が一行の視線を一点に集める。盗賊の頭目として現れたのは裏切りの戦士ヴィオだった。図らずも胸の内に抱いていた不安が的中してしまっており、フェリーナは苦悶に表情を歪めた。



「しかし、そっちからノコノコと出てくるとはな…此方としては好都合だ」


「ヴィオ!?まさかアンタだったなんて…!」


「テラコッタの領主ローザ様を討ったらしいな…まあ、何処かから迷い込んだ犬が混乱を鎮めたようだが…」


「犬だと!?貴様ッ…!!」


「アヌビス、お待ちなさい。刹那的な感情に任せては何も解決しないわ」


「おっと、飼い主はビアリーだったのか…帝国に飼い慣らされた貴様に、私が斬れるか?」


「随分と言ってくれるな…姑息な剣しか振るえぬ汚い賊に負けるほどヤワな鍛練は積んでいない!」



アヌビスは躊躇いなくヴィオに冷たく光る刃を向ける。が、一行には双方を知る者も少なからずおり、辺りを不穏な空気が包み込んだ。



「盗賊ヴィオ…今、ここでやる気か…?」


「フッ、私も暇ではないのだが…いいだろう。挨拶代わりに少し遊んでやる!」


「ヴィオさん…アヌビス…あたくしは貴女達が傷つけ合うなんて、不本意でなりませんわ…どうか武器を収めて!」


「ビアリーの言う通りです。ヴィオと私達は“今は”道を違えているかもしれない…それでも、私達は──」


『行くぞッ!』



モニカとビアリーの制止を意に介さず、ヴィオとアヌビスは刃を交える。自身の意思に反した周囲の雰囲気に呑まれることなく、互いに己を貫き、敵対者として向かい合う。刃と刃がぶつかり合うけたたましい音は一行の心に哀しき旋律となって響いていた。



「せぇやぁッ!!」


「フッ…遅い!!」


「クッ…!」


「その程度か…それなら一思いに──」


「…やめて、ください…」


「な…何ッ!?」



ヴィオの眼前に標的と異なる人影が重なり、黒い服の裾が端切れになって宙を舞う。アヌビスブラックとコーヒー色──妖しく強かな2つの色彩とは対照的な甘く優しく可愛らしいピンクの彩りだった。幸いにも傷を負わせるには至らなかったものの、ヴィオの瞳から一瞬にして戦意が色褪せていった。



「ヴィオさん…」


「ネイシア…お前…」


「ヴィオさん…貴女は本心から盗賊に身を落としているわけではないはずです。どうか悔い改め、再び私達に力を貸してください。必ずや天もお許しになります…」


「フン、とことんまでお人好しな奴だな…お前という奴は…フフフッ…」



ヴィオはネイシアに向かって微笑み、戦いの構えを解く。自身に立ちはだかるアヌビスに対して玄き敵意を向けていたのと同一人物とは思えないほど優しい表情に変わっていた。



「貴様、何がおかしい!?それに武器を収めて何のつもりだ!?」


「邪魔が入って興が醒めた。撤退させてもらう。だが、次に会う時は…その首、貰い受ける。せいぜい首を洗って待っていろ」


「待て!貴様、逃げる気か!?」



ヴィオは仲間の盗賊を引き連れ、北の方角へと去っていった。アヌビスが憤りに震える中、ビアリーを始めとした一行は哀しみに沈んでいた。



「取り逃がしてしまった…盗賊ヴィオ、首を洗って待つのは貴様だ!」


「アヌビス…刹那的な感情に自身を委ねるなと言ったのに!あたくしは…仲間であるはずの彼女と袂を分かつなんて、苦しくてなりませんわ!」


「な、仲間…!?そんなはずは…!!」


「いいえ、紛れもない事実なのです。あたくしが全て話しますわ…ヴィオさんは──」



ビアリーはアヌビスに盗賊ヴィオの真相を告げた。仲間として旅路を共に歩み、共に魔を討ってきた──形振り構わぬ戦いで幾度も貢献してきた──何の前触れも無く、理由も告げずに一行を裏切り、賊に身を落とした──主君ビアリーによって語られた真実にアヌビスは言葉を失った。



「そんな…ビアリー様、申し訳ありません…」


「いいえ…でも、あたくしは…貴女と彼女が傷付け合うなんて…グスッ…」


「あ〜あ〜!アヌビス、ビアリー様を泣かせた〜!どうするんだよ〜!」


「茶化すなよ、ペソシャ。アヌビスだって知らなかったんだからさ…」


「うむ。ポソニャの言う通り、なっちまったもんは仕方無いぞなもし。またひょっこり現れるのを待つしかないぞなもし…」


「ねえ、さっきネイシアがアヌビスを庇ったとき、ヴィオさん、優しい顔してたよ。やっぱり裏切ったのは何か理由があるのかな〜…」


「マジで、ビアー!?たしかにネイシアって可愛いし、ヴィオさん、まさか…!キャ〜ッ!」


「ヴィオさんもリタ様がウチを愛してくれてるみたいに、ネイシアのこと好きなのかな…クールな顔して隅に置けないね〜!」


「トック、イオス、変に勘繰り過ぎだがや…まあ、そういう感情はともかく、少なからず気にかけてるのかもしれんがや!」


「うん、さっきモニカが“今は”道を違えているって言った通り、きっと望みはあるはずなのだ!頑張るのだ!」


「はい。いずれにせよ、そのうちにヴィオさんの真意は明らかになるでしょう。今はまだその時ではない…ただそれだけだと思います」


「そうだな、フェトル…やれやれ、ちょっとくたびれたね…一度戻って休もうか」



ポワゾンの提案を受け、一行は拠点である宿へと戻っていった。未だ明らかにならないヴィオの離反の動機とは?一行に牙を剥くリモーネ率いる巨大傭兵団の動向は?懸念が尽きない中、一旦羽を休めるべく、玄黒の盗賊団が蔓延っていた町外れを静かに後にした。




To Be Continued…

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