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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter5:彩りの義勇軍篇
87/330

第87話『怪傑カンタループ〜前編〜』

シリーズ第87話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

紅輝の少女アミィの彩りの戦士として歩む決意と真っ直ぐな想いを以て道化の令嬢コーネリアを退け、団結を一層深めた一行。次なる依頼を遂行するべく、フルウム国の都市部へ赴こうとしていた。



「次の依頼は都市部の盗賊団退治ですね。力を1つに、悪を討ちましょう!」


「そうだね、モニカ。そういえばドルチェの仲間って、街の方にはいるの?」


「うん、都市部にあたしの仲間が何人かいるはずだよ!せっかくだから会いに行ってみようか?」


「ああ、ドルチェの仲間ならきっと俺達に力を貸してくれるよな。楽しみだぜ!」


「リタさんの言う通りですわ。わたくし達の彩りが更に豊かになる素敵な出会い…心踊りますわね♪」


(都市の盗賊団…もしかしたら…)


「フェリーナ、どうした?なんか不安そうな顔してるけど…大丈夫かい?」


「ポワゾン…ええ、大丈夫よ。出発しましょう」



フェリーナの胸中に小さな不安が燻る中、一行は新たな出会いに期待を募らせながら都市部に繰り出す。盗賊団の退治に赴いたはずだったが、活気がありながらも穏やかな街並みからは悪の影が微塵も感じられず、少しばかりの緊張を引き連れていた一行は少々拍子抜けという様相になっていた。



「フルウムは平和なところやなぁ〜。テラコッタ領で反逆者扱いされてもうて、ビクビクしとったのとはえらい違いや…」


「う〜ん…いい天気で眠くなってきちゃった…ふわぁ〜…」


「なんだなんだ、こりゃ気楽な仕事だがや。魔物退治の方が歯応えありそうだがや…」


「トック!ドゥイヤオ!だらけてるんじゃないよ!何処かその辺に潜んでて、油断した隙を伺ってるかもしれないじゃないか!」


「うん、ヤートさんの言う通りだよ。盗賊は抜け目がないから気を付けて…もうすぐ人気の少ない区域に入るよ!」



呑気に歩いていたのも束の間、町外れに踏み入るや否や表情が一気に変わる。街並みが雑然とした雰囲気に変わり、整地されていた街道も荒れ道になっていく。切れかけていた緊張がピリピリとした空気になって再び一行を包み始めた。



「寂れた民家が増えてきたわね…失礼な言い方をして申し訳ないけど…金銭的に貧しい方が暮らす区域なの?」


「そうだよ、ブライアさん。フルウムは貧富の差で生活水準に大きな格差があるんだ…残念なことだけど、これが今のフルウムの現状なんだよ…みんなで平等に笑って過ごせる日が来ると良いよね」


「1人1人が手を取り合って暮らし、共に笑顔でいられる愛に満ちた平等な世界…その実現のためには私達が希望の光を灯していかなければいけませんわ!皆で頑張りましょう!」


「うむ、サンディアとリーベの言う通りじゃのう…皆が平等なのが一番良いんじゃが──」


「た、助けて!向こうに盗賊が…!」


(あっ…こ、この娘は…!)


「ドルチェ、急ぎましょう!私達で悪を討つ時です!」


「ま、待って!置いていかないで〜!」



町の少女に連れられて薄暗い路地裏に入ると、1人の行商人を何人もの賊が取り囲んでいた。行商人は袋小路に追い詰められ、逃げ場を失った状態で戦慄していた。



「さ〜て、ここで会ったのも何かの縁だ…持ってるもん全部寄越しな!」


「ひいぃ…ど、どうかお助けを…!」


「命まで取りゃしねぇよ。ただ、ここは俺達の縄張りなもんでな…通行料としてアンタの売り物を全部くれりゃ良いんだよ!」


「そうはさせないッス!正義の拳を喰らえッス〜!!」


「どわあっ!?な、なんだお前は!?邪魔するってんならブッ飛ばすぞ!」


「みんな、テリーに続きましょう!フルウムの平和を守るのです!」



テリーの鉄拳を皮切りに一行は盗賊団に果敢に挑みかかる。だが、一行の大軍勢が我も我もと狭い路地裏になだれ込み、隊列が思うように整わない。不慣れな場での戦いに思わぬ苦戦を強いられていった。



「ダメだ…これじゃ前衛に誤射しちゃうぜ…」


「クソッ!槍が長過ぎて、こんな狭い場所じゃ使い物にならないじゃん!どうすりゃ良いんだよ!?」


「リタ、トリッシュ、慌てないで!焦らずに間合いを掴まなきゃ危ないよ!」


「グルル…チャント、戦ワセロ…!ガウウウウッ!」


「アンブラ、落ち着きなさい。このままでは味方を巻き込みますよ」


「バ、バラキエル…グルルルッ!」


「困りましたわね…なんとかしてすぐに隊列を整えないと──」


「待てぇい!我が彩りが煌めく限り、フルウムの地に悪が栄えることは無いッ!」



フルウムの大気に割り込むように高らかに響く声が悪の諸行を切り裂く。男性的な雰囲気を持った勇ましい口上だが、声色は女性のそれだった。黒い服に全身を包んだ声の主は覆面で顔が隠れており、鮮やかなグリーンの髪が後から覗いている。覆面の戦士は勇猛な口上を矢継ぎ早に畳み掛けた。



「悪よ、我が名を聞けッ!私は怪傑カンタループ!平穏を脅かす悪行、断じて許さん!!」


「カ、カンタループだって!?とんだ邪魔が入ったな…」


「チッ、面倒な奴だ。取っ捕まえてふざけたマスクを剥ぎ取ってしまえ!」


「怪傑カンタループ…貴女は…?」


「平和のため、正義のために戦う勇者達よ、誇り高き救援に感謝する!だが、ここは私に任せてくれたまえ!」



怪傑カンタループと名乗る女性に標的を変えた盗賊達が一気に群がる。カンタループは正義のために臆することなく迎え撃つ。大きな剣を振るい、穏やかなフルウムの地に影を落とす暗雲を薙ぎ払っていった。



「とうっ!せいっ!」


「怪傑カンタループ、強いわ…道楽や見せ物ではないみたいね」


「そうだね、エリス。太刀筋を見る限り、かなりの手練れのようだね。僕達国際警察に勝るとも劣らないよ…」


「ねえ、みんな…カンタループの左手、見てよ!」


「左手…?祝福の証…!?」



ドルチェの言葉を受け、一行の視線が左手の一点に集束する。カンタループの左手にはメロンオレンジの紋様が活き活きとした彩りになって印されていた。



「覚悟!必殺、カンタループ・スマッシュ!」


「うぎゃああぁぁッ!」


「クソッ、ここは逃げるぞ…覚えてろよ!」


「カ、カンタループ様…ありがとうございました!」


「礼には及ばない。私はフルウムの平和を守るため、正義のために戦う!」



制圧された盗賊達は脱兎の如く逃げ去っていった。行商人を救出したのを見届けると同時にドルチェが普段と変わらない気さくな様相で覆面の怪傑に話しかけており、一行は仲間という日常的な存在と街の覆面ヒーローという非日常的な存在とが交差する状況に呆気に取られていた。



「いや〜、さすがは怪傑カンタループ!見事な剣さばきだったよ〜!」


「あら、ドルチェ。みんなも来てくれたのね…それに随分と大勢一緒にいるけど…そちらの方々は…?」


「ああ、宿に泊まりに来た旅の一団さんだよ。全員私達と同じように左手にいろんな色の印があるんだって!」


「な、なんですって!?こんなにたくさんいるのに、全員に…!?」


「あ、ああ…そうやねん!ほれほれ、色とりどりやで〜♪」



アミィの言葉に続いて、全員が左手の甲を見せる。覆面の奥の瞳に数多の色彩が映り、カンタループの心を沸き立たせた。



「すごい…貴女達、いったい何者なの?」


「はい、私達は──」



モニカはカンタループに事情を説明した。世界を脅かす魔族の脅威、世の平穏を乱す邪教戦士、間近に迫り来る巨大傭兵団──旅路を物語る話の1つ1つにカンタループは真摯に耳を傾けていた。



「そう…大変な旅路を歩んでフルウムまでいらしたのね。是非私にも協力させて!」


「カンタループ…ありがとうございます!」


「ねえねえ…カンタループさん、ドルチェとお友達なの…?」


「そうだよ、コレット。怪傑カンタループは私の仲間の1人なんだ!」


「ええ。私はエレナ。またの名を怪傑カンタループ…どうぞよろしく」


「あ、あの…エレナ…ケガしてない?」



一行に助けを求めてきた小柄な少女が再び現れる。背丈はエレナの肩の辺りほどとかなり差があるが、エレナも少女も同じような鮮やかなグリーンの髪だ。その表情や口調からは気弱そうな印象を受ける。



「あのねぇ、セレナ…たしかに私が姉だけど、私達は双子なんだから、後に立たれるとむず痒いんだけど…」


「ご、ごめんね…」


「こちらは私の双子の妹のセレナよ。ちょっと臆病だけど、とても優しい娘だから仲良くしてくれると嬉しいわ」


「す、すみません…よろしくお願い致します…」


「よろしくなのである…な、なんか、リデルちゃんみたいな娘が増えたのである…」


「フフフッ、えっと、リデルです。よろしくお願いします…みんな良い人ですよ」


「はい…よろしくお願いします…」



エレナとセレナを加え、盗賊達が逃げ去った後を追う。道を行く彩りの戦士一行の大軍勢は街の人々の好奇の視線を集めていたが、大多数の視線は怪傑カンタループに集まっていた。



「カンタループさ〜ん、握手して!」


「ああ、いいとも。平和なフルウムで元気に暮らすんだよ!」


「うん!カンタループさんもがんばってね〜!」


「カンタループ様!応援してるよ!いつもフルウムを守ってくれてありがとう!」


「こちらこそ、応援ありがとう。私は今日もフルウムの平和を守ってみせる!見ていてくれ!」



怪傑カンタループは街の人々から信頼を得ており、名実共に街のヒーローとして認識されているようだ。彼女自身も怪傑カンタループとして戦うことに対して強い誇りを持っており、瞳には強い意思で煌めいていた。



「エレナ…いいえ、カンタループ、すごい人気ですね!」


「うん、だけど私はチヤホヤされるために戦うわけじゃないわ。フルウムのために私に出来ることをやってるだけよ」


「ハッ、そうかい…なかなか粋なことしてるじゃないのさ──」


「あっ、さっきの盗賊…向こうに逃げていくよ!」



グィフトの指差す方向にエレナが討伐した盗賊が敗走していく。廃ビルが並ぶ通りは幾つにも道が別れ、バラバラになって逃走していた。



「では、先ほどのように手詰まりにならぬように二手に別れて追いかけましょう」


「なら、こっちは私達に任せな。毒で盗賊なんざイチコロにしてやるよ!」


「よし、私達も行こう!ヴァネッサ、気合いを入れるよ!」


「うん!わたしも頑張る!山賊仕込みのパワーでブッ飛ばしてやろう!」


「こっちは私達だけで十分です!エレン姐さん達の手を煩わせるまでもありません!」


「アタシもやるよ!コソドロなんて蛮族の敵じゃないさ!」


「これだけいてくれれば心強いよ。ドルチェ、そっちは任せたわ!セレナをお願いね!」


「オッケー!エレナ、気を付けてね!」



エレナは賊達と毒の彩りを連れて寂れたビルが建ち並ぶ一帯へと駆けていく。が、それと入れ違いに盗賊団の別グループが真逆の方角から我が物顔で一行に迫ってきた。



「お前ら、誰の許可取って俺らの縄張りに勝手に入ってんだコラァ!」


「紫の姉ちゃん、顔貸しな!ちょっと大人しくしててもらうぜ!」


「と、盗賊!?そんな…!」


「しまった…ケイトを人質にとられたわ…なんて卑怯な真似を!」


「で、でも、カンタループがいないよ!?どうしよう…」


「カンタループ達は反対方向だ。いくら足が速くてもここまですぐには戻って来られないぞ」


「そうですね、ゼータ。では、私達が戦いましょう!」


「了解した。それでは任務を──」


「ま…待てッ…!え、えっと…あ、悪は許さん!」



不意に正義を謳う口上が木霊する。が、声はすれども姿が見えず、一行は当惑するばかりであった──口上の主は何者なのか?そして、フェリーナが“盗賊団”に抱く不安とは?フルウムの平穏を守護する強固な意思と覚悟を持つ覆面の怪傑と共に盗賊団討伐に二手に別れて挑んでいく彩りの戦士達は口上の主である“何者か”と共に想いを1つに立ち向かっていった。




To Be Continued…

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