第78話『Limonata Mercenary』
シリーズ第78話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
魔族七英雄ベガの禍々しい荊に襲われ、ディアボロ7人衆ラストの妖しき魔蝕に囚われたものの、突如として現れたゼータの救援もあり、邪教戦士ローザを討ち、撤退させることに成功した一行。しかし、自分達の正義に従って戦った結果、一領主に刃を向けた反逆者の汚名に甘んじることとなってしまった。
「アミィとクレア、大丈夫でしょうか…?偵察に行ったきり、なかなか帰って来ないですね…」
「あっ、戻ってきた…2人ともおかえり!大丈夫だった?」
「ただいまやで、エレン姉ちゃん…ハァ…やっぱりアカンわ。ローザが行方不明になってテラコッタ領は大混乱になってもうたみたいや…もう後に退けへんで」
「あたし達が宮廷に出入りしてたのも兵士からみんなに知られちゃったみたい。このままじゃヤバいかも…」
「やはり私達は反逆者扱い…これも精霊の導きならば、やむを得ないわね」
「とにかく、もうシエナ領に向かうしかないな。俺達を狙った追っ手が来るかもしれないから、急ごうぜ」
「そうね。少なくともブルーノ国に滞在する間は追っ手を警戒しましょう」
「邪教戦士…恐ろしい輩がいるものだな。私も皆のため、力を尽くそう」
「ゼータさん、頼りにしていますわよ。さあ、参りましょう。あたくし達の運命の導く先へ…」
再びゼータを加えた一行は足早にシエナ領へと向かう。バーント平原を東方のテラコッタ領、西方のマホガニー領と分け合い、ブルーノ国における交通の拠点、中継地点として発展している地区である。穏やかなシエナの地には似つかわしくない緊迫した空気が一行を包んでいた。
「よし、無事にシエナ領に入れた…けど、油断は禁物だ。全員単独行動は慎んでくれ」
「アンジュさん…私…怖い、です…」
「大丈夫だよ、リデル。僕達が一緒だ。皆が君と共に歩むから恐れることはないよ──」
「見つけたぞ!奴らが宮廷に出入りしていた反逆者の一団だ!」
一行の前に大勢の男女の軍団が現れる。武器を携えていることと装いに統一性が見られないことから傭兵の一団と思われる。傭兵達は一行を視界に捉えるや否や、口々に“反逆者”として囃し立てた。
「間違いない、あの娘達だ!ローザ様を襲ったっていう反逆者だ!」
「なんだなんだ…どんな凶悪な奴なのかと思ったら、可愛い女の子達じゃないか!」
「おお〜、揃いも揃って上玉だな!勝ったら1人か2人、頂けないかねぇ…ヒヒヒ…」
「ったく、やらしいねぇ。それにしてもかなりの大所帯、挑み甲斐があるってもんよ!」
「これは随分と大仕事ね。報酬もたっぷり貰えそうだわ!」
「まあ!私達を知ってるんですね…遂に私達にもファンの方が…」
「リーベちゃん、あの人達はファンではなく追っ手なのである…みんな、戦闘の用意を──」
「ヴィオ!やっぱりアンタの仕業だったのね!」
「お前は…リモーネ!」
見た目の年齢に反して少女のような甲高い声が響く。声の主である傭兵団のリーダーはリモーネという名の女性だった。鮮やかなレモンイエローの髪を後で束ね、ダークオレンジを基調とした衣装を着ている。剣を握る左手にはレモンイエローの紋様が彩られていた。
「なんと!あの黄色い髪の親方にも御紋があるぞい…!」
「ヴィオ…コイツ、知り合いッスか!?」
「ああ、要人護衛、魔物退治…様々な戦場で名を挙げている腕利きの傭兵だ。まさか追っ手として現れるとはな…」
「ヴィオ…いつかこんな時が来ると思ってたわ。アンタは傭兵なんて名ばかりで、賊みたいなことをして…果てはテラコッタ領の領主に刃を向けたみたいじゃない!」
「…それを今更咎めに来たのか?仲間をぞろぞろ引き連れて、わざわざご苦労なことだな」
「アンタはいっつも…そうやって悪びれもしないで…迷惑なのよ!傭兵の面汚しッ!!」
「くだらん。傭兵は実力がなければ食っていけん。賊紛いだとしても需要もあるし相応に報酬も良い。自分の未熟さを潔癖な信念を振りかざすことで隠しているつもりか?」
「なんですって!?アンタみたいな賊紛いじゃない“真の傭兵”の実力を見せてやるわ!アンタを叩き潰してやるんだから!」
自らの傭兵としての美学を汚されたことに怒り狂い、憤りながら切っ先を向けるリモーネに対し、ヴィオは涼しい顔を崩さないまま構えを取る。少しばかり視線を皆が立つ後方に移すや否や、僅かに表情が緩んだ。リモーネに対しては瞳に敵意を燃やしていたが、共に旅路を歩むモニカ達に対しては少し和らいだ穏やかな眼差しを向けていた。
「みんな、リモーネは私に任せてくれ。手を煩わせてすまないが、ザコどもの掃除を頼む」
「うん、がんばってね!お姉ちゃん!」
「ああ。ザラーム、この姉ちゃん達の言うことを聞いてるんだぞ?みんな、重ねて恐縮だが、ザラームを見ていてくれ」
「はいよ。ヴィオ、ヘマするんじゃないよ!」
「フフッ、お前もせいぜい足を引っ張るなよ?…頼りにしてるぞ…ビクトリア…」
「あれ…?ヴィオとビクトリア、なんだか仲良くなったね…よかった♪」
「そうだな、姉貴…さあ、傭兵だろうが誰だろうが、バリバリのボルテージでブッ飛ばしてやろうじゃん!」
「フッ、久しぶりに皆と戦えて嬉しいな…コレット、援護を頼むぞ」
「うん!ゼータ、一緒に頑張ろ〜!」
「みんな、戦いましょう。たとえ悪だと蔑まれても、私達には信じる道がある。ただ信じる道を歩みましょう!」
『祝福の証の彩りのもとに!』
「反逆者なんかには絶対に負けないわ!リモーネ傭兵団、出陣よ!!」
『うおおぉぉ〜ッ!!』
「って、痛ッ!?人が盛り上がってるのに石をぶつけたのは誰よ!?」
「決起集会は済んだか?早く始めるぞ」
「フン、臨むところよ!反逆者達、覚悟なさい!」
一行はヴィオに続いてリモーネ傭兵団が待ち構える一帯に飛び込んでいく。ルーシーの指揮の下に皆がそれぞれの役割を担う集団戦術を見せるモニカ達一行に対し、リモーネ傭兵団の面々は統制の取れていない粗野な色合いの個人戦術で一行に襲いかかってくる。数多の力を1つに個を群で迎え撃っていった。
「ロアッソフレイム!」
「熱ちちッ!クソッ、近付けない…」
「そこだ!シャドウバレット!」
「ぐおわっ!この娘達、強すぎる…!」
「ヘヘン♪俺達戦う乙女を嘗めるなよ?」
「リタ、絶好調だね!でも、私だって燃えてるよ!負けないからね!」
「ああ。頼りにしてるぜ、エレン!俺達は負けない!」
仲間達がリモーネ傭兵団の手練れを相手に奮戦する中、ヴィオは陣形の中央でリモーネと相対する。無駄のない機敏な動きでリモーネの猛攻を暫し避けていたが、不意に地を蹴り上げた。
「隙ありだ!それッ!」
「うええっ!?め、目に砂が…!」
「棒立ちとは余裕だな!喰らえ!!」
「うわあッ!!」
ヴィオはリモーネの視野を砂で遮り、追い討ちの連撃を仕掛ける。切り傷を負ったリモーネは砂を払い、不敵に笑うヴィオに敵意と憤りを帯びた眼差しを突き刺していた。
「アンタって奴は…不意討ちに目潰しに追い討ち…どんだけ卑怯なことすりゃ気が済むのよ!?」
「卑怯?知らんな。お前にいちゃもんをつけられる謂れは無い。それに無駄口を叩けるということはまだまだ余裕ということだな?フフフ…さあ、もっと向かって来い!」
「グッ…も〜う怒った!!アンタなんて首根っこ捕まえて牢屋に放り込んでやるんだからね!!」
「そうだ、その調子だ。もっと怒れ。お前の胸に燻る怒りをもっともっと私にぶつけて来い」
「ク〜ッ!!澄ました顔していられるのも今のうちよ!!ギタギタにしてやる〜!!」
リモーネはヴィオの形振り構わぬダーティファイトに苛立ちを募らせていく。ヴィオはどこ吹く風とばかりに我が道を突き進み、リモーネを翻弄する。が、予期せぬ事態は気紛れに転がり込んできた。
「お姉ちゃん、気をつけて!がんばって〜!」
「ザラーム!?危ないから下がっていろ!コイツは私が仕留め──」
「隙あり〜♪」
「何ぃッ!?」
ザラームに気を取られた一瞬、ヴィオはリモーネに無防備な背中を晒してしまう。背後から突進を見舞われて突き飛ばされ、ザラームを捕えられてしまった。
「クソッ!しまった、ザラーム…!」
「お姉ちゃん!!」
「フフフ…形勢逆転ね♪さ〜て、ヴィオ…可愛い妹ザラームちゃんが目の前で死ぬなんて嫌でしょ?ザラームちゃんの命が惜しいなら、私の言うことを聞きなさい!!」
仲間と共に打ち倒した魔族七英雄カストルの影がヴィオの脳裏を黒く染める。ザラームを人質に取られ、命ぜられるがままに動くだけのマリオネットと化した──意地もプライドもかなぐり捨て、妹を救うために魔族に魂を売った──相応の報酬があれば賊紛いの汚れ仕事も厭わなかったヴィオでさえ思い出すことも憚られる忌まわしい記憶がヴィオの思考を停止させた。
(クソッ、なんてことだ…私は…また敵に踊らされるのか?あのときと同じような、ただの操り人形に成り下がってしまうのか?私は…!!)
ガブッ!!
「ぎゃあああッ!痛たたたたッ!」
「ザラーム!?」
リモーネの金切り声で我に還った。ザラームがリモーネの右腕に噛み付いていた。振りほどくと即座に右足にすがり付き、リモーネの動きを必死に封じ込める。
「お姉ちゃん、今だよ!やっつけて!」
「クッ…やってくれたわね!このガキ!!」
「リモーネ…私に形勢逆転だとか、言うことを聞けだとか言ってたのは何処の誰だった?答えろ…切り刻まれたくないならな」
「フン…切り刻めるなら切り刻んでみなさいよ。右足にすがり付いてるザラームちゃんも巻き添えになるわ…それでもいいの?」
「それもそうだな…ならば…右足“以外”を切り刻む!!」
「はぁ!?アンタ、頭大丈夫!?そんな小器用なこと出来るわけ──」
ヴィオの全身にコーヒー色の波動が駆け抜ける。黒い彩りの力を纏った刃がレモンイエローのマーシナリーを払い抜けていき、微塵に切り刻んでいった。
「来たるは暗夜の刃、貴様にもたらすは絶望。ダークパルス・スラッシャー!!」
「うああぁぁッ!!クッ…アンタ、なんかに…!!」
リモーネはヴィオの宣言通りに右足“以外”を切り刻まれ、その場に俯せに倒れた。感情を露にすることなく佇むヴィオとは対照的にザラームは無邪気に喜び、ヴィオの周りをはしゃぎながら駆け回っていた。
「やったやった!さっすがお姉ちゃん!」
「フッ…勝負あり、だな。せいぜい切り刻んでいない右足を有効活用して、帰って寝ろ」
「グスッ…覚えてなさいよ…ううう…うわああぁぁ〜ん!!」
「リモーネさん、泣かないで…今日のところは出直しましょう…」
リモーネは子供のように泣きながら仲間の傭兵に肩を担がれて去っていった。一行は間の抜けた様相に呆然としながら見送る。リモーネを一顧だにすることなくヴィオは武器を収め、早歩きで先に進み始めた。
「さて、邪魔者は片付いた。先を急ぐぞ」
「ヴィオ姉ちゃん!まったく、忙しい人やわぁ…」
「でも、やっぱり頼りになる方ですわね♪さあ、わたくし達も参りましょう!」
ヴィオとザラームの連係により、リモーネ傭兵団を退けることに成功した。反逆者の汚名と共に追っ手という新たな脅威が一行に迫り来る。しかし、一行は自らの正義を信じ、臆することなく歩を進めていった。
To Be Continued…




