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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter5:彩りの義勇軍篇
77/330

第77話『妖艶なる魔蝕』

シリーズ第77話目です。どうぞご覧くださいませ〜!

一行に優しく歩み寄り、導きの手を差し伸べた青年リールの正体は魔族七英雄の1人、薔薇の貴公子ベガだった。彩りの騎士達と共に逃げ去ってしまう。予期せぬ事態に一行は戸惑いを隠せないままだが、邪教戦士ローザが新たな脅威となって牙を剥く。



「さあ、ベガ様とラスト様の邪魔はさせないわ。アンタ達全員地獄逝きよ!!」


「地獄に逝くのは貴様だ。骨の髄まで切り刻み、玉座を貴様の血で紅く染めてやる!」


「私達の絆の力、貴方に破れはしません!これからの旅路も皆と共に切り開く…退いてもらいます!」


「よくも騎士の誇りを汚してくれたわね…断じて許しません!!」


「さ〜て、覚悟なさ〜い!この謁見の間を貴女達の墓標でいっぱいにしてあげるわ!」


「やれやれ、悪趣味な奴じゃわい…リデル、張り切っていくぞ!」


「は、はい…!頑張ります!」



ローザは妖しげな魔術書を携えて玉座から立ち上がる。禍々しい術法が記された凶典は魔の彩りである黒紫の波動を纏っており、表紙には妖しげな紋様が描かれている。深緑の書とピンクの書──2冊の本を手に、一行の旅路に立ちはだかる壁となっていた。



「みなさん、どんな術を使うかわかりませんわ。無闇に動かず、じっくりと策を見出だしていきましょう」


「急がば回れ、やな。ルーシー姉ちゃんの策が出来上がるまで辛抱せなアカンな…頼りにしてるで!」


「それならこちらから行くわよ♪華やかなる裁きの荊…ローズウィップ!」



深緑の表紙の魔術書が魔の力を解き放つ。ローザの辺りに荊を張り巡らせ、次々に一行にけしかける。リールが彩りの騎士達を退けた術だ。荊の1本1本が意思を持ったように自由自在に動き回り、一行の足元を薙ぎ、荒々しく打ち据えてきた。



「うおっ!?これはかなり強烈ッス!」


「この術、リールさんの…あんなに優しい人だったのに…」


「クレア、きっとリールさんも見守ってくれるわ。我らを導く精霊達に誓って、彼の想いを無駄にはしない!」


「ウフフフ…リールじゃないわ…ベガ様の力、素敵でしょう?リールはもういないの。現実逃避しちゃダメよ?」


「あんた…どうして実の弟を“もういない”なんて軽々しく言えるンだい!?リールもマリー達もあんたの大切な家族じゃないのかい!?」


「ビクトリア。こんな奴に何言っても無駄だよ!やっつけてやろうじゃない!」


「はいよ。コイツにはちょっとお仕置きが必要だね!派手にいくよ!!」



エレンとビクトリアの彩りが呼応し、大きな彩りの魔方陣を紡ぎ出す。エレンの赤とビクトリアの深紅、敵陣一帯を紅蓮に彩る灼熱の業火が噴煙と共に噴き上げられ、辺り一面に陽炎を揺らがせた。



『怒りの爆炎、ブチかます!ラッビア・ルージュ・ボルカノン!!』



紅き彩りで一行を牽引する2人は彩りの力を猛々しく唸らせる。ベガの力の具現である荊の鞭は赤々と燃えるエレンの炎に焼かれ、ビクトリアの大地の力で根本から裂かれて細切れに散っていった。



「あら、やるじゃない…じゃあ次はラスト様の力、見せてあ・げ・る♪」



表紙がピンクの魔術書に持ち替え、詠唱する。魔の彩りである黒紫の波動と共に紫を帯びたピンクの閃光が一帯に飛び交い、妖しい幻惑の世界へと一行を引きずり込む。



「ウフフ…ラスト様の力は一筋縄ではいかないわよ?瘴気が誘う妖艶なる淵に惑え…グロッシー・テンプテーション!」


「こ、この術は何!?あれ…?体から…力、が…」


「なんだい!エレン、だらしないねぇ!あたいはそんな…ピンクの光、で……あ…うう…」


「エレン、ビクトリア!?どうしたッスか!?」


「さっきの騎士達と同じなのである…2人とも目に生気が無くなっているのである!」


「…んぅ…」


「…あぁ…」


「わわわっ!?ちょっとちょっと!2人とも何してるの!?」


「いけませんわ!戦闘中に公衆の面前で抱き合うなんて…どうしたんです!?」



エレンとビクトリアが突如として戦意を失い、クレアとリーベの当惑を尻目に抱き合い始めた。2人の体が触れ合うや否や、フェリーナの瞳に黒紫の影が映り、肌に邪気を感じ取った。



「これは…エレンとビクトリアの体から精霊の気が流れ出てる…早く術を解かないと危険だわ!」


「うん…でも、どうやって解くの?困ったね…」


「コレット姉ちゃん、不用意に動いたらアカンで。ちゃんとした解決策を見つけんと──」


「アムール様!?紋様が…!」


「穢れを清め、汝の在るべき姿に…ピュリフィカ!」



アムールのホーリーホワイトの彩りが紡ぐ聖なる力が魔の瘴気を浄化する。エレンとビクトリアの瞳に生き生きとした活力が戻り、それと同時に我に還った。



「んん…私、何してたの!?ビクトリアの顔が近いし、なんか変な気分…」


「あんた、よくもやったね!あたいら全員で倍返ししてやるよ──」


「あ〜ら、気付いてないの〜?この術の瘴気は仕掛けた相手の周りにも広がるのよ♪」


「何ッ!?そんなバカな…!?」


「トリッシュ!カタリナ!」



トリッシュとカタリナが魔の瘴気に冒されていた。トリッシュの黄色とカタリナの青が瘴気の中で混じり合い、碧色に染まって放散している。フェリーナは全身に否応無しに突き刺さる邪気に苦悶の表情を浮かべた。



「…姉貴…」


「…トリッシュ…」


「…操られてるとは言え、この2人が抱き合うのは日常茶飯事だからな…」


「リタさん!冗談を言ってる場合ではありません!わたくし達がお2人を助けないと…」


「ううっ…さっきより瘴気が強く出てるわ…どういうこと!?」


「アムール、もう一度浄化を頼みます!」


「はい…ピュリフィカ!…そんな…浄化出来ない!?」


「無・駄・よ♪この術は心と体とが深く深く結び付いている者同士ほど強く瘴気に囚われ、強く惹き合うの。貴女達の言う“絆の力”を逆手に取った戦術なのよ!オ〜ッホッホッホッホ!」


「ああ…天よ…魔の誘いに惑う弱い私を…お許し、ください…」


「駄目…私も…もう…」


「ネイシア!フェリーナ!!そんな…みんなが…!」


「モニカさん…まだあたくし達は負けてはいません。希望を捨ててはなりませんわ」


「しかし、ビアリー…私は…」


「しっかりなさい!あたくし達の大将である貴女が諦めてどうするの!あたくしが何度だって貴女の手を取り、立ち上がらせますわ!」


(私が、大将…この皆の…大将…)



ビアリーの叱咤激励を受けながらもモニカの表情が戦慄と焦燥に歪む。共に彩りの旅路を歩み続ける仲間達が次々に妖しい魔蝕に心を奪われ、瘴気に囚われていく。残るは中心メンバーはモニカとビアリーの2人のみ、援護する仲間達も次々に操られ、まともに戦える者は疎らにしか残っていなかった。



「さて…ここまでよ。この娘達はこのまま互いの精力を吸い取り合って、精魂尽き果てて死ぬわ!」


「なんてことを…!私達の絆を踏みにじるなんて、絶対に許しません!!」


「そうね。これはこれで背徳的で昂るけど…無理矢理心を操ってヤらせるなんて興醒めだわ。もう飽きたから、貴方を闇に堕として差し上げるわね」


「あら…そんなに焦らなくてもいいじゃないのよ…もうすぐ貴女だって虜になるんだから…」


「そんな…ん…んぅ…」


「ビアリー!クッ…このままでは──」



ドンッ!



熱い火を燃やしながら冷たい銃声が響く。紅蓮の爆炎に焼かれ、ローザの手元の魔術書が瞬く間に灰塵と消え、皆が一斉に呪縛から解放された。艶のある黒髪に赤髪のメッシュを入れた血紅色の彩り──魔濤隊アルニラムを共に討った同志──ゼータだった。黒と赤を基調としたボディースーツを身に纏った孤高の機械少女は血紅色に燻る殺気混じりの闘気を辺りに放ちながら静かに佇んでいた。



「何よ何よ!?せっかく盛り上がってきたのに、よくも邪魔してくれたわね〜!」


「モニカ、ビアリー…他の皆もいるな。騒ぎを聞き付けて来てみれば…魔族の瘴気が充満しているな」


「貴女は…ゼータ!」


「あら…甘美な気もしたけど、魔の呪縛から助けてくださったのね?ありがとうございます♪」


「2人とも久しいな。だが、挨拶は後だ。ほう…貴様が邪教戦士か…銃か、剣か…どちらで討たれたい?」


「ま、待って!アタシはこのテラコッタ領の領主なのよ!?アタシが殺されたら領民のみんなが困るの!お願いだから命は助けて!」


「…生憎だな。私は魔族に魂を売った者にかける情けは持ち合わせていない!」



ローザの命乞いを微塵も聞き入れず、ゼータは背部から剣を取り出す。刀身が蛍光イエローに光っており、バチバチと音を鳴らす小さな電光を纏っている。恐怖におののく邪教戦士に突き刺す冷たい眼差しには一欠片の慈悲も無い。血紅色の零闘士は静かな狂気を纏いながら魔の配下であるローザに斬りかかった。



「リミッター解除…覚悟ッ!」


「グッ…ローザ様、こちらです!お逃げください!」


「あ、ありがとう…アンタ達、覚えてらっしゃい!」



ローザは自らを庇った兵士に連れられて逃げていった。ゼータは標的を取り逃がしながらも静かに剣を収め、涼しい顔をしていたが、自分に抱き着いてくるコレットの無邪気な笑顔を見るや否や穏やかな表情に変わっていた。



「わ〜い!ゼータだ〜!!会えて嬉しいよ〜!」


「コレット、変わりないな。皆も無事なようで何よりだ」


「ありがとうございます。ゼータのお陰で助かりました」


「何、礼には及ばん。ちょうどこの辺りの調査に来ていたら、宮廷が騒がしいと聞いて来てみたんだ」


「あの、モニカさん…その方はどちら様なのであるか?」


「ああ、初めて見る顔もいるな。私はゼータ。モニカ達の仲間だ。よろしく頼む」


「私はカシブ・ノヴィルニオ、死霊学者なのである。よろしくなのである♪」


「私の名はヴィオ・ブラッド。傭兵だ」


「私は運命と彩りに導かれた愛と希望の戦士、リーベ・グルマンです。よろしくお願いしますわ♪」


「私はケイトです。セピア国より参りました──」


「すまない。挨拶の途中だけど、場所を移さないか?恐らく僕達はここに長居するべきではない」


「そうね。理由はどうあれ領主ローザに刃を向けた以上、私達は反逆者の集団として追われる可能性が高いわ」


「は、反逆者!?自分らは正義の戦士ッス!断じて悪などではないッス〜!」


「そうですよ!私達は世界を救うために戦っているのに、どうして──」


「テリー、モニカ、仕方無いのよ。善悪という概念はすごく抽象的なの。個人の主観や属する集団の指針によって変わるんですもの。悪意無きこの行動だって私達にとって善であったとしても、テラコッタ領の民にとっては悪なのよ」


「エリス…」


「ふむ、まず私達も此処から離脱するか。詳しい事情は後で聞こう」


「そうですわね。とにかく急いで隣のシエナ領に向かいましょう」



血紅色の零闘士ゼータの救援もあり、一行はローザの妖しい魔蝕を断ち切り、撤退させることに成功した。しかし、その代償は反逆者のレッテル──世界の命運を賭けて戦うモニカ達一行にとっては余りに不名誉なものだった。再びゼータを加えた一行は望まぬ汚名と共に音も無く迫る新たな影の存在を感じ取りながら足早にローザ廷を後にした。




To Be Continued…

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