第76話『共に歩むこと』
シリーズ第76話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
邪教戦士にしてテラコッタ領の主であるローザ率いるテラコッタ・ソシアルナイツと対峙した一行。ステラはスモウ・レスリングの極意を武器に橙色の鎧の重騎士ガーベラとぶつかり合っていた。ステラの猛々しい猛攻と鉄壁の守りでガーベラは次第に押し込まれていた。
「クソッ…鎧も着ていないのに、なんて防御力…!」
「スモウ・レスリングの真髄は鍛え抜いた心技体の調和じゃ!鎧も武器も必要ないわい!」
「心技体の、調和…!」
「逆鱗掌じゃ〜い!そりゃああぁぁ!!」
「ウガアァァ…!!」
ガシャン!ガシャン!
ステラの怪力に屈し、床に叩き付けられたガーベラの重厚な鎧が荒々しい轟音を立てる。鎧がたてる音でテラコッタの宮廷騎士達は誰が倒れたか容易に察することが出来、劣性に立たされた焦燥に駆られていた。
「ガーベラさん!ねえ…これってヤバくない…?」
「カメリア、諦めないで!マリー様がなんとかしてくれるよ!…ハァ、ハァ…」
「わたくしも…もう、戦えないわ──」
「せいやぁ!はあッ!」
「でやぁッ!オラッ!」
大将である2人が振るう剣にも一層力がこもる。モニカは彩りの騎士との戦いに決着を着ける最後の一手を打つべく金色の陽光を纏った剣を──マリーは背水の陣に立たされた戦局を打破するべく山吹色の閃光に染まった剣を──自らのため、自分を信じる仲間のために力強く振るった。
「フン…貴様なんぞに負けるものか!!」
「…いいえ、私が勝ちます。絶対に負けません!!」
「何ッ!?何処からそんな自信が──」
金色の光が法衣のようにモニカを包み、ダイヤモンドのような煌めきを放つ。天駆ける黄金の剣閃がモニカの意思の具現となり、歩みを進める旅路に立ちはだかるテラコッタ・ソシアルナイツの大将、マリーを一閃した。
「リオーネ流奥義!金陽翔天斬!!」
「何いいぃぃッ!?」
金色の光の衣を纏ったモニカの一閃を受けたマリーの体が宙に浮かび、仰向けに倒れ込む。大将が敗れ、金色の鎧が床に沈むと共に、静かに雌雄は決した。モニカ率いる彩りの戦士一行は歓喜に沸き、マリー率いるテラコッタ・ソシアルナイツは悲嘆に陰った。
「マリー様!?そんな馬鹿な…!」
「マジ!?あり得な〜い!信じらんな〜い!!この人達、超強〜い!!!」
「我らの…負け、か…」
「なんという屈辱…貴様らごときに我らテラコッタ・ソシアルナイツが…!」
「…そうですね。もし仮に貴女達に挑むのが私1人だけだったら、為す術もなく負けていたでしょう…では、何故貴女達が負けたか、わかりますか?」
「……何が言いたい?」
モニカは眼前に倒れながら睨み付けるマリーに真剣な眼差しを投げ掛ける。が、表情はマリーを諭すような落ち着いたものであり、敵意は一片も見られなかった。
「私は剣士ですが、剣だけでは勝てない相手もいます。だけど、私の隣には斧で戦うエレン、槍で戦うトリッシュ、銃で戦うリタ、拳で戦うテリー…更には術で戦うビアリーがいてくれます」
モニカは仲間達1人1人の姿を思い浮かべながら真摯な言葉を紡いでいく。硬く結ばれた確かな絆を多くの仲間と築いてきた旅路は色褪せることなくモニカの心に息づいていた。
「私は不器用で、特別なことは何も出来ません。だけど、お金や道具をしっかりと管理してくれるアミィ、美味しい料理を作ってくれるカタリナ、戦いの傷を癒してくれるネイシア、私達の力を司る精霊の世界を教えてくれるフェリーナがいてくれます」
仲間達と苦楽を共にした1つ1つの思い出が心のアルバムから鮮明に浮かび上がる。まだまだ空白ばかりのアルバムだが、これから多くの思い出に彩られるのは間違いない。
「私1人の力だけでは余りにも矮小です。だけど、凄まじい力で敵を跳ね除けてくれるステラ、皆が驚く策を編み出してくれるルーシー、どんな相手にも臆せず果敢に挑むビクトリア、誰より早く敵に切り込むヴィオがいてくれます」
魔族や破落戸の脅威が幾度も行く手を阻んだ。それでも仲間と支え合い、助け合いながら、彩りの力を以て全て振り払ってきた。
「私はこの旅の中で悩んだり悔やんだりすることばかりです。だけど、いつも明るい笑顔を絶やさないクレア、純粋な心で私を慕ってくれる妹みたいなコレット、前向きな気持ちを教えてくれるリーベ、恐怖に負けずに戦って勇気を分けてくれるリデルがいてくれます」
挫けそうになったときもモニカの支えになったのは仲間の存在だった。皆の顔を浮かべた後、モニカの胸を僅かに憂いが駆け抜ける。自分1人だけでは勝利は覚束無いことを知っていたからだ。
「私1人だけでは魔物に打ち勝つこともままならず、貴女達のもとに辿り着く前にこの旅路は途絶えていたでしょう。皆が共にいてくれるから私は強くなれる。仲間の1人1人、皆が私にとって必要な存在なのです!」
「モニカ…あたしも、大好きなみんなと出会えて幸せ!みんな素敵な仲間だもんね!」
「そうですね、クレアちゃん。これも天の愛、天の御導きです」
「私は1人じゃない。1人1人のかけがえのない仲間が皆で手を取り合い、私と共に歩んでいるのです!貴女達には負けません!」
「何だと!?騎士に対する冒涜、断じて許さん!!」
「…マリー、私達に反論の余地はない…」
「その通り。モニカ殿の言葉には一点の偽りもない」
「ツィガレ、ランディニ!?どういうことだ!?」
「…彼女達が勝利し、私達は敗北した。それ以上でも以下でもないわ…」
「うむ、私と戦ったテリー殿は言った…武器の強さに傲る者に負けはしない、と。その結果がこれだ。私達は真っ向から戦い、負けたのだ」
「なんてことだ…お前達は悔しくないのか!?ローザ様に遣える騎士の誇りは何処に行ってしまったのだ!?」
「うん…そりゃ負けたのは悔しいけど、これが今の実力だもん。負けたって素直に認めざるを得ないんじゃない?」
「エーデルの言う通り。自分よりも勝る者がいるならば潔く相手の力を認める…これも騎士としての本分なんじゃないのか?」
「パンジーね、マリーのこと大好きなの。負けたってマリーはマリーなの。だからね、自分を見失わないで欲しいの!」
「わたくしも皆の先頭に立って戦うマリーさんの姿にいつも魅せられていますわ。わたくし、ずっと貴女に着いていきます」
「マリー様…わたしがドジっちゃってごめんなさい。わたし、もっと頑張るから、側で見ててよ!」
「エーデル…グラジオ…パンジー…ラナン…ハイビス…」
「マリー、私と同じように貴女にも素敵な仲間達がいるじゃないですか。貴女達だって力だけで寄り集まったわけではないでしょう?」
「…そうだな。私にとって、テラコッタ・ソシアルナイツの皆は共に戦う仲間であり、家族でもある。1人1人が間違いなく、かけがえのない存在だ。大切なことを気付かせてくれて、ありがとう──」
モニカとマリーが握手をしようとした刹那、邪の薔薇ローザが憤りながら横槍を入れる。モニカ達と共に彩りの騎士達も敵氣心を邪教戦士である主君に突き刺した。
「もう!何よ何よ!勝手に仲直りしちゃって〜!」
「はいはい、アンタの変な口調はもう聞き飽きたよ!水を差さないで!」
「いや〜ん!ラスト様〜!負けちゃったわ〜!」
「…うん、見てたよ。負けちゃったね…だけど、すごく胸躍る戦いだった。僕の予想通り…いや、予想以上だったよ!」
ピンクの花弁と共に何処からともなくラストが姿を現した。可愛らしさを感じる顔立ちとピンクの髪と瞳が柔和な雰囲気を醸し出す彼は敵対軍の討伐に失敗したローザを責めるでもなく、一行に対して敵意を突き刺すでもなく、一行と彩りの騎士達の健闘を称えながら爽やかに笑っていた。敵対勢力の一員でありながら戦意が削がれるような穏和な物腰であり、一行は呆気に取られていた。
「貴方が…ラスト…」
「はい。御初に御目にかかります。ディアボロ7人衆の1人、ラストと申します。以後、お見知り置きを」
「はあ…なんや礼儀正しい兄ちゃんやなぁ…敵とは思えへんわ…」
「本当ですわね。ああ…なんて素敵な人♪」
「アミィ、リーベ、油断するな。あんな人畜無害な顔をしているが、奴も魔族七英雄の配下だぞ」
「ええ、その通り。貴女方は僕の…そして、我が主君の敵です。お出でください…我が主君、ベガ様!」
「何…!?リール…!」
ラストの呼びかけに応え、牢に囚われていたリールが姿を現した。しかし、それまで見せていた穏やかな表情は跡形もなく消えており、赤黒く渦巻いた憤りに染まり、怒気に満ちていた。更にその身体には禍々しい黒紫の波動を纏っており、一行を戦慄させた。
「モニカさん…マリー…貴女達が傷付け合うなんて嫌だって、あれほど言ったのに…!!」
「リールさん…すみません…私達も不本意でしたが、互いに譲れぬ以上、やむを得なかったのです──」
「言い訳なんて聞きたくない!僕は…僕は…ウウアアアァァァッ!!」
「リール様!?どうなさったのですか!?ラナン、すぐに治癒術を──」
「凄まじい邪気だわ…これはまさか…!!」
黒紫の波動が辺り一面に広がり、謁見の間を魔の影に染める。モニカ達を導いてくれた心優しき友の正体はノワール帝国にて相対した薔薇の貴公子──魔族七英雄の1人であるベガだった。
「フフフ…さあ、私の花園を彩ってくれたまえ。美しい我が姫君達よ…」
「そうだよ。君達はベガ様の仰せのままに、ベガ様に──僕に遣えているんだよ…」
「リール様が…ベガ様だったなんて…ああ…身に余る幸せ…」
「ベガ様…気高く美しい我が主君、ベガ様…」
「ラスト様…私達を優しく包み込んでくださるラスト様…」
「ミュゲちゃん!ミモザさん!サルビアさん!どうしたの!?変だよ!」
「カタリナの言う通りッス。何か様子がおかしいッス!」
テラコッタ・ソシアルナイツ全員の瞳から光が消える。彩りの騎士達は憑かれたような様子で次々にベガとラストの傍らに集まる。魔の夢想に微睡んだ瞳で寄り添うテラコッタ・ソシアルナイツの姿は主人に甘える愛玩動物のようだ。
「フフフ…これで良い。彼女達は私の花園とラストの花園に咲く薔薇なのだよ。いずれは君達も御招待しよう…」
「さて、僕達は失礼致しましょうか。ローザ、あとは任せたよ」
「は〜い!もう、アタシの部下達をみんな虜にしちゃうなんて、2人して罪作りな男なんだから♪」
「待ちな!あんた達、いったいどうして──」
ベガとラストは花弁に包まれながら去っていった。彼らと共に魔の薔薇の虜になったテラコッタ・ソシアルナイツの姿も消えていた。瞬く間の出来事に一行は戸惑うが、それに浸る暇も無かった。
「オ〜ッホッホッホ!さ〜て、ベガ様とラスト様に頂いた魔術書でアンタ達を地獄に堕としてあげるわ!覚悟しなさい♪」
「…魔族七英雄…ディアボロ7人衆…」
「モニカ、1人じゃないだろ?俺達が着いてる。やってやるぜ!」
高見の見物を決め込んでいたローザ自身が直々にモニカ達に牙を剥く。モニカは新たな脅威の存在に迷いながらも、目の前の脅威に仲間達と手を取り合って立ち向かっていった。
To Be Continued…




