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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter5:彩りの義勇軍篇
72/330

第72話『彩りの騎士』

シリーズ第72話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

薔薇の貴公子ベガの策謀が潜むブルーノ国に到着し、穏やかに一夜を明かした一行。次なる目的地であるガルセク渓谷が待ち構える山岳部を目指すべく、ブルーノの大地に広がるバーント平原へと歩み出そうとしていた。



「よっしゃ、今日も晴天!張り切ってガンガンいこうじゃん!」


「わ〜い!頑張ろ〜!」


「やれやれ、トリッシュとコレットは元気なこったねぇ…さて、出発しようか──」


「わわわっ!?馬の群れがこっちに迫って来るよ!」


「クレアちゃん、馬だけじゃないのである!騎士の方々が乗って来たのである!」



一行に向かって何人もの騎士達が馬に乗って駆けてきた。1人1人が違った色の鎧を身に纏っており、剣、槍、斧、弓、ライフル、棍棒と様々だが、数名ずつ揃いの武器を携えている。が、一行を歓迎している様子はなく、むしろ敵対するような態度を見せていた。一行に緊張が走る中、騎馬騎士団のリーダーと思われる金色の鎧を着た黒髪の女性騎士が高圧的な視線を投げ掛けながら馬を降り、剣を片手に一行に詰め寄る。続いて赤、マゼンタ、銀色、琥珀色、黄色、青、薄紫、緑、若草色、橙色、深紅、ミントグリーン、濃紫、水色、ピンク、キャンディピンク、コーヒー色…一行の中心を担う18人の紋様と同じ色の鎧を身に纏う騎士達が次々に押し寄せ、一行を取り囲んだ。



「貴様ら、このテラコッタ領で幅を利かせるとは、どういう了見だ?」


「…私達が何か?ただの旅の者ですが…」


「そんなの信じられたものではない。お前らが侵略者であることは明白だ」


「し、侵略者!?俺達はそんなことはしないよ!」


「またそんなこと言って!領主のローザ様が迷惑してるんだよね〜!マジ困るんだけど〜!」


「お待ちなさい!貴女達は何か思い違いをしています!この方々は断じて侵略者ではありません!」


「貴女は…バーミリオン騎士団のティファ様…まさか…」


「ええ、そういうことです。わかっていただけたなら共に──」



自分達と同じ“騎士”であるティファが一行の仲間として共にいる光景を見るや否や騎士達の表情が憤りに染まる。一行に向かい合う騎士達1人1人の怒りと敵意が赤黒く渦巻いていき、更に緊張を喚起する。一帯を支配する緊張に促され、モニカとヴィオが戦意を胸にティファの脇を固めた。



「貴女ともあろう方が…騎士の誇りを棄てたのですか!?」


「ティファ様を騙すなんて…どれだけ卑劣な奴らなの!?騎士の力、思い知りなさい!」


「そ、そんな…どうして!?…モニカ、ヴィオ!?待って、剣を収めて!」


「ティファ、不本意ですが、やむを得ません。戦いましょう!」


「ああ、人心掌握に長けた何者かが裏に潜んでいるのかもしれないな。話し合いが出来ぬ以上、強行手段しかないだろう」


「……我が騎士団の祖バーミリオン将軍、お許しください……覚悟!騎士として我が前に立つならば、武器を構えなさい!!」


「ティファ様…まさか貴女と刃を交えようとは…」


「道を違えたなら、もう迷う必要はないわ。騎士の誇りに賭けて戦うのみ!」


『テラコッタ・ソシアルナイツ、いざ参る!』



ティファは志を同じくすべき騎士と刃を交えることへの迷いを無理矢理に断ち切り、勇んで一行の先頭に立つ。皆も武器を構え、馬を駆って迫り来る騎士の一団を迎え撃つ。騎士達と共に鍛えられた愛馬達は逞しい体躯をしており、荒々しく地を蹴って駆け回る。これまでとは一味違う敵に一行は苦戦を強いられていった。



「オラァ!」


「グッ…馬が速すぎッス!反撃出来ないッス!」


「せぇいや!」


「うおっ!さすがは騎士、よく稽古しとるわい…」


「強敵ですわね…彼女達を攻撃するにはまず馬をどうにかしないと…何か策があれば──」


「私に任せて!大抵の動物は火に弱いから、私の力で馬をビビらせてやるよ!…ファイアボール!!」


「うわっ!?負けないで、頑張ってよ〜…」


「クソッ、なんて奴だ!前に出られない…」



エレンが先陣を切り、赤々と燃える炎を敵陣に放つ。騎士達の相棒である馬達は灼熱の焔に臆し、それまでの疾駆が嘘のようにその場に留まった。炎の壁はゆっくりと燃え広がり、騎士達の眼前を紅く染めた。



「クッ…!近付けん…!」


「マリー様、アタシら銃騎士隊に任せな!アタシらならバーント平原全部丸ごと射程距離だよ!」


「私達弓騎士隊も忘れてもらっては困るわね。誰1人として逃がさないわ!」


『全軍掃射!!』



薄紫とミントグリーンの騎士が仲間を従えて前に躍り出る。距離を取られ劣勢かと思われたが、弓と銃で遠距離攻撃を担う編隊の猛襲に切り替わり、一行に息着く暇も与えない。薄紫、銀色、水色の騎士が銃を、ミントグリーン、緑、若草色の騎士が弓を巧みに操り、離れている一行に抵抗する。



「キャッ!リタお姉様、どうしましょう!?」


「リーベ、慌てるなよ。銃なら俺だって負けないぜ?シャドウバレット!」


「あたしだって頑張るよ!メタルスピナー!」


「ウィンドカッター!」


「コスモレーザー!」



リタ、クレア、フェリーナ、アンジュが武器を構え、彩りの力を振るう。世界の平和を脅かす魔族や人々の平穏な生活を壊していくならず者達との戦いを重ね、培われた経験が揺るぎない自信となって1発1発に込められた。騎士達は彩りの一矢に押され、後退りを強いられていった。



「チッ!なんて奴らだ!頭数はこっちが勝ってるのに…!!」


「ふぇぇ〜強い〜…マリー様、どうしましょう!?」


「…仕方ない、全員下馬!!」



業を煮やしたマリーの号令を受け、馬を降りて武器と盾を手に挑みかかる。騎士達を率いてマリーの左手には彩りの力の印──山吹色の彩りが煌めいていた。



「見るッス!キャプテンの左手…!」


「祝福の証だと!?まさかあの騎士に──」


「せぇいやぁぁッ!!」


「そんな!?エレン姐さんの炎が一瞬で吹き飛ぶなんて…!」



燃え盛る力が弱まっていた炎を金色の騎士マリーが剣の一振りで一瞬にしてかき消し、一行に向かって押し寄せるような行軍を始めた。焦りを見せることなく即座に隊列を整える様相は騎士としての並々ならぬ鍛練の賜物であることは容易に想像出来る。一糸乱れぬ統制の取れた動きで隊列が整わない一行に迫い詰める──百戦錬磨の強者は簡単には勝ちを譲らない──



「みなさん、待ってください!わたくしが今、陣形を…!」


「今だ、敵陣をバラしてブチのめす!」


「危ない!ルーシーさん──」


「クッ…間に合いました!」


「陣形を組む前に押し切ろうなんて、騎士道に反した振る舞いじゃないの?騎馬騎士ってアタシら海賊よりも小賢しいんだね!」


「ケイト、ロビン!」


「フン、邪魔しようったってそうはいかないわよ!」


「多勢に無勢だ…だが、正義は我らテラコッタ・ソシアルナイツにある!」



ケイト、ロビン、ティファ、アンジュ、エリス、イレーヌが前線に飛び出し、騎士達の猛攻を受け止める。ティファの全身からは道を違えた者達への敵愾心──そして、同じ“騎士”と対峙することへの拭いきれぬ憂いが溢れ出ていた。



「ルーシー、慌てないで。隊列は貴女に任せるわ!」


「今は僕達が引き付ける。落ち着いて体勢を立て直すんだ!」


「なかなか手強いけど…こちらも青国空軍の誇りに賭けて、負けられない!」


「私には…貴女達には譲れない“騎士の誇り”がある!」


「ティファ様…貴女は…」


「私は…騎士として、己の正義に背くことは出来ない。ならばせめて、迷い無き心を以て貴女達を討つ!その覚悟は…もう…出来ています!!」


「フフッ…それでこそバーミリオン騎士団長、ティファ・シュヴァリエ…我が手で屠るに相応しい…」


「ランディニ、抜け駆けするなよ?ティファ様ほどの手練れと本気で戦える機会なんてそうは無いだろう?」


「そうだよ〜♪ティファ様と本気で…命懸けで!殺り合えるんだよ!キャハハハ!」


「ハハハ!パンジーは相手がティファ様だろうがブレないねぇ!挑み甲斐があるのは間違いないけどさ!」


「…私も戦う。あの方のため…」


(そんな…領主に仕える宮廷騎士達を虜にするなんて…裏に誰がいるというの!?)



騎士と戦うことへの迷いを刃を交えて対峙することでようやく断ち切れるかどうかという状況のティファに対し、テラコッタの騎士達はティファとの対峙を嬉々として迎えている。“人心掌握に長けた何者か”──脳裏に刻まれたヴィオの言葉がティファの心を澱ませ、自らの意思で断ち切ったはずの迷いが次々に沸き上がってくる。心の揺らぎは隙となり、宮廷騎士に不意討ちを許してしまった。



「隙ありッ!!」


「アカン!ティファ姉ちゃん!!」


「クッ…不覚…!」


「やったぞ!ティファ様を討ったぞ!ハハハハ!」


「ガーベラ、やるじゃないか!我らの正義の勝利だ!!」


「ぶ〜ぶ〜!パンジーが殺りたかったのに〜!」



ティファは心の揺らぎを突かれ、地に膝をつく。義のために戦う高貴なる騎士としてこの上ない屈辱にまみれた悔しさを抑えながらも立ち上がり、皆の盾として戦い続ける。仲間として共に歩むモニカ達一行もティファを気遣いながら挑みかかる騎士達を迎え撃った。



「ティファ、大丈夫?…ファーストエイド!」


「カタリナ、ありがとう…」


「うん…無理しないでね…フロストザッパー!」


「バグズバンプス!」


「グラッサージュ!」


「クッ、なんとも奇妙な術を使う奴らだ…まさかこれは悪魔の力…!?」


「そうに違いないわ……私達の正義で討たねば!我らが領主ローザ様のために!」


「クソッ、すごい勢いだ…ん?これは傷薬…?」


「ヴィオ!しっかりしなよ!あんたの腕が無きゃ、コイツらは倒せない…頼りにしているんだからね!」


「ビクトリア…すまない、借りが出来たな…」



仲間達がいくらかモニカ達と武器を交えるのを見届けると、マリーが意気揚々と剣を掲げる。色とりどりの鎧に身を包む騎士達はそれまで激しく振るっていた攻撃の手を止め、視線をマリーの剣の一点に集中させた。



「今日はここまでだ。全員退け!」


「え〜っ!?もっとティファ様と殺り合いたいのに〜!物足りな〜い!」


「パンジー!マリー様の指令は絶対だよ!帰るんだよ!」


「お待ちなさい!貴女方は…どうして…!?」



騎馬騎士達は決着を預けるような形で去っていった。馬に乗り、眼前に近付いていたバーント平原を駆けていく騎馬騎士達の後ろ姿をティファは虚ろな眼差しで見つめていた。不本意なまま強いられた戦いにティファの心は澱み、濁っていた。万全を期してバーント平原へと踏み出すべく一行は来た道を引き返し、今一度宿に戻ることとなった。




To Be Continued…

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