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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter4:邪教戦士篇前編
69/330

第69話『断ち切る勇気、踏み出す意思』

シリーズ第69話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

スプルース国の山中にてメリッサとヴァネッサ──瓜二つの手斧姉妹と手合わせし、それぞれの個性を見出だす助力となった一行。ミリアムの寄宿舎にまたまた舞い戻ることになったが、仕切り直しで再度国境を目指す。



「よし、次の目的地ブルーノ国を目指して進みましょう!」


「やれやれ、随分寄り道してしまったのう…張り切っていくぞい!」


「は〜い!わたしも頑張るね♪早く行こうよ〜!」


「コレット、元気なのはいいけど、気を付けてね〜!スカートを枝に引っ掛けないでね〜!」


「カタリナ、あんたお母さんみたいだねぇ…まあ、料理上手だし、板に着いてるかもね!」


「ウフフッ、そうですわね。さあ、あたくし達も参りましょう。この彩りが指し示すままに…」



スプルースの緑に包まれた雄大な山々は優しく一行を出迎える。幸い天候にも恵まれ、頭上には爽やかな青空が広がっている。青空のように晴れやかな心持ちで旅路を歩んでいった。



「よし、ここからうさぎ跳びで500メートル!!」


「アイラ、すご〜い!あたしも負けないんだから!」


「クレアちゃん、怪我しないでくださいね…アンジュさん、国境はもう少しでしょうか?」


「いや、国境まではまだかかりそうだね…この先の平地に出たらそこを野営地にしようか?」


「そうだ!私達が住んでる場所が近くにあるから、そこに立ち寄って──」


(ええっ!?マジで行くの!?みんなを連れてくのはちょっと…)


(どの道行かなきゃダメじゃない!それに私達のことをちゃんと知ってもらわないと…)



メリッサとヴァネッサは決まりが悪い様子でひそひそと小声で話している。あまりに不自然極まりない様相に全員の頭に疑問符が浮かび、リデルが先陣を切って尋ねた。



「あ、あの…どこに行けばいいのですか…?」


「あ…だ、大丈夫!私達に着いてきて!」


「こっち、こっちだよ!皆さまご案内〜♪」



2人に連れられ、奥に進むにつれて緑が次第に少なくなっていく。荒れた山道を進んでいくと藁葺き屋根の住居が建ち並ぶ小さな集落が現れた。一行が通された一番大きな建家の中では屈強な男達が獣肉を食い、白昼から酒を酌み交わしている。連れられた集落は荒くれである山賊の巣窟だった。



「なんだなんだ、姉妹揃ってどこ行ってたんだ〜?心配したぞ〜」


「メリッサ、ヴァネッサ!?お前らその格好どうしたんだよ!?」


「ワハハハ!都会に目覚めたか?大学デビューでもしたのか?ギャハハハ!」


「メリッサ、ヴァネッサ…アンタ達、山賊だったの?」


「…はい、実は…」


「ごめんなさい…隠すつもりはなかったんだけど…」


「…アンタ達ッ!!」


(アカン、エレン姉ちゃんが怒ってまう!)


(なんかヤバい空気じゃん…また激しいビートで怒り狂うんじゃないの…?)



エレンの表情と声が怒気を帯び、一行がざわつき始める。辺りの不穏な空気を察して酔いも醒めたのか、山賊の男が落ち着いた様相でエレンの前に歩み寄り、宥めるような口調で語りかけてきた。



「赤い髪の姉ちゃん、先入観だけで誤解してもらっちゃ困るなぁ。今では略奪の仕事なんてほとんどやってねぇよ」


「…そうなの…?」


「ああ、最近は魔物退治が主な仕事だな。人様に迷惑かけて生きられるご時世じゃないんだよ」


「……」


「まあ、姉ちゃんのお怒りもごもっともだ。確かにご想像通りの仕事は少なからずやってきたし、いくら魔物を退治したって俺達がやってきたことが清算されるわけじゃない。だからこうして人里離れて暮らしてるってわけだ」



エレンは言葉を失い、燃え始めていた怒りの炎も一気に鎮まった。意気消沈し、暫し俯いていたエレンが気付くと彼女の周りには共に旅路を歩む仲間達が集まり、大きな輪を作っていた。



「エレン、つまりはそういうことだ。私だって賊紛いの汚れ仕事を数多してきたが、こうしてこの一団の1人として戦っている。それは不満か?」


「手を取り合う気持ちがあれば、きっと分かり合えます。エレンお姉様、手を取り合って、前を向いて歩みましょう!」


「ヴィオ、リーベ…ごめんね。私、賊にはすごく辛い思い出があってさ。ついキツく当たっちゃうんだ…この人達を恨むのは筋違いだってわかってるつもりだけど…」


「そうだったの…海賊や蛮族に怒りを燃やしていたのはエレンの心の傷が原因だったのね…」


「うん…実は昔──」


「いや、詳しくは言わなくていいぜ。エレンにとっては思い出すのも嫌なことなんだろ?俺は傷を抉るような真似はしたくないぜ」


「まあ、せっかく来てくれたんだ。居心地が悪いかもしれねぇが、ゆっくりしていってくれや。メリッサ、ヴァネッサ、お前らが使ってる家に案内してやれ。女同士の方が安心だろ」


「は、はい。じゃあ、みんな着いてきて!」


「エレン…貴女は…」


「モニカ、私なら大丈夫だよ。昔のことだから…うん…」



山賊達は精一杯の誠意をもって客人である一行をもてなす。が、エレンにとって賊の集落は座りが悪いのか、不安と苛立ちが胸の内に黒い渦を巻き、ザワザワとして落ち着かない。夕食を終えた後、皆の輪から離れ、夜の闇に1人で佇んでいた。



「……」


「エレン姐さん!」


「ロビン…みんなも…」



聞き覚えのある幼げな声に振り返る。声の主であるロビンだけでなく、ルーヴ、メリッサ、ヴァネッサが心配した様子でエレンを見つめていた。



「あの…エレンさん、ごめんなさい…」


「私達のせいで辛いことを思い出させちゃって…連れてくるべきじゃなかったのかもしれないね…」


「ううん…知らなかったんだから、しょうがないよ。でも、すごく怖かったから…簡単に割り切れなくて…」



深い傷になった黒き思い出が心から際限なく溢れ出る。気丈に振る舞おうとすればするほど不安が胸に充ち満ちていく──エレンの瞳には拭い切れぬ恐怖が影を落としていた。



「そっか…アタシを叩きのめしたのはコレットちゃんにイタズラしたことへの怒りだけじゃなかったんだね…」


「うん、いずれモニカ達にも話すつもりだったけど、先にアンタ達に話しておくよ。実はね──」



──数年前──



『よ〜し、もうすぐパン工場に到着するぞ!荷降ろしの準備をしといてくれ!』


『今年は活きの良い小麦が採れたから、美味しいパンが出来るね!お腹空いた〜』


『ハハハ、エレンは食いしん坊だなぁ。まあ、年をとると食えなくなってくるから、若いうちはしっかり食べて──』


『オラァ!止まれ!命が惜しければ荷物を寄越せ!』



賊達が輸送車に押しかけ、小麦を略奪しようと襲いかかる。エレンは己に課された使命を全うすべく警棒を構え、果敢に賊に挑みかかっていった。



『ぐわぁっ!この女、強い!』


『好き勝手させないよ!アンタ達なんかに負けないんだから──』


『嬢ちゃん、元気なのは結構だが、俺達の仕事中はちょっとおとなしくしててもらうぜ〜?』


『離して!離してよ!…モガモガッ!』


『しまった!エレン!』



賊に隙を突かれ、人質にとられてしまう。縄で縛られ、猿轡を噛まされ、武器も奪われては抵抗する術がない。エレンは反撃することはおろか声を出すことさえも許されず、賊達の前で恐怖に震えていた。



『コイツは上玉の女だ。高く売れるぞ』


『待て、売るなんて勿体ねぇ。俺達の奴隷としてたっぷり働いてもらおう』


『それも良いな。さ〜て、何をしてもらおうか…ヒヒヒヒ──』


『警察だ!賊ども、投降しろ!』


『チッ、捕まっちゃ水の泡だ!女は惜しいが、ずらかるぜ!』



賊達は脱兎の如く逃げ去っていった。駆け付けた武装警官によって救出され、エレンは事無きを得たが、小麦の入った箱がいくつか無くなっていた。賊の脅威に屈し、何も出来なかった──賊によって植え付けられた恐怖と自分の不甲斐なさに声をあげて泣いた──



「…というわけ。それ以来賊って聞くと必要以上に感情が昂っちゃうんだよね…」



4人の賊達はエレンの体験談に身につまされる想いで耳を傾けていた。自身の脅威で人々に恐怖を植え付けて屈服させていた体験が4人の脳裏に鮮明に浮かび上がり、エレンの心の傷に対する後ろめたさを一気に駆り立てた。



「…そんなことが…」


「その体験が賊への怒りと恐怖心に変わった、か…そりゃ無理もないね」


「エレンさん、無理に私達を信じなくて構わないわ。だけど、私達にはエレンさんを信じさせて!」


「山賊だって内緒にしていてごめんなさい。こんなことを言うのも申し訳ないくらいだけど…私はエレンさんの力になりたいよ!」


「みんな…ありがとう。私は一緒に戦う仲間達みんなを信じる。ロビン、ルーヴ、メリッサ、ヴァネッサ…アンタ達を…信じるからね!」



エレンの赤い紋様が夜の闇に鮮やかに煌めく。エレンを慕い取り巻く4人が嘗て恐怖をもたらし、怒りの火種となる存在たる賊であることは天の気まぐれか、或いは定められた因果か──エレンは勇気を振り絞り、賊達を信じる道を歩み始めた。




翌朝、何やら集落が慌ただしい。エリスが指示を出す合間にいた賊長に声をかけるが、賊長の表情にも隠しきれぬ焦燥が滲み出ていた。



「賊長さん、何かあったのかしら?」


「集落に魔物が迫ってるみたいだ。俺達でなんとかするから、嬢ちゃん達は待っていてくれ」


「それなら加勢するのである。私達と一緒に戦うのである!」


「えっ?それはそれで有り難いが…ホントにいいのかい?」


「もちろんッス!魔物に正義の拳を叩き込んでやるッス〜!」


「そうそう、この人達は私達より強いんだから!絶対大丈夫だよ!」


「うん、実力は折り紙付きだよ。賊長、私からもお願い!」


「そうか、そこまで言うならお手並み拝見だ。嬢ちゃん達、頼むぞ!!」


「はい。では、わたくしが指揮を執らせていただきますわ。共に参りましょう!」


「水色の嬢ちゃんが軍師さんか!よ〜し、みんな!水色の嬢ちゃんの指示に従え!!」



一行は山賊と結託して魔物の群れを迎え撃つ。程無く狼のような姿の魔物が黒紫の塊になって集落に迫って来る。ルーシーが軍師として皆の先頭に立ち、堂々たる様相で指揮を執った。



「わたくし達は全軍総攻撃!山賊の皆さんは集落の防衛をお願い致します!」


「おう、後ろは任せろ!嬢ちゃん達、安心して暴れてくれ!!」



片や彩りの力を振るう華やかな少女達、此方山賊の屈強な男達──対比的な群衆が魔物に立ち向かい、共闘する情景は壮観だ。彩りの戦士達は山賊達の逞しい守りを背に魔物に立ち向かっていく。



「ダークスフィア!」


「スライディングキック!」


「ブライトエッジ!…あっ、エレン…!」



エレンが先陣を切り、赤き彩りの力を解き放つ。恐怖を断ち切るべく、新たな1歩を踏み出すべく、魔物の群れに飛び込んでいった。



「この一撃、アンタ達に頼むよ…力を貸して!」


「…エレン姐さん!」


「熱いねぇ…ま、そういうの嫌いじゃないよ」


「左手が…!?力が沸いてくる…!!」


「私も…なんか燃えてきた!!」



エレンの赤、ロビンの無色透明、ルーヴのフォレストグリーン──更にメリッサのクロムグリーン、ヴァネッサのクロムイエローが覚醒する。5人が携える刃が赤き炎を帯び、魔物達の脅威となっていった。



『荒れ狂う灼熱の猛り!豪火爆炎斬!!』



魔物達は灼熱の焔に焼かれ、一斉に灰塵と化した。一行と山賊達が共に勝鬨をあげる中、エレンは恐怖した過去を断ち切り、新たな1歩を踏み出せたことを確信していた。それもそのはず、エレンと力を合わせて魔を討ち、喜びを分かち合う4人はかつて恐怖していたはずの賊達だった。




To Be Continued…

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