第68話『双斧の姉妹』
シリーズ第68話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!!
スプルース国郊外の村を襲う蛮族をエレンの怒りの炎で退けた一行。揺るぎない正義と彩りの力を以て立ち向かった戦果を村長に報告していた。
「蛮族を懲らしめていただき、ありがとうございました。これで安心して生活が出来ます」
「恐れ入ります。私達一同、この村の平穏を願っています」
「ほんの少しですが、私どもの畑の野菜をお納めください。スプルースの豊かな土地で育ったので栄養満点です。きっと皆様の活力となるでしょう」
「村長さん、ありがとう!よ〜し、張り切っていくよ!」
「…エレンさん…」
「リデルちゃん、人間の喜怒哀楽は想像以上に奥深いものなのである。しかし、あれほどとは末恐ろしいのである…」
「全くだ。烈火の如くキレていた…エレンには逆らえんな…」
「ほらほら、ぼんやりしてたら置いてくよ!今日も頑張ろう!」
また新たな武功を立てた一行はスプルース国の国境を目指して村から山間部へと進む。山々は緑に囲まれており、穏やかな空気が流れている。クレアが先頭に躍り出て軽やかなスキップで先へ先へと歩を進めていった。
「気持ち良い〜!ハイキングにはピッタリだね♪」
「クレアちゃんは山に来ると生き生きしてるわね。スプルースの大自然を全身で感じてもらえて嬉しいわ!」
「この坂道の傾斜、トレーニングにもピッタリ!ランニングで鍛えるぞ〜!」
「おお!アイラ、燃えてるッスね!一緒に鍛練するッス〜!」
「元気な奴がまた1人増えたのう!さあ、ワシらも張り切って──」
『そこの斧を持った赤い髪の貴女!!』
「わ…私?アンタ達、何の用なの…?」
「妖艶な花、メリッサ!」
「可憐な花、ヴァネッサ!」
『いざ、尋常に勝負!!』
エレンに挑まんとして手斧を携えた2人が現れる。が、一卵性の双子と思われるその容貌は瓜二つで全く区別がつかない。顔立ちに始まり、肩辺りまで伸びた茶色の髪、果ては服装に至るまで全く相違点が見当たらない。一卵性の双子とは言え判別に困る様相に一行は戸惑いを禁じ得なかった。
「…すみません、どちらがどなたでしょうか…?」
「はあ!?美人な方がメリッサって一目瞭然でしょ!?」
「そうそう!可愛い方がヴァネッサって見ればすぐわかるじゃない!」
「全然わからんッス…頭がこんがらがってきたッス…」
「まあ、勝負するっていうなら受けて立つよ!私の妹分2人に勝てたらって条件付きだけどね!」
エレンは蛮族の角笛を吹き鳴らし、ルーヴを呼び出した。エレンからの目配せを受けたロビンも前に躍り出て臨戦態勢──2人が武器を構え、挑戦を受けるお膳立てが整うと、周囲は俄に緊張感が充ち満ちてきた。
「ロビン、ルーヴ、頼んだよ!」
「はいッ!エレン姐さん、見ててください!ルーヴさん、よろしくお願いします!」
「はいよ。アタシも蛮族の誇りにかけて負けられないね!」
『我ら姉妹の斧を受けよ!覚悟!!』
『よっしゃ!賊ナメんなよ!!』
エレンの妹分であるロビンとルーヴの2人が賊仕込みの熱血かつ野性的な戦いを見せる。山中で突如として挑みかかってきた手斧姉妹2人を彩りの力で迎え撃つ。対する手斧姉妹──メリッサとヴァネッサも揃いの手斧を手に、荒々しく食らい付いていった。
「オラァ!くらえぃ!」
「クッ!ま、負けるもんか──」
「うわわっ!?剣が後から!?」
「曲刀は斬るだけじゃないよ〜?投擲にもご注意を♪」
「ロビン、サンキュー!さあ、ブッ飛ばしてやるよ!」
ロビンとルーヴも即席とは思えない見事な連係を見せる。共にエレンの逆鱗に触れ、悪事を働く賊から心を入れ換えた2人は真摯な気持ちを以て戦いに挑み、惜しみ無く彩りの力を振るった。ロビンの無色透明とルーヴのフォレストグリーン──それぞれの彩りが左手に煌めいていた。
「勝たせてもらうよ!ミラースラッシャー!」
「喰らいな!ワイルドファング!!」
「ふぎゃああ〜!」
「参りました〜ッ!!」
メリッサとヴァネッサは彩りの力に屈し、仰向けに倒れ込んだ。ロビンとルーヴはかつて賊だったことを思わせる好戦的な一面が垣間見える得意気な表情で勝ち誇ってみせた。
「フフ〜ン♪ダテに7つの海を渡ってないよ!」
「ハッ、蛮族ナメんじゃないよ!さっさとお家に帰って寝てな!」
「ロビン、ルーヴ!やるじゃない!」
「うう…強い…勝てると思ったのに…」
「わたし達姉妹の連係が及ばないなんて…あ、あれ…?」
手斧姉妹の体が優しいピンクの光に包まれ、傷が癒えていく。治癒術を使ったのはカタリナだった。楽しげな様子で前に歩み出るとポカンとした2人に優しく呼び掛けた。
「ねえ、姉妹の連係なら私達姉妹とも勝負しない?負けないよ♪」
「いいね姉貴!姉妹の絆対決といこうか!」
「むむ…それなら勝てるかも!私達の絆は強いんだからね!」
「フッ、言ったな?この2人の絆の力はお前達の想像を凌駕している…その身をもって味わうことだな」
「それなら相手に不足無し!いざ勝負だよ!」
手斧姉妹の2人を迎え撃つ一行は選手交替──トリッシュとカタリナが武器を携えて向かい合う。互いに息の合った連係を見せていくが、メリッサとヴァネッサは息つく間も与えない波状攻撃をハイテンポで仕掛けてきた。
「そぉれ、くらえ!」
「クッ…姉貴に手ぇ出すな!」
「せぇやぁ!はあッ!」
「トリッシュ、無理しないで…ファーストエイド!」
「なんと!?回復とかズルい!」
「メリッサ、慌てないで!とにかくガンガン攻めまくろう!」
押しの一手で攻め立てる手斧姉妹に対し、トリッシュとカタリナは互いに労り、庇い、助け合っていく。生を受けた日から愛し合い、想い合いながら旅路を歩んできた。今までもこれからも変わらない2人の道を戦いの舞台で彩りの力を振るい、体現していく。
「トリッシュ、久しぶりにあの術使おう!…愛してるよ♪」
「オッケー!ボルテージMAXでいこうじゃん!…愛してるよ!」
トリッシュの黄色とカタリナの青──2人の彩りが碧色の魔方陣を紡ぎ出す。魔族七英雄の青き魔女アルニラムを討った絆の美技を魅せつけていった。
『彩り重なるは碧色の愛!アイシクルブースター!!』
「ぎゃああぁぁッ!!」
「そんなあぁ〜ッ!!」
稲光と氷柱が碧色の閃光を帯びて炸裂する。トリッシュとカタリナが互いを愛しく想い合う気持ちを具現した力に吹き飛ばされ、メリッサとヴァネッサは先程と同じように仰向けに倒れ込み、それを尻目にトリッシュとカタリナは熱く抱き合いながら互いの愛を確かめ合っていた。
「強い…さっきのお2人より強い…」
「うう…ホントに予想以上の連係だったね…イタタ…」
「姉貴…」
「トリッシュ…」
「なんじゃなんじゃ…随分と派手にやったもんじゃのう…」
「で、例によって2人は抱き合ってると…お決まりパターンだぜ…」
「あ、アツアツだ…なんて羨ましい…」
「ルーヴ、それじゃわたしとぎゅってしよう!ぎゅ〜っ♪」
「はうっ!?ああ…コレットちゃん…アタシ、幸せ…」
「ルーヴさん、コレットちゃんも合意の上ですけど、エレン姐さんに怒られない程度でお願いします…」
「ねえ…あたし、お腹空いちゃった〜…そろそろお昼にしようよ!」
「今日の料理当番は私ですね。では、頂いたお野菜でお食事にしましょう」
「お2人もご一緒にいかが?あたくし達は大歓迎ですわよ♪」
「えっ、いいんですか?メリッサ、どうする?」
「うん、せっかくだし、ご一緒させてもらおう!私も手合わせでお腹空いちゃった!」
ネイシアが貰ったばかりの野菜を丁寧に調理していき、昼食の野菜のサンドイッチとサラダを手際良く完成させる。メリッサとヴァネッサも昼食の席を共にし、山の緑に囲まれながらの穏やかなランチタイムを満喫した。
「美味しい!お昼までご馳走になっちゃってすみません…」
「それにしても、みんな、強いのね。こんな大勢で何の一団なの?傭兵か何か?」
「私達は魔族討伐の旅をしているのです。この祝福の証の彩りのもとに」
2人の瞳がモニカの左手に彩られた金色の印を視野に捉える。それに合わせるように皆が左手に在るそれぞれの紋様を見せると2人は彩りの力との邂逅に目を輝かせた。
「おお…すごい!平和と希望のために戦う正義の味方って感じでカッコいい!」
「そうだね、わたし達も協力したい!仲間になりたいなぁ…」
「う〜ん、そのお気持ちはありがたいですけど…どちらがどちらか区別出来ないとわたくし達も少し困ってしまいますわ…」
「そっか…やっぱりわかんないよね…ハァ…」
「実は私達、どっちがどっちかわからないって言われるのが悩みなんだ…もっとそれぞれ個性を持つべきなのかな…」
「そうね。でも、よく聞くと声色が少しだけ違うわ。とは言ってもそれだけでは戦闘中の判別は難しいわね…」
「それならお2人を私がキュートにデコレーションしますわ♪さあさあ、みんなで街へ行きましょ!」
「えっ!?ちょ、ちょっとリーベ姉ちゃん!ホンマかいな!?ここから街に戻るん、大変やで!?」
「やれやれ、また電車に乗るってのかい…忙しいこったねえ…」
リーベの唐突な提案により、一行は一旦都市部へと引き返す。リーベは2人をファンシーな雰囲気の洋服店に連れ込み、双方の個性を引き出せる服装を身繕う。目を輝かせながら各々に似合う服を吟味していくリーベの姿は生き生きとしており、心身の躍動が有り有りと見てとれるが、待ちぼうけを喰らう羽目になった一行は長時間の移動と服選びの待ち時間で、表情に疲労の色を浮かべていた。
「さあ、お2人のコーディネートが完成ですわ!ちょっと髪型もアレンジしましたのよ♪」
「おお…だいぶ区別出来るようになったね。僕にはとても出来ない服装だなぁ…」
「すっご〜い!2人とも似合ってるよ!」
全く同じに見えていた2人が見違えるように個々の個性を表していった。ワインレッドと薄紫を基調とした服を着て髪に緩やかなウェーブをかけたメリッサとレモンイエローとパステルグリーンを基調とした服を着て髪を短いツインテールに結ったヴァネッサ──装いを新たにした2人は新たな個性が彩る自分達を嬉々として迎え入れた。
「リーベちゃん、ありがとう!これで間違えられないわ!」
「生まれ変わったような清々しい気分…ずっと2人で同じ格好をしてきたけど、こんなに変われるなんて…」
「ね、素敵でしょ?これが愛の力です♪」
「愛、か…リーベの言う理屈はよくわからないけど、とにかく2人が個性を見出だせて良かったぜ!」
「はい、たとえよく似ていても1つとして全く同じというものは無いのですね…私達の祝福の証の彩りのように…」
「そやな、モニカ姉ちゃん…って、もうこんな時間や〜!」
「仕方ないわね…また私達の寄宿舎に泊まりましょう」
結局、一行はまたまたミリアムの寄宿舎に転がり込んだ。リーベの助力で各々の個性を見出だした双斧の姉妹──メリッサとヴァネッサを加えた一行は再びスプルース国の国境へ向けて歩き出す…筈である。
To Be Continued…




