第67話『Viridity Barbarian』
シリーズ第67話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
スプルース国にてソフトボールの助っ人を引き受け、強豪チームを退けて見事優勝を勝ち取った一行。普段の戦いとは異なる勝利の余韻に浸りながら都市部から電車に乗って郊外に赴こうとしていた。
「みんな、ありがとう!一緒にソフトボールを出来てすごく楽しかったよ!」
「いえ、私達も貴重な経験が出来ました。感謝します」
「うん!えっと…私もスプルース国にいる間だけ、一緒に行ってもいい?助けてもらった恩返しがしたいな!」
「もちろん!あたしもアイラともっと一緒にいたいもん!」
「ありがとう!私も頑張るね!」
「よろしく、アイラ。さあ、出発しましょう!」
一行はアイラを加え、郊外の小さな村に辿り着く。見渡す限りに青々と広がる田園風景は一行の心を優しく和ませ、澄み切った空気が旅の疲れを癒していった。
「ふう…こりゃのどかやなぁ…」
「スプルース国の村々はこうして農業を生業としているところが多いの。地産地消の作物が大半だけど、規模の大きい畑なら都市部に出荷することもあるわ」
「わ〜い!緑が綺麗だね♪おじさん、こんにちは〜!」
「やあ、旅の方々、ようこそ参られました。畑以外に何もない村ですが、ゆっくり寛いでいってくだされ」
村の小さな民宿に通される。日が落ちた頃、穏やかな空気の中、夕食を口にしながらゆったりと流れる時間を過ごしていた。
「おばさん、ライスおかわり!!」
「アイラはよく食べるのう!それはいいことじゃい!」
「野菜も良いんだけど、あたいはやっぱり肉が食べたいねぇ…美味しいけど、ちょっと物足りないかな…」
「まあ、そう言うなって。俺はこういう食事もたまには──」
「ば、蛮族だ〜!蛮族が来たぞ〜!!」
村の穏やかな空気は乱暴に引き裂かれる。村人の悲鳴を聞き付けた一行が飛び出すと、片手に斧を携え、身体に毛皮を纏った荒くれ者の男達が村や畑を荒らし、金品や農作物を強奪していた。
「彼らが蛮族…斬ります!」
「君達!下がっていなさい!アイツらに挑むのは危険だ!」
「オラァ!やっちまうぞ!」
「おう!お前ら、金目のもん寄越しな!」
「ヘヘヘ、美味そうな野菜だな!ありがたくいただくぜ!」
「や、止めてくれ!野菜を取られちゃワシらは生活出来なくなってしまう!」
「そんなことは知らねぇな〜?俺達も食わなきゃ生きられな──うおっ!?」
蛮族の手元にダガーが投げ込まれ、斧を弾き飛ばす。ヴィオは敵意の刃を眼差しに込めて突き刺していた。
「…そうはさせない。私が相手だ!」
「チッ、邪魔が入ったか…逃げるぞ!!」
「ガルル…逃ガサナイ!」
「リンドさん!?夜間の単独行動は危険ですわ!」
「はぐれたら大変なのである。私達も追いかけるのである!」
蛮族を追跡すべく、リンドは仲間達の制止を振り切って森へと駆けていった。一行も続いて森へ向かうが、既に夜も深まっており、もし行方が分からなくなれば一大事だ。一行はリンドの身を案じ、森へと急いで駆けていく。が、到着するとリンドが森の入口で何をするでもなくぼんやりと佇んでいた。
「リンド!ケガはありませんか?」
「匂イ…シナクナッタ…」
「うん、辺りに気配も感じないわ。完全に振り切られてしまったわね…」
「森に隠れてしまったッスか…逃げ足の速い奴らッスね…」
「仕方無いわね。調査は明日に持ち越し、宿に戻って出直しましょう」
「そうだね、エリス。村で奴らの情報を集める時間も必要だ。今は無闇に動かない方が良いね」
翌日、一行も早朝から村の民家の修繕を手伝う。蛮族の襲撃によって外装も内装も酷く荒らされており、住民は溜め息混じりに作業を進めながらケイトに話しかけてきた。
「お嬢ちゃん達、手伝ってもらって悪いね。せっかく来てくれたのに、もてなすどころか手を煩わせてしまったね…」
「気にしないでください。私達に出来ることは手伝いますから」
「なあ、おじさん、アイツらは森の近くにいるってのかい?森まで追いかける途中で見失っちまったんだけど…」
「ああ、普段は森の奥にある隠れ里に潜んでるみたいだけど、ああやって忘れた頃に村を襲っていくんだ…好き放題やっていく蛮族どもにはほとほと困ってるんだよ…」
「それなら、私達が退治します!私達に任せてくだされば楽勝ですよ♪」
「姉貴の言う通りだ。あんな奴らアタシらが軽〜くノックアウトしてやるぜ!」
「いや、それは止めた方がいい。アイツらと関わるとロクなことがないよ?特に君達みたいな若い女の子なんて、格好の的だ」
「戦う乙女を舐めたらアカンで〜?ウチらに任せといてや!」
「ハハハ…その気持ちだけで十分さ。まあ、期待しないで待ってるよ」
蛮族の隠れ里があるという村外れの森に狙いを定める。各々行軍の準備を整え、民宿の前に集まっていた。
「私とカシブとリンドで先頭に立って探査するわ。魔物にも十分注意してね」
「うん、私達が保全する森と違って荒れ放題でしょうから、気を付けて進みましょう」
「ええ、悪は然るべき裁きを受けるべきですわ。あたくし達の絆の力、野蛮な者達に見せて差し上げましょう!」
かくして村を救うための行軍が始まった。森の中をゆっくりと歩を進めながら蛮族の隠れ里を探る。フェリーナ、リンド、カシブの3人による地道な策敵が続いた。
「クンクン…毛皮ノ匂イ…近付イテル…」
「うむ、恐らくこの辺りなのである。気を付けるのである…」
「風が流れてるわ…近くに森が開ける所がある…こっちだわ!」
皆がフェリーナに続くと突然視界が開け、人の姿と乱立する建物の影を捉える。そこに行き交う人々は間違いなく昨夜に村を襲った蛮族だった。
「な、なんだお前ら!?どうしてここがわかったんだ!?」
「嬢ちゃん達、道に迷ったのかい?すぐにおうちに帰ろうね〜♪」
「いや、待て!コイツらお得意様の村で邪魔した奴らだ!ブッ飛ばしてやるぞ!!」
「どうしたってんだ!騒がしいよ!!」
「お…親分!!」
蛮族達に怒鳴りながら現れたのは明るいブロンドの短髪に小麦色に日焼けした肌の親分と呼ばれる女性だった。胸元に深緑の布を巻いただけの上半身に毛皮を羽織り、所々に緑の迷彩ペイントを施している。鍛えられた筋肉質の身体で腹筋が割れており、明らかに筋骨隆々という力強そうな体躯をしていた。
「なんだ、客人か…このルーヴ様の隠れ里に無断で入ろうなんて、いい度胸じゃないか!」
「村を襲う悪事、許せません!どうか悔い改め、天に懺悔してください!」
「フン、そうはいかないさ!お望みなら、この力で丁重におもてなししてやるよ?」
ルーヴの左手にはフォレストグリーンの紋様が彩られていた。自分達と同じく彩りの戦士として覚醒させた力の印を見せつけられ、一行は愕然とする。
「祝福の証…僕達と同じ、彩りの戦士か…!」
「そうさ。あんたらにもあるんだろう?それなら互いに遠慮する必要は──」
「ふえっ!?わわっ!?」
コレットは急に躓き、ルーヴの目の前に転んだ。一触即発とばかりにその場に張り詰めていた緊張の糸が一気に切れ、モニカ達もルーヴ率いる蛮族達も呆気に取られ、緩みきった空気に呑まれていた。
「ふえぇ…転んじゃった…」
「な、なんだい…調子狂う奴だね…大丈夫かい?って…!!」
コレットを助け起こすや否や、呆れていたルーヴの眼の色が不意に変わる。コレットを頭の先から爪先まで、嘗め回すように見つめ、先程とは全く違う猫撫で声で囁いた。
「なあ…あんた、顔はガキだと思ってたけど…アタシ好みのいい身体してるじゃないか…アタシがたっぷり悦ばせてやるよ…」
「え…?え…?」
狼狽えるコレットを見つめるルーヴの眼差しは飢えた狼のように鈍く妖しく光っている。モニカ達は勿論、取り巻きの蛮族達も不穏な様相に変わっていった。
(ありゃ〜…親分、眼がマジだ…あの緑の娘、ヤバいんじゃないか…?)
(親分って女なのに女の子好きだもんな…親分、もしかしたらあの娘を──)
「よし、あとはあんた達に任せたよ!めいっぱい歓迎してやりな!」
「イヤッ!助けて!助けて〜ッ!」
「待つッス!コレットを返すッスよ!!」
「おっと、そうはいかないぜ?親分の邪魔はさせねぇよ!」
「仕方ありませんね…力ずくで通してもらいます!みんな、いきますよ!」
ルーヴはコレットを連れて里の奥へと逃げ去る。蛮族達は行く手を遮るように立ち塞がり、一行に容赦無く刃を向けた。
「オラオラァ!」
「クッ、すごい力じゃのう…さすがに押し負けそうじゃわい…」
「ステラさん、柔よく剛を制すですわ!わたくしに続いてくださいませ♪」
「おう!頼りにしとるぞい!」
「ええ、いきますわ!スプラッシュロンド!」
「うおわあっ!!」
ルーシーの指揮に合わせて戦いという名の旋律を整えていく。最初は後に控えていたアイラも勇気を振り絞り、“彩りの戦士”として力を振るった。
「スライディングキック!」
「ぐわあっ!!」
「覚悟なさい!ダークスフィア!」
「うわあぁぁッ!」
「よし、一通り片付いたな。先を急ぐぞ!」
コレットを救うべく、里の奥の大きな屋敷へと乗り込んでいく。入口から何人もの蛮族が控えており、次々に襲いかかって来た。
「コスモレーザー!」
「ディバインソード!」
「ミラースラッシャー!」
「ぐおぉッ!」
「ロビン、でかした!コレット、今助けに行くよ!」
「人の気配がするわ…恐らくあの部屋よ!」
ルーヴの部屋に到着した──が、その光景に一行は絶句する。ルーヴがコレットを寝床に押し倒しており、服の上から身体に触れていた。
「イヤだ…やめてよぉ…」
「フフ、嫌がってるの…?アタシをこんな気持ちにさせておいて…悪い娘だね……あ……」
「こ、これは…!うおおぉぉ…!!」
「な、な、な…なんてことを!テリーも鼻血出すな!」
「酷い!破廉恥ですわ!キャ〜〜ッ!!」
「…テリー、リタ、リーベ…退いて…」
エレンは黙って近付いていく。異様なほど静かな様相は間もなく訪れる嵐の時を予言するものであった。
「テメエ!何してくれとんじゃ!このケダモノがああぁぁッ!!」
「ひいいッ!?」
「うっ…め、目眩が…」
「トラウマってやつやな…ロビン姉ちゃん、しっかりしてや…」
激昂したエレンは怪力でルーヴを鷲掴みにし、何度も床に叩き付ける。最後は打ち付けた衝撃で宙に浮かばせ、怒りの炎を纏った斧の一振りで一閃した。
「消し炭になれこの野郎ぉぉぉぉッ!!」
「ひぎゃああぁぁッ!」
ルーヴは圧倒され、降参せざるを得なかった。エレンが凄まじい怒気を放つ中、ルーヴは涙ながらに土下座して許しを乞うていた。
「グスッ…ただコレットちゃんと…仲良くしたいって思って…出来心だったんです…ごめんなさ〜い!!」
「まったく…もう迷惑かけずに真面目に生きるんだよ!」
「はいッ!その約束の証に、これをエレン様に…」
「…これ、何?剥製の角みたいだけど…」
「蛮族の角笛です。それを吹いていただければ、私、どこへでも馳せ参じます!」
「そう…それなら有り難く頂いておくよ。ほら、コレットにも謝って!」
「コレットちゃん…ごめんなさい…」
「…ううん、いいよ。わたし、ルーヴと友達になりたいな!よろしくね!ぎゅ〜っ♪」
「ひゃっ!?コ、コレット、ちゃん…」
「ふえっ!?ルーヴ、しっかりして!」
「やれやれ…どうして躊躇い無く抱き着けるのかねぇ…」
「しかも無自覚か…余計にタチが悪いな…」
To Be Continued…




