第65話『夢色ボールパーク〜前編〜』
シリーズ第65話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
スプルース国の美しき緑を守る戦いに身を投じていた一行。アザレアの貴公子達や毒の戦士達も入り乱れる中、リデルの勇敢な一矢により森に巣食う魔物達を駆逐し、悪しき力に蝕まれていた緑を救うことに成功した。
「みんな、ありがとう。これで安心して森を守ることが出来るわ!」
「力になれて良かったぜ。ミリアム、元気でな!」
「いいえ、私もスプルース国にいる間はみんなに着いていくわ。旅は道連れ、っていうからね!」
「ワタシモ、一緒ニ行ク!」
ミリアムとリンドを迎え、一行はスプルース国の都市部へと踏み出していく。少し歩いていくと1人の少女がベンチに座って俯いていた。赤いキャップを被り、野球らしきユニフォームを着ている。モニカが声をかけようと近寄る間にも何度も溜め息を着いていた。
「あの…大丈夫ですか?何か困ったことがあるのですか?」
「すみません…実はソフトボールのメンバー募集しているんですけど…1週間後に大会なのに私1人しかいないんです…」
「むむっ、それはいかんッス!みんなで助けるッス〜!」
「賛成!あたしもソフトボールやってみたい!」
「スポーツで人助けってわけかい…まあ、悪くないかもね!あたいも賛成!」
「…正気か?私はソフトボールのルールすら知らんぞ?」
「大丈夫です。一度覚えてしまえば楽しくなりますよ!1週間もあればきっとなんとかなります!」
「でも、こんな大勢では多すぎませんか?試合に出られる人数にも限りがありますし…」
「ならば、ここはモニカ達に任せるのである。私達は私達で出来ることを手伝うのである!」
「う〜ん、ワタシも応援してる!がんばってね!」
「そっか…私を含めて20人くらいならちょうど良いかも!決まりだね!」
「はい、私はモニカ・リオーネと申します。御指導よろしくお願い致します!」
「ありがとう!私はアイラ。よろしくね!」
結局、一行の中軸を担うモニカ達18名が選手として参加することとなった。モニカ達はアイラの指導のもと、一行は朝から晩まで練習に打ち込んだ。結局ミリアムの寄宿舎にトンボ返りすることになり、慌ただしく時間は過ぎていった。
「うう…辛いです…」
「クッ…意外とキツいぜ…」
「リデル、リタ、これも鍛練です…頑張りましょう!」
「次はダッシュ100本!どんどんいくよ〜!」
「…何故、こんなことに…」
「なんだい?あんた程の名うての傭兵もソフトボールにゃお手上げってかい?根性見せてみな!」
「…臨むところだ」
3日後、素人同然だったモニカ達は猛練習とアイラの指導の甲斐もあり、基本的な動作を粗方体得した。戦いに備えた日々の鍛練の賜物か、練習の成果が少しずつ実を結んでいった。
「みなさん、飲み込みがすっごく早いです!これなら勝てるかもしれません!」
「アイラさんのご教示のおかげですわ。ソフトボールって楽しいんですのね♪」
「なあ、アイラ…俺、ずっと気になってたんだけど、お前の着ているユニフォーム、随分と着古してるな…」
「はい…このチームは町内会のチームで、元々私の父さんが監督だったんです。と言っても今は私1人だけなんですけどね」
「そんな…なんでアンタ1人になんてなっちゃったの?」
「半年前、父さんが腰を悪くしてしまって、ノックも出来なくなってしまったんです…ほとんどの人が町内会の付き合いでやってたみたいで…父さんが辞めてから、みんな次々に辞めてしまって…」
「なんじゃ、随分と薄情な奴等じゃのう…感心せんわい…」
「本当ね。あたくしはこの旅で得た絆を信じている。だから旗印を失ったからといって離れるなんて、理解に苦しみますわ」
「アイラ、かわいそう…グスッ…グスッ…」
「コレットちゃん…ごめんね。しんみりしちゃいましたね。さあ、今日から実戦練習です。頑張りましょう!」
いよいよ実戦的な練習に突入する。が、突貫工事で培った技量は実戦練習ではさすがに付け焼き刃の域を出ず、もう一歩のところで精細を欠く。アイラは苦笑いを浮かべながら第1戦の先発メンバーを決めかねていた。
「う〜ん…たぶんレギュラーはいませんね…スタメンは流動的になると思います…」
「まあ、それでいいんじゃないか?アタシらは今までもみんなで一緒に戦ってきたじゃん!」
「トリッシュの言う通りね。特定の誰かが主役で他の誰かが脇役なんて優劣は私達には無い。皆が必要な存在、1人1人がかけがえのない大切な人よ」
「フェリーナさん…素晴らしいです!みなさんは理想的なチームですよ!絶対に勝てます、このチームなら!」
「うん、わたしだって頑張るもん!なんだか楽しくなってきちゃった!」
「うん、もうちょっと頑張ろ!あたしだって負けないよ!」
「よし、やると決めたからには絶対に勝つ。やってやるぞ!」
更に4日後、遂に大会初日、第1戦の日を迎えた。対戦相手は新規参加の愛好会チーム。結成して間もない隣町の同好会であり、実力差はさほど大きくない。そして、苦慮していた先発メンバーは──
1番レフト コレット
2番セカンド ルーシー
3番サード ヴィオ
4番センター アイラ
5番ファースト モニカ
6番キャッチャー トリッシュ
7番ショート アミィ
8番ライト リデル
9番ピッチャー カタリナ
「姉貴、信じてるよ。練習した通りガンガンいこうじゃん!」
「トリッシュ…頑張ろうね♪」
「フッ、お前達2人は相変わらずだな」
「2人のラブラブパワーで勝ちやな!頼りにしとるで〜!」
「わたくし達も全力を以てお二人の後を守らせていただきますわ。勝ちましょう!」
「さあ、いきましょう!私達の絆の力、このグラウンドで発揮する時です!」
「プレイボール!」
双子の姉妹バッテリーは初回から息の合った連係を見せ、快調に打ち取っていく。練習とは比較にならない試合の緊張感が一行に襲い掛かる中、己と仲間を信じ、普段と違う戦いに身を投じた。
「ふえっ!?わああぁぁ!?」
「コレット!?…捕ったのですね…?」
「転んだ拍子にキャッチするなんて…ある意味天才的だわ…」
絆の力はソフトボールの舞台でも遺憾無く発揮される。誰かが失敗しようと他の者が補っていく。彩りの戦士達はどんな戦局も助け合いながら立ち向かっていくのだ。
「おっと!捕れました…」
「モニカ、すまない…手が滑った…」
コレットのファインプレーから勢いが着き、守備は快調だが、打撃の調子が今一つ振るわない。相手のエラーも散見され再三走者は出るものの、あと1本が出ない状況が続いていた。
「ストライク、バッターアウト!」
「う〜ん、どうにかしてカタリナさんを楽に投げさせてあげたいね…」
「ええ、歯痒いですわね…わたくし達がなんとしてもカタリナさんを守らないと!」
打線の援護が無い中、粘りの投球を続けるカタリナは次第に投球のコツを掴み、トリッシュも逸早くツボを押さえる。以心伝心の如きコンビネーションで凡打と三振の山を築いた。
「ストライク、バッターアウト!」
「すごいすごい!さすが息ピッタリです!」
「フッ…なかなかやるな。サードに立ってるだけとは、楽な仕事だ」
「あとは点を取らなアカンな…トリッシュ姉ちゃん、頼むで!」
4回裏、先頭打者は6番トリッシュ。愛する姉カタリナをなんとしてでも救いたい──その想いが気負いになってしまう。釣り球に手を出してしまい、力んだスイングになっていた。
(チッ、真っ直ぐを狙うしかない…頼む、真っ直ぐ来てくれ…!)
「あっ!トリッシュ!」
失投が絶好の位置に飛び込んでくる。トリッシュの視線が周囲の景色を遮断し、球だけに集中する──無心で振り抜き、一閃した──
「オラァ!!」
トリッシュの一振りで放たれた打球は大きな弧を描き、ライトのフェンスを飛び越えた。球がスタンドに吸い込まれ、一瞬の静寂の後、一行のベンチが一気に興奮の坩堝と化した。
「うおおぉ!さすがッス!」
「トリッシュさんの愛しき人を想う気持ち…どれだけあたくしの心を揺さぶり、昂らせてくださるのかしら…」
カタリナには愛する妹トリッシュがもたらした1点で十分だった。後半は守備もより一層冴え、程好い緊張感で引き締まった試合展開となっていた。
「ストライク、バッターアウト!ゲームセット!」
「やったぜ!勝った!」
「よかった…天よ、感謝致します…」
最後の打者を空振り三振──終わってみれば1対0でカタリナの完封勝利だった──2人はマウンドで抱き合い、互いに愛しく想う気持ちを囁き合った。
「姉貴…頑張ってる姉貴の姿、素敵だったよ」
「ううん、トリッシュが私をリードしてくれたからだよ…とっても頼り甲斐があって、素敵だったよ…」
「あ、あの〜…整列ですけど…お二人さん?もしもし〜?」
「ハァ…ここまでラブラブしてくれって言うた覚えは無いんやけどなぁ…」
「あんた達2人!なぁにをやってンだい!整列だよ!」
「やれやれ…すっかり2人の世界に入っちゃってるぜ…」
第2戦、都市部のクラブチームでそれなりの実力は持ち合わせている。相対する一行の第2戦の先発メンバーは──
1番レフト エレン
2番センター フェリーナ
3番ショート ビアリー
4番ライト テリー
5番ファースト ステラ
6番キャッチャー ビクトリア
7番サード リタ
8番ピッチャー クレア
9番セカンド ネイシア
第1戦とは打って変わって乱打戦となる。エラーの多発に加えクレアの制球が定まらず度々失点するものの、技巧派の面々と力自慢の面々が噛み合い、打線が爆発していた。
「エレンさん、素晴らしいタイムリーだったよ!」
「いやいや、私の前にネイシアが送ってくれたからだよ!助かったよ!」
「フフッ…ありがとうございます♪」
「しかし、さすがに点を取られ過ぎじゃのう…どうにかせんとなぁ…」
「ならばもっと点を取ればいいッス!100点くらい取れば──」
「テリー、黙れ」
6回裏、最終回前に突き放すべくアイラが大博打を敢行する。2アウト2、3塁の場面で8番クレアに代わり、代打リーベ。一行は監督としての役割をアイラに任せていたが、思いがけぬ采配に表情を曇らせていた。
「リーベ…大丈夫でしょうか?」
「練習でも殆ど三振してたからね…打てるのかな──」
「キャッ!」
「な、何ッ!?」
初球を咄嗟に振り抜いた──と言うよりバットにボールが命中した、と言うべきか──打球は左中間を破り、二者が生還する。価千金の一打は意外性という言葉で片付けるには余りにも衝撃的なリーベの強運がもたらした。
「はわわぁ…打てました!」
「やったね、リーベちゃん!わたしもビックリしちゃった!」
「これがビギナーズラックってものか〜…リーベ、とんでもない娘だね…」
最終回はアイラがマウンドに上がり、10対7で試合を締めた。アイラを中心に歓喜の輪を作る一行の表情には勝利への安堵と共に大きな充実感が滲み出ていた。
「アイラ、ナイスピッチング!さすがだねぇ!」
「すごいです!みなさん、ベスト8ですよ!」
「おう、ここまで来たら優勝狙わんとなぁ!張り切っていくぞい!」
To Be Continued…




