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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter4:邪教戦士篇前編
64/330

第64話『草緑の守護者』

シリーズ第64話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

テリーはアザレア王国の山脈の奥地、太古の遺跡を統べる闘の精霊オーディンの覇道の拳に実直な拳で打ち勝った。テリーの武勇譚を語り終えたオールは涼やかな蒼き瞳を瞑り、1つ溜め息をついた後、一行に向き直った。



「…以上が私達が見て参りましたテリー様の御活躍でございます」


「テリー、ハイデ山脈行ってきたんだ…良いなぁ〜…あたしも行きたかったなぁ…世界的な名峰、良いなぁ…」


「私も…闘の精霊オーディンに御目通りしたかったわ…遥か太古の時代に王としてアザレアを統治して…」


「クレア、フェリーナ…なんか論点がズレてるぜ…」


「テリー、また私達と共に歩んでいきましょう。頼りにしていますよ!」


「おう!モニカ、感謝するッス!必ずや皆の力になってみせるッス!闘魂燃えてるッス〜!!」



テリーが一行に戻り、熱い活気も併せて帰ってきた。一行のスプルース国の魔物退治が佳境を迎えていたことを伝えると、アザレアの戦士達は黙って引き下がることはなかった。



「よ〜し、それならちょっとくらい手伝おうじゃないか!」


「はい、私はテレーズ様に同意致します。マスター、ご検討を」


「フフッ、検討するまでもないわ。喜んで協力しましょう!」


「そうだね、シェリー。皆様、どうか私達も魔物討伐に参加させてくださいませ」


「えっ?そ、それはありがたいけど…アンタ達、忙しいんじゃないの?」


「水臭いわよ、エレン!私達は正義とアザレアの誇りのために戦うギルドよ?」


「僕も同じ気持ちだ。スプルースの緑と大地を守るため、共に戦おう!」


「ええ、皆様が一緒だと心強いですわ!わたくしも張り切っていきますわよ!」



祝福の証の彩りに導かれ合った仲間達が魔を討つ決意を1つにしていく。しかし、皆が意気を同じくする中、リデルは1人、胸に晴れない不安を抱きながら思案するばかりだった。



(怖かった、けど…コレットさんが私を引っ張ってくれた。テリーさんも強くなって帰ってきた。私は…強くなれてるのかな…)


「リデルちゃん、どうかしたの?疲れちゃった?」


「ミリアムさん…あ、あの…大丈夫です…」


「そう…明日は正念場だから、宿舎に戻ったらゆっくり休んでね」


「は、はい…ごめんなさい…」


(この娘…なんだかほっとけないわ…やっぱり、似てる…リデルちゃん…)



アザレアの貴公子達を加え、皆で夕食の席に着いた。寄宿舎の素朴な空間に洗練された佇まいの貴公子達が颯爽と現れ、ミリアムの同僚達は驚きながら出迎えた。



「なんだなんだ?ミリアム、随分と身綺麗な人達を連れて来たなぁ…」


「フフッ、素敵でしょ?新しいお客様よ♪」


「アザレア王国より参りました。少しの間ですが、お世話になります。何卒お見知り置きを」


「ああ、よろしくね。あんたらみたいな洒落た人の口に合うかわかんないけど、腹一杯食べておくれ!」


「いただきます!…美味しい…!シェリーも食べてみなさいよ!」


「うん、素材の風味が生きているわね。すごく食べやすいわ」


「すっごく美味いぞ!おじさん、ライスおかわり!!」



魔物の巣窟に立ち向かうべく、彩りの戦士達は穏やかに憩う。その夜、リデルは1人で闇に溶け込んだ森の草木の黒碧を窓越しに眺めながら物思いに耽っていた。思索するリデルの小さな背に人影が重なり、華奢な体を優しく抱き締める。エメラルドグリーンの彩り、ミリアムだった。



「…リデルちゃん」


「キャッ!ミリアムさん…どうしたんですか…?」


「あのね…お節介かもしれないけど、貴女のことが放っておけないの。前からずっと気になっていたわ」


「えっ?私のこと、気になってたんですか…?」


「うん、貴女はね…似てるの、昔の私に。ちょうど今のリデルちゃんと同じくらいの年頃だったかな…」


「そう、なんですか…?ミリアムさんが…」


「うん。リデルちゃんの気持ち、分かるのよ。何か行動を起こしたい…でもどうしても勇気が出なくて、周りに合わせるので手一杯になってしまう…自分にそんなつもりは無くても、ただ流されてるだけなんじゃないかって感じてしまうのよね…」



リデルは心の内を丸裸にされたような錯覚に陥り、暫し言葉を失った。現在進行形で自分の姿に重ね合わせる人がいる──不安や迷いを口に出すことも出来ず、1人で思い悩んでいたリデルにとっては驚きであり、同時に喜ばしくもあった。



「私の、気持ち…行動を起こしたい…」


「大丈夫、私も貴女の味方よ。私、森の魔物退治が終わってもスプルース国にいる間はみんなに着いていくつもりだから、私で良ければなんでも相談してね」


「ミリアムさん…ありがとうございます♪」



リデルの可愛らしい微笑みを見届けると、引き締まっていたミリアムの表情は少し和らぎ、抱き締めていた腕をほどいて正面に向かい合う。リデルの表情にも思い悩んだ色合いはなく、穏やかに和らいでいた。



「リデルちゃん、私は力を貸してくれる皆を…貴女を信じてるわ!」


「はい!私もみんなを、ミリアムさんを信じてます!」



翌朝、一行は寄宿舎の玄関先に集結する。アザレアの貴公子達を加え、森の平穏を取り戻すための一戦を間近に控えていた。



「今日の目的地は大変危険な区域です。決して単独行動をとらないようにお願いします。本当に命に関わりますからね」


「了解した。さて、どんな奴が出てくるか…いずれにせよ切り刻んでやる!」


「ワタシもお姉ちゃんにまけないよ!きりきざんでやる〜!」


「ザラーム、気を付けてくださいね。祝福の証の彩りのもと、魔を討ちましょう!」


「承知しました、モニカ様。我らも全力で戦います!」


「よっしゃ、やってやろうじゃないか!アンタ達、派手にいくよ!」


『ウイィッス!』


「賑やかなこったねぇ…よし、いっちょやろうか!」


「今回は私とネイシアも着いていくよ。みんな、ケガしないように気を付けていこうね…」


「どうか神の御加護が皆様にありますように…では、行きましょう!」



アザレアの貴公子や毒の彩り達も戦いに臨むべく闘志を燃やす。更に寄宿舎の手伝いをしていたカタリナとネイシアも衛生兵として魔物退治に加わり、前日の区域を更に越え、森の最奥部へと踏み入っていく。奥へ奥へと進むにつれて瘴気が強まり、前列で行軍するリンド、フェリーナ、カシブは忍び寄る脅威を肌で感じ取っていた。



「ガルル…血ノ匂イ、強クナッテル…」


「ええ、強い邪気だわ。いつ何処から出てきてもおかしくないわよ」


「うむ、近付いてるのである…リンドちゃん!そこである!」



黒紫の繁みから二足歩行の魔物が現れ、容赦なく牙を剥く。リンドはカシブの声を受け、両手の爪と共に胸の奥底に潜めた闘争本能を剥き出しにして目の前の脅威に飛びかかった。



「ガウウッ!グウゥアアッ!!」


「リンドちゃん…頑張るのである!」



リンドが父から授かったゴブリンの血を滾らせ、荒々しく立ち向かっていく。眼光を青紫に光らせ、両手の爪で手加減なく魔物の皮膚を引き裂き、口元を魔物の血で赤黒く染めながら噛み付く。果敢に躍動し、咆哮するリンドの左手には彩りの戦士の証であるゴブリングリーンの紋様が煌めいていた。



「ガアアアァァァッ!!」


「これが魔の血…でもリンドからは一切邪気を感じないわ。純粋な闘争本能なのね…」


「おおお…闘魂が燃えてるッスね!リンド、熱い戦いをしているッス〜!」


「ガルル…早ク、先、行ク!」



リンドに先導され、奥地へと歩を進める。辺りに血が滲みており、息が詰まるような瘴気が充ち満ちている。フェリーナ達が邪気を察する間もなく一行は魔物の大群に取り囲まれ、退路は既に絶たれていた。



「アカン、囲まれとる!もう逃げられなくなってもうた…」


「いよいよ、ということですね…みんな、魔に打ち克ちましょう!」


「ええ。我らが使命、皆で果たすのです!運命を切り拓くために!」



モニカとビアリーの呼びかけに皆の心が寸分の違いなく同調する。総勢47人もの祝福の彩りが大軍勢となって集い、魔に立ち向かっていく。左手の甲に印された紋様に課された使命のもとに──彩りの力の鉄槌を振るった。



「ファイアボール!」


「ダークスフィア!」


「ソニックブーム!」


「シャドウバレット!」


「グランドクロス!」


「ガッツナックルッス!」


「ロトンレッグだがや!」


「リヴァプールビート!」


「ファルコンカッター!」


「クッ…!リーベ様、お守り致します!」


「ああ、オール様…素敵…」


「ポワゾンさん、手伝うよ!そ〜れ!」


「ザラーム、ナイス!助かった!」


「うおっと!今撃ってくれたのはクレアかのう?」


「エヘヘ…ステラ、大丈夫?無事で良かった♪」



魔物の大群に対し臆することなく彩りの力を振るい、戦う。1人1人が各々の役割を担い、同じ目標に同じ想いで向かっていた。



「ヤート、無理しないで!ファーストエイド!」


「カタリナ、サンキュー!…ネイシア、フェトルの回復を頼めるかい?」


「はい。ファーストエイド!」


「すみません、恐れ入ります」


「ほい、ヴィオ姉ちゃん、傷薬あるで〜?」


「アミィか…すまん、感謝する」



彩りの力は数百匹はいた魔物達を次々に押し退ける。司令塔を担うエリスとルーシーの2人は知略を巡らせ、緻密な連係で戦局を優位に導いていった。



「エリスさん、此方は残り数十匹です。そちらの状況は?」


「こっちも残り僅かよ。あとは大技で決められるかも──」


「エリスさん…あの…私にやらせてください!」


「リデル…!?あ、貴女が…」



リデルが前に踏み出し、術具として力を引き出す昆虫図鑑を取り出す。自分の意思で行動を起こしたい──気弱で臆病な自分を変えたい──彩りの戦士として仲間達と手を取り合い、共に戦う決意──若草色の紋様が心の引き金を引いた。



『へえ…リデルにはこんな力があるのかい。こいつは驚いたよ…』


『リデルちゃん、わたし達も戦お?わたし達に出来ることでみんなのお手伝いしようよ!』


『リデルちゃん、私は力を貸してくれる皆を…貴女を信じてるわ!』



仲間の言葉がリデルの脳裏を駆け抜け、胸の内に勇気の火を灯す。若草色の彩りが昆虫図鑑を介して力の具現となり、悪しき力を討ち祓っていった。



「芽生えよ、命の息吹。途絶えよ、魔の瘴気!プリマヴェーラ・スウォーム!!」



リデルの力が具現化し、魔物の姿は一瞬にして消し飛んだ。後衛で息を潜めていた伏兵の思いがけぬ一矢に仲間達からも驚きの声が次々に沸き上がった。



「やるじゃん!まさかリデルに手柄を取られるなんてな!すげぇROCKだったよ!」


「トリッシュの言う通り!あっしも正直ビックリしたぞなもし!」


「やったね、リデルちゃん!わたしもと〜っても嬉しいよ!!」


「リデルちゃん、やっぱりやれば出来るじゃない。私だけじゃなく、ここにいる皆が貴女を信じているのよ」


「そうです。今までもこれからもリデルの力は絶対に必要です。共に支え合い、共に歩みましょう!」


「ミリアムさん、モニカさん、みなさん…ありがとうございます!」



勇気を振り絞ったリデルはスプルースの緑を魔物達から護る戦士──勇敢な草緑の守護者となった。リデルの勇気ある一撃を称える仲間達の彩りの輪が瘴気が浄められ始めた森の緑の中に華やかに広がっていった。




To Be Continued…

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