第62話『テリーのアザレア奮闘記』
シリーズ第62話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
「では、私がテリー様のご活躍を皆様にお話致しましょう。さて、何処から話しましょうか…」
一行はスプルース国に疾風の如く現れたアザレアの貴公子達に窮地を救われた。シャンパンゴールドの彩りの貴公子オールは言葉を選びながらゆっくりと語り始める。テリーが一行を離れ、アザレアで歩んだ道を──
──ペーシュ国の宿にて、テリーは港へ向かう仲間達をオール達と共に見送っていた。確固たる決意を持って下した決断だったが、その表情には仲間達と別れる寂しさを滲ませていた。
「テリー…本当によかったのかい?」
「もちろんッス。今のままではまたいつかみんなの足手まといになってしまうッス…」
「キャロル、今はテリーの意思を尊重しましょう?私達がテリーの居場所になって、一緒に強くなるくらいの気構えでいなきゃ!」
「ルーティの言う通りね。プロト、頑張るわよ!」
「了解しました。では、これからいかが致しましょう?」
「そうだなぁ…とりあえずアザレアに帰ろうぜ!アタシらの母なる地、アザレアへ!」
「そうしようか、テレーズ。後のことは後で考えましょう。今は休みましょうか」
テリー達はアザレアに戻り、ギルドとして共同生活をしながら各々の務めを果たしていく。テリーは己の拳を磨き更なる高みを目指し、オールは都市部のガイドと警備、テレーズは歓楽街の用心棒、シェリーは気ままな科学者、プロトはシェリーの助手、ルーティはアザレア近衛兵、キャロルはテリーの指導──それぞれが各々の形で歩みを進めていった。
「よし、そろそろ休憩にしようか!」
「オッス!お疲れ様ッス!!」
鍛練に励んだ2人は汗を拭いながら一息着く。キャロルは拳を磨き直す道を選んだ後輩テリーに真剣な表情で向かい合っていた。
「テリー…君が何故毒の戦士達に勝てなかったか、解るかい?」
「それは…自分の鍛練が足りなかったからッス…」
「近からずも遠からず、だね。“敵を知り、己を知れば百戦危うからず”という言葉を知っているかな?」
「むむむ…言葉は聞いたことありますけど、意味はよく知らないッス…」
「自分自身の力を信じるのは当然大切だ。だけど、リングの外での戦い、大勢での戦いだとそれだけでは限界がある。客観的に得手不得手をしっかりと見極め、自分の役目を見つけることもすごく大切なんだよ」
「自分の…役目…」
「自分が担う役目は何か、仲間達にどの役目を頼むかを見極め、協調していくことを心がけたら君はもっと強くなる。自分に出来ることを判断するためにちょっと一呼吸、君の“闘魂”という名のエンジンをかけるのはそれからでも遅くないんだよ」
「キャロル先輩…ありがとうございまッス!」
2人は鍛練を終え、皆で住まうマンションの一室に帰り着いた。美味しそうなコーンスープの匂いが優しく薫る中、テレーズが奥でパソコンに向かい、何やら忙しなく打ち込んでいる。プロトが玄関に現れ、2人を丁重に出迎えた。
「キャロル様、テリー様、お帰りなさいませ。お食事の用意が出来ております」
「ありがとう、プロト。じゃあ、頂こうか」
「オッス!ムシャムシャ…ガツガツ…」
「テレーズ、なんだか忙しそうだけど…それは契約書かい?」
「ああ、仕事の依頼が入った。詳細は明日聞かされるが、けっこうタフな仕事になりそうだぜ」
翌日、一行のもとに依頼人が訪ねてきた。頭は禿げ上がり、口元に髭を蓄えた丸々と太った男性で、仕立ての良いスーツを着て整った身なりをしている。幾つものきらびやかな装飾品で着飾った容貌は体裁上は華やかかもしれないが、醸し出される雰囲気はお世辞にも品があるとは言い難いものだった。
「お待ち申し上げておりました。私はオール・クレメンスです。お見知り置きを」
「ああ、よろしく。この度はどうもありがとう」
「御依頼、感謝致します。では、御用件を御伺いしてもよろしいでしょうか?」
「うむ、実は…うちの屋敷の宝物庫を盗賊から守っていただきたい。うちには稀少な絵画や骨董品なんかが数多あってね。それはもう美しくて、美術品としての価値も大変に高いものなのだが、金庫に入れてしまうと私の目が行き届かなくなって心配で全て宝物庫に保管しているんだよ。毎日毎日日替わりで私の部屋の一番目立つ場所に飾らせるのだけれど、飽きなくてねぇ…」
依頼人の男は畳み掛けるような饒舌で延々と長話を聞かせた。テリー達は最初は依頼人の言葉として傾聴していたが、次第に疲れてげんなりした表情になり、後半は殆ど耳に入っていなかった。とうとう呆れ果てた様子のテレーズが降参とばかりに契約書をテーブルに叩きつけ、強引に依頼人の話を遮った。
「…詰まる所、盗賊退治を頼みたいってことでいいのか…?」
「むむ?もう少し話したかったのだが……ああ、その通りだよ。相応の報酬も勿論用意してある。悪い話ではないと思うが、頼めるかな?」
「…皆様、いかが致しましょう?」
「自分はやりたいッス!盗みを働くなど断じて許せんッス〜!」
「え、ええ…どうあれ不義は罰しなければなりませんね。御依頼、謹んでお受け致します!」
「ありがとう!君達の活躍、期待しているよ。頑張ってくれたまえ!」
依頼契約を終えた依頼人は意気揚々と帰っていった。書面上引き受けはしたものの、今一つ皆の気持ちが上向かないまま、何とも言えぬ空気が漂っていた。
「ったく…あんな成金おしゃべりタヌキ親父の御守りだなんて、気乗りしないな…」
「テレーズ、そう言うな。僕達はアザレアの平穏を守るのが仕事じゃないか。祖国を想う気持ちは君が一番持っているだろう?」
「うっ…そう言われると強く言えないな…まあ、盗賊くらいサクッと片付けるか!」
「決行は明後日ね。しっかり準備して臨みましょう!」
その翌々日、一行は依頼人の屋敷へと招かれ、夕食の席を共にした。絢爛豪華な装飾が施され、壁一面が金色に輝いている。が──過ぎたるは及ばざるが如し──目に突き刺さる眩しさの内装は洗練には程遠く、寧ろ下品とさえ思われるほどだった。
「うちのシェフに腕にヨリをかけて作らせたぞ!好きなだけ食べてくれ!ワハハハ!!」
「…中の下ね…カタリナの料理の方が好みだわ…」
「ちょっ、ちょっとシェリー!そんなに調味料をかけたら失礼になるだろう!?」
「まあ、腹に入ってしまえば同じだって!細かいことは気にすんなよ!」
「そうね。しっかり食事を摂らないと力が出せないわ。いただけるものはいただいておきましょ!」
「テリー様。消化器への負荷軽減の為、よく噛んで食べることを推奨します。また、喉に詰まらせ誤嚥の危険性もあります」
「むむっ…プロト、すまないッス…モグモグ…」
夕飯をそこそこに終わらせ、客間にて作戦会議を行う。ルーティが中心になり、宝物庫の図面とにらめっこをしていた。
「宝物庫の出入口は1ヵ所だけど、真正面から突破してくる可能性は低いでしょうね。窓からの侵入を警戒し、身を隠して迎え撃ちましょう!」
「あれ…そういえばプロトはどこに行ったんだ?」
「うん、ちょっと野暮用を頼んでるの。たいしたことじゃないから、気にしないで」
テリー達は宝物庫に入り、示し合わせた通り物陰に待機する。夜が更けた頃、テレーズの双眼鏡が夜の闇に溶け込みながら忍び寄る黒い人だかりを捉えた。
「黒い服の連中がこっちに向かってる。たぶんアイツらが例の盗賊だぜ!」
「よっしゃ、やってやるッス!悪には制裁ッス〜!」
「シェリー、プロトは本当に大丈夫なのかい…?」
「大丈夫だってば!科学の力を信じなさい!!」
プロトが戻らないまま、宝物庫の周辺を黒装束の集団が取り囲んだ。テリー達は息を殺して影に潜む。盗賊は予想を裏切って正面の扉を抉じ開け、ひたひたと獲物に迫っていった。
「おお〜…あるある。選り取り見取りじゃねぇの…」
「警備もザルだったし、宝はザクザク…楽な仕事だ!」
「コイツを高値で売り付けちまえば、俺達は豪遊三昧よ!ヒヒヒッ!!」
「さ〜て、どのお宝ちゃんから頂戴しようか──」
ドンッ!
黒装束の1人が不意に発砲する。盗賊達が当惑する中、発砲の主が装束を脱ぎ捨てる──夕食後から姿を消していたグレーの彩り、プロトだった。
「プロト!」
「盗賊団の探査と密偵を頼んでいたのよ。まんまと引っ掛かったわね!」
「コ、コイツ…スパイだったのか!?」
「汚ねぇ真似しやがって!命乞いしても許さねえぞ!」
「汚いのは貴方達の方よ!窃盗の現行犯で投降してもらうわ!」
「アザレアの平和を乱す野郎は例外無くブッ飛ばす!覚悟しやがれ!!」
「絶対に負けないッス!正義の拳を叩き込んでやるッス!!」
プロトを加え、7人は盗賊団に果敢に立ち向かう。愛する祖国の平和のために、危険を顧みず、毅然とした意思を胸に彩りの力を振るった。
「ガッツナックルッス!」
「マンチェスタースマッシュ!」
「カンタベリーバレット!」
「リヴァプールビート!」
「レスタースパーク!」
「オックスフォードブロー!」
「プロトレーザー!」
対する盗賊達は数に物を言わせて襲い掛かる。1人1人は非力なものの、寄って集っての連撃は容赦無く体力を削ぎ落としていった。
「グッ…ちょっとキツくなってきたッス…」
「そんなこともあろうかと…プロト、お願い!」
「了解。治癒術式展開──ファーストエイド──」
「プロト…治癒術をいつの間に!?」
「カタリナとネイシアに協力してもらって習得させたのよ。備え有れば憂い無しね♪」
「よし、これなら勝てる!一気に仕留めますよ!いざ、華麗なる正義の鉄槌を!」
アザレアの貴公子達は高潔なる彩りの力を振るい、盗賊達に畳み掛ける。多勢に無勢だった様相は瞬く間に逆転し、抵抗する者は残り僅かとなっていった。
(自分の役目…それは目の前の悪を討つことッス…!)
左手の琥珀色の紋様が勇ましく輝く。胸中の闘魂も呼応して紅く燃え上がり、テリーの力の具現として解き放たれた。
「熱き闘魂の猛り!ガッツバースト・インパクト!!」
『ぎゃああぁぁッ!』
テリーの剛腕の猛襲が悪を打ち砕いた。制圧された盗賊達は程無くルーティの手配した公安に引き渡された。依頼人は満足げな笑みを浮かべながら一行の健闘を称えた。
「盗賊を退治してくれてありがとう!素晴らしい活躍だったよ!」
「恐れ入ります。勿体無いお言葉です」
「では、約束の報酬と…オマケにこれも差し上げよう!」
依頼人はオールにアタッシュケースを渡した後、テリーに鍵を差し出した。中心には琥珀色と臙脂色が交差する宝玉が煌めき、テリーの胸の内に燃える闘魂に共鳴するように耀いていた。
「これは…精霊の神殿の鍵ではありませんか!?」
「おや、そうなのかい?私は使い方はおろか、これが何かさえもわからない。私には無用のものだから、君達が必要なら持っていってくれ」
「ありがとうございまッス!慎んで頂戴致しまッス!」
「よし、帰ったら早速神殿を調査してみましょう!テリーの更なる高みのために!」
To Be Continued…




