第61話『猛り燃える拳』
シリーズ第61話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!!
スプルース国の森深部に突如として現れた滅紫の暗殺者ヒイラギに冥紫の騎士リタが臆することなく対峙した。一行は寄宿舎に戻り、暫しの休息をとる。その頃、ミリアムは森で保護したゴブリンの少女リンドに寄宿舎を案内していた。自身を優しく迎え入れる穏やかで暖かな空気を感じ取ったのか、リンドは不安を微塵も感じず、穏やかな表情を見せていた。
「ウワァ…広イ…!」
「リンド、今日からはここが貴女の家になるのよ。もう1人じゃない、私達が着いてますからね」
「…よかった。リンドと心を通わせることが出来て僕も嬉しい。エリス、これからもこうして理解し合える存在に出会えるだろうか?」
「そうね、アンジュ。実を言うと私、あまり快く思っていなかったんだけど、彼女の…クレアの真っ直ぐな言葉にほだされちゃったわ」
一方、リタはヒイラギとの戦いで疲れ果て、夕食も摂らずに眠っていた。夜も更けきった頃、心身共に虚ろなままのリタがゆっくりとベッドから体を起こした。
「ん…あれ…?もうこんな時間か…」
「リタ!気が付きましたか…!」
「よかった…大丈夫?」
「モニカ…カタリナ…俺、帰ってから随分寝てたんだな…お腹空いたぜ…」
「そっか…ミリアムに厨房を借りて何か作るから待っててね」
「あ、リタ姉ちゃん…起きたんやね。激しい戦いやったから、心配やわ…」
「リタ…貴女とヒイラギ、凄い戦いだったわね…」
「フェリーナ…実は俺…ヒイラギと戦ってるときに自分の力が高まるのを感じたんだ…なんだか俺が俺じゃない別の存在になっていくような──」
「うん、それは私も気付いていたわ。恐らくヒイラギの力はリタと同じように冥の精霊プルートの加護を受けているからだと思う。みんなにも話したけど、私達それぞれに共鳴し合う力が数多く存在するのよ」
フェリーナの言葉を受け、自身に妖しい闇夜の拳を振るうヒイラギの姿──彼女の拳で傷を負う程に高揚する自分自身の姿──力を交えて共鳴し合う2人がリタの脳裏に浮かび上がる。薄紫の紋様に秘められた自身の力が滅紫の凶気に共鳴することに対する恐怖がリタの胸中に黒く渦巻いた。
「そんな…俺もいつかヒイラギみたいに邪気に取り込まれちゃうかもしれないってことか…?」
「それはあり得ませんよ。貴女は意思の強い人ですから、邪気に負けることは断じてありません」
「ええ。それに彼女の持つ邪気は彩りの力とは異なるものよ。リタなら大丈夫。心配には及ばないわ」
「モニカ…フェリーナ…でも、俺…」
「リタ姉ちゃん、らしくないで?いつも通りカッコ良く爽やかに笑っとってぇな…」
「そうだよ!もし邪気に負けたって、私が目が覚めるまでひっぱたいてやるからね!」
「アミィ、エレン…ありがとう♪」
「ごめんなさい…リタにとって酷な話をしてしまったわね…」
「いや、大丈夫だぜ。みんながいてくれるって思ったらきっと大丈夫っていう気持ちになるよ。ありがとうな」
笑顔を見せたものの複雑な想いが絡まったままのリタの胸中とは裏腹に、穏やかな朝がスプルースに訪れる。皆が食堂に集まると、一行の2人がエプロンを身につけて厨房に立っていた。
「みんな、おはよう♪」
「姉貴!?部屋にいないと思ったら…ネイシアも一緒だったのか…」
「はい、こうしてお世話になっている寄宿舎の手伝いをしているんです」
「そうだったんですか…その献身の気持ち、頭が下がりますよ」
「ケイトさん、恐れ入ります…はい、リタちゃんはハンバーグ定食ですよ!」
「えっ!?あ、ありがとう…朝からハンバーグ食べていいのかな…?」
「フフッ、リタさんったら満更でもないっていう顔をしていますわよ?さあ、美味しくいただきましょう!」
食堂の一帯に全員が揃い、仲間達で同じ釜の飯を口にする。戦いの合間の穏やかなひとときはゆったりと流れ、一行の心を和ませる。
「お姉ちゃん、今日のご飯もとってもおいしいね!」
「ああ。やっぱり自然のままに育った作物だからか、優しい味がするな。何度食べても美味い…」
「ねえ、オトロヴァ、昨日言いかけてたアザレアの格闘家の話、聞かせてくれる?」
「はい、アザレアでは少年みたいな容貌の銀髪の女性格闘家がリング内外で活躍しているんです。名前はテリーといって──」
「テリー!?テリーがアザレアで頑張ってるんだ!!」
「え、ええ…ご存知なのですね?」
「テリーお姉様はクレアお姉様の愛する親友なんです。私達より長く一緒に旅してるんですのよ!」
「そうでしたか…世の中は広くも狭く、狭くも広いものですね…」
「よ〜し!あたしだってテリーに負けないんだから!張り切っていくぞ〜!」
「クレア姉ちゃん!食べた直後に走ったらアカンて!…やれやれ、世話の焼ける人やわ」
「ウフフッ、友愛はかくも美しいものですわね。わたくしもこの旅で信じ合える友達に出会えましたもの。嬉しいですわ♪」
一行は勇んで森の魔物退治に乗り出した。奥へ奥へと進む度に次第に増していく魔物の瘴気に臆することなく、彩りの力で毅然と立ち向かっていった。
「これで決めましょう!リーベ、援護を頼みます!」
「はい!グラッサージュ!!」
「覚悟!えいやぁッ!」
「イェイ!モニカとリーベ、絶妙のセッションだったじゃん!」
「モニカお姉様、とっても素敵でしたわ!」
「リーベ、ありがとうございます。これが私達の絆の力ですね…」
「よ〜し、次行こうか!ミリアム、ここから先に進めば良いのかい?」
「はい…でもここからは魔物の勢力が特に活発で、普段は立入禁止区域に指定しているんです。気を引き締めて臨みましょう!」
碧の先の黒き深淵──道無き道を抜け、更なる魔の脅威が襲う領域に踏み入る。辺りの草木や土壌が血や瘴気に蝕まれており、赤黒く染まった地面は泥道のように澱んでぬかるんでいる。盾を構えたティファが前衛に歩み出るが、不安定な足場で行軍の足並みが揃わず、後列の面々が徐々に遅れを取り始めた。
「ふえぇ…泥だらけだよぉ…」
「う〜む…とても道とは言えないのである…」
「うん…魔物の影響が強いとは思っていたけど、予想以上に酷いね──」
「ティファ、危ない!」
「クッ…!!」
黒碧の陰からの不意討ちに受け止めるので精一杯となったティファの体がよろめく。咆哮に呼び寄せられるように次々に魔物が現れ、瞬く間に一行を取り囲む──だけでは終わらない──行軍が揃わない一団を2つに別け隔てた。
「これはまずいのである…分断されたのである!」
「こりゃ仕方無いのう…ワシらはワシらでどうにかするか!」
「怖い…怖いよ…」
「リデルちゃん…わたしもみんなも一緒にいるよ?きっと大丈夫、だよ…」
「コレット、リデル、僕達から離れないでね。必ず御守りするよ!」
「ったく、骨の折れるこったねぇ!みんな、気合い入れて行くよ!」
少し遅れて前列の面々も分断に気付く。後列の仲間達の姿は魔物の群れの隙間から僅かに確認出来るばかりとなっていた。
「しまった!後列のみんなが取り残されたわ!」
「チッ、面倒なことになったな…だが、後戻り出来ない以上、やるしかないな」
「ええ。あたくし達の絆を引き裂くなんて…運命を歪めるなんて、させませんわ!」
「そうですね、ビアリー。戦いましょう。私達は負けません!」
前列はモニカ、後列はビクトリアがそれぞれ中心となり、果敢に魔物達に挑む。魔の巣窟となった森を救うべく、1人1人が勇んで群れに飛び込んでいった。
「ブライトエッジ!」
「ソニックブーム!」
「ファイアボール!」
「みなさん、地形が不安定ですわ。1人1人分散せずに固まって、奇襲に備えて注意し合ってください!…スプラッシュロンド!」
「ダークスフィア!…手強いですわね…皆様、油断なさらず!」
贄の血肉と辺りに充満した瘴気を餌として喰らい、禍々しい狂気を増した魔物は一行に容赦なく襲い掛かる。統制のとれていない不規則なリズムで息つく間もない波状攻撃を仕掛けてきた。
「リデル姉ちゃん、危ない!」
「よいしょっとぉ!そうはさせんわい!!」
「ステラさん…ごめんなさい…」
「リデルちゃん、わたし達も戦お?わたし達に出来ることでみんなのお手伝いしようよ!わたしも頑張るから、ね?」
コレットの言葉にリデルが頷く。嘗てはシャルドネ侯国にて戦いとは無縁の平穏な生活を送ってきた2人──数奇な運命に誘われた出会いから共に歩みを進めてきた2人は旅路の中で1歩ずつ確かに成長していた。コレットの緑とリデルの若草色──左手に印された彩りの力は間違いなく色彩の戦士の証として息づいていた。
「ピエージェ・ド・リエール!」
「おおっ、コレットちゃん!助かるのである!」
コレットの紋様の緑が蔦となって波打ちながら地を這って伸び、魔物達の足元を捉える。続いてリデルも勇気を振り絞り、魔を討つ力を解き放った。
「バグバズ・ノイズ!」
若草色の彩りが具現化した虫達の蝉騒が辺りに鳴り響き、魔物達は耳を塞いでのたうち回る。が、リデルは己の内から湧き出てきた力を巧く制御出来ず、けたたましい騒音が味方の耳にも届いてしまった。
「うぐおぉ…耳が壊れそうじゃわい…」
「リデル…援護してくれンのは嬉しいけどさ…あたいらまで巻き込まないでおくれよ…耳が痛い…」
「ご、ごめんなさい…」
「と、とにかく足止めにはなったね…よし、一斉に畳み掛けよう!」
「よっしゃ!派手にやってやろうじゃないのさ!みんな、一暴れするよ!」
アンジュとビクトリアの号令を受けた後列隊は一気に攻勢に出る。が、モニカ率いる前列隊は依然として苦戦を強いられていた。
「チッ!倒しても倒しても湧いて来やがる…!」
「…さすがに厳しいな…このままでは──」
何処からか琥珀色の気弾が放たれ、魔物を吹き飛ばした。が、何処を見渡してもそれらしき人物は見当たらない。
「援軍!?だ、誰ですか!?」
「みんな、見て!真上よ!」
イレーヌの呼び掛けで視線を真上に移すと、上空にアザレア王国の国旗が描かれたヘリコプターが駆け付けていた。強風で辺りの枝葉を揺らしながら着陸するや否や、コーラブラウンとオペラピンクの彩りが颯爽と躍り出た。
「よっしゃ!ちょうど暴れられるってもんだぜ!やろうか!」
「ええ。みんな、一仕事するわよ!」
テレーズとルーティの号令でヘリコプターからオール、シェリー、プロト、キャロル──そして──琥珀色の拳士テリーが姿を現した。
「テリー!!」
「よし、早速修行の成果をみんなに見せてやろう!」
「…オッス。我が正義の拳、叩き込んでやるッス!」
前列隊にアザレア勢が加わり、一気に形勢が逆転する。テリーの拳が唸りをあげ、森の碧を脅かす魔に真っ向から対峙した。
「熱き闘魂の猛り!ガッツバースト・インパクト!!」
魔物達を駆逐した後、一行はヘリコプターに乗せられた。機内ではテリーと仲間達が再会を喜び合う。
「テリー!よかった…会いたかったよ…」
「クレアこそ、元気そうで安心したッス!」
「テリー、以前より精悍な顔をしていますね。きっと大変有意義な修行を──」
「ん?テリー…右手のその指輪、まさか…!」
「その通りです。では、私がテリー様のご活躍を皆様にお話致しましょう」
一行はアザレア勢の援護もあり、魔の脅威から辛うじて逃れた。皆の安堵の満ちる中、オールは感慨深げながらも穏やかな表情でテリーの活躍を語り始めた。
To Be Continued…




