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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter4:邪教戦士篇前編
60/330

第60話『冥紫の騎士、滅紫の凶刃』

記念すべきシリーズ第60話目です!!どうぞお気軽にご覧くださいませ!!!

スプルース国の緑に潜む魔物退治の道中、ゴブリンの血を引く少女リンドと出会った一行。ビアリーの配下となった毒の彩りと協力し、湖に満ちていた魔の瘴気を浄化することに成功した。



「リンドのおかげで魔物退治が捗るわ!日が傾くまでもう少し頑張りましょう!」


「よ〜し、ガンガンいこうじゃん!どんな奴でもブッ飛ばしてやる!リンド、安心して着いて来い!」


「エリス…トリッシュ…アリガト♪」



リンドは裏表の無い純朴な性格ですぐに一行に打ち解け、祝福の彩りのもとに導かれ合った“仲間”となっていた。一悶着あったヴィオとは相変わらず距離を置いていたが、仲間達の支えもあり恐怖は少しずつ薄れていった。



「貴女達にも精霊の刻印…毒の精霊ウェネーヌに祝福された、私達の仲間なのね」


「精霊の、刻印…?ああ、左手のこれか?へぇ〜…」


「ま、難しいことはわかんないけど、ウチらとフェリーナは間違いなくダチだよな!夜露死苦!!」


「やれやれ…こんな調子でノリの軽い2人だけど、仲良くしてやって。もちろん私とも、ね!」



アザレアから駆け付けた新たな毒の彩りはフェリーナと和やかに語らっていた。濃紫の短髪に赤いツナギのポソニャ、薄紫の髪をポニーテールに結い緑のツナギを着たペソシャ、濃紺の短髪にケミカルブルーのスーツを着たオトロヴァ──新たな出会いは更に色彩を豊かに昇華させていった。



「あのままじゃ危ないところだったからね。アザレア支部からも来てくれるなんて、助かったよ!」


「ウン、ヨカッタ…3人モ、トモダチ!」


「ああ、もちろんだよ!な、ペソシャ!」


「おう!ウチらアザレア支部も夜露死苦ッス!」


「フフッ、よろしくね。そう言えば私達が行ったときは邪教戦士がいたけど、アザレアはもう平和になったの?」


「ええ。アザレアでは最近、銀髪の少年みたいな姿の女性格闘家が──」


「血…血ノ匂イ…コッチ!」


「リンド!…みんな、追いかけるぞい!」



リンドに連れられ、森の奥へと進む。鬱蒼と繁る森の深き碧が暗き闇を紡ぐ中、ヒイラギが独り佇んでいた。闇夜の暗殺者が纏いし滅紫の閃光は一瞬にして魔物達の御霊を虚空へと消し飛ばしていた。



「哀れなる魑魅魍魎よ。命に人獣の区別無し…」


「貴女は…ヒイラギ!」


「ヒイラギ?たしかカストルの本拠地に急に現れた奴か…こうして見ると只者じゃなさそうだぜ…」


「そやで。トリッシュ姉ちゃんとリタ姉ちゃんがいてなかったときに騎士団領で会った暗殺者や。ホンマに危ない人やで…ネイシア姉ちゃん、下がっとってな!」


「貴女だけは近付かせません!ネイシアお姉様に触らないで!」


「ヒイラギさん…修羅の道を行く貴女がその業を漱ぐことは無いでしょうか?天は御許しになります。どうか悔い改めてください…」


「…己の矮小さを神の名を謳う綺麗事の外殻で匿うか…無益也」


「そんな…綺麗事だなんて言わないでよ!ネイシアは貴女のことを想って手を差し伸べてるのに!」


「姉貴の言う通りだ。ネイシアの譲れない信念であって、綺麗事なんかじゃねぇ!!」


「ネイシアを狙ってるのか…君は何が目的なんだ?返答如何では僕にも考えがあるが…」


「……」


「チッ、だんまりかい。話し合いにはなりそうもないね…アンタ達、遊んでやりな!」


『ウイィッス!』



飛びかかるヒイラギを毒の彩り達が迎え撃つ。ポワゾンの指揮のもと、形振り構わずに群がり袋叩きの様相に持ち込まんと試みるものの、目にも止まらぬ速さで翔び回るヒイラギはいとも簡単に陣形を乱していった。



「オラァ!くらえぃ!」


「ビアー、そっちに行ったのだ!」


「了解!…って、もう向こうに行った!?」


「ケッ、コイツ速すぎるぞなもし!」


「困りましたね…このままではダメージを与えられません…」


「おそがい奴だがや…イオス、危ねぇ!」


「えっ!?キャ〜〜ッ!!」



ガシッ!



「イオス!!」


「クッ…!」



凶刃に襲われていたイオスの前に飛び込み護るのは冥の紫、リタだった。ブーツで蹴りを見舞い、贄を喰らわんとしていた滅紫の凶気を纏ったヒイラギの拳を間一髪で食い止めた。



「間に合ったぜ…イオス、怪我はないか?」


「リタちゃん…ありがとう…」


「どんな理由があるかは知らないけど…大切な仲間を殺すなんて、俺が絶対にさせない!覚悟してもらうぜ!」


「……!!」



眼前の脅威に挑む決意を固めた冥紫の騎士は滅紫の暗殺拳士に黒く冷たく光る銃口を向けた。ヒイラギは自身に群がっていた毒の彩り達からリタの1人だけに標的を絞る。リタは平時と変わらぬ平静を保ちながらも、胸の内には愛する者達を脅かす者へ立ち向かう闘志を熱く燃え上がらせていた。



「シャドウバレット!」


「…滅!!」



翔びかかるヒイラギは手刀の一薙ぎで冥紫の銃弾を切り裂きながら頭上へ奇襲をかける。銃身で辛うじて阻めたが、リタは額に冷や汗を浮かべ、顔には焦りの色を滲ませた。



(クソッ、なんて速いんだ…一瞬でも見落としたらやられる…!)


「リタちゃん…」


「ネイシア、今はリタに任せましょう。貴女は私達が絶対に守ってみせます」



モニカの言葉を受け、ネイシアは渋々ながら後へ下がった。自らの身を以て滅紫の凶刃の恐怖を味わったからこそ、その真っ只中に立たされるリタの身を案じるばかりであった。



「シャドウバレット!」


「フン…」


「そら、もう1発!オマケにもう1つ!」


「クッ…!」



リタの闘志がどんどん熱を帯びていく。畳み掛けて3発続けての連射にヒイラギも腕で直撃を防ぐのが精一杯だ。土埃が舞う中で冥紫の銃撃によろめき、地に手を着いてリタを睨み付けた。



「へぇ、リタやるもんだねぇ!あたいの国の自警団の男どもに爪の垢でも飲ませたいよ!」


「リタさん、さすがね…やっぱりウチの小隊に欲しい…」


「あら、イレーヌさん、リタさんはわたくし共の一員ですから、そうはいきませんわよ?」


「フフッ、冗談よ。貴女方の軍としてもルーシーさん個人としても、リタさんは大切な方ですものね♪」



勇猛に戦うリタの姿に見守る仲間達の心も次第に高鳴っていく。自らの命の危機を顧みず脅威に挑むリタの勇ましい背は仲間達に勇気をもたらしていた。



「リタちゃん!真上なのである!!」


「…デスサイス・サマーソルト!」


「…!!」



リタの蹴りとヒイラギの蹴りが空中でぶつかり合い、冥紫と滅紫の閃光が宙に舞って弾け、森の暗緑の影を妖しく彩る。華やかに艶やかに、2人の戦いは蒼々と繁る枝葉と共に、見守る者達の心をも揺さぶった。



「ああ…素敵…熱情の赤、平静の青、2つが交わる紫が似つかわしいわ…リタさん、なんて美しいのかしら…」


「トック…なんかビアリー様が興奮してんだけど…」

「う、うん…ウチらは何があってもビアリー様を見守るべき、だよね…?」


「ヤート、トック、お喋りしてる場合じゃないよ。奴の動きが機敏になってきた…!」


「リタ様〜!負けないで〜!ウチの王子様〜!」


「やれやれ…イオス、すっかりリタにメロメロだがや……」



リタに負けじとヒイラギは次第に気を昂らせていく。暗緑の影に溶け込んだ闇夜の拳が殺めた者の怨嗟の唸りを纏い、遂にリタに牙を剥いた。



「とうッ!」


「グッ、しまった…!」


「リタちゃん!ダメ…私が助けないと…!」


(な、なんだ…?この傷、すごく疼く…右腕に力が、入らない…)


「ネイシア姉ちゃん、前に出たらアカン!ホイホイ狙われに行ってどないすんねん!!」


「怖イ…アノ人、強イ殺意ヲ感ジル…」


「リンド、大丈夫よ。リタは冥の精霊プルートの加護を受けているから、きっとこの脅威にも打ち勝てるわ」


「これが闇夜の暗殺拳か…なかなかヤバそうだぜ…」



一閃を受けたリタの右腕に滅紫の怨気が揺らめいている。が、リタはネイシアの心配を尻目に平静を保ったまま悪戯っぽい表情を見せている。対するヒイラギも真正面に向かい合うが、追い討ちを見舞うこともなく、構えを解いて静かに佇んでいた。



「リタとやら…冥の彩を持つ者よ。汝が闘技、疾風迅雷の如き鋭さよ。見事也」


「ヘヘッ…名高い暗殺者様のお眼鏡に適って光栄だぜ…」


「実に解し難し。汝ほどの者、烏合の衆の一端と成りて何になろうぞ?」


「悪りぃな…あんたには理解出来ないかもしれないけど、この仲間達は…俺のかけがえのない大切な居場所なんだ!」


「志を共にする群の一端と成る道を歩むか…其が汝の信ずる道なれば、強いて止めはすまい。もとより我と汝は道を違えておる故…」


「ハハッ…暗殺者様は随分とお喋りなんだな。そうやって俺に余裕かまして口を滑らせても知らないぜ?」


「…修羅は未だ終わらぬ…いざ!」



ヒイラギは再度構えをとり、リタもそれに応えるように銃を構えた。何故か2人は力を交えることに一切臆することなく、寧ろ嬉々として対峙しているようにも見えていた。



「ヒイラギ…ネイシアと戦うときと雰囲気が違うように見えます。リタが力を振るうことを歓迎しているような…」


「奴なりにリタの実力を認めているということだろう。アイツと互角に渡り合えるとは…なかなかやるな」


「うん!リタはカッコいいし強いよ!リタはわたしの王子様だもん♪」


「コレットちゃん、抜け駆けずる〜い!リタ様は渡さないよ!ああ…とっても素敵♪」


「そうね、コレット、イオス。私もイレーヌの気持ちがなんとなくわかるわ。騎士団に入っても活躍出来そう…なんて言ったらルーシーに怒られちゃうわね♪」


「純粋な力だけではないと思うわ。ヒイラギの力がリタの冥の力に共鳴している…2人の周囲の気の流れ、異常なほど強くなってるわ!」


「私はよくわからないけど…ヒイラギの力はリタの力に似てる存在ってこと?」


「そうよ、エレン。ヴェレーノ・ノーヴェの皆が毒の力で共鳴し合ったように、私達それぞれに共鳴する力が存在するのよ。それにしても、こんなに精霊の気が増大するなんて…凄まじい畏怖を感じるわ!」



2人の彩りの気が辺りを支配していく。リタは傷を負う度に心身が高揚していく感覚を奇妙に感じながらも、それを不思議な程自然に受け入れていた。



「…ヒイラギ、たぶん次で最後だぜ…覚悟してくれよ?」


「此、修羅の剣也…参る!!」



滅紫の殺手が無数の突きを見舞う。あまりの速さに肉眼では確認出来ない。確認出来るようになる頃にはリタの身体に滅紫の傷痕として居座っていた。



「此迄哉。冥府の闇、汝の在るべき地に──」


「そこだッ!!」



リタは不意を突き、ヒイラギを宙へと蹴り上げる。着地した後に反対回り──踵から蹴り出しての宙返り蹴りを1発──最後は虚空へと翔び上がり、冥紫の気に包まれた踵落としで一閃した。



「これでとどめだ!デスサイス・スプラッター!!」


「……グウゥッ!!」



ヒイラギは激しく地に激しく体を打ち付けるもすぐに立ち上がる。リタは尚も戦わんと銃を握り直すが、ヒイラギの瞳には既に戦意はなかった。



「…見事也。いずれまた会おうぞ…」



ヒイラギが姿を消すや否や、ネイシアが眼に涙を溜めながらリタに駆け寄る。リタは何も言わずネイシアを抱き締める。ネイシアの愛に満ちたピンクの彩りが冥紫の騎士の傷を優しく癒していた。




To Be Continued…

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