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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter4:邪教戦士篇前編
59/330

第59話『碧に潜む魔爪』

シリーズ第59話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

ルーシーは水の精霊ウンディーネの試練を乗り越え、水のアクアマリンを手にした。新たな力を得た一行は再度スプルース国に戻り、森林に潜む魔物の巣窟を探っていた。



「よし、次はこの洞穴を探ってみるのである!」


「暗くてよく見えないね…懐中電灯を使って──」


「ダ、誰?…ココ、ワタシノ家…!」


「キャッ!どちら様ですか!?」



洞穴からルーシーの前に飛び出たのは小柄な少女だった。ボサボサに伸びたダークブラウンの髪、薄緑の肌、口元に光る鋭い1対の牙、髪から覗く2本の角──古びた布切れを身に纏うその容貌は凡そ人間とは思えないものであった。



「ワタシ、リンド。ココ、住ンデル」


「住んでるだって…?ご両親はどうしたのかな?」


「イナイ。オ母サン、ワタシガ子供ノ頃、死ンダ。オ父サン、人間ニ殺サレタ…」


「そうかい…まだ小さいのに、そりゃ気の毒なこったねぇ──」


「待ってください。“人間に”殺された、って…どういうことですか?」


「うむ…確かに見たところ人間とは思えんのう。お前さんはどんな民族なんじゃ?」


「…ワタシ、オ父サン、ゴブリン。デモ、オ母サン、人間…」



ケイトとステラの問いかけに対しリンドの口から俄には信じ難い言葉が飛び出す。ゴブリンと人間のハーフという異形の存在を図らずも目の当たりにし、一行は言葉を失った。



「アムール様…これも天地の理なのでしょうか…?」


「その通りです、ネイシア。リンドさんも我々と違わず、天地の理の下に産まれ、生きているのです。その証も、ほら…」


「ホントだ…祝福の証じゃん!」



リンドの左手にはゴブリングリーンの紋様が印されている。生きとし生ける者として、彩りに導かれし者として、リンドは確かに其処に生きていた。



「リンドと私達と同じ“仲間”ね。それなら尚更こんなところに捨て置くわけにはいかないわ」


「ティファの言う通りね。ここに1人でいるのは危険よ。私達と一緒に──」


「その必要はない。退け」



ヴィオはエリスの言葉を遮り、ダガーをリンドの左胸に突き付ける。その瞳には一切の慈悲が無く、冷やかな敵意だけが表出していた。



「ヒイッ…イ、イヤダ…イヤダ…!」


「お姉ちゃん!待って!やめてよ!!」


「ヴィオ、貴女という人は…何故不要な犠牲を出そうとするのですか…?」


「モニカの言う通りだ!リンドは俺達の敵じゃないだろ!?考え直せ!」


「一瞬で終わる。悪く思うなよ──」



リンドが恐怖に戦く様はおろか仲間達が口々に止めるのも微塵も気に留めず、ヴィオが突き付けたダガーを胸に突き刺そうと力を入れた刹那──不意に身体が前のめりに倒れる。リンドは右側に吹き飛び、ダガーの切っ先は標的とは非なる者に否応なしに向けられた。



ザクッ!



「クレア!?お前…!」


「ヴィオ…やめ、て……」



ヴィオは前方へ傾いていくのを抑えることも出来ず、ダガーはクレアの右肩に突き刺さった。銀色の紋様が光る左手で鮮血が滴るのを押さえながら、確固たる意思を秘めた瞳で真っ直ぐにヴィオを見つめていた。



「クレア、何の真似だ?我らが対峙すべき魔の血を引く者に慈悲を与えるのか!?」


「あたしは…黙って見ていられなかったの。リンドだって祝福の証を持って、こうして厳しい環境で1人で生きてるんだよ?アムールさんの言う通り、リンドは生まれるべくして生まれたんだよ?確かにあたし達は魔物退治に此処に来たけど、あたしはリンドとは解り合える気がする。リンドと…仲間に、なりたい。互いに理解し合いたい気持ちがあれば種族や血脈なんて関係無いよ!」


「クレアお姉様の言う通りですわ。私達が戦わざるを得ないのは本能のままに暴れ、理解し合えない“魔物”です!ヴィオお姉様、お願い…リンドさんを助けて!」


「わたしもリンドと仲良くしたいよ!ヴィオ、お願い…!」


「…好きにしろ。リンド、悪かったな…」


「……」


「そんなことよりクレアの傷を治さないと!ネイシア、手伝って!」



リーベとコレットの説得もあり、ヴィオは刃を納めた。カタリナとネイシアがクレアの治療をする間、恐怖に震えるリンドに一行は優しく寄り添い、精一杯の誠意を以て向き合った。



「リンド…恐い思いをさせてしまいましたね。ごめんなさい…」


「ウウン…モニカ、イイ人。謝ラナイデ…」


「ヴィオの奴…どうも敵対視する奴に対して見境無いきらいがあるね。特にリンドは手を貸す余地があることくらい解るだろうに…」


「エレンの言う通りさ。ったく、あたいらが見張ってなかったら何人殺してたか知れないよ」


「大丈夫。危なくないように私達が見ているからね。安心して私達に着いてきてください」


「ミリアム…アリガト…」



紆余曲折ありながらもリンドを加えた一行は大きな湖に辿り着いた。が、その澱んだ水面には黄緑と紫が入り交じり、耐え難い臭気を放っている。



「酷い…どうして、こんな…」


「リデルちゃん…酷いでしょう?この湖に魔物が住み着いてしまって、私の手に追えないほど水が汚染されてしまったの…」


「そうだ!魔物の瘴気ならアムールさんの聖なる力で浄化出来るんじゃないです?」


「ケイトさん…すみません。これほどの瘴気では浄化出来ません…」


「そっか…ロビン、アンタの乗り物で行けそう?」


「う〜ん…仮に私の船や潜水艦で乗り入れたとしても、恐らく船体が溶かされてしまいます…」


「こりゃひでぇや…うわっ、なんだ!?この水、肌がピリピリする…痛ぇッ!!」


「トリッシュ姉ちゃん、無闇に触ったらアカンて!ほい、解毒剤、手に塗るで?」


「アミィ、サンキュー…ここはさすがにパスするか…」


「でも、俺達が手を出せないからって放っておくわけにもいかないぜ?どうする?」


「…ワタシ、入レル。ワタシガ魔物、ヤッツケル」


「リンド…僕達の代わりに行ってくれるのかい?」


「ウン。ワタシ、オ手伝イシタイ。オ願イ!」


「うん、ゴブリンは環境適応能力に優れた生き物だから、きっとこの中にも入れるわ。私は賛成よ」


「いいえ。わたくしは気乗りしませんわ。こんな不安定な地形にリンドさんを単独で突撃させるのは危険過ぎます!誰か支援出来る人がいればいいんですけど…」


「ルーシーさん、あたくしの親衛隊、ヴェレーノ・ノーヴェを呼びますわ。彼女達ならこの毒氣にも対抗出来ると思います。総動員でリンドさんをお守り致しますわよ♪」



ビアリーは紋様の色で彩られた10本の笛を矢継ぎ早に吹き鳴らす。毒の彩りの戦士達は程無くして駆け付け、敵対していたペーシュ国での決戦以来の勢揃いを果たした。



「ビアリー様、お呼びでしょうか?」


「ええ。この湖に潜り、この娘と一緒に魔物を駆逐してくださるかしら?」


「は〜い!ウチはグィフトだよ。よろしくね!」


「ワタシ、リンド。ヨロシク…」


「スラッジ、ウチらの抗体で大丈夫そうかな?」


「おう!この程度なら造作もないぞなもし!」


「よ〜し、準備完了なのだ!ビアリー様、御命令を!」


「ええ、では…湖に総員突撃!魔物を殲滅なさい!!」


『はッ!ビアリー様の仰せのままに!!』


「リンド…気を付けてね。あたし、待ってるよ。リンドはあたしの大事な友達だからね!」


「トモ、ダチ…クレア…アリガト!行ッテクル!!」



毒の彩りがリンドと共に湖へ飛び込んでいく。魔に浸食され澱んだ水の中の視界は暫く濁っていたが、徐々に視界が開けていき、魚の姿をした魔物が群れを成す様相を捉えた。



「いたいた!フェトル、どれくらいいるかな?」


「はい、現時点で確認出来るだけで30数匹は居ます。後方の巣穴から増援の可能性もあるでしょう」


「フッ、これだけウジャウジャいれば楽しめそうだね。アンタ達、行くよ!」


『ウイィッス!!』



魔の瘴気に澱んだ水中で毒の彩りが躍動する。嘗ては敵として一行を脅威に陥れた者達が心強い味方として共に魔に立ち向かっていく。リンドも父親譲りの鋭い爪と牙を武器に、母親譲りの優しい心を胸に、魔物の群れに飛び込んでいった。



「イオス…ワタシ、手伝ウ…ガウウッ!!」


「リンド、ありがとう!くらえ、ジャンクスマッシャー!」


「ガウ…アッ!!」


「オラァ!リンドに手出しさせないのだ!その腐った脳天に一発ぶち込んでやるのだ!」


「テメリオ…アリガトウ…」



ポワゾン達はリンドと協力し次々と魔物を撃破していく。が、巣穴から際限無く沸き出てくる。水中での戦闘ということも手伝い、次第に疲弊していった。



「うぅ〜…また増援…?ラチがあかないよ…」


「大丈夫だよ、イオス!こんなこともあろうかと思って、賢いトックちゃんは既に手を打ってま〜す♪しばしお待ちを!」


「うぬ…何をするにしても早めに頼むがや…このままじゃ消耗戦だがや!」



一方、一行が待つ湖畔──3人の正体不明の女性が何処からともなく現れ、唐突な乱入に一行はただただ困惑するばかりであった。



「うわっ!?なんだい、あんた達!?」


「ちょ、ちょっと!悪いけどこっちは急いでるんだよ!」


「トックに頼まれて来たんだ。今はこの湖の中にいるんだろ?」


「まあまあ、一呼吸しろって。これを見せた方が話が早いじゃん?」



3人の左手にはアマランスパープル、アーセニックグリーン、ケミカルブルーの紋様が彩られている。祝福の証の色彩は3人が語るべきものを言葉以上に物語った。



「うん、つまりアンタ達も毒の彩りの戦士ってわけだね…行って良し!」


「赤髪の姉さん、ありがとよ!行くぞ!!」


『せーの!!』



3人は躊躇い無く湖に飛び込んだ。一方、水中の軍勢は焦躁の色が濃くなっており、押し寄せる群れに劣勢を強いられていた。



「ケッ、さすがにちょっとキツくなってきたぞなもし…」


「ワタシモ…疲レタ…」


「トック!何か策があるって口から出任せだったんじゃないだろうね!?」


「ヤート、そんな怒らないでよ…仲間割れしてる場合じゃないじゃん…あ、来た来た!お〜い!こっちこっち!」



3人が後方から泳いで救援に駆け付けた。ポワゾンとも見知った間柄であるらしく、3人を視野に映したポワゾンは自然と表情を緩めていた。



「ポワゾンの姉御、お疲れ様です!」


「ポソニャ、ペソシャ、オトロヴァ…よくアザレアから来てくれたね!ご苦労さん!」


「なるほど。目には目を、こっちも増援ってかい。よくあんな短時間で根回ししてたもんだね!」


「うん!助けてくれると思ってメールで連絡しといたんだよ♪トックちゃんえら〜い!トックちゃん天才♪」


「はいはい天才天才。さあ、正念場だがや!」



3人を加え、一気に攻勢に出る。増援の3人も戦いの中で自然とリンドに打ち解け、“戦友”として手を取り合っていた。



「よっと!リンド、大丈夫かい?」


「オトロヴァ、アリガト!」


「リーダー、巣穴に卵塊を確認しました。それを破壊すれば完全に駆逐出来ます」


「ありがと、フェトル。よし、全員卵塊に集中砲火!根絶やしにしちまいな!!」


『ウイィッス!』



13色の毒の彩りとリンドのゴブリングリーン、14の彩りが一瞬にして湖に巣食う魔の根を喰らい尽くした。魔の瘴気が去った湖から帰還し、一行と毒の彩り達が勝鬨を揚げる中、リンドは何も言わず友であるクレアと歓喜のうちに抱き合った。




To Be Continued…

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