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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter4:邪教戦士篇前編
58/330

第58話『水青の麗嬢、気高き旋律』

シリーズ第58話目です。どうぞお気軽にお楽しみくださいませ!!

ルーシーはイレーヌとの兵棋演習に挑み、兵を大切に想う軍師としての才を見出だされ、“勝利の証”として精霊の息吹を宿した鍵を譲り受けた。スプルース国から一度引き返し、ロビンの船に乗り込んだ一行が向かう先は──



「ラピス洋とラズリ洋が交差する海域か…つくづく世界は広いのう」


「ヴィオさん…ごめんなさい。ザラームさんを送り届けるのがどんどん後回しになってしまって…」


「構わん。スプルースには船ですぐ戻れる距離だし、ルーシーは依頼人の1人だからな。依頼人の意向なら従うまでだ」


「そうだよ〜!ルーシーさん、がんばってね!」


「兵を大切にする貴女なら、きっと精霊の試練も乗り越えられるわ。大丈夫よ!」


「ザラームさん…イレーヌさん…」


『みなさん、もうすぐ目標地点に到達します。降りる用意をお願いしま〜す!』



蒼く冷たいラピス洋と青く穏やかなラズリ洋──双子の海と称される海の水が重なり合い瑠璃色に染まる中央、双子の海の境目に水の神殿が静かに聳え立っていた。



「ここが水の神殿かい…何度来ても神殿ってのは厳かなもんだねぇ」


「水の精霊ウンディーネは海の精霊ネレイドを始め、水の関わる自然を司る精霊の母でもある精霊よ。御目通り叶うなんて光栄だわ」


「ルーシー、美しい貴女の美しき意思、今度は精霊の試練で見せてください」


「フフッ、美しいだなんて…モニカさんたら、おだてても何も出ませんわよ?頑張りますわ!」



モニカの言葉に少し緊張が解れたルーシー──彼女の紋様と鍵が同調し、扉がゆっくりと開く。屋内に居るにも拘わらず、あたかも水中に居るかのようにふわりと身体が浮き上がるような錯覚に陥っていた。



「あら…建物の中なのに何故か涼しく感じるわ…」


「そうだね、ビアリー。空気が冷たい。これも水の精霊の力なんだね♪」


「そうですわね、カタリナお姉様♪…ルーシーお姉様、頑張ってください!」



リーベの声に穏やかに微笑んだ後、ルーシーは意を決して祭壇へと歩を進める。一行の軍師として自信を着けた彼女は海原よりも深い叡知と荒波よりも強い意思を秘め、精霊の試練へ挑まんとしていた。



「我が名はルーシー。水の精霊ウンディーネよ。我が呼び声に応えよ。我に道を示したまえ!!」


(ルーシー…俺はいつだって君を信じてる。絶対勝てるぜ!)


「ルーシー、来るわ!上からよ!」



イレーヌの言葉で視線を上に移すと、天井から雨粒のような水が次々に溢れ、祭壇に降り注ぐ。水の精霊は澄み切った水色の肌に透き通るような長い髪、三ツ又の槍を携えた美麗な女性の姿をしていた。



『私はウンディーネ。我が彩りを受け継ぐ者よ、よくぞここまで辿り着きましたね』


「ウンディーネ様。恐れながら、精霊の試練をわたくしに受けさせてくださいませ!」


『ええ、喜んで。貴女の力、ここに示してご覧なさい!』



ウンディーネが槍を高々と掲げると、青々とした水の柵が激流と共に現れ、ルーシーと仲間達を隔てる。辺りを包んでいた空気の冷感が増し、肌に突き刺すように鋭くなる。柵の外見は水であるにも拘わらず、触れると鋼のような強固なものであった。



「…ん?トリッシュ姉ちゃん、なんや顔色悪いで?」


「…ゴメン、ウンディーネを見てたらアルニラムを思い出しちゃった…姉貴が拐われたときの…トラウマが…」


「トリッシュ、しっかりして!私、ちゃんと側にいるよ…?」


「やれやれ…確かに似てるけど、今はルーシーを応援してやらなきゃ!ほらほら、シャキッとしてよね!」


『さあ、貴女の力、試させていただきます。始めましょうか!』


「はい!!」



槍を右手に携え飛びかかるウンディーネに対し、美しく細い指で竪琴を爪弾く。美麗で繊細な旋律はルーシーの意思の具現たる美しき清流となって水の精霊に挑みかかっていった。



「スプラッシュロンド!」


「よし、一発目!ルーシー、その調子!」


「クレア、まだ油断出来ないわ。気の流れが全く変わってない…!」



清流の旋律を受けたものの、フェリーナの言葉通りウンディーネは顔色1つ変えていない。涼やかな笑みを浮かべたまま、ルーシーに槍の矛先を向け、余裕を見せつけていた。



『まだまだ、こんなものではないでしょう?貴女の内なる力、解き放ってみせなさい!』


「承知しましたわ。やってみせます!」


『その意気です。では、水氣の守り、破れますか?参ります!』



ウンディーネは空いていた左手に水の盾を造り出す。守勢に立たされたルーシーの様相に水の柵に隔てられながら見守る仲間達も瞬く間に表情が強張り、戦々恐々という様相だ。



「チッ、どうも力押しだけじゃ勝てないっぽいねぇ…」


「当然だ。相手はルーシーの力を司る精霊だぞ?押しの一手でどうにかなるとは思えんな」


「押したらダメなの?う〜ん、どうしたらいいんだろうね…?」


「コレットちゃん、大丈夫ですよ。聡明なルーシーさんなら、きっと打開する策があるはずです!」



ネイシアの言葉に皆が次々に頷く。仲間として、軍師として──祝福の証の彩りのもとに集いし戦士達の間には確かな信頼が築かれていた。だが、仲間達からの信頼を抱きながら試練へと立ち向かうルーシーは容赦無く襲い来るウンディーネの槍の前に劣勢を強いられていた。



「ルーシー姉ちゃん、危ない!」


『はぁッ!!』


「クッ…!」


「ルーシー!クソッ、手を貸せないのが歯痒いぜ…!」


「リタ、落ち着いて。今はルーシーを信じてあげるしかないわ。間違いなく手強い相手だけど…」


「そうだね、エリス。恐らく僕達でも渡り合うのは困難だろう。あのルーシーが苦戦するだなんて…」



仲間達の表情が苦悶に澱む中、ルーシーの脳裏には“次なる一手”のビジョンが朧気に浮かび上がってきた。先の先まで見透し、強き意思のもとに実行する。軍師として培った知略と閃きの火種が胸の内で燃え上がっていった。



(…盾を持つことによって装備の重量が増し、敏捷性を欠いている筈…次に懐に飛び込んでくるタイミングで──)


『せいやぁッ!!』


「ハイドロワルツ!」


『ううッ!』



ウンディーネを激流の調べが強襲し、祭壇に向かって勢い良く吹き飛ばした。見守る仲間達も守勢に立たされていたルーシーの一矢に一気に沸き上がった。



「よ〜し!今のは効いたのである!」


「ルーシーさん、これからが本番ですよ!頑張って!」


「…なかなかやるな。さすがはこの一団随一の策士だ──」


『お見事です。ならば…これはどうでしょう?』


「…?…スプラッシュロンド!…そ、そんな…!?」


「ルーシー、どうした!?何が起こったってンだい!?」


「ルーシーお姉様!ハープの弦が…!」



水色の彩りの力──その具現たる音色は響かない。竪琴の弦を水の膜が覆っていた。どれほど力を込めて爪弾いても青き膜は破れない。旋律を奏でるのを妨げられたルーシーは防戦一方となり、槍の連撃に打ち据えられるばかりとなった。



「ルーシー…どうしたらいいの…グスッ…」


「カタリナ、弱気になっちゃダメだよ!必ず打つ手はある!」


「エレン、そんなこと言ったって…技が出せなきゃどうしようもないよ!?あたしも銃がなきゃ何も出来ないもん…あわわわ…」


『貴女とあろう方が、万策尽き果てましたか?これで終わりです。覚悟!!』


(まだ…まだ策は尽きていません…この一手に賭けます…!!)



ガシッ!



「ふえ!?ルーシー…どうしたの…?」


「あ…あの…ハープ、が…」



コレットとリデルの戸惑いへの同調は瞬く間に広がった。ルーシーの咄嗟の一手に一行は目を疑う。不意に両手に携えた竪琴を前に突き出し、盾に成り代わらせていた。万が一にも自身の得物が破損する危険性を孕んでいる行為だ──が、そんなリスクさえも省みず、苦境に立たされた現状を打破する可能性を模索していくルーシーの姿は勇ましささえ感じさせた。



『な…なんということを!?』


「たとえ策が尽きようと、勝ちを見出だす光明がある限りわたくしはそれに賭ける道を選びます。それがわたくしを信頼してくださる皆さんに報いる術なのです!!」


『あっ!?…水の膜が…!』


「フフフッ…ウンディーネ様、わたくしの策に填まりましたね!」



一か八かの一手で一気に攻勢を握られ、ウンディーネは思わず後退りする。彩りの戦士としての決意、軍師としての確固たる意思と実行力が試練に立ち向かうルーシーの背を力強く押していった。



「やった…よ〜し!ピンチからチャンスになったぜ!」


「Yeah!!ルーシー、ブチかましてやれ!!」


「ルーシー!今こそ貴女の力を解き放ち、真なる奥義で勝利の一手を!!」



リタ、トリッシュ、モニカの熱き声援を受け、ルーシーは心を高鳴らせる。水色に彩られた左手の甲から伝わった清浄な彩りに染まった指を弦に走らせる。ルーシーが奏でた旋律はそれまでとは違う勇猛な音色だった。今にも壊れてしまいそうな程か弱い音色が勇ましさを伴い、力強い意思へと昇華していった。



「紡がれるは激流の貴き旋律!ヴォルティーチェ・レクイエム!!」


『クッ…!!…見事、です…』



ウンディーネを捕えて荒々しく畝っていた巨大な渦潮が静かに収まっていく。畝りに呑まれていたウンディーネは居直るや否や槍を納め、穏やかに微笑みかけた。



『漸く掴みましたね。どれほど美しい音色でも、優美なだけでは単調です。時に聴く者が驚嘆するような勇猛さを要することもあるのですよ』


「ウンディーネ様…御厚意、痛み入りますわ」


『我が力の証、水のアクアマリンを貴女に授けます。私も参りましょう。貴女と共に、祝福の彩りのもとに…』



試練に打ち克ちし者の証たる水色の宝玉が中央に据わり麗しい煌めきを放つ指輪がルーシーの右手の薬指に彩られた。程無くして隔たりとなっていた水の柵が消え、仲間達がルーシーを安堵と歓喜の輪に引き込んだ。



「さすがはルーシー。素晴らしい戦いでした!」


「ええ、モニカさんの仰る通りですわよ。優雅で華麗で、甘美な旋律にあたくしも昂ってしまいましたわ」


「モニカさん、ビアリーさん…ありがとうございます♪」


「わ〜い!ルーシーが勝ったよ!やったね、リーベ♪」


「はわわぁ…ルーシーお姉様、なんて美しいのでしょう…素敵でしたわ!」


「大自然の母なる水の精霊ウンディーネに勝つなんて…ルーシー、貴女はすごい人だわ。ウンディーネの力を受け継いだのは必然ね」


「うむ、見事にネイシアの言う通りになったのう!あんな打開策を閃くとは流石のルーシーじゃわい!」


「よかった…ルーシーさんならきっと大丈夫とみなさん信じてました。天よ、感謝致します…」


「よっしゃ!スプルース国の魔物退治もこの調子でガンガンいこうじゃん!な、リデル!」


「はい!あの…私も、頑張ります…!」


「あたくしも一肌脱ぎますわ。全ては祝福の彩りのもとに運命を共に歩む道…それをルーシーさんが指し示してくだされば心強いですわね♪」


「うん、ビアリーの言う通りだな。ルーシー、軍師としてバシッと指揮してくれよ。俺達みんな頼りにしてるぜ!」


「ええ。皆さん、準備はよろしくて?行きますわよ!」


『おおおぉぉ〜ッ!!』




To Be Continued…

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