第53話『Evil Devilfish』
シリーズ第53話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
ペーシュ国国会議事堂にて邪教戦士ジャッロとその配下となっていた毒の彩りのギルド“ヴェレーノ・ノーヴェ”を退け、ペーシュ国の平穏を取り戻した一行。宿のレストランに集結し、依頼を携え訪ねてきた国際警察の2人と向かい合っていた。
「アンジュ、私達への用事とは何ですか?」
「ああ、そうだったね。実はヴェレーノ・ノーヴェ以外にも悪事を働くギルドがいるんだが…どうもその界隈で君達の存在が有名になっているらしいんだ」
「なんだって!?どうして俺達のことを知られたんだ?」
「ジャッロを通して伝わったみたいね。社会のパイプはどこに繋がっているかわからないものなのよ」
「そこで、だ。悪質なギルドの探査を協力してもらいたい。勿論僕達も同行するよ」
「みんな、2人に協力しましょう。精霊の力を正しくのは私達の大切な務めよ」
「うむ、そうするか!しかし、骨が折れそうな仕事じゃのう…」
「心配には及ばないわ。私もアンジュと同じく貴女達の“仲間”ですからね」
「エリスさん…!」
エリスの左手にはシルバーピンクの紋様が印されていた。繊細でありながら凛とした優美な彩りはエリスの彩りの戦士として悪に毅然と立ち向かう意思を体現しているかのようだ。
「では、ザラームを送りにアランチョ国まで向かいながら探査をすることにしましょう」
「我々はペーシュ国に留まり、ジャッロの悪の根が残ってないか調査することに致します。名残惜しいですが、此処でお別れですね」
「ああ、オールお姉様…美しい貴女様との別れは余りに口惜しいです…」
「リーベ、アタシも残念だよ。でも、みんなのおかげで刺激的でホットな時間が過ごせたぜ。ありがとうよ!」
「すごく有意義な体験が出来たわ。彩りの戦士として、アザレア近衛兵として、平和と正義のために今まで以上に誇りを持って戦うわ!」
「私もプロトと一緒に住み良い社会の一助となる科学の発展を目指していくわ。頑張るわよ、プロト!」
「了解しました、マスター。皆様、大変お世話になりました」
「僕も皆に負けずに鍛練に励むことにするよ。では、道中気を付けて──」
「みんな…自分は一緒に行けないッス。一から修行をやり直すッス…」
テリーは俯いたまま、弱々しい声を絞り出して離別を告げる。これまでの旅路で一度も見せることのなかった切り込み隊長の弱気な表情と発言に一行は戸惑いと驚きを隠せない。和気藹々とした雰囲気が一転して皆の表情にも不安が浮かび始めた。
「テリー、どうしたってンだい!?そんな弱気だなんて、あんたらしくないじゃないのさ?」
「あの…テリーさんは…すごく強い人、ですよ…?」
「そうだよ…どうして?あたし達と行こうよ!」
「いや…行けないッス。自分、毒の力に手も足も出なかったッス。みんなのためにも自分の拳を見つめ直す時間が欲しいッス!」
「テリー、それなら僕達と一緒に行くかい?共にアザレアとペーシュを守ろう!」
「先輩…お願いしまッス!」
「キャロルさんが一緒なら安心なのである!お願いするのである!」
「わがまま言って申し訳ないッス…何万倍も強くなって、必ず戻ってくるッス!」
「テリー、アンタが帰ってくるのを待ってるよ。オール達も元気でね!」
「ええ、またいつかお会いしましょう。良い旅を!」
「離れても祝福の証の彩りの道は常に一つ、私達は同じ道を歩むのです。共に天の愛に応えていきましょうね!」
オールらアザレア組の6人と共に琥珀色の拳士テリーも一行を離れた。別れの感傷や余韻に浸る間もなく国際警察のエージェントであるアンジュとエリスを加えた一行は、アランチョ国へと進路をとり、ペーシュ国港に到着した。
「アンジュ姉ちゃんが入ったけど、イケメンが激減してもうたなぁ…」
「うん…寂しくなっちゃったね…でも、わたし頑張るよ!」
「よし、その意気だ、コレット。ところで、ビアリーに服従した毒のギルドはどこに行ったんだ?」
「あたくしの親衛隊詰所に待機していますわ。この10色の笛を吹けば救援に駆け付けてくれるわよ♪」
「いつでも呼び出せるってことなのね?帝国の国家権力は我々騎士団の遥か上を行っているわ…」
「それぞれの紋様の色に合わせて10個の笛があるのですね…きっと彼女達もわたくし達の力になってくださいますわ!」
「そうですね、ルーシー。ロビン、アランチョ国へはどう行けば良いでしょうか?」
「アランチョ国へは船でラズリ洋を渡って、スプルース国を西に横断して、ブルーノ国のガルセク渓谷を越えた先です。もうちょっとかかりますね…頑張りましょう!」
「うわあぁッ!な、なんだお前達は!?」
「船着き場で何かあったみたい!急ごう!!」
「あ、姉貴!?ちょっと待てって!!」
カタリナを先頭に船着き場の騒ぎを聞き付けると、屈強な男達が我が物顔で停泊する船を占拠している。その一団を見るや否や、ロビンの顔色が変わった。
「あなた達は…武装商船団!?」
「おや〜?誰かと思えば、天下のキャプテン・ロビン様じゃないッスか〜?」
「ケッ!海賊としての誇りを捨てて良い子ぶりやがって!身の程を知れってんだよ!」
「リーダー!裏切り者のキャプテン・ロビンが現れやがったぞ!!」
武装商船団のリーダーが肩を怒らせながら一行の前に現れた。鮮やかな赤い髪を長く伸ばし、ロビンに似た海賊風の衣装に身を包んでいる。自身が従えている男達に勝るとも劣らぬ長身であり、敵意に満ちた眼差しでロビンを見下ろしてきた。
「ロビン、呆れたもんだねぇ…あんたが名ばかりの海賊に成り下がっちまうとは…」
「ポルポ…もう昔の私ではないのです。ここからすぐに退きなさい!」
「まあ、こっちだってそう言われて立ち退く気は更々無いさ。互いにこれを使わない手はないだろう?」
ポルポの左手に彩られたオクトパスレッドの紋様。それに呼応するかのように巨大な赤い触手が背後から次々と現れ、怪しく蠢きながらゆっくりと前へ伸びてきた。湿り気を帯びた触手は辺りの物を巻き込みながら誇示していた。
「わわわっ!?何これ!?気持ち悪〜い!」
「なんだい、何かと思えばタコじゃないのさ!見てな、コレット!引きちぎってパエリアにしてやるよ──」
「待ってください!コンテナがぺしゃんこになっちゃいました…すごい怪力です!」
「馬鹿だねぇ!タコは鮫を喰うことだって出来るんだよ!」
「チッ…ケイトが止めてくれなきゃ、あたいも危ないところだった…」
「悪魔の魚の力……なんて禍々しい力なの…」
「触手に絡めとられたら一巻の終わりね…不用意に接近出来ないわ──」
「アムールさん、ティファさん、下がってください。私1人でやります!」
ロビンは意を決してポルポと対峙する。その瞳には彩りの戦士として戦いに挑む覚悟が爛々と燃えていた。
「へぇ…やるのかい?甘ちゃんのあんたが逃げずにアタシとサシでやろうっていうのかい?」
「昔の私とは違うんです……何度も同じことを言わせるなッ!栄養過多の脳筋女!!」
「フン、言ってくれるじゃないか…口の利き方のなってない子にはしつけが必要だねぇ!覚悟しな!!」
「ポルポ、お前にだけは負けない!!」
「そういうこった!あんた達、手出しするんじゃないよ!」
『ウッス!!』
ロビンとポルポは睨み合いながら剣を抜く。暫し互いに構えたまま様子を伺うばかりであったが、痺れを切らしたポルポから飛び込み、1対1──真っ向勝負の火蓋を切った。
「オラァ!!」
「大振り過ぎだ!それっ!」
「フン…元気なのは結構だけどさ、周りをちゃんと見てるのかい?」
「いやッ!そんな…!」
「キャッ!助けてッ!!」
「カタリナさん!リデルちゃん!…間に合えッ!!」
慌てて後方に剣を投げ、カタリナとリデルを捕えようと伸びた触手を間一髪で切り捨てる。弧を描いて手元に戻った剣を構え直したロビンの瞳には2人を悪魔の魚の脅威から救い出せた僅かな安堵と共にポルポに対する憤りと憎悪とが赤黒い渦を巻きながら沸き上がっていた。
「おやおや、触手があんたの仲間の方に伸びちまった。うっかりしてたよ、アハハッ!」
「テメェ!よくも姉貴とリデルを……ふざけんじゃねぇぞコラァ!!」
「トリッシュさん、奴は貴女の代わりに私が裁きます。許さない…いい加減にしろッ!!」
怒りが頂点に達したロビンは昂った感情の赴くままに飛びかかる。無色透明の彩りは少々乱暴で力任せ、理性を保てているかも疑わしいところだ。
「はあっ!うおらぁッ!!」
(フッ…頭に血が昇ってる…このままこっちだけを見ていれば…)
「あっ!ロビンお姉様の背後に不気味な魔の手が…!」
「任せろ!シャドウバレット──」
「おっと!そうはいかねぇぜ?あの嬢ちゃんはリーダーのお客様なんだからなぁ!!」
「ロビン、危ない!」
「うわぁっ!?グウッ…」
奮戦していたロビンは悪魔の魚の魔手に捕われた。それを待っていたのか、モニカ達の援護射撃を阻むようにポルポの手下達が即座に取り囲み、ロビンが孤立した様相に持ち込まれてしまった。
「このままではいけない…ロビンを助けないと!」
「モニカ、駄目!アンタも捕まっちゃうよ!」
「むむむ…このままでは手出し出来そうもないのである…邪魔してくる手下を倒さなければ援護出来ないのである!」
「さて、そろそろギブアップしたらどうだい?命だけは助けてやるよ!」
「諦めない…私から負けを認めるなんて、絶対にするものか!!」
「そうかい…意地っ張りで聞き分けの悪い子だねぇ…お仕置きだよ!」
「うああぁぁッ!」
辺りに蠢く別の触手が身動きのとれないロビンを打ち据える。そればかりか手から剣を叩き落とし、ロビンが抵抗する手立てを完全に失わせた。
「そっちがその気ならこっちも本気でやれるってもんさ。アタシの力、思う存分味わわせてやるよ!!」
「クッ…うううっ……」
「お姉ちゃん…どうしよう…怖いよ…」
「チッ、早くなんとかしなければ…ロビンが窒息してしまう!しかし…」
「テリー姉ちゃんがおったら、手下を蹴散らしてでも助けに行くんやろなぁ…なんとか出来んやろか…?」
オクトパスレッドの触手が狂気に駆られたように荒々しくロビンを締め付ける。皆の表情が焦燥に澱む中、クレアが一団に起きたある異変に気付いた。
「あれ…?ねえ、ビアリーがいないよ!?」
「本当だわ…ビアリー、どこに行ったの!?」
「そこまでですわ!覚悟なさい!!」
『掃射ッ!!』
突如として船上に現れた妖艶な皇女はモーブ、ケミカルパープル、ナイトグリーンの彩りを従えていた。3人はビアリーへの忠義のまま、ポルポに向かって彩りの弾丸を放つ。祝福の使命のもとに悪魔の魚の魔手を撃ち落とすことが出来るのだろうか?
To Be Continued…




