第50話『Dirty Suldge』
シリーズ第50話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
ペーシュ国に滞在し、毒のギルドを仕向けたジャッロ、そして彼の後ろ楯となっているプラタノ財団の情報収集に乗り出した一行。裏路地にて毒の彩りを持つスラッジ、グィフトの2人と対峙し、二手に別れて叩く作戦を決行した。ルーティ率いる一団は青鈍色の彩り、グィフトの機敏なフットワークに翻弄されていた。
「やらせませんよ!わ、私が相手ですッ!」
「おおっ!海賊さんだ〜!あなたのこと気になってたんだよね♪カモンカモン!」
「ロビン…頼んだよ!」
ロビンはグィフトに負けず劣らずの軽快なフットワークで食らい付いていく。容赦なく襲い掛かる青鈍色の彩りに対し、全く怯むことなく果敢に挑みかかっていった。
「それっ!えいやっ!」
「それそれそ〜れ♪そちらはお留守〜♪」
「な、なんと!?クッ、不覚をとったのである…」
「キャッ!ふえぇ…痛いよぉ…」
「カシブさん!コレットちゃん!……いい加減になさいッ!」
「あれあれ?怒った?ムカついた?もうちょっと気楽にやろうよ、ね〜♪」
後方の仲間を傷つけられた怒りがロビンの闘争心に火を点ける。解き放った彩りの力が更に敏捷性を増し、モニカとアミィを翻弄したグィフトのスピードを凌ぐほどの速度でアクロバティックな剣術を魅せつけた。
「とうっ!はあっ!」
「よっ!ほいっと!」
「甘い!そこだ!」
「うえっ!?し、下から!?」
ロビンが隙を見せたグィフトの足元を捉える。宙に浮き上がったグィフトに無色透明の彩りの力を曲刀に込めて振り切った。
「ミラースラッシャー!」
「どっはぁぁ〜ッ!!」
防御もままならぬ状態で美しく煌めく斬撃を見舞われ、一閃された。グィフトは尻餅を着き、自身に切っ先を向けるロビンの前に狼狽えた様相で表情を恐怖に歪めていた。
「ちょっ、ちょっとタンマ!マジでホント待って!」
「待ってあげてもいいけどさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…いい?」
「ぎょえっ!?あ…あの…」
エレンに問い質され、その核心を悟ったグィフトは慌てて逃げ去ろうと駆けていった。その刹那、若草色の彩りがグィフトの思惑を封じる。
「スパイダーネット!」
「ぎょえっ!?うわわわわっ!?」
「リデル、でかした!さ〜て、洗いざらい吐いてもらうよ!」
「ひいぃ〜っ!スラッジ、助けてええぇぇ〜!!」
一方、ティファの一団はケミカルパープルの彩り、スラッジを追い詰めていた。一見しておよそ善人とは思えない吊り上がった三白眼で睨み付け、剥き出しの敵意を一行に突き刺した。
「フフン、昨日の借りは返してやるぞなもし!」
「構えなさい。騎士の誇りに賭けて、貴女を退けます!」
スラッジは毒氣を纏ったライフルで応戦する。放たれる銃弾は禍々しい紫の気流に包まれながら一直線に駆けていく。ケミカルパープルの彩りの力が銃身から解き放たれた。
「ヘドロウェーブぞなもし!」
「クッ、酷い臭いだわ…慌てず態勢を整えるのよ!」
ケミカルパープルの泥水が波状攻撃となって襲い掛かる。辺りに異臭を放ちながら広がるヘドロを避けながら次々に反撃に転じた。
「シャドウバレット!」
「ウィンドカッター!」
「エレキテルショット!」
「ほ〜う、なかなかやるぞなもし……しかし、いつまで持つかのう?あっしのヘドロはこんなもんでは終わらんぞ!」
ヘドロはジワジワと一行の足元を浸食していく。水色の彩りが抗う力となって美しい水流を紡ぐ──しかし──
「スプラッシュロンド!……キャッ!そんな!?」
「なんじゃ!?ヘドロがルーシーを取り囲んでいくぞ!?」
「ウヒョヒョヒョッ!バ〜カめが!!」
彩りの力が巻き起こした水流に合わせてルーシーの周りにヘドロが集束していく。中心に取り込まれたルーシーを瞬く間に腹部辺りまで呑み込んでいった。
「想定外だわ…ルーシーの水流と一体化してしまうなんて…!」
「姉ちゃん、科学者の割りに頭が回らんなぁ…水色の嬢ちゃんは自分で自分の首を締めたということぞなもし!ヘドロの海に沈め!ウヒョヒョヒョヒョッ!!」
「ルーシィィィッ!!」
リタが躊躇いなくヘドロに飛び込み、ルーシーの体を抱き上げようと懐に引き寄せる。リタの体も少しずつヘドロに沈んでいくにも関わらず、リタの瞳には一切の迷いや恐れがなく、一点の曇り無き意思が力強く煌めいていた。
「リタさん…」
「おやおや、そんなことしたらお前さんもヘドロに呑まれてしまうぞよ?死に急ぐ必要もあるまいに…」
「そんなこと知るか!俺は…ルーシーを守るって決めたんだ!俺はどうなっても構わない!どんな手を使ってでもルーシーを返してもらうぜ!!」
「くう〜っ、お涙頂戴のいい話よのう…なら仲良く沈んじまいな!ウヒョヒョッ!」
「クソッ、俺の体も…離れないぜ…!」
「お二人を助けないと…急がなければ──」
「おおっとぉ、下手に動いたらあっしの銃が火を吹いて…2人の眉間に風穴が空くぞよ〜?ウヒョヒョヒョッ!!」
2人をヘドロはゆっくりと呑み込んでいく。2人に銃口を突き付けられた一行は為す術なく立ち尽くす──が、その重い沈黙をコーラブラウンの彩りが撃ち破った。
「リヴァプールビート!…ステラ、手伝ってくれ!」
「おう、任せんしゃい!」
コーラブラウンの地鳴りが2人を突き上げ、ステラとテレーズが打ち上げられた2人を救い出した。荒業で力を破られたスラッジは阿鼻叫喚とばかりに頭を抱えていた。
「ぬぐおぉ!?なんちゅう力技ぞなもし!?」
「リタが言ってただろう?どんな手を使ってでも取り返すってなぁ!!」
「さあ、覚悟なさい。あたくしがたっぷりとお礼をして差し上げますわ……ムーンライトバインド!!」
「ぐわああぁぁッ!助けてくれええぇぇッ!!」
結局スラッジは抵抗虚しくビアリーの彩りの縄で捕えられた。二手に別れていた一行は毒の彩りを捕えて合流するが、囚われの2人は沈黙を貫いていた。
「あんた達の身のためだよ。観念して話しちまったらどうだい!」
「フン!そう易々と喋りませんよ〜だ!」
「その通り!いくら問い質そうとあっしらには黙秘権があるぞなもし。無駄ぞなもし!」
「ほほう…我々がこんな手を使ってもそんなことが言えるかな?ん?」
「ひいっ!?」
ヴィオが一瞬でグィフトの背後に回り込み、ダガーを喉元に突き付ける。端から見れば完全にヴィオの方が悪人と思われるであろう光景だ。実力行使としてはあまりに荒っぽい手段に一行は驚きを禁じ得ない。
「ヴィオお姉様!?」
「貴様らは見せしめに我々の仲間を殺そうとした。そっちがその気なら私は多少手を汚すのは厭わん。但しこの娘達は恨むな。私だけを恨め」
「ギギギッ!やってくれたな!あっしの大切な相棒を返さんかい!」
「スラッジ…ウチはいいから、スラッジだけでも逃げて!」
「そんなこと出来るかボケ!グィフト、あっしと帰るぞ!なんとかして助けてやるぞなもし!」
「お姉ちゃん…助けてあげようよ…」
「ザラーム、前に話した“理不尽なこと”…これもその1つだ。手段を選んじゃいられないんだよ…ただ…こんな方法しか出来ない私を許してくれ…」
「ヴィオ…取りたくない手段だってわかってるのに…アンタって奴は──」
「すみませ〜ん!どいてどいて!どいてくださ〜い!!」
後方から1人の女性が一行めがけて全速力で駆けてくる。赤のボブカットの髪、銀色の眼鏡をかけ、ダークグリーンのスーツに身を包み、大きな茶色の封筒を小脇に抱えながら走るその姿は至って普通のOLだ。が、走る勢いを緩めることなく進路上に立つヴィオを背後から突き飛ばした。
「うわっ!?」
「す、すみませんッ!この書類を届けなきゃ…すみませんッ!!」
「ウヒョヒョッ!姉ちゃん、すまんなぁ!では、さらばぞなもし!」
「た、助かった…リーダーに言い付けてやるからね!あっかんベーだ!」
予想外の邪魔が入り、2人に逃げられてしまった。一行は呆気にとられ唖然呆然。地に伏すヴィオはケイトとザラームに抱えられて立ち上がった。
「わわっ、お姉ちゃん、大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ…クソッ、なんてことだ!」
「あのOLさん、どうして真っ直ぐ走ってたんでしょう?避ければ良かったのに…」
「ケイトの言う通りさ。なんだってわざわざぶつかって来たんだか…都合が良すぎる気がするけどねぇ…」
「マスター、標的の持っていた封筒にプラタノ財団と書かれていました」
「ありがとう、プロト!もしかしたらあの女も共犯者かしら…?」
「そうかもしれないね、シェリー。では、もう少し探ってみましょう」
「あの…わたくし、少し体調が優れませんわ。シャワーも浴びたいですし…」
「俺も…申し訳ないけど、ちょっと休ませてほしいぜ…」
「わかりました。ゆっくり休んでください。私達も少し休憩しましょう。オール、宿まで2人の護衛をお願いします」
「かしこまりました、モニカ様。皆様の軽食とお二人のお召し物のクリーニングも手配致しましょう」
スラッジとの戦いでヘドロに呑まれかけたルーシーとリタを宿まで送り届け、小休止した後、再度都市部へと繰り出した。彩りの戦士一団はオフィス街へと赴き、スーツ姿の男性2人組に声をかけた。
「すみません。少々お尋ねしたいのですが、プラタノ財団について、何かご存知ありませんか?」
「プラタノ財団?君達みたいな若い女の子がどういう事情か知らないけど、あんまり深入りしない方が良いよ…?」
「うんうん、会長があのドラ息子に社長の椅子を譲ったのが運の尽きだよな。何の苦労もせずに人の上に立つなんて、先が思いやられるよ」
サラリーマン達は口々にプラタノ財団への不満を口にする。世界的に有名な財団は仮初めの名声と紙一重に連なる黒い噂も絶えないようだ。その影に毒の彩りが潜むことを一行の1人1人が確信していた。
「あの…社長さんのお名前はなんというのですか?」
「えっ?えっと…たしかジャッロとか言ったな。待望の後継ぎだからって甘やかされた坊っちゃんでねぇ…ったく、身なりばっかり良くしやがって…親の七光りもいいところだよ」
「そうそう。もうプラタノ財団も死に体だよなぁ。あの社長、急に行方不明になったし、最近変なチンピラとつるんでたみたいだし──」
(エレン姐さん!ジャッロさんとつるむ変なチンピラってまさか…!)
(うん、間違いないね!)
「すみません!ジャッロ社長がどこにいるかわかりますか!?」
「えっ?さ、さあねぇ…本社でも行って聞いてみたら?俺はそこまではわからないよ」
「決まり!ほら、早速本社に行くよ!グズグズしない!」
「ハハハ!元気なこった!どんな用事かわからんが、せいぜい門前払いをくらわないように頑張りな!」
「ありがとうございます!よ〜し!張り切って行くぞ〜!レッツゴー!!」
「エレン、クレア!待ってください!本社の場所を聞くの忘れてます!急ぎすぎですよ〜!!」
To Be Continued…




