第49話『プラタノ財団』
シリーズ第49話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
ペーシュ国のテーマパーク、愛と夢の国フェリチタ・パークのナイトパレードに招かれた一行。しかし、その実態は毒の華園へと誘う甘い罠であった。ジャッロによって雇われていたヴェレーノ・ノーヴェが再び襲い掛かり、テリーが毒の力の魔手に堕ち、禍々しい彩りの生け贄にされんという危機に陥っていた。
「よっしゃ!これからコイツをシメて見せしめってことで夜露死苦!」
『ウイィッス!!』
「ふえぇ…テリーがやられちゃうよぉ…」
「ここからじゃ間に合わないぜ…まずい…!」
毒の彩りが具現化した怪物が一切の慈悲を見せることなき荒々しい様相でテリーに牙を剥く。慌てて前に飛び出したティファに次々と仲間達が続き、彩りの力を共に歩む仲間を護る意思として具現化した。
「ガードシェル!」
「メタルウォール!」
「スプラッシュロンド!」
「スパイダーネット!」
「リヴァプールビート!」
ティファ、クレア、ルーシー、リデル、テレーズが彩りの防護壁を造り出す。禍々しい毒の彩りがテリーに飛びかかる間一髪のタイミングで防ぎ、前衛にいたモニカ達が救援に駆け付ける時間を稼ぐことが出来た。
「ステラ、今のうちにテリーをお願いします!」
「了解じゃ、モニカ!…クソッ、おぞましい力じゃのう…持ちこたえてくれ!」
「ウヒョヒョッ!いつまで耐えられるかのう?見ものであるぞなもし!」
「怖い…でも、負けたくない…」
「これが毒の力…予想以上ですわ…」
「ひい〜っ…強すぎるよ〜…壁が壊されちゃう…」
「みんな、頑張って!態勢を立て直すにはここをどうにか…しのがないと…」
「グッ…うおおぉぉああぁぁッ!!」
「さあさあ、痩せ我慢も時間の問題みたいな?とっとと負けて楽になっちゃえばいいじゃ〜ん!」
「トックの言う通りだがや!既におみゃあらの負けは決まっているがや!観念せぃ!ケケケケケッ!」
5人の彩りが造り出した護りの壁に少しずつヒビが入り始める。毒の彩りに立ち向かうそれぞれの意思で辛うじて繋ぎ止めているものの、その表情には焦燥の色が見え始めていた。
「クソッ、どうすれば良いか…ア、アムールさん!?」
「私達は天の意思を体現するのです!ネイシア、いきますよ!」
「はい…天の御心のまま、天の意のままに!!」
アムールとネイシアの彩り、ホーリーホワイトとピンクが防護壁に聖なる刻印を刻み込み、ヒビは瞬く間に塞がっていく。刻印からは閃光が放たれ、毒の力を包み込み、浄化していった。
『天の光よ、我等に加護を!仇なす者に制裁を与えよ!』
「何だとおおぉぉッ!?」
「これが聖なる力…なんと美しいのだ…」
「そうだね、オール。柔らかで暖かい…なんと心が安らぐんだろう…」
「ほぇ〜…ネイシア姉ちゃん、ごっつい技使うんやなぁ…」
自らの力の象徴を掻き消され、反撃の聖なる光を受けた毒の彩りの戦士達は散り散りに吹き飛ばされる。1人1人が敵意を眼差しに込めて一行に突き刺した。
「チッ…覚えてろ!あんた達、ずらかるよ!」
『ウイィッス!』
「逃がしませんわ!ムーンライトバインド!!」
闇を司るビアリーの濃紫の彩りが縄となって伸びていき、灰汁色の紋様を持つ不良少女を捕え、縛り付ける。毒のギルド達は言わずもがな、共に戦うモニカ達さえも驚きを禁じ得なかった。
「ビアリー!?アンタ、何やってるの!?」
「ぎょえっ!?リ、リーダー、助けて〜!!」
「あんた、人質をとろうっていうのかい?フン、美人なクセして味な真似してくれるねぇ…」
「人質だなんて人聞きが悪くてよ。あたくしはこの娘にきっちりと淑女としての御作法を教えて差し上げるだけですわ。たっぷりと、手取り足取り、ね…ウフフッ…」
「そうはさせないんだなぁ!イオス、ジッとしててよね!」
青鈍色の紋様の少女が毒氣を纏ったブーメランを放り投げ、彩りの縄を微塵切りにしてみせた。毒の彩りの戦士達は灰汁色のイオスという少女を慌てて助け出し、怪訝な表情でビアリーを睨み付けた。
「ケッ、抜け目のない奴らだがや!次はこうはいかんがや!」
「今日のところはお預けなのだよ!テメリオ、頼むぞよ!」
「あいよ!では、さらばなのだ!」
モーブの彩りのテメリオは黒紫の煙を辺りに巻き起こす。皆の視野が遮られ咳き込むほどの煙が立ち込め、視界が開けると、既に9人はバイクで走り去ってしまった後であった。
「いない…クソッ、振り切られてしまった…」
「テリー…大丈夫?もう痛くない?」
「コレット…すまないッス。返り討ちに遭うなんて情けないッス…」
「テリー、仕方ないって。万全じゃなかったじゃん?こういうときはアタシらがカバーするから、無理すんなよ?」
「1人1人の弱点がわかれば、もう少し楽に戦えるでしょうけど…いちいち束になって来られちゃ個別の解析をしている余裕がないわね…」
「シェリーさん、とにかく一度宿に戻りましょう。対策を立てるのはそれからでも遅くないと思います」
「そうですわね。ケイトさんの仰る通り、今一度あたくし達も態勢を整え直しましょう。テリーさんの治療もしなければいけませんからね…」
一行が宿に帰り着く頃には既に夜も更け行き、束の間の休息の床に就いた。皆が寝静まった頃、ルーシー、ティファ、ルーティ、オールは一室で作戦会議を執り行っていた。
「テリーさんはアムール様とネイシアさんにお任せするとして…束になる毒の力はどう立ち向かうべきでしょうか?」
「シェリーも言っていたけど、それぞれの弱点でもわかれば良いわね…どうにかして1人1人と戦えればいいんだけど…」
「裏にジャッロさんがいるとなると、周辺の情報も集めたいわね。プラタノ財団といったら世界的に有名な財団だから、何処か足掛かりが掴める場所があるはずよ」
「そうだね、ルーティ。では、今後はテリーさんの静養とジャッロさんについての情報収集を優先しましょう。また彼女達が襲ってくる可能性もありますが、滞在する期間はまだございますので、ゆっくりと腰を据えて臨みましょう」
一行は朝食を摂りにレストランに集合する。他の宿泊客が穏やかに朝を迎える中、ケイトが慌てて新聞を持って朝食の席へ駆けてきた。
「みなさん!今朝の新聞、見てください!」
「どれどれ…“フェリチタ・パークが突如休園を発表。再開は未定”だって!?」
「“ジャッロ・プラタノ氏、謎の失踪”…いよいよ怪しくなってきたわね…」
「ええ〜っ!もう遊園地行けないの!?やだやだ!遊園地行きたいよ〜!」
「…いいか、ザラーム。世の中には不公平なことや理不尽なことが山とある。だが、自分の思い通りにならないことから目を背けず、自分を見失わぬことが大事なんだ。私もお前と遊べる場所がなくなって残念だよ。すまない…お前も我慢してくれ」
「うん…わかった。お姉ちゃんが我慢するならワタシも我慢する!」
「ザラームちゃん、偉いなぁ…私達も毒のギルドなんかに負けない!」
「そうだな、姉貴。力だけじゃないアタシらのパワー、見せつけてやろうじゃん!」
世界的財閥の御曹司であるジャッロが姿を消し、経済界に大きな波紋が広がる中、モニカ達はペーシュ国の街へと駆け出す。その片隅の更に奥──廃ビルの地下の闇には妖しい彩りが耀いていた。
「ジャッロ様、大丈夫かな〜?アイツらに追い付かれてなきゃいいな〜…」
「そこは抜かり無しなのだ♪根回しバッチリだから心配無用なのだ!」
「さすがはテメリオだがや♪ケケケッ!これで報酬は貰ったも同然だがや!」
「超楽しみじゃ〜ん!お小遣いで何買おうか考えておこうっと!」
人知れぬ闇に潜む毒の彩りの影を感じながら、テリーの治療をするアムールとネイシアを残し、一行はジャッロやプラタノ財団の情報を収集すべく都市部を練り歩く──裏路地から不意に──ケミカルパープル、青鈍色の彩りが待ち伏せしていたかのように現れた。
「ウヒョヒョッ!飛んで火に入る夏の虫とはこのことぞなもし!」
「わ〜い!スラッジ、ラッキーだね!何を嗅ぎ回っていたのかはわかんないけど♪」
「おう!グィフト、あっしらが手柄をあげるぞよ!ウヒョヒョッ、覚悟じゃ!」
「仕方ありません…このモニカ・リオーネ、貴女達を討ちます!」
ケミカルパープルの紋様のスラッジという名の女性は黒いツナギを全身に纏い、黒髪を短く切り揃えた顔には赤いバッテンが描かれたマスクを着用している。グィフトは薄紫の髪を長く伸ばし、上は紺×青緑のチェックシャツ、下は黒いデニムをはいている。2人の裏路地の湿っぽい暗闇から浮かび上がるように襲いかかってきた。
「来る…!ティファ、ここなら例の作戦が実行出来るわ。やりましょう!」
「ええ。ルーティ、左よ!私は右に行くわ!みんなも着いてきて!」
一行は二手に別れ、2人それぞれを叩く作戦をとる。スラッジとグィフトはモニカ達の作戦など知る由もなく、方々へと別れていった。
「グィフト、逃がすな!そっちを頼むぞよ!」
「了解だぜ!スラッジ、そっちは任せたよん!」
(よし、誘いに乗ったのである♪私達のペースなのである!)
(そうですね、カシブさん♪ああ、全ては私達の思い描いた通りの希望に満ちた美しい世界…)
(カシブ、リーベ、おしゃべりしている場合じゃありませんよ!今こそチャンスです。気を引き締めてください!)
ルーティ班は青鈍色の彩り、グィフトと対峙する。彼女はただ1人で自らの彩りの力を大勢にぶつけ合うとは思えないほどの軽々しい態度で向かい合っている。およそ戦いの場には似つかわしくない緊張感の乏しい表情だ。
「さあ、来い!ブチのめしてやるぞ!!」
「僕は…君個人に恨みはないが、大切な後輩の名誉のために君を討たねばならない…許せ!」
「ふ〜ん、戦いたいなら受けて立つよ!まあ、負けないけどね♪」
ブーメランを携え、調子の良い軽々しい笑みを浮かべながら飛びかかるグィフトをルーティの指示を受けて組んだ陣形で迎え撃つ。モニカが前線に飛び出し、剣を振るうが、グィフトの機敏なフットワークの前に翻弄される一方だ。
「せぇいや!はあっ!」
「遅い遅い!目瞑ってても避けられるよ〜?そ〜れっ!」
「クッ…!」
グィフトのブーメランが刃となってモニカを掠める。刃に込められた禍々しい毒氣が妖しく疼く傷を付け、ジワジワと蝕んでいった。
「ヘヘン♪ほっといたらどんどん毒が回っていくよ〜?さて、次は誰かな〜?」
「モニカ姉ちゃんから離れすぎてもうた…解毒薬持って行かな──うえっ!?」
「そうはいかないも〜ん♪痛いのがイヤならお姉さんの言うこと聞いてね〜?」
(あかん…射程距離が広いし、動きが早すぎや…不用意に動いたらウチもやられる──)
「やらせませんよ!わ、私が相手ですッ!」
キャプテン・ロビンがアミィとグィフトの間に割って入り、曲刀を振るい、挑みかかった。テリーをあと一歩のところまで追い込んだ禍々しい毒の彩りに打ち勝つことは出来るだろうか?そして、黒幕ジャッロ・プラタノの行方や如何に?
To Be Continued…




