第48話『Yellow Belly』
シリーズ第48話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
ギャラクシア首領である獅子座のミノア・マグナスを襲った不良ギルドの脅威を退け、乙女座のアムールを加えた一行。リーベの提案で足を運んだ愛と夢の国、フェリチタ・パークを満喫したのだが……
「ヴィオ…?何かありましたか?」
「あのジャッロという男だが…何か奇妙なものを感じるんだ…」
「確かに…総支配人とは言え、異様なほど僕達に接触してきた。どうも腑に落ちないところではあるね」
「あのやたら丁寧過ぎる態度、私には癪に障るだけだったな…ムカムカしてくるんだよね!」
「エレン姐さん、あまり蒸し返さないでください…確かに少し怪しいかもしれないですね…」
「とりあえず明後日パレードに行ってみようぜ。約束した以上、後には退けないだろうからな」
きらびやかな光のパレードに潜む影を感じる中、翌日、一行は思い思いの活動を行うことにした。モニカ、ビアリー、ルーシー、フェリーナ、オールは図書館にて毒の力への対抗策を練っていた。
「彼女達の毒の力…私達に対抗する術はあるでしょうか?」
「毒の力を司る精霊は闇の精霊でもある月神ヴァレノの直属の配下である精霊ウェネーヌで、闇の力と同様に聖なる力の前にはその力を弱めるそうよ」
「聖なる力…となると、ネイシア様の力でしょうか?」
「そうですわね。ネイシアさんの力で正面から対抗するのは勿論、ビアリーさんの闇の力に同化させて沈静化させるのも一つの手段でしょう」
「そうね。あたくしと同じ力を悪事に利用するなんて…あたくしがこの力を持つに相応しい品格を、身を以てきっちりと教えて差し上げるわ。フフフッ…」
(ビアリー様…何やら眼が妖しく耀いていらっしゃる…)
(完全にスイッチ入っていますね…ビアリー、何をしでかすのでしょうか…)
一方、テリー、ステラ、クレア、キャロルの4人はスポーツジムへと足を運び、鍛練に汗を流した。真っ直ぐな意思でひた向きに鍛練に励む姿は実に爽やかで清々しい。
「フウッ…久しぶりにキャロル先輩と練習出来て感激ッス!」
「テリー、だいぶ筋肉が着いたなぁ。クレアもステラも筋が良いね!」
「わあ、ありがとうございます!嬉しいなぁ!」
「うむ、キャロルさんからお墨付きを貰えるなんてありがたいのう…むむっ、あいつらは!?」
4人の前に覚えのある怪しい彩りが現れた。ナイトグリーンと赤錆色、毒の力を司る2人が敵対心を抱いた眼差しを突き刺してきた。
「おみゃあら!あの時邪魔してきた奴らだがや!」
「ほんとだ〜!マジビックリって感じ!」
「えっ!?毒の力のギルド…どうして!?」
「おみゃあらなんてわっちら2人で十分だがや!ブチのめしてやるがや!」
「ほう…僕達を倒す?やれるものならやってみろ!」
「その通りッス!正義の拳を叩き込んでやるッス──」
「よし、ならば相応しい場所に移ろうか。僕に着いてこい!」
「ケケッ!逃がさんがや!」
「楽しみ楽しみ♪早く遊ぼ〜!」
2人はテリー達を引き連れたキャロルによってジムの陰の路地裏に誘き寄せられた。穏やかなペーシュ国の整った街並みとは逆に物言わぬ恐怖が暗い影となって辺りを包んでいた。
「さあ、これで僕達以外にいない。やろうか!キャロル・ヴァイス、いざ参る!」
「ウチはトックちゃんだよ♪よろしくね〜☆」
「わっちはドゥイヤオ!目にもの見せてやるがや!」
「あわわ…く、来るよ!?どうしよう…?」
「クレア、待った無しじゃぞい!さあ、かかって来んしゃい!!」
「いざ勝負ッス!燃える闘魂を見せつけてやるッス〜!」
短い赤髪に赤と黒のジャージのドゥイヤオ、長い緑髪にショッキングピンクのTシャツ、デニム地のショートパンツのトック──2人は息の合った立ち回りを見せつけ、4人の攻撃をことごとくかわす。
「そおりゃ!どすこいッ!」
「スキありだがや!そおりゃあッ!!」
「何ッ!?うおぉっ!?」
「ほれ!トック、今だがや!」
「は〜い!トックスプレー!」
ドゥイヤオが地を踏みつけるや否や赤錆色の沼が現れた。深みに嵌まったテリーにトックがナイトグリーンのカビのスプレーを散布した。足を取られながら苦しむテリーに一切の躊躇い無くスプレーを振りかけるその姿はトックの胸の内で暴れ狂う無邪気さと表裏一体の残酷さを具現化しているようだ。
「うぐぐ…く、苦しいッス…」
「テリー!クソッ、なんてことだ…!」
「ケッケッケ!わっちとトックは無敵のコンビだがや!わっちら特製の毒の沼であばばこいとれ!」
「ああ〜楽しかった♪バイバ〜イ!」
2人は意気揚々と逃げ去っていった。ステラが毒の沼から力尽くで引き摺り出したものの、テリーの全身から血の気が引いており、表情にも苦悶が在り在りと浮かび上がっていた。
「いかん、毒で体力を奪われとる…予想以上に痛手を負ってしまったのう…」
「これはまずいな…クレア、急いでみんなを呼んできてくれ!」
「わかりました!テリー、待っててね…」
クレアに連れられ、宿に待機していた面々が到着した。毒に冒され青ざめながら横たわるテリーの姿に愕然とするばかりであった。
「テリーさん…なんてこと…」
「すまない…挑発に乗ってしまったのは僕だ。あまりに短慮だった…」
「キャロルさんは悪くないよ!それよりもどうにかしてテリーを助けないと…」
「私に任せてください。天よ、我らに加護を!ハートレスベール!!」
アムールの彩りは柔らかなホーリーホワイトの毛布となってテリーを優しく包み込む。青ざめていた肌に血色が戻っていき、テリーはゆっくりと体を起こしていった。
「テリー、大丈夫であるか?」
「大丈夫ッス。少し楽になったッス…アムール様、ありがとうございまッス…」
「礼には及びません。皆様、テリーさんは私とネイシアで治療します。ネイシア、明日までに完治出来るように最善を尽くしましょう」
Xデーを翌日に控え、風雲急を告げる事態に巻き込まれた。裏通りの廃ビルの地下フロアには毒の彩りが集い、巣食っていた。9人の毒の力を司る紋様が獲物を狙う毒蛇の瞳のように地下の暗闇に妖しく光っている。
「リーダー、トックと2人で前に邪魔した奴らにちょいと灸を据えてきたがや!」
「あんた達2人で?大丈夫だったのかい?」
「ふふ〜ん♪まあ、お互い全員揃ってなかったから軽〜くだったけどね。まあ、ファーストアタック成功って感じ?」
「そうかい。まあいいや、よく頑張ったね!」
「ちょっとちょっと!ウチらの楽しみを2人だけで取らないでよ〜?」
「ビアー、大丈夫だがや。久しぶりに…でら美味ゃあ獲物の群れだがや!こういうのはゆっくり味わうもんだがや…ケケケケッ!」
アムールとネイシアの献身的な看病により、テリーの体調は回復した。100%までは至らなかったものの、肌にはすっかり血色が戻り、表情からも苦しみが消え去って静かに闘志を燃やしたものへ変わっていた。
「テリー、体はもう大丈夫ですか?」
「…オッス。大丈夫ッス。これなら戦えるッス!」
「戦列に立てる目処が立ったなら良かったわ。でも、当面はテリーに負担がかからない陣形にしましょう」
「ええ。陣形は私とルーティで考えます。パレードにも裏があるかもしれないから、準備を早急に整えましょう」
「頼むぜ、ティファ、ルーティ。アタシらのコンビネーション、見せてやるぞ!」
遂に19時──パレードの時間を迎えた。全員が息を呑みながら身構えるが、会場は真っ黒に暗転したままだ。暗黒の闇から次第に人影が型どられ、ジャッロの姿が浮かび上がった。
「フフッ…ようこそ。お待ち申し上げておりました…」
「…ジャッロ・プラタノ。貴方の目論みは何なのですか?」
「おや、なぜそんな怖い顔をしていらっしゃるのですか?これから楽しいショーの始まりですよ?キャストも全員揃っていますから……ねえ!!」
『ウイィッス!!』
美しくライトアップされた夢の国は禍々しい毒の彩りに染まっていた。十分に想定出来た事態とは言え、一行の心には戸惑いが少なからず芽生える。
「九つの彩りが織り成す毒の花園…此処を皆様方の墓場と致しましょう!It's show time!!」
「アンタ達…怪しいと思ってたけど、やっぱりグルだったんだね!お仕置きしてやるよ!」
「だってさ〜、ジャッロさんからたっくさんお小遣いもらえるんだも〜ん!」
「お前さん達を倒してあの報酬…お得にも程があるってもんよ!ラッキークッキーもんじゃ焼き〜!っとくらぁ!ウヒョヒョッ!」
「たしかポワゾンとか言ったな…貴様ッ…!」
「まあ、そういうことよ。1人残らず毒の淵に沈めてやるわ!」
「出来るならやってご覧なさい。あたくしの闇に沈む覚悟がおありかしらね…?ウフフッ…」
「全員配置に就いて!戦闘開始よ!」
「さあ、いきましょう!騎士の力、お見せするわ!」
「フフフ…お互いに気合いは充分ですね。では、健闘を祈りますよ!」
「ジャッロ様、お任せください。必ずや討ってご覧に入れます!」
ジャッロは双方が闘志をぶつけ合っているうちに何処かへと逃げていった。毒のギルドの魔手が再び一行に襲い掛かる。ティファとルーティの指示で陣形を取り、9人を迎撃する体勢を整えるが、一つだけいつもと違う。テリーを後衛に待機させ、負担を軽減する作戦を執ったのだ。
「せいやぁっ!はあっ!」
「むむ…自分も戦うッス!ぬうおおっ──」
「テリー、無茶するな!俺が相手だ!」
(クッ…やっぱり自分は前に出ないと力を発揮出来ないッス…どうしたら…)
テリーの胸中を虚無感と無力感が黒く渦巻きながら駆け抜けていく。後衛から仲間達の戦う姿を見ているだけの時間はこれまで前衛として拳を振るってきたテリーには耐え難いものであった。暫し歯を食い縛り見守っていたが、テリーが限界を迎えるのに長い時間はかからなかった。
「ググッ…もう我慢ならんッス!うおおぉ〜っ!!」
「あかん!テリー姉ちゃん!!」
「フフッ、鴨が葱を背負って来た!ヤート、仕留めろ!」
「ウイッス!アリアリアリアリアリィ!!」
「グフッ…!」
不良少女の1人、ヤートから鳩尾に何発もの毒突きを叩き込まれ、テリーは力無く崩れ落ちる。前に飛び出してからものの1分もかからぬうちに毒の淵に堕ちてしまった。
「ウヒョヒョッ!兄ちゃんだか姉ちゃんだかわからんけどよぉ、あっしらに考え無しに突っ込むとは感心出来んぞよ?」
「“柔よく剛を制す”!名言だよねぇ〜♪」
「おみゃあにわっちらを倒すことは無理だがや!この脳ミソ筋肉がぁ!!」
「わ〜い!お小遣いゲットだぜ!あなたのおかげで新しい服と靴が買えるわ♪ありがと〜!」
「よっしゃ!これからコイツをシメて見せしめってことで夜露死苦!」
『ウイィッス!!』
9人が毒の彩りを解き放つ。禍々しい力が毒の龍の姿となり、地に倒れ伏した手負いのテリーに容赦無く襲い掛かった。テリーはこのまま毒の力に呑み込まれてしまうのか?毒の彩りを操るジャッロを討つことは出来るのだろうか?
To Be Continued…




