第46話『猛毒不良少女』
シリーズ第46話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
美と洗練のアザレア王国の平和を脅かす邪教戦士ポールポラの野望を打ち砕くことに成功した一行。“用がある”というオール達を加え、隣国のペーシュ国へと赴いた。
「緑がたくさんあります…素敵ですね♪」
「そうだな、リデル。空気が澄んでてめっちゃ気持ち良いや!」
「おっ、トリッシュも気に入ったかい?ペーシュ国はナチュラルな魅力に溢れている素敵な国さ!」
ペーシュ国はアザレア王国に見られた華やかな雰囲気こそないものの、温暖な気候と治安の良さから観光客からの評判も非常に高く、“住みたい街ランキング”は例年ペーシュ国の都市が首位になることが半ばお決まりのようになっており、住民達も住み良い母国に誇りを持っているのだ。
「静かな街だな…すごく住みやすそうだぜ」
「うむ、まったくじゃわい!ところで、ワシらはどこに向かえばいいんかのう?」
「ステラ様、あちらでございます。普段は憩いの広場ですが、今日は違いますよ♪」
オールに案内された都市部の中心地に位置する広場に巨大な人だかりが出来ていた。売店のテントが軒を連ね、多くの人々で賑わう様相は宛ら縁日のようだ。驚いた様子のケイトが一行を先導しながら満面の笑みを浮かべるルーティに歩み寄っていく。
「ルーティさん、これは何ですか?人だらけですけど、何かのお祭りですか…?」
「これはギルドの交流会よ。世界中のギルドが一堂に介するイベントなの」
「ギルド…?オールさん達ってギルドと何か関係あるの?」
「そうだよ、コレットちゃん。僕達5人はアザレア王国の治安を守るギルドなんだ」
「な、なんと!?先輩方はギルドだったッスか!」
「フフッ、よろしければ皆様もご一緒にいかがですか?飛び入り参加も可能ですよ」
「モニカさん、どうします?すごく面白そうですわよ」
「そうですね、ビアリー。それに情報収集の良い機会です。私達も参加しましょう!」
「Yeah♪そうこなくっちゃ!あそこで参加手続きをすればバッチリOKさ!カモ〜ン!」
モニカはテレーズに手を引かれ、受付へと通される。邪教戦士に打ち克ち、晴れやかな気持ちで踏み出す新たな一歩に嬉々として受付をしようとしたところ、フェリーナが一行を制止した。
「待って。私達はこれだけの大所帯よ。情報を集めるのに皆で一斉に動いたら要領が悪いわ」
「それもそうだね…じゃあ、いくつかに分かれようか。アミィ、クジを用意して!」
「ほいほい!クレア姉ちゃん、任しとき〜」
クジ引きの結果、モニカ班、エレン班、フェリーナ班の3組に分かれてギルド交流会へと飛び込んでいった。数多のギルド、数多の人々で賑わう中には覚えのある顔も幾人か見られた。モニカ班が踏み入った一帯にはカーキの彩りが立っていた。
「あら?モニカじゃない!久しぶりね!」
「ティファ!騎士団もいらしていたんですね」
「ええ、私達騎士団ギルドも遠征よ。でも、まさか貴女達にも会えるなんて思わなかったわ。元気そうで何より!」
モニカとティファが積もる話を交わしていた頃、エレン班は海洋警備隊ギルドの一帯へと踏み入る。無色透明の彩りに悪戯な笑みを浮かべながら飛び付いた。
「ロ〜ビ〜ン!」
「ふえっ!?エ、エレン姐さん!?こ、こんにちはッ!!」
「なんだなんだ?ロビンちゃん、知り合いかい?」
「はっ、はい!いつもお世話になりっぱなしです!エレン姐さん、お元気そうで安心しました!」
「フフッ…ロビンも元気でよかった♪頑張ってるみたいだね!たくさん話聞かせてよ!」
一方、フェリーナ班は新たな出会いに向かい合おうとしていた。世界を動かすギルドの一つ一つが一行に新鮮な刺激をもたらしてくる。
「おや?君達、見かけない顔だね。初参加かい?」
「はい、魔族討伐の旅をしております、フェリーナ・グリューネと申します。よろしくお願い致します」
「ああ、よろしく。俺達は服飾商業ギルドなんだ。ここに来たら流行もわかるからすごく有意義さ!姉ちゃんの着てるその服はキヅタ族かい?」
「えっ!?わ、わかりますか?」
「わかるさ。俺も長くこの仕事を続けているからね。流行り廃りに揺らがない伝統ある衣装、我らファルベ・ホールディングスも参考にしたいものだなぁ!」
(そう言えば…ザラームが入る傭兵ギルドがいるかもしれないな。さて、何処にいるのか…)
此方懐かしい面々と言葉を交わし、彼方新たな出会いで視野を広げていた頃、広場の最奥に即席で建てられたステージにマイクが立てられ、皆の視線が一点に集中した。柔らかく和やかだった空気がピンと張り詰め、会場に緊張感がゆっくりと広がる。
『ここでギャラクシア団長でありギルド協会会長、ミノア・マグナス様よりご挨拶を賜ります。メインステージにご注目ください』
紹介を承けたミノアが壇上に上がる。ゴールデンイエローの髪を長く伸ばし、金色の装飾が施された艶のある黒い鎧を全身に纏っており、厳めしい兜で顔が隠れている。マイクの前に立ち、兜を外したその素顔は強固な意志に裏打ちされた凛々しさに満ち溢れていた。
「僭越ながら私、ミノア・マグナスが皆様にご挨拶をさせていただきます。此度はご多用の中、ギルド交流会に御参加いただき誠にありがとうございます。今、全世界に魔族の脅威が広まっています。此処に集った1人1人が手を取り合い、結束し、力を1つに立ち向かう時です。臆することなく、魔と戦いましょう!」
ミノアの言葉を受け、ステージを見つめる盛大に拍手が沸き起こった。人ではなく一体化している会場の空間自体から喝采が起きているかのような様相だ。
「すごい…あの人がギルド業界で一番偉い人なの?」
「そうだ。彼女がギャラクシアのリーダー、獅子座のミノア・マグナス。文武両道を実践し、司令官としても戦士としても超一流だと聞いている。恐らく私でも全く歯が立たないだろう」
「ヴィオがそこまで言うなら相当の実力なのである…世界的ギルドの長は名実共に素晴らしい方なのである!」
「共に手を取り合い、助け合う…神の意思を体現していますね。天よ、感謝致しま──」
突然、会場に大きなバイクが次々に割り込んできた。マフラーには改造が施されており、騒音と黒い排気ガスを辺りに撒き散らしている。会場中が騒然とする中、8人の女達が降りてきたが、とても友好的な雰囲気とは思えない。
「ヘイヘイ!ちょっと邪魔するよ〜!」
「ヴェレーノ・ノーヴェ、只今参上!ってことで夜露死苦!」
「ヒヒヒ、イキの良い奴はどれだけいるかな〜?」
モニカが不良達に臆することなく対峙する。不良達も全く動じる様子を見せず、寧ろ自分達に挑まんとするモニカの姿を面白がっているかのようだ。
「貴女方は何者ですか?穏やかじゃないのはあまり感心しませんが……」
「おおっと、早速!しかもあまり見ない顔だな…」
「イッヒッヒ…新顔には丁重に挨拶しておかないとな…そんな堅い顔すんなよぉ!」
「グッ…!?」
不良少女の1人が青紫の煙をモニカに吹き付けた。異臭を放つ怪しい煙を受けたモニカはその場に膝を着き、苦悶に顔を歪めた。
「モニカさん!酷い…大丈夫ですか?」
「ありがとう、ネイシア…なんとか大丈夫です…」
「ちょっとアンタ!私らの仲間に酷いご挨拶してくれたね!許さないよ!」
「売られた喧嘩なら買ってやる!かかって来いよコラァ!」
「エレンお姉様、トリッシュお姉様…ミノア様が仰ったように此処は友愛の場、共に手を取り合う場ですよ!?挑発に乗せられて喧嘩なんて相応しくありません!」
「メルヘンなお嬢ちゃんよぉ、そんな綺麗事を並べ立てたところで何の解決にもなりゃせんぞ?ウヒョヒョッ!」
「チッ、どうやら話し合っても無駄なようだな…ロビン、ティファ、俺達に力を貸してくれ!」
「はいっ、もちろんです!」
「承知したわ。騎士として悪は討つまで!!」
「決まりですわね。わたくし達、負けませんわよ!」
離れた位置にいたオール達も騒ぎを聞き付けて駆け付ける。居合わせた彩りの戦士達全員──総勢29人で8人を彩りの包囲網に取り囲み、形振り構わず次々に挑みかかっていった。
「マンチェスタースマッシュ!」
「リヴァプールビート!」
「レスタースパーク!」
「オックスフォードブロー!」
「カンタベリーバレット!」
「プロトバスター!」
「ケッ!多勢に無勢だがや!大勢で寄ってたかって卑怯な奴らだがや!」
「あたくし達へのその言葉をそっくりそのままお返し致しますわ!初対面で堂々と不意討ちした輩の言えた義理ではないのではなくて?」
「勝ちゃいいじゃん、勝ちゃ!支配した方に主導権があるんだっての!」
「それに、ウチらはウチらであんたらと同じ力を持ってるんだからよぉ?仲良くやろうや…なあ、みんな?」
『ウイィッス!!』
8人の不良達が左手の甲を一斉に向ける。そこには紛れもなく彩りの紋様が印されていた。青紫、ナイトグリーン、青鈍色、ケミカルパープル、ヘリオトロープ、モーブ、灰汁色、赤錆色がそれぞれに彩られており、一行の表情に驚愕と悲嘆の色合いとなって現れた。
「な、なんだって!?君達まで…!?」
「そんな…祝福の証を持ちながら利欲に惑うなんて…」
「ウチらは毒の力を持つ最強のギルドなんだよ!祝福の証の彩りのもとに9人が集ったんだ!」
「9人だって…?ハッ、1人足りないじゃないのさ!まさか自分の毒でくたばっちまったってオチじゃないだろうね!」
「さあ?どうしちまったんだろうねぇ、リーダー?」
「リーダー?…あっ!みんな、あそこ!ミノアさんが…!!」
「貴女は…何者!?」
「ポワゾン。ヴェレーノ・ノーヴェのリーダーにして、ギルド界の頂点に立つ存在よ!」
不良達からリーダーと呼ばれるポワゾンという女性がミノアを襲っていた。上下黒い衣装に身を包み、紫のメッシュを入れた黒髪を長く伸ばしている。彼女の左手には紫色の紋様が妖しく光り、右手には禍々しい毒氣を纏ったメイスが握られていた。
「ギルド界の頂点ですって?貴女達は何をするつもり!?」
「知れたこと。このポワゾン率いる我々ヴェレーノ・ノーヴェが全てのギルドを支配する…そのためには貴女を消さなきゃならないのよ!」
「なんてことを…結束すべきギルドの調和を乱すなんて許せない!焼き払ってやるわ!」
「ルーティさん、ミノアさんに当ててしまうかもしれないのである…危険なのである!」
「そんなことわかってるわよ!じゃあどうしたらいいの…見殺しになんて出来ない!!」
「ルーティ、落ち着くんだ。僕達に出来ることは何だ…何か方法があるはずだ…」
毒の力によって惹かれ合った不良ギルド、ヴェレーノ・ノーヴェによってギャラクシア団長ミノアが危機に曝された。容赦なく牙を剥く毒の力の前になす術はあるのか?モニカ達はヴェレーノ・ノーヴェの暴走を阻止出来るのであろうか…?
To Be Continued…




