第42話『奇襲!零の罠!』
シリーズ第42話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
アザレア工科大学でロボット工学を研究する碧緑の科学者シェリーと出会った一行。機械少女プロトとみたび対峙し、シェリーが戦闘中に位置情報探知機をプロトに取り付けることに成功。邪教戦士の影を掴んだ。
「よくわかんないけど、コイツを使っちまえば科学者の居場所がわかるってことかい?」
「ええ。探知機で位置情報を検索して、プロトの潜伏している地点を探ってみるわ。明日の朝、報告に伺います」
「ありがとう。では皆様、一旦シェリーに任せて宿に戻りましょう。ごゆっくりお休みください」
翌日、一行の泊まる宿にシェリーが訪ねてきた。眠気を隠せぬ眼を擦りながら、位置情報記録が印刷された紙をオールに手渡してきた。
「位置情報が特定出来たわ。N37.61、W96.86地点に潜伏しているみたいよ」
「どれどれ…アザレア王国とペーシュ国の国境付近だね。意外と近くだからすぐに到達出来そうだ」
「目的地が決まったな。よし、出発するぞ!」
一行は3台のワゴン車に乗り、アザレア王国の国境を目指す。丁寧に整えられた国道をエレン、テレーズ、オールの3人が運転する車が駆けていった。
「いよいよ邪教戦士の尻尾を掴んだのである。ここが正念場なのである!」
「そうですね、カシブさん。力を合わせて頑張りましょう!」
「ケイトとカシブがいてくれれば心強いですよ。今こそ魔を討ち、邪を祓う時です!」
「よし、みんな燃えてるね!このまま突撃するよ〜!」
真剣なエレン班の面々と対照的に最後尾のテレーズ班の車内は朗らかな空気に包まれていた。和やかな会話が弾み、さながらレジャーに訪れたかのようだ。
「私…アザレアが大好きになりました。人も街も自然も…大好きです♪」
「よかったな、リデル。俺もアザレアに住んでるテレーズ達が羨ましいぜ!」
「うん、アザレアは緑もたくさんあって素晴らしい国さ!アタシはこの国を祖国とすることを誇りに想うよ!」
テレーズ班が談笑しているときと同じ頃、先頭を走るオール班の車内ではシェリーが専用の端末機械でプロトの追跡をしていた──かと思われたが…
「よし、今日はドライブ日和だ。けど、敵を追うよりもレジャーで来たかったものだな…」
「シェリーお姉様…シェリーお姉様?どうされました?」
「リーベちゃん…ごめんなさい。私、乗り物酔いが酷くて、車内で液晶画面を見られないの…」
「どれ、自分に貸してみるッス!代わりに動かしてみせるッス〜!」
「テリー姉ちゃん、勝手にいじり回したらアカンて!ホンマやめときぃや!」
テリーがシェリーから端末を奪い取り、訳もわからぬままキーボードを無造作に両手を走らせ操作し始めた。右端に在る“DEL”と書かれたキーに触れた直後、無機質なアナウンスが一行に非情な宣告を突き付けた。
『位置情報記録を初期化──リセットしました──』
「うおっ!?何が起きたかよくわからんッス!」
「しょ、初期化!?ちょっと待って!車を止めて!!」
車が止まり、一行が輪を作る。その真ん中で全てを悟ったテリーが項垂れていた。
「やっぱり…データが削除されてるわ。探知機はただの鉄の塊になってしまいました…」
「ぬうぅ…も、申し訳ないッス…この失態、悔やんでも悔やみきれないッス…」
「うん…なってしまったものは仕方ないさ。とにかく国境方面に向かうとしよう」
突如アクシデントに見舞われ、手探り状態になりながらも郊外にある国境へと向かう。一行が国境へ、ポールポラの巣窟へと歩を進める中、アスファルトで整地された道路に馴染むグレーの彩りは影となって静かに潜む。
「マスター、標的群が国境方面に進路を執り、研究所に接近してきます」
『了解。手はあるから泳がせておけ。お前の装備データ入力が先だ。もうすぐダウンロードのためのデータ精製が完了する。そろそろ戻って来い』
車を走らせること1時間、休憩にサービスエリアへと立ち寄る。しかし、テリーはこれまでに見せたことのない失意に沈んだ表情のまま、後悔の淵でうずくまっていた。
「ハァ…自分、一生の不覚ッス…申し訳ないッス…」
「テリー…元気を出してください。過ぎたことは仕方ありません」
「うん…気分転換に食事でもしようぜ。俺、お腹空いちゃったよ…」
「賛成!さっ、行こ!ほらほら!」
クレアに手を引かれる足取りも重い。が、レストランで食事するや否や途端にいつも通りのテリーに戻っていった。
「うおおぉ!うまいッス!」
「よっしゃ、それでこそテリーだ!ガンガンいこうじゃん!」
「そうだね、トリッシュ。テリーが元気になってよかった♪」
一方、邪教戦士も指を咥えて見ているわけではなかった。ポールポラは飛行機能付き小型カメラを駆使し、一行の様子をモニターで監視している。隣のカプセルで眠るプロトに目をやりながら画面の先の一行に挑戦的な眼差しを向けていた。
「フン…悠長に食事などしおって。私の科学の力を思い知らせてやるぞ……」
食事を済ませ、テリーの気持ちも持ち直った。再び郊外に向けて車を走らせていたが、いきなりオール班の車が止まり、エレン班とテレーズ班も慌てて停車する。一行の向かう先には通行止めの標識が立てられ、“KEEP OUT”と記された黄色いテープが張り巡らされていた。
「これは…どうなっているのです?」
「急に橋が崩れたんだ。幸い被害者はいなかったけど、どうも何者かが爆弾を仕掛けたらしい。申し訳ないけど、国境方面には行けないよ」
「チッ、ここからじゃ迂回ルートもない…一度引き返そうぜ」
進路を阻まれた一行はやむを得ず引き返す。都市部へ戻るためにまたもや1時間余りを費やし、疲労困憊という状態で泊まっていた宿に舞い戻った。到着するや否や、一行を待っていたようにフロント嬢が歩み寄ってきた。
「お待ちしておりました。御予約のエレン・シンク様。お手紙をお預かりしております」
「私達に?どうもありがとう…招待状?差出人も書かれていない…」
「招待状…きっと素敵なパーティーへのお誘いだわ!早く読みましょう!」
「ねえねえ、なんて書いてあるの?エレン、読んでみてよ〜!」
リーベとコレットに促され、エレンは封を開く。疲労が全身にのしかかる中、ゆっくりと文面に目を通していった。
『神々の子御一行様 この度は益々御健勝のことと推察申し上げます。皆様に最高の宴を御用意致しました。本日24時、キールビル42階に“必ず”お越しくださいますよう、お願い申し上げます。万が一、お見えにならない場合は“アザレア王国全土を爆破させていただきます”ので、悪しからずご了承下さい。 闇夜の遣いより』
「アザレアを爆破…!?何をするつもりなの!?」
「ふざけやがって!何が闇夜の遣いだ!ブッ飛ばしてやる!」
「アザレアを壊すなんて許せない!絶対に負けないんだから!」
「トリッシュ、カタリナ…ありがとうよ。絶対にアザレアを守ってみせるぞ!」
「キールビルは廃ビルのはずです。立ち入りは私が手配しますが、十分注意して臨みましょう」
深夜、キールビル42階。一行は息を潜め、闇夜の遣いとの対峙を目前にしていた。一行以外に人は一切おらず、不気味な静寂が影を落としていた。
「ここはフロア一帯が1つの貸しテナントです。此方の鍵をお使いください」
「よし、闇夜の遣いなど叩き潰すのである!いざ!」
鍵を開け、扉を開いた先にはただ1人が立ち尽くす。グレーの彩りが闇夜に溶けながら怪しく煌めいていた。
「殲滅対象を発見──排除します──」
「ここまでコソコソ逃げ隠れしおって!ワシが灸を据えたるぞい!」
「光術式展開──ブライトエッジ──」
プロトの黒いボディースーツは金色に染まる。光の刃はステラを捉え、荒々しく切り裂いた。
「ぐわぁっ!」
「ステラ!…あたいがお仕置きしてやるよ!」
「草術式展開──シードポップガン──」
「ううっ!?」
「ビクトリア!クソッ、いつまでもふざけてんじゃないよ!」
「水術式展開──スプラッシュロンド──」
「うああっ!!」
金色に続き、緑、水色と色を変え、ステラ、ビクトリア、エレンを次々に討ち伏せる。プロトは彩りの力を駆使する完全な戦闘マシーンと化していた。
「これは…まさか精霊の力を写したもの──」
『その通り!貴様ら1人1人の力をデータとしてコピーし、完全無欠の“神々の子”を造り上げるのだ!貴様ら以外の奴らも探し出し、全ての力を取り込んでやるぞ!』
「懺悔なさい。天地の理から外れた者よ。神の御命に於て、貴方達を退けます!」
「ネイシアさんの言う通り。この崇高な力を汚す輩を見過ごすわけにはいかない!」
「科学を私利私欲の為に利用するなんて、科学者の風上にも置けないわね。覚悟なさい!」
『ハハハ!物事の上面しか見えぬ愚者どもめ!科学の力の正しき使い方、その身を以て教えてやる!』
プロトは対峙する相手に合わせ、色を変えた。画題に合わせてパレットから色を選ぶかのように的確に──
「氷術式展開──フロストザッパー──」
「クッ…!」
「フェリーナさん!」
「冥術式展開──シャドウバレット──」
「キャアッ!!」
「ぬぐぐ…ネイシアの分も闘魂込めたストレートッス!」
「菓術式展開──グラッサージュ──」
「うぐおおっ…」
プロトはモニカ達各々に対して的確に弱点を突く。たった1人であるにも関わらず、一行は次々に倒れ、劣勢を強いられていった。
「チッ、なんだコイツは!?正確に私達の力を利用している。これはいったい──」
「虫術式展開──バクズバンプス──」
「グフッ…!」
「時術式展開──」
「あ…ああ…お姉ちゃん…」
「グッ…逃げろ、ザラームッ!」
「ソニックブーム──」
ザラームを庇い、俊速の斬撃を受けたヴィオ。ザラームを守るように覆い被さりながら力無く倒れ込んだ。
『ヴィオ!!』
「お姉ちゃん!お姉ちゃんッ!!」
「クッ…スプラッシュロンド!」
「雷術式展開──サンダーストリーム──」
「いやああぁぁッ!」
「まずい…バラバラに動いては不利ですね。ビアリー、お願いします!」
「ええ。このまま黙ってはいられませんわ。参りますわよ!」
モニカとビアリーが同時に飛び込む。金色と濃紫がプロトに挑みかかり、連なる斬撃を見舞うが、ビアリーの立ち回りが遅れる。その隙だけでプロトはピンクに彩りを変えていた。
「聖術式展開──フォトン──」
「うっ…ああッ…!」
(クッ…速い!!遅れたらやられる…!)
モニカは立ち遅れないように必死に食らい付く。が、計算していたかのように僅かな隙をプロトが見逃さなかった。一瞬にして琥珀色に染まり、モニカに照準を合わせてきた。
「闘術式展開──ガッツナックル──」
「うあああぁぁッ!」
遂にモニカとビアリーも倒れた。日進月歩の科学の力に為す術なく、愕然と倒れ伏した。プロトは表情を変えることなく、ただ一行を見つめている。
『フフフ…身の程を知らず私に刃向かった罰なのだよ!』
「クソッ…アザレアが…私の…仲間達が…!」
『さあ、パーティーもクライマックスだ。貴様らにとどめを刺してお開きとさせていただく。行け、プロト!全エネルギー、全データを右手の主砲に集中させろ!』
プロトは瀕死の一行に銃口を向ける。この窮地を脱する術はあるのか?このまま邪教戦士の力の前に敗北を待つしかないのか?果たして銃口の前に立たされたモニカ達の運命は…?
To Be Continued…




