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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter4:邪教戦士篇前編
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第41話『碧緑の科学者』

シリーズ第41話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

アザレア王国でAKロックを堪能中にグレーの機械少女プロトと対峙した一行。オールとテレーズの助力によってアザレアの景観は守られ、邪教戦士ポールポラ討伐への有力な協力者となりうるシェリーとの出会いを控えていた。



「エレン様、シェリーと会う約束を取り付けました。明日の午後2時に研究室に出向くことになりますので、よろしくお願い致します」


「はいよ!で、シェリーってどんな人なの?」


「まあ、確かに少し変わってるっちゃ変わってるけど、真面目で良い奴だよ。きっとみんなの力になってくれるさ!」



一方、邪教戦士ポールポラはカプセルで眠るプロトとモニターに映るモニカ達の紋様を見つめている。眼鏡の奥の瞳が戦闘兵器の完成が間近に迫ると共に高まる狂気に爛々と輝いていた。



『緑の草──威力微少だが射程距離、精密動作性優秀。若草色の虫と並ぶ補助パーツとして使用する──』


『シャンパンゴールドの鶫──搭載に際し棍術の技術データをダウンロードする──』


『コーラブラウンの轟──覚醒して経過時間が浅く、不確定要素が多いが、新規データとして保存する──』


『チリアンパープルの骸──威力は平均値を下回る。霊力のデータをダウンロードし威力補完を実施──』


「フフッ、もうすぐだ…もうすぐプロトが最強の戦士となる。そうなれば奴らを討つのも容易い。我らの夜明けも近いぞ…」



一行は科学者シェリーの待つアザレア工科大学に到着した。辺りを取り巻く空気にも知性が漂っている。ある種の緊張感すら感じられる中、オールは涼しい顔で受付に向かい合っていた。



「オール・クレメンスと申します。第7研究室のシェリー・レンブラントに会いに参りました」


「かしこまりました。ロビーにて少々お待ちください」



事務的な応対を受け、ベンチが規則的に並ぶロビーに通される。不特定多数の人が行き来する都合上、セキュリティはそれなりに厳重だ。数分後、自動ドアの奥から1人の科学者が姿を現し、一行の前で会釈をしてみせた。



「やあ、シェリー。無理を言ってすまなかったね」


「別に構わないわ。こちらとしても戦闘用ロボットは興味深い案件ですもの」



シェリーは碧色の瞳に熱い知的好奇心と冷静な理知を携えていた。青緑の髪を長く伸ばし、スーツの上に白衣を羽織っている。モニカ達を見つめる双眸には敵意は全く無く、友好が穏やかに煌めいていた。



「はじめまして、モニカ・リオーネと申します。よろしくお願い致します」


「よろしく。私はシェリー・レンブラント。此方でロボット工学を研究しています。では、立ち話もなんですから、研究室にどうぞ」



一行はシェリーの第7研究室に通される。が、その内部はおよそ客人を迎えるような様相ではなかった。デスクに乗りきらずに溢れた研究資料が辺りに散乱し、床一面を占拠している。常識的な体裁を二の次にしてまで研究に没頭している狂気的な様相が瞬時に窺えた。



「げっ!?なんだよこれは!たぶん前より散らかってるぞ…?」


「まったく、君という人は…もう少し整頓しないか!」


「私だって暇じゃないの。そのうち片付けるわ。…それで、案件の詳細を聞かせてくださいます?」


「よし、それでは私から説明しよう。実は──」



シェリーは事情を説明するヴィオに対して真剣な眼差しを向けている。少し前屈みになりながら話に聞き入る姿からは燻る知的欲求を自制心で以て押さえ付ける様が容易に見てとれた。



「……なるほど。では、一つ実験をしましょう。その力、科学を以て再現します」


「待って。精霊の刻印をどうやって再現するというの?魂の御業を魂に生かされている人間の力で造り出すなんてあり得ないわ!」


「あり得ます。現に貴女達の力が科学によって再現されているのは現場で見ていた貴女達が一番わかっているでしょう?科学は日進月歩、常に向上を続ける存在なのよ。貴女が信じる“魂”とは違った形で進化し続けているのです」


「……」


「フェリーナさん、何も仰らなくてよろしくてよ。其が貴女の道ならば、惑うことはありません。あたくしはそう信じていますわ」



的確に事態の核心を突くシェリーに対しフェリーナは返す言葉も無く口ごもる。程無くして実験室に案内され、無機質なグレーのカメラの前にモニカが剣を持って立たされていた。



「では、戦闘を想定した動作をこのカメラで撮影します。眼の前に敵がいると思って動いてください。では、始めましょう!」


「あ……はい。よろしくお願いします……」



モニカは剣を構え、その場で力強く振るう。敵がいない中であたかも敵に対するように振る舞うことに最初は戸惑いを禁じ得なかったが、次第に気持ちが昂り、剣を持つ両の手にも力がこもっていく。カメラが左手の甲を彩る金色を捉えると、接続されたコンピューターにモニカの紋様が映し出され、不可思議な文字列が何行にも亘って連なり、画面を瞬く間に埋めていった。



「わわわっ!?ど、どうなってるの!?」


「これはまだ序の口ですよ。更にデータを細分化すれば…」


「うおっ!?な、なんと……これはいったい何ッスか!?」



カメラは左手の甲から徐々にズームアウトしていき、モニカの全身、最後は“モニカ・リオーネ”という人間を構成する二重螺旋が映し出された。進化を続ける科学の力の真髄を目の当たりにし、一行は息を呑む。



「つまり、この紋様はフェリーナさんの仰るところの“魂”の具現です。仮に仮面等で顔を隠していても紋様さえ見れば個人を特定するのもわけない話ということですよ」


「これは驚いたのである…いったいどんな技術なのであるか?」


「指紋による個人認証の技術を応用しているの。開発者である私自身が被験者になってみたけど、なかなか骨が折れる作業だったわ…」



シェリーの左手には青緑色の紋様が煌めいている。当然ながら一行は驚愕に襲われたが、フェリーナはとりわけ大きな驚きに引き金を引かれ、大きく眼を見開いた。



「シェリー……貴女にも“精霊の刻印”が……」


「その通りよ。だからこそ貴女の思想を全否定はしないわ。先程ビアリーさんの仰った通り、それがフェリーナさんの信じる道ならば、私に止める権利はありませんもの。互いに異なる思想を共有して、より良い思想を築けるといいわね」


「ええ、ありがとう。シェリーとの出会いも精霊の導きだったのね…」


「あの〜…わたし、お腹空いちゃった…」


「それなら近くにいい店があるわ。お近付きの印に、ご一緒しましょう!」



一行の予想を良い意味で裏切り、シェリーはすぐに打ち解けた。一行の背を見つめる──グレーの彩りが静かに立っていた──



「マスター、標的群を確認しました。追尾します」


『了解。周辺に不要な危害を加えぬよう注意するように。慎重に行けよ』



穏やかな空気が流れる中、シェリー行き着けの喫茶店に到着する。シェリーは既に一行の一員としてすっかりと馴染んでいた。



「シェリーさん…何をしてるんですか?」


「ケイトさん、決まってるでしょ?コーヒーにはシナモンが定石よ」


「へえ、俺も試してみようかな…おおっ、美味しい!」


「マスター、標的群は油断──随時奇襲の体勢に入れます。ご指示を──」


『待て。無関係な人間を巻き込むなと再三再四言っている筈だぞ?事を大きくしたら計画そのものが無に帰してしまう。そのまま追跡を続行しろ』


「了解しました、マスター」


(……プロトは何を急いている?任務中に思考プログラムが変化したのか?これもプロトの左手にも在るあの“紋様”の力なのか……フッ、だとすれば益々興味深い……)



シェリーに案内され、アザレア工科大学のキャンパスを練り歩く。ロジカルでアカデミックな刺激に満ち溢れた空間は知的好奇心に否応なしに訴えかけてくる。



「これが超電導磁石よ。超伝導体によって従来の電磁石よりも強力な磁気を発生させることが出来るわ」


「すげぇ!電撃バリバリじゃん!めっちゃカッコいいな!」


「そうだね、トリッシュ♪…テ、テリー!?どうしたの!?」


「うぐおぉ…ち、知恵熱が出てきたッス…カタリナ…助けてほしいッス…」


「ハハハ!テリーには難題だったか!まあアタシもさっぱりだけどね!」


「これが科学の力なのですね…人間の知恵の産物ならば、これも天の御心──」



みたび一行の目の前にプロトが現れた。テレーズとオールに続き、シェリーが興味深そうな眼差しを向けながら詰め寄った。



「テメェはこの前のロボット!」


「ターゲット確認──戦闘体勢に入ります──」


「フォォッ!まさに戦闘用ロボットだわ!サンプル採取するわよ!」


「シ、シェリーが壊れた…よし、行くぞ!」



先陣を切ってシェリーが飛び掛かっていく。青緑の紋様が理知的な輝きを放ち、祝福された彩りの力へと昇華していった。



「エナジーボム!」


「青緑の(テクノ)──射程距離良好。搭載に際し磁力耐性向上を要する──」


「ファイアボール!」


「赤の炎──威力は平均値を大きく上回るが、使用時に装備破損の危険あり。補強を要す──」


「ストーンフォールズ!」


「深紅の地──威力、射程距離共に平均値を僅かに上回る程度。汎用武器として搭載の見込み──」


「メタルスピナー!」


「銀色の鉱──硬度データの最高値を更新。防御パーツとして使用可能──」


「喰らえ!斬る!」


「琲茶の玄──錬度81.3%。搭載に際し装備軽量化が課題──」


「え〜い!それっ!」


「珈茶の珈──錬度18.7%。今後成長する見込み有りのため、サンプルとして保存──」



プロトの生気の無い瞳は彩りの力をカメラのように写し取っていく。無機質なグレーのパレットが一行の彩りで次々と埋められていった。



「スターダストボムや!」


「赤紫の星──射程距離及第点。牽制狙撃武器として装備する──」


「シャドウバレット!」


「薄紫の冥──錬度78.6%。金色の光、琲茶の玄に並ぶ主要遠隔武器として装備する──」


『よし、主要データは全て集まった!退却しろ!』


「任務完了。戦闘を中止し、データ集計の最終段階に移行する」


「に、逃げる気か!?待て!待ちやがれッ!!」



プロトはテレーズの突進を間一髪でかわし、去っていった。テレーズは前のめりに転倒し、悔しさで両手で何度も地面を叩き付けた。



「チクショウ!また逃げられた!」


「仕方ないさ。しかし、会ってもすぐ逃げられては打つ手が無いな…」


「問題無いわ。先程の戦闘で位置情報探知機を取り付けたから、こちらから追跡出来るわよ」


「すごいよ、シェリー!これでチェックメイトだね!」


「うん、クレアちゃんの言う通り!もはや掌で転がしているも同然なのである!追い詰めるのである!」



シェリーの科学の力によって邪教戦士ポールポラとプロトを遂に追い詰めることに成功した。果たしてポールポラは何処に潜み、科学の刃を研いでいるのか?一行は悪しき科学の力に挑むべく備えるのであった。




To Be Continued…

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