第39話『美と洗練の国、アザレア』
シリーズ第39話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
アミィの故郷ガローファノ国にて邪教戦士ポールポラとその配下プロトの襲撃を受けた一行。間一髪で都市への被害は免れたものの、一行の足となっていたエイリアの飛行機がポールポラの改造によって使い物にならなくなってしまった。
「ありゃ〜、これはアカンわ。エンジンも翼も取られちゃ飛べへんやろ…」
「仕方ありませんね。当分は船や陸路で旅を続けましょう」
「うん…ロアッソ共和国から修理機材が届くまで時間がかかりそうなんだ…修理が終わったら必ず追い付くから。エレン、ごめんね…」
「心配しないで、エイリア。さあ、グズグズしてないで行くよ!」
修理に立ち合うエイリアを残し、一行は陸路で次なる目的地を目指すことにした。その同じ頃、とある地に建つ機械的な外観の研究所にポールポラは潜んでいた。
「フフフ…プロトよ、お前は最強だ。お前なら必ず奴らを倒すことが出来る。私とお前に勝てぬ敵などいないのだ…」
紫の培養液に満たされたカプセルで眠るプロトを見つめながら不敵な笑みを浮かべていたポールポラは胸の奥底から沸き上がってくる狂気を制するようにモニターに視線を移す。電子的な青々とした光を放つ画面にはプロトによって解析されたモニカ達の紋様が映写されていた。
『金色の光──練度87.9%──戦闘データサンプルとして最優先に分析を実施する──』
『青の氷──装備の火力補強が主用途となる見込みだが、遠隔武器としても使用可能──』
『黄色の雷──威力及第点。原動力として“青の氷”の存在を感知、原理の解析を要す──』
「まあ、急くこともあるまい。足りないデータもすぐに集まる。何事も楽しみは後に取っておくものだ…」
一方、陸路や海路での移動を強いられた一行はアミィの実家で次なる進路を決める話し合いをしていた。
「う〜ん、起こっちゃったことは仕方ないね…とりあえず目的地を決めよ♪」
「そうだな、カタリナ。では、まずアランチョ国までザラームを送り届けたい。あの科学者も用事があるなら向こうから来るだろう」
「なら、船でラピス洋を越えてアザレア王国に向かおうか。アランチョ国の大陸へは更にラズリ洋で隔てられているから、アザレア王国とペーシュ国を横断することになるだろうね…けっこう長くかかるよ」
「やったぁ!アザレア&ペーシュ横断ツアーだね!楽しみ〜♪」
「ザラーム、遊びに行くんじゃないんだぞ。危険なんだから気を引き締めて臨め!」
「そういや、アランチョ国にどんな用事があるの?まだ聞いてなかったよね」
「そうだったな、クレア。実はアランチョ国の傭兵ギルドまでザラームを送ることになっているんだ。私用で恐縮だが、よろしく頼む」
「よろしくお願いしま〜す!」
「うん、ザラームちゃん、よろしくね♪さあ、出発しましょ!」
船に乗り込み、マリンブルーに輝くラピス洋を渡る。氷で冷やされた海水が極地から流れ込むため海水の温度が低く、独自の生態系と豊かな海洋資源に恵まれた海域である。涼やかな風が吹き付ける中、一行はこれまでの、これからの旅路に想いを馳せていた。
「やれやれ、思えば遠くに来たもんだねぇ…」
「魔族七英雄、邪教戦士…あたくし達の運命の行き着く先、幾多の脅威、数多の試練が待っていようと、この彩りの力を1つに合わせていけば負けるしませんわ。フフフッ…」
「そうだな、ビアリー。どんな相手が襲ってきても俺達にかかれば返り討ちだぜ!」
「あっ、あれがアザレア王国じゃないか?バリバリのボルテージでブッ飛ばしていこうじゃん!」
一行はアザレア王国に到着した。国風が洗練された文化によって形成され、佇まいにも気品が溢れている。美しい街並みに一行は心を奪われるばかりであった。
「わあ…私、一度アザレア王国に来たかったんです…嬉しい♪」
「よかったな、リデル。アタシはやっぱAKロック!本場のロックを聴きたいな──」
「やあ、お嬢さん達。美と洗練の国、アザレアへようこそ」
一行の目の前にすらりと背の高い人物が現れた。青い瞳に涼やかな顔立ち、金色がかった茶髪を短く揃え、仕立ての良い黒いスーツに身を包み、白シャツに黒いボウタイを結んだその佇まいは男性とも女性とも判断し難く、中性的且つ高貴な気品を漂わせていた。
「私はオール。この辺りでバウンサーとして働く者です」
「へぇ…バウンサーってことは用心棒かい!あたいと同業者じゃないのさ!」
「おや、なんと素敵な偶然でしょうか…これも運命の巡り合わせ、何かお困りのことはございませんか?」
「そうですわね…あたくし達、この辺りは初めてでよくわかりませんの。ご案内していただけません?」
「ええ、喜んで。最近はゴロツキ退治の仕事ばかりで退屈していました。楽しい仕事になりそうです」
「よろしくね、オールさん!ぎゅ〜っ♪」
(わわっ!?だ、抱き着いてきた…出会ったばかりの美少女が私に心を許し、無邪気に身を委ねるなんて…!)
コレットに抱き着かれるや否や、オールの顔色が変わる。頬は紅潮し、瞳孔が大きく開いていた。ステラが慌ててコレットを引き離すが、オールは暫し夢想に耽っていた。
「これこれ、何やっとるんじゃい!オールさんが困っとるじゃろうが!」
「ぶ〜!だってオールさんと仲良くなりたいんだもん!」
「すみません、コレットの親愛の証みたいなもので…オールさん…?」
「…いえいえ、気にしないでください。手厚い歓迎、感謝致します。では、近場からゆっくり観ましょうか」
ガイド役としてオールを加えた一行はアザレア国都市部を練り歩く。穏やかな物腰で一行をエスコートするオールの姿は洗練された街並みによく馴染んでいた。
「喫茶店がたくさんありますわね。それにどのお店も賑わっていますわ」
「ええ、毎日この時間はアザレア・ティータイムといって、皆紅茶を嗜むのですよ。貴女もいかがですか?貴女と是非ご一緒したい」
「まあ、嬉しいですわ♪喜んで!」
ルーシーはオールに薦められるがままにカフェに通された。大所帯である一行は複数の席に別れていたが、何故かルーシーはオールと2人きりになっていた。ゆっくりと紅茶を飲み寛ぐルーシーをオールは微動だにせず見つめていた。
(美しい…なんて美しいんだ…透き通った肌、澄んだ水色の髪…美麗な佇まいがたまらなく…!)
「むむむ…?オールさん、何やら様子がおかしいッスね…」
「ええ、気の流れが不可解なくらいに変わっている…少なくとも平常心は保っていないわ」
「ルーシーお姉様を1人にして大丈夫かしら…何故だか不安です…」
「ああ、リーベの言う通りだな。何か裏が無ければ良いのだが…ん?リタ…?」
リタが無言のままで2人の座る席に歩み寄る。ただならぬオールの様子に何か感じ取ったのか、ブーツで乱暴にフロアを鳴らしながら歩いている。懸命に作った笑顔は引きつり、眼差しはリタの笑顔の際のそれとは程遠いものだった。
「お、おや…どうされました?せっかくですからもう少しゆっくりされては?」
「なあ、オールさん…具合でも悪いのか?顔が紅いし、息も荒いぜ?俺、さっきから気になってしょうがないんだけど…」
(な、なんと!?この美少女の一人称が、“俺”!?美しさに包まれた勇猛さ…なんと耽美なのだ!)
(俺にも同じ反応だ…わからない…どうなってるんだ?)
一行はオールに疑いの眼差しを向ける者と怪しい素振りに気付いていない者に二分された。しかも後者はほんの僅かしかいない。怪しい雲行きのまま、宿に入る一行は更なる追い討ちを受ける。
「申し訳ございません。只今ダブルの部屋しか空きがございません…」
(ダ、ダブル!?アミィ…他に宿無いか聞いてみてよ!)
(エレン姉ちゃん、無理やって。ここ以外は高過ぎて予算オーバーや。なんとかしてオールさんを誤魔化さな──)
「あの…私達はみんな女性なのですが、オールさんが一緒に入って大丈夫ですか?」
「リーベさん、心配には及びませんよ。実は私もれっきとした女ですから」
『えええええっ!?』
オールの告白に一行は絶句する。初対面で尋ねておけばまだ打つ手もあっただろうか。リーベの咄嗟の機転も虚しく、易々と誰かと2人きりになる口実を与えてしまったのであった。
(ちょっと、真性で危ない人じゃないですか!カシブさん、どうします!?)
(ケイトさん、落ち着くのである。出し抜く方法はあるはずなのである…どうにかしてコイツを──)
「では、部屋割りは公平にくじ引きで決めましょう!さあ、みなさん、用意してください!」
一行は完全にオールのペースに巻き込まれ、成り行きで部屋割りが決まってしまった。決まった部屋割りに対し皆が眉を潜め訝しい空気のまま、オールはどこ吹く風とばかりに部屋へと入っていった。
「ふう…一息つけましたね。どうぞごゆっくりお休みください」
「はい…ありがとうございます」
オールと相部屋になったのはネイシアだった。ネイシアはオールを疑わなかった上にカストルとの一件もあったばかりのため、怪しい素振りを見せるオールと2人きりにすることに一行は強い抵抗感を覚えていた。オールは好機とばかりにネイシアに歩み寄り、耳元で囁いた。
「ネイシアさん…その…貴女を…抱き締めても良いでしょうか?」
「…?構いませんよ。減るものでもありませんから。さあ、どうぞ♪」
ネイシアは疑う様子も無く、愛らしい笑顔を浮かべながらオールの腕に抱かれた。ネイシアを抱くオールは恍惚の表情を浮かべ、夢想の世界に浸った。
(な、な、なんと柔らかい……清楚で禁欲的な外殼に隠された、これほどの甘美な感触は──)
「イヤ〜ッ!助けて〜ッ!!」
リデルの悲鳴が耳に飛び込み、オールは現実の世界に引き戻される。部屋から飛び出しエレベーターホールへ向かうと、一行に囲まれた1人の破落戸がリデルを無理矢理連れ去ろうとしていた。
「ゲヘヘ…可愛いお嬢ちゃん、俺と遊ぼうぜ〜」
「リデルを返しなさい!さもなくば斬りますよ!」
「いい度胸だな!可愛いお顔に傷が着いても知らねぇぜ──」
「ノッティンガムエッジ!」
短い棍を両手に携えたオールは衝撃波を破落戸に飛ばす。運命が導く使命に突き動かされ、その左手にはシャンパンゴールドの紋様が印されていた。
「オールさん…紋様が!?」
「清き乙女を玩ぶ無頼漢め!その薄汚い手を離せ!私が相手だ!」
「なんだテメェ!?スカした野郎め、ブチのめすぞ!」
乱暴な破落戸の攻撃をオールは両の棍で華麗に受け流す。次第に闘志を昂らせていき、シャンパンゴールドに煌めく闘気の渦を巻き起こした。
「Spinning!!バーミンガムトルネード!」
「ぐえええっ!」
破落戸はたまらず逃げ去っていった。オールは一顧だにせずリデルのもとへと駆け寄る。その瞳には先程の妖しい耀きではなく、“仲間”として大切に想う優しい煌めきが輝いていた。
「リデルさん…お怪我はございませんか?」
「はい…大丈夫、です…」
「申し訳ない…貴女が我が母国アザレアに対し気を害してしまわないか心配だ…」
「そんなことないです…オールさんが助けてくれて…嬉しいです♪」
「アンタ、なかなかやるじゃない。見直したよ!」
「フッ、バウンサーとして当然です」
「それにオールさんも“仲間”だったんだな。よろしく頼むぜ!」
「歓迎していただき恐れ入ります。さて、今一度ゆっくりお休みください」
美と洗練の調和するアザレア王国にてちょっと怪しい用心棒オールを加えた一行。ザラームを無事にアランチョ国へ送り届けることが出来るのか?闇に潜む邪教戦士の影はいつモニカ達に牙を剥くのだろうか?アザレア王国の夜は静かに更けていった。
To Be Continued…




