第38話『灰色の機械少女』
シリーズ第38話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
魔族七英雄カストルを討ち倒し、ネイシアとザラームを救出した一行。果敢に魔族に立ち向かったリボンを一族の筆頭とした妖精達の見送りを受け、妖精の泉から発とうとしていた。
「みなさん、どうかお気を付けて!また会いましょうね!」
「みなさん…ありがとうございます。天の導きはみなさんの救いの手を私にもたらしてくださいました。感謝致します…」
「どういたしまして。では、私は騎士団領に帰るわ。左手に彩られたこの力で騎士の誇りを守り、騎士の務めを果たします!」
「私は取材の結果を編集部に報告しに行きます。何かあったら呼んでくださいね!」
「アイリスもティファもだ〜い好きだよ!ぎゅ〜っ♪」
「フフフッ…ありがとう、コレット。ビクトリアやエレンの言うことをちゃんと聞いて、元気でいてね。じゃあ…またね」
「名残惜しいですけど…必ずまた会いましょう!」
「うん…バイバイ!」
エイリアの仲間が操縦するプロペラ機に乗り、アイリスとティファは去っていった。2人を見送った後、ケイトは穏やかに微笑んでいたが、対照的にカシブは決まり悪そうにモジモジしていた。
「あ、あの……前言撤回になってしまうのだが…私、もう少しこの一団にいたいのである…」
「うん、カシブさんも一緒に行きましょう!私もまだ一緒に旅したいです!よろしいですか?」
「断るわけないよ!一緒に楽しもう!ね、リデル?」
「はい!クレアさんの言う通り…一緒だと、私も嬉しいです…」
『みなさん、準備はいいですか?出発します!』
改めてケイト、カシブ、ザラームを加えた一行はエイリアの操縦する飛行機で妖精の泉に程近いガローファノ国に向けて飛び立った──その同じ頃、魔空間に3人の男が苦虫を噛み潰した表情で佇んでいた。
「カストルも戦に散ったか……無念也」
「致し方無い。その奮戦に免じ、せめて散り際は美しく在って欲しかったが…」
「ベガ、お前の作戦はどうなっている?俺とシリウスとアルタイルは実行出来るまでもう少し時間がかかるのだが」
「すまないが、此方もまだ実行段階には至っていない。着実に準備は進んでいるのだが……」
「そうか…ならば、ここは暫し奴等に任せるとするか。人間界にいる奴等ならすぐに影響が及ぶ。俺達が動くのはそれからでも遅くないだろう。フフフ…」
一行は妖精の泉から1時間も経たぬうちにガローファノ国に到着した。貿易と商業の国であり、多くの人々で賑わっている。街に着くと後方にいたアミィが小躍りしながら飛び出してきた。
「久しぶりや!懐かしいわぁ〜♪」
「えっ?アミィちゃん、ガローファノ国の出身なんですか?」
「そやで♪ガローファノ国は商業が盛んで経済活動が活発やから、同じものでも他の国より安く買えたりするからお得やで!ほな、せっかくやし買い物しに行こか!寄りたい所もあるんや!」
アミィの案内で商店街を廻り一通り買い物を済ませた後、町外れに建つアミィの“寄りたい所”に到着する。看板には大きく“Howard”と書かれており、その店構えは年輪を重ねた老舗の雰囲気を漂わせていた。
「おとん!おかん!帰ってきたで〜!」
「アミィ!お帰りなさい。心配してたのよ…あらあら、たくさんお友達も連れてきたのね……」
「はじめまして、モニカ・リオーネと申します。アミィには大変お世話になっております──」
「おう、アミィじゃねぇか!生きて帰ってきたなら何よりだ!ワッハッハ!」
「あんたねぇ…あたしはあれほど反対したじゃないの!まだ13歳なのに1人旅なんてさせて…」
「まあまあ、“可愛い子には旅をさせろ”っていうじゃねぇかよ。俺も若い頃は世界中を旅して廻ったもんさ!ほら、アミィも旅の話をめいっぱい聞かせろぃ!」
アミィは両親に積もる話をした。ロアッソ共和国での長い旅路の始まり、仲間達との出会い、次々に迫り来る魔族七英雄の脅威──話は暫し尽きることはなかった。
「そうなの…大変だったねぇ。無事に帰ってきてくれて、母さん安心したよ」
「で、いよいよ旅も一段落したのか?店の手伝いでもする気になったか?」
「いや、それがそうもいかんねん。まだ旅は途中やし、後に退けなくなってもうたわ」
「また旅に出るの!?母さんは心配だよ。このまま店の手伝いをして──」
「大丈夫やって!今はこんなにたくさん仲間がおるんや。みんなで助け合ってやってくんやから、心配せんといてぇな!」
「よく言った!流石は俺の娘だ。そうこなくっちゃなぁ!」
「みなさん…不出来な娘ですが、どうかよろしくお願いします」
「ええ、任せてください。アミィがいてくれるなら心強いね!」
「ああ、エレンの言う通りさ!頼りにしてるよ!」
一行はアミィの両親に紹介された宿で羽を休めることにした。一行が眠りに就いた頃、1人の男が街の片隅に立っていた。眼鏡の銀色のフレームが街灯の光を受けて怪しく光っている。
「…よし、やるぞ」
「了解しました。マスター」
「頼りにしてるぞ。お前がいれば百人力、私を信頼してくださるアンタレス様に報いることが出来る…」
翌朝、ザラームを送りにアランチョ国へ発とうとしていたが、飛行機が動く気配が全くない。しばらく様子を伺っていたが、次第にエイリアが当惑した様子になり、一行はエイリアのもとに駆け寄った。
「エイリア?どうしたの?」
「ご、ごめんなさい…エンジンがかからないんです!」
「むむっ!?それは一大事なのである!どこが故障しているか見てみるのである!」
「どれどれ……あっ、ここ不自然に空いてるよ?なんだろ?」
「あれ…?ここは…エンジンの機械があったはずなのに、ない!?」
「マジかよ!?誰かに盗まれたってことか…」
「うう…困ったな。修理に来てもらわなきゃ…」
「仕方ありません…修理の方が来るまで少し待機しましょう──」
一行が滑走路を離れようとした刹那、飛行機が一瞬にしてバラバラになった。四散した部品は収束し、人型のロボットを形成する。ロボットには銀縁の眼鏡の男が乗り込んでいた。
「ハハハ!私は邪教戦士、ポールポラ!見ろ、これが私の科学の力だ!驚いたか!」
「邪教戦士…少なくとも善人ではなさそうですわね。闇に堕ちたいのかしら?」
「おっと、生憎私は用事があるのでね……貴様らの相手は私の相棒に任せよう。行けぃ、プロト!」
ポールポラの呼び掛けに何処からともなく1人の少女が現れた。銀髪のショートヘアー、黒いボディースーツに身を包んだその左手にはグレーの紋様が印されていた。
「精霊の刻印!?どうして邪教戦士に──」
「ターゲット捕捉。これより戦闘を開始します──」
「問答無用のようですね…ならば斬ります!」
「よし、また二手に別れるよ!あたいらで眼鏡男を追い掛けるから、モニカ達でそいつを片付けちまいな!」
一方はビクトリアに追従していき、一方はプロトと対峙する。機械的な口調と裏腹に機敏な動きで一行を翻弄していた。
「そぉりゃあっ!!」
「橙色の龍──原動力の70%が筋力。特記事項無し──」
「フォトン!」
「ピンクの聖──人間特有の“躊躇い”を感知、殺傷能力に難あり──」
「ウィンドカッター!」
「涼緑の風──速度毎時240キロ──遠隔狙撃武器として使用可能──」
「何をグダグダと!悪は成敗してやるのである!」
「計測中断──戦闘再開──」
モニカ達が挑みかかるが、プロトは反撃もそこそこに受け流していく。生命感の薄いその双眸はモニカ達の力を計り、見定めているかのようだった。
「第1フォルダ作成完了──直ちに戦闘を中止し、データのインストール作業に移行する──」
一瞬にして姿を消したプロトに一行は唖然呆然。皆しばし立ち尽くしていたが、フェリーナが遠くに視線を投げ掛けながら呟いた。
「彼女はいったい何者なの?精霊の刻印を持つ者が、何故邪教戦士なんかに…」
「フェリーナ、私はよくわかんないんだけど、祝福の証って……命がその源なの?」
「その通りよ、カタリナ。全ての命には輪廻転生の中で精霊として生きた時代があるの。生命力を糧として魂に内在する精霊が覚醒することで“精霊の刻印”として左手の甲に発現するわ。生涯のうちに覚醒しない人が大多数だけどね…」
「みんな、ビクトリア達を追うのである!急ぐのである!」
一方、ビクトリア達はポールポラを追っていた。街で最も大きな店である武具屋の主人を縄で縛り、店の品々を根こそぎ奪っていた。
「さあ、私に抵抗出来ぬよう、武器は頂いていくぞ!」
「やめろ!誰か助けてくれ!」
「シャドウバレット!」
「ガッツナックルッス!」
リタとテリーの彩りがポールポラの機体を撃ち抜く。粉塵の中をザラームが駆け抜け、落ちていた短刀で主人を縛る縄を断ち切った。
「おじちゃん、大丈夫?」
「ああ…すまねぇな、お嬢ちゃん」
「クソッ!…まあ、良い。貴様らのデータは…」
「データ?何を寝ぼけたこと言ってるのよ!アンタなんてデータごと燃やしてやるからね!」
「フフフ…今日のところは退かせてもらうが、次は必ず仕留めてやる」
「逃がしませんわよ!ムーンライトバインド!」
「スパイダーネット!」
濃紫と若草色の彩りの縄でポールポラを縛り付ける。飛行機ロボはウィング部分を刃に変え、軽々と──且つ乱暴に彩りの縄を破ってみせた。
「フハハ!それしきで私を捕えられると思ったかマヌケが!次に会うのを覚悟して待っていろ…科学の力を思い知らせてやる!!」
ポールポラが捨て台詞と共に去るのと入れ替わりにモニカ達が到着した。幸いにも武具屋の主人には怪我一つなく、奪われた武器も無事に戻った。
「お嬢ちゃん達、ありがとうよ!助かったぜ!」
「何、礼には及ばないッス!正義の拳を振るっただけッス〜!」
「せめてもの礼だ!店からどれか好きなもの持っていってくれ!」
「素晴らしいわ!なんて愛のある方なんでしょう!嗚呼、この世界はなんて美しいの…」
「じゃあ、せっかくだしザラームの装備も貰っておかないか?アランチョ国までにまた戦う機会もあるかもしれないし、用意整えていこうじゃん!」
「それは名案ですね。私はトリッシュに同意します」
「む…その気遣いはありがたいのだが、しかし…」
「わたしもトリッシュに賛成!このお店、武器も防具もい〜っぱいあるもん!きっと良いもの見つかるよ♪」
コレットの無邪気な笑顔とモニカとトリッシュの真摯な薦めに難色を示していたヴィオの表情も次第に和らいでいく。ザラームに向き合う表情は紛れもなく姉として妹を愛しく想うものであった。
「…わかった。ザラーム、好きなのを選べ」
「は〜い!お姉ちゃん、どれが良いかわかんないから教えて〜」
「フッ…どれどれ、色々見てみるか…」
ヴィオに適正を見てもらいながら1時間半に及ぶ長考の末、ザラームは銅の剣とピンクの軽装鎧を主人からの謝礼として譲り受けた。一行が待ちくたびれた様子でいるのを尻目に、ヴィオは希望に胸躍らせる妹の様子を満足げな表情で見つめていた。
「うん、私の見立て通りだ。ザラーム、よく似合っているぞ」
「やったぁ!お姉ちゃん、ありがとう!」
「やれやれ…まったく疲れるお嬢ちゃんだぜ」
「ホンマやて。世話の焼ける人達やわ…やっぱりウチがいてなアカンっちゅうこっちゃな!」
カストルを討ち破った一行に次なる刺客、邪教戦士が襲いかかった。ポールポラの言う“データ”とは?そして謎の少女プロトは何者なのか…?一行は次なる戦いへと飛び込んでいくのであった。
To Be Continued…




