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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter3:カストル篇
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第36話『菓桃の愛、骸紫の絆』

シリーズ第36話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

魔族七英雄カストルに心酔した妖精達が紡ぐ仮想空間の摩訶不思議な脅威を辛うじて振り切った一行はリーベの紋様が呼ぶ菓の神殿に辿り着いた。自らの彩りを司る精霊の息吹を確かに感じ取り、リーベの表情はいつになく引き締まっている。鍵を手にしながら向かい合うカシブの双眸からは穏やかな優しさが溢れ、妹を愛しく想う姉のような表情に変わっていた。



「さあ、臆することはないのである。精霊は必ずリーベちゃんに味方するのである!」


「はい。カシブさん、貴女の愛に応えてみせます。私の力で!」



鍵と紋様が同調し、大きな扉がゆっくりと開く。菓の神殿にはハート型の意匠やパステルカラーで彩られた可愛らしい雰囲気とは裏腹に精霊が祀られる地に相応しい厳粛な空気が漂っていた。



「へぇ、これが菓の神殿か…やっぱり冥の神殿とも雰囲気が違うぜ」


「わぁ〜、可愛い!こんな所に住めたら良いな〜!」


「そうだね、コレット!すごく素敵!可愛いね♪」


「うむ。盛り上がるコレットちゃんとカタリナさんはさておき、妖精の世界に精霊を祀る神殿があったとは…益々奇怪な世界なのである」


「菓の精霊アプロディテは他の精霊と比べて伝承も少ないわ。私としてもすごく興味深い…楽しみね」


「リーベ、貴女の想い、私達に見せてください。リーベが試練を乗り越えるのを皆楽しみにしてますよ」



モニカの呼び掛けに少しばかり微笑んだ後、リーベは最奥に潜む祭壇に向かい合う。その毅然とした瞳は普段の空想に微睡んだ表情とは別人のようだ。



「我が名はリーベ。菓の精霊アプロディテよ。我が呼び声に応えよ。我に道を示したまえ!!」


「素晴らしい…リーベちゃんの勇姿、カメラに収めておかないと!」


「あっ…さ、祭壇が光ってる……リーベさん…えっと、が、頑張ってください!」



祭壇からキャンディピンクの波動がキラキラと煌めきながら集束すると、1人の女性が姿を現した。プラチナのように煌めく白い肌にクリーム色の法衣を纏い、キャンディピンクの髪を長く伸ばしている。女性は穏やかに微笑みながらリーベに向かい合った。



『私はアプロディテ。我が彩りを受け継ぐ者よ。貴女の望みは何ですか?』


「精霊の試練を受けさせてください!私の力で、愛の力で世界を救いたいのです!」


『いいでしょう。それが叶うかどうか…貴女の力、見せていただきます!』



アプロディテが携えたステッキを振るうと薄ピンクのロココ調の可愛らしい柵が現れ、リーベと仲間達を分かち隔てた。一瞬にして神殿中に緊迫した空気が立ち込め、リーベの表情はより一層鋭いものとなっていった。



「わわわっ!?これはいったい!?リーベさんが…!」


「これが精霊の試練…私達は一切手助け出来ないということなのね」


「ああ、そういやリボンとティファ姉ちゃんは初めてやったんやな。この精霊の試練、毎回ハラハラすんねん…」


「よっしゃ!リーベ、時間一杯、待ったなしじゃぞい!思いっきりぶつかっていきんしゃい!」


「ご覧頂けますか?私は1人じゃない。この旅で紡がれた確かな絆がある!負けません!」


『ええ、では始めましょう。力を示しなさい!』



アプロディテはステッキを振るい、リーベを討ち据えに飛び込んできた。対するリーベもフォーク型の短槍を構え、小さな体で力一杯に踏み込み、勇ましい表情で立ち向かっていった。



『はっ、せいやっ!』


「やあっ!それっ!」


『ふっ、喰らえっ!!』


「うっ…はあっ!当たれっ!!」



キャンディピンクの波動を受け、リーベの身体が仰け反る。跳躍するや否や、宙を舞いながら短槍を投げ飛ばす。菓の力を纏ったジャベリンはキャンディピンクの閃光となって得意気な表情を浮かべるリーベの手元に戻った。



「わぁ、すっごい!リーベもあんな動き出来るんだね!」


「そうだな、エイリア。リーベ、イケてるじゃん!ノリノリで畳み掛けろ!」


『ふむ、良い動きですね。では、これはどうでしょう?』



アプロディテはステッキを構え、法力を集中させる。床一面に浮かび上がったキャンディピンクの魔方陣から小さな妖精が次々に召喚された。息を飲みながら見守る仲間達の中にはこれまでとは違う“精霊の試練”に眉を潜める者も少なからず居た。



「ハッ、なんだい!精霊様とあろうもんがリーベに怖じ気付いたのかい!」


「助けを呼ぶなんてズルッスよ!ガチンコ勝負するッス!」


『貴女の意思、絆の力を以てすれば如何なる困難にも打ち克てるはずです。貴女には出来ますか?』


「…出来ます。今の私なら、間違いなく!」



リーベの表情には一寸の不安も無い。アプロディテと同じキャンディピンクの彩りは甘やかに輝く聖なる光となって神殿を目映く照らしながらその力を振るった。



「グラッサージュ!」



リーベの眼差しのように柔らかくもその意思のように力強い閃光が辺りを駆けていく。菓の力が煌めく閃光に呑み込まれた妖精達は一瞬で姿を消していた。



「よし、いい調子だね!リーベも燃えてるってわけだ!」


「すげぇ!その調子でガンガン行こうじゃん!」


『見事です。ですが、まだ終わりませんよ!』



アプロディテが続けて喚び出した法力が四方八方に飛散していく。壁や天井、果ては床にまで張り付いた蝙蝠がリーベに敵意を剥き出しにして飛び掛かってきた。その数は尋常ではなく、先程の妖精達の比ではない。モニカ達が待つ位置からも蝙蝠は黒紫の塊となって次々に湧き出て来た。



『ギギギイイッ!』


「クッ…ま、負けません…コロネ・トルネード!」



噛み付かれても慌てる様子も無く短槍を杖に見立て、左手の彩りを切っ先にかざす。錐揉み回転しながら閃光の刃を射ち出し、周囲を囲んだ蝙蝠達を瞬く間に殲滅してみせた。



『素晴らしい!貴女ならば或いは…この試練、乗り越えてみせなさい!』


「うえっ!?急に真っ暗になっちゃった…リーベ、大丈夫!?」


「チッ、こいつは…!?リーベ、後ろだ!」



柔らかなパステルカラーの空間が真っ黒に暗転する。リーベがヴィオの呼びかけを受けて背後に視線を移すと、リーベ自身の影が神殿中全体に大きく伸び拡がっていた。口元が小さく動き、冷たい視線を投げ掛けている。リーベの視線は影の口元の一点に集中していた。



『ムダダ…アイナドマボロシ。カタチナキモノハ、カチナキモノ…』


「うっ、痛い…頭が痛い…!」


『貴女が真に向き合わねばならないのは貴女自身の内に潜む闇です。物理的な障壁に打ち克てるのは勿論必要ですが、己の使命を形にするには己自身という内なる敵に立ち向かう覚悟が要るのですよ』



影の口元から放たれる声にリーベは耳を疑った。聞き覚えのある声が胸の奥底の魔物を揺さぶり起こす。優勢に立っていたリーベの顔が一瞬にして恐怖に歪んだ。



『愛だの夢だの、そんなもので飯が食えるわけないだろ?目ぇ覚ませよお前!』


『絵本の読みすぎじゃないの?バッカみたい!』


『そんな甘ったれた考え方、自己満足にしかなんねぇよ!』


『まったく、正気とは思えないわ!』


『やれやれ…医者に診てもらったらどうだ?』


(これは、私が旅に出る前の…もしかしたら私はまた…!!)



自らの理想に逃避し、胸の内にしまい込んでいた忌まわしき記憶がリーベの脳裏を駆け抜ける。己を否定され続けた過去が黒い荊となって全身に絡み付き、棘が突き刺さった。



「うううっ…ああぁぁっ!!」


「ふえっ!?リーベ、どうしたの!?お腹空いたの?」


「コレット、違うわ……リーベの中の記憶が棘になって心に刺さってるのよ…」


「リーベさん、負けないで!貴女の闇に呑み込まれてはいけません!あたくし達がついていますわ!」


「リーベ!リーベ!!しっかりしてください!!」


「嫌、いや、イヤッ!!ああああぁぁぁぁッ!!」



リーベは頭を抱えながら苦悶の表情を浮かべ、仲間達の声も届かぬ程に屈してしまった。リーベの内より出でし影が誘う暗黒に皆が言葉を失う──が、絆の力を体現する者の1人──チリアンパープルの彩りが黒き沈黙を破った。



「リーベちゃん!私達は諦めないぞ!どんなことがあっても、有りのままのキミを受け入れるぞ!キミを信じているぞ!!キミの側に居るぞ!!!うおおおおぉぉぉぉ〜っ!!!!」



カシブが仲間達を掻き分け、自身とリーベを隔てる柵にしがみつきながら声の限りに叫ぶ。リーベの頬を一筋の涙が静かに伝うと、光る雫が夜空を駆ける流星群のように次々に続く。輝きを喪いかけた虚ろな瞳は黒く影を堕とした地を見つめていた。



「カシブ、さん……」


『貴女には絆の力があるのでしょう?今、確かにそれを感じます。立ちなさい!己の闇を断ち切り、絆に応えてみせなさい!』



リーベは歯を食い縛りながら立ち上がり、再び己の影へと向かい合う。しかし、リーベの脳裏には暗黒の過去ではなく、彩りの使命に導かれた仲間達と共に歩む“今”が浮かんでいた。



『フフッ、楽しい娘ですね…天よ、感謝致します…』


『リーベ!ここにいたのか…心配してたんだぜ…』


『精霊は必ずリーベちゃんに味方するのである!』



「影達よ。あなた達の知る私は、もういないのです!愛と夢と希望の光、灯してみせる!!グランローズ・アシェット!!!」



『アイ、ユメ……スベテ、マボ…ロ、シ……』



力強く爆ぜるキャンディピンクの彩りが神殿を黒に染めた影を討ち祓った。リーベとアプロディテの胸中には安堵にも似た穏やかな感情が満ち溢れた。



『嘗て“妖精の祠”と呼ばれながら、地に沈んだこの神殿に希望の光を見ようとは…貴女は我が意思を現世で体現するに相応しい方と確信しました』


「アプロディテ様…ありがとうございます!」


『菓のピンクサンストーンを貴女に授けましょう。貴女と共に、愛と希望が在らんことを!』



優しく微笑むアプロディテが姿を消すと、キャンディピンクの彩りが指輪となり、リーベの右手に輝いた。隔てていた柵が消えるや否や、喜びを分かち合う一行の輪から真っ先にカシブが駆け寄り、リーベの華奢な体を抱き締めた。



「リーベちゃん、キミなら出来ると信じていたのである!己の闇を退けたのである!」


「そうですよ。リーベさん、わたくし達に少しもそんな素振りを見せなかったのに…素敵でしたわ!」


「カシブさん、ルーシーお姉様、これは私1人の力ではありません。皆さんと出会えたから、私は逃げてきた過去と決別出来たんです!ありがとうございます!」


「リーベちゃん…私は…私は…グスッ、グスッ…」


「カシブ、泣いてる場合じゃないよ!勢いも付いたところだし、敵陣に突撃しなきゃね!」



一行が菓の神殿を出ると、すぐに空間の揺らぎに突入した。彩りの力、絆の力で魔を討ち倒し、囚われの仲間を救うべく、祝福の証の戦士達は魔族七英雄カストルの居城、魔空間〜夢幻〜へと降り立った。一行を嘲弄し、人や妖精の心を玩んだ映し身の道化カストルとの決戦の火蓋が遂に切られる!




To Be Continued…

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