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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter3:カストル篇
34/330

第34話『映し身の道化』

シリーズ第34話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

甘桃(スイートピンク)の聖女ネイシアが妖精達の心を掌握した魔族七英雄カストルの手に囚われてしまった。一行は二手に別れ、モニカ班は宝珠“虹の涙”を求め妖精の祠へと向かい、ヴィオ班は妖精王の宮殿でカストルと対峙、邪気を身に纏った謎の戦士フィーネの助太刀もあってカストルの配下スロースを撤退させ、カストルとの戦いで負傷したヴィオの回復を待っていた。



「ヴィオ姉ちゃん、具合どや〜?」


「ああ、だいぶ良くなった。すまない、要らぬ足止めになってしまったな」


「それは別にいいけど…ヴィオ、アンタ何か隠してない?」


「そうですよ。なぜ私の攻撃からカストルを庇ったんですか?」


「うむ、それはだな…その……」



ヴィオは暫し考え込んだ後、大きく溜め息をつく。俯いた後に皆に向き直った顔はどこか開き直ったような──全てを振り切ったような妙に清々しい表情に変わっていた。



「まあ、もう時効だな。実はカストルに私の妹を人質にとられているんだ。恐らくネイシアと同じ場所にいるだろう」


「…!!…そうだったの…もしかして妹さんにも祝福の証が…?」


「ああ、そうだ。そして、攻撃する前に奴のプリズムの色が変わっただろう?ああなっては手が出せん。奴は敵の姿と情報をプリズムに保存し、自身の身代わりとする防御能力を持っているんだ」


「身代わり…まさか他人を盾にして…」


「エイリア、お前は察しが良くて助かる。もしあのまま攻撃したら奴の代わりに妹がダメージを受けるんだ」


「酷い…なんて卑怯な人なの!?許せないわ!騎士の誇りに賭けて必ず彼を討ちます!」


「ホンマや!ウチ、段々腹立ってきたわ!いてもうたるでぇ!」


「フッ、アミィ、ありがとう。さあ、油を売ってる暇はない。モニカ達を追うぞ!」



その同じ頃、魔空間。ローブの男達を取り囲む無数の燭台──チョコレートブラウンの明かりが灯っていたが、そこにピンクの光が新たに加わっていた。



「薄紅の灯火…聖の力、我等が掌中に在り」


「ふむ…カストルにも魔族七英雄としての自覚の欠片くらいはあるようだな。聖なる力の清純なる美、私としても興味深い…」


「これで2人か。アルニラムは敗れてしまったが、数多の彩りを手にするのも俺達にかかれば訳無いものかもしれないな…フハハハ!」



カストルの本拠地、魔空間〜夢幻〜。プリズムの檻に囚われたネイシアは悲嘆に暮れ、静かに涙を流している。その姿はさながら白馬の王子の助けを待つ囚われのプリンセスのようだ。



『グスッ、グスッ…みなさん、ごめんなさい…』


『あっ!ワタシとおんなじ!ねえ、ワタシの左手見て!』



ネイシアと同じように捕えられた少女が天真爛漫に話しかけてきた。黒に近い茶髪を肩まで真っ直ぐ伸ばし、ピンクの服に身を包んでいる。左手に印されたチョコレートブラウンの彩りはプリズムの牢越しでもはっきりと確認出来る。



『祝福の証…貴女は何者ですか!?』


『ワタシはザラーム。あなたもカストルに捕まったのね?』


『はい…でも、私の仲間達がきっと来てくれます。きっとここまで必ず…』


『そっか。ワタシもね、お姉ちゃんが助けに来てくれるんだよ。お姉ちゃん、すっごく強いんだから!だから絶対大丈夫!』



ネイシアとザラームの2人が印に導かれ、ヴィオ班が宿を発とうとしているその頃、モニカ班。カストルに唆された妖精によって再び仮想空間へと飛ばされてしまった。視界が開けるとそこは見渡す限りに真っ青な──空であった──



「これは!?クッ、引っ張られる…!」


「わわわ…陸がない!ずっと下に落ちていってる!トリッシュ、助けて!」


「無茶言うな姉貴!アタシだって恐いっての!うおおわわわ…」



そこには陸と呼べる地帯が一切存在せず、ただ重力によって下へ引き込まれながら宙を舞い続けている。下に向かえど向かえど陸地らしきものは確認出来ない。延々と空ばかりが青々と続いていた。



「ふえぇ…下に人がいたらイヤだな…パンツ見られちゃうよ〜…」


「コレットちゃん、そんなことを気にしている場合ではないのである…敵が飛んで来たのである!」



飛来した魔物達は先程の仮想空間の者達と同様にピエロの面を被っている。普段ならばここで間髪入れずに挑みかかれるところだが、一行を引きずり込む重力がそれを許さない。



「チッ…こんな状況でどうやって戦うってンだい!足が地に着かなきゃどうにもならないじゃないのさ!?」


「わたしが前に出ます。皆さんは後ろから援護してください!」


「リボン…お願いします!みんな、なるべく早く準備を整えましょう!」



リボンが背の羽で風を切りながら単身で魔物の群れへと果敢に飛び込んでいく。左手に印されたベビーピンクの彩りの力を振るった。



「フェアリーシャイン!」


「ギギイッ!ギギイッ!ガウウゥゥッ!!」


「ええっ!?ぜ、全然効かない…どうしよう…」



リボンは羽で飛行しながらモニカ達のいる後方へ僅かに視線を移す。しかし、足場が全く無いという体験したくても出来ない現象に全員混乱してしまっている。とても加勢出来そうな状況ではない。



「ガウウゥッ!」


「あわわ…ひいっ…!」



劣勢に立たされたリボンは飛び回りながら魔物達の攻撃を必死にかわす。しかし、多勢に無勢、瞬く間に追い込まれてしまう。四方八方を取り囲まれ、魔物達の鋭く尖った嘴で立て続けに討ち据えられた。



「グウアアァァ!」


「キャ〜〜ッ!!」


「リボンちゃん!…ダメ、この体勢じゃ…!」


「カタリナ、ワシに任せぃ!そおりゃああぁぁっ!」



ステラが全身の体重を真下に掛ける。橙色の閃光と共に宙を駆け、落ちていくリボンをその手に収め、飛ばされぬよう懐に引き寄せた。



「リボン、大丈夫か?災難だったのう…ほれ、アミィからもらった傷薬じゃ!飲みんしゃい!」


「ありがとうございます。助かりました…」


「よし、ワシらが奴らに灸を据えたるから見とれ!かかって来んしゃい!」



ステラは気を高めるべく足を踏み鳴らす動作だけを行い、魔物達に向かい合う。筋肉の着いた両腕を前に突き出し、力強い張り手を見舞った。



「ぬん!そりゃあ!」


「グアアァッ!」



ステラに続いてモニカ達も降下しながら魔物達の群れに飛び込む。恐怖に打ち勝ち、各々の左手に煌めく力で青々と続く空に色を添えながら魔に立ち向かっていった。



「ブライトエッジ!」


「フロストザッパー!」


「ガアアァァッ!」



モニカ達は一気に攻勢に出ていたが、忽ち鼠色の雲が辺りを覆い隠す。耳元に雷鳴が荒々しく鳴り響き、少し遅れて無数の雨粒が降り注いだ。遥か上空から降り続く雨が全身を冷やして体力を奪っていき、分厚い雲によって視界も遮られている。一行の心にも少しずつ陰りが見え始めていた。



「ふえぇ〜…寒いよぉ…怖いよぉ…」


「コレット、ネイシアはもっと心細いんだ。俺達が挫けてどうするんだよ!」


「ええ、わたくし達がついてます。大丈夫ですよ。さあ、行きますわ!」


「うん!リタ、ルーシー、ありがと♪わたしも頑張るね!」



晴天が一転して圧倒的に不利な状況であるにも関わらず、仲間を想う気持ちが逆境をはね除ける力へと昇華していった。臆することなく彩りの力をあまねく振り絞り、魔を討った。



「カシブさん、決めましょう!お願いします!」


「承知!さっさとこんな所とおさらばするのである!」



リボンとカシブの紋様が呼応するように輝きを放つ。ベビーピンクとチリアンパープルの祝福の証が魔方陣となって灰色に染まった空に彩りを射し込んだ。



『聖なる御霊よ、仇なす者を討て!フェアリーソウル!!』



祝福に彩られた妖精の御霊は魔を浄め、邪を討ち祓った。モニカ達は再び妖精の仮想空間から元の林道へと帰還を果たした。



『カストル様、ごめんなさい!負けちゃいました…逃げろ〜!』


「あっ、待て!…チッ、すばしっこい奴だぜ!」


「みんな!無事だったか?」



モニカ班のもとに妖精の街から駆け付けたヴィオ班が到着する。ヴィオは悔しさを胸中に抑えながらモニカ班の面々に不本意な結果を告げた。



「そうですか…ネイシア…」


「すまない…それにカストルも取り逃がしてしまった…」


「うん…悔しいけど、なっちまったもんはしょうがないね。ほら、ウジウジしないでさっさと行くよ!」



ヴィオ班が合流し、再度全員が揃った一行はビクトリアの呼び掛けに続き、ネイシアを救いに駆け出した。が、ルーシーがハッと目を見開いて立ち止まり、電子端末に指を走らせた。



「あの…ルーシーさん、どうしましたか?えっと…まさか…」


「やっぱり…この近くに魔空間がありますわ!」


「私達は来るべくして来たということね。これも精霊の導きならば……」


「ええ。あたくし達が此処に来るのは則ち必然。さあ、参りますわよ!」



妖精達の裏に魔族の影が潜むことを確信した一行は林道を足早に駆けて行き、虹の涙が眠る妖精の祠へと到着した。観音開きの戸を開くと祠の床一面に黒紫の禍々しい大きな渦がぽっかりと口を開いていた。



「これは…怪しい紫の渦が巻いているのである!」


「間違いない…魔空間ですね!よし、この渦を写真に撮りますね…」


「遂に追い詰めたぞ…カストル、覚悟しろ!行くぞ!」


『いらっしゃいませ!人間の皆様、ご案内〜!』


「クッ、またかい!?あんたらもしつこいねぇ!」


「むむっ、これは何ッスか!?うおおぉぉ〜っ!!」



魔空間に飛び込もうとした一行は妖精によって三たび仮想空間へと引きずり込まれた。不可思議な空間はまたしても一行の前にそびえる壁として立ちはだかるのだろうか?果たして…?



「ぬう……二度ならず三度までも…今度は何が来るのであるか?」


「もうちょっとやそっとじゃ驚けないけどな……なんか地面が不自然に柔らかい気がするけど──」


「トリッシュ!私達、ケーキの上に立ってるよ!どうなってるの!?」


「は?姉貴、馬鹿言うなよ…って、えええっ!?」



視界が開けた場所はまさに“空想の世界”、“夢の世界”だった。モニカ達が立っていた場はなんとケーキの上──ふんわりと柔らかなスポンジと生クリームが一行の足を奪っていく。余りに奇妙な光景は初めて仮想空間に飛び込んだヴィオ班の面々を混乱させた。



「なんやねんこれ…わけわからんわ!これ、魔空間ちゃうのん?」


「これは妖精達の仮想空間です。どうしてわたしの仲間達が──」


『アハハ〜!ウェルカムトゥフェアリーラ〜ンド!』


「カストルッ!貴様、妖精達まで利用するなんて…許さんぞ!」


『まあまあ、気にしないでよ。肩の力を抜いて、1人1人ゆ〜っくり楽しんで行ってね〜♪』



『HAIL 2 U!』



「これはいったい!?クッ、吸い込まれる……みんな……うああっ!」


『うわああぁぁ〜っ!』



一行はそれぞれ違う地帯へ分散するように引き離されてしまった。移し身の道化カストルと配下として堕ちた妖精達の脅威が休み無く次々に迫ってくる。モニカ達は夢幻の世界を打ち破り、ネイシアとザラームを救出出来るのだろうか?




To Be Continued…

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