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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter3:カストル篇
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第31話『骸の傀儡士』

シリーズ第31話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

騎士団領スカーレット領にて修羅の道を行く暗殺者のヒイラギと対峙した一行。ネイシアが単身で立ち向かい、甘桃の(スイートピンク)の聖なる力で退けることに成功する。滅紫の傷を全身に受けながらも一命を取り留め、皆の心を尽くした介抱によって穏やかな表情で眠っていた。



「ん…うう…」


「ネイシア!気が着いたんだね…大丈夫?」


「カタリナさん…みなさん、ごめんなさい。私は…それにヒイラギさんがまた現れると思うと…」


「もう彼女の好きにはさせません!私達が全力を以てネイシアお姉様をお守りします!」


「そやそや!ネイシア姉ちゃんに指一本触れさせへんから、安心してや!」


「みなさん…ありがとうございます♪」



ネイシアの愛らしい微笑みに一行の表情も和らぎ、更に結束を強めた。その夜、遂に目的地であるスカーレット領の片隅の騎士団領共同墓地に到着。暗い闇夜に幾つもの墓石が立ち並ぶ中、一歩一歩慎重に歩を進めた。



「誰もいませんね…どこから何が来るかわからないので慎重に進みましょう」


「漆黒の闇……あたくしの紋様が力を増しているように感じますわ。黒き夜の闇に…」


「待って。誰かいるわ。みんな静かに…」


「よし、こちらに気付いていないな……フェリーナ、行くぞ!」



『そこだ!』




フェリーナとヴィオが闇夜に潜む影に向かってミントグリーンとコーヒーブラウンの刃を突き刺す。墓が規則的に並ぶ暗黒から1人の女が駆けてきた。紫の長い髪に大きな黒い帽子を被り、丈の長い黒装束に身を包んでいる。ティファが一行の前に立ち、杖を手に飛び掛からんとする女を制した。



「何者なのであるか!?墓荒しは許さんのである!」


「私は騎士団の者です。この娘達も怪しい者ではありません」


「おおっ、騎士の方々であったか。これは失礼したのである」


「あんたこそ何者だい?人っ子1人いない墓地でコソコソするなんて悪趣味にも程があるってもんだよ!」


「私はカシブ。死霊学者の端くれなのである。最近、この墓地で妙な事件があると聞いて調査に来たのである!」


「わぁ〜!すごいすごい!ねえねえ、先生に教えてもらおうよ!」


「ええ、専門家がいらっしゃるのは心強いですね!是非ともご一緒したいわ!」


「コレット姉ちゃん、ルーシー姉ちゃん…この人、明らかに怪しいで?ステラ姉ちゃん、大丈夫やろか?」


「うむ…まあ、敵意はなさそうじゃから問題ないじゃろう!旅は道連れじゃい!」


「よっしゃ、カシブも自分らに着いてくるッス!現場まで駆け足ッス〜!」


「おお、それは有難い!早速調査を開始するのである!」


「アミィ…アンタ、聞く相手間違えてるよ」


「うん、せやな。完全にミスチョイスやったわ…」



成り行きでカシブを加えた一行は真っ暗な墓地を練り歩く。夜風が日陰にひんやりとした空気が肌に青々とした冷気を残していく。灰色の石畳で整えられた霊園に眠る騎士達に想いを馳せながら、何処に潜むかも解らない敵の影に神経を研ぎ澄ましていった。



「なんかでっかい墓が多いッスね……さっきとは感じが違うッス」


「この辺りは騎士団の歴代の猛者達が埋葬されている区域なのである。騎士の方々の憧れの勇者なのである!」


「そうね。騎士団領の草分けを担ったバーミリオン将軍を筆頭に、それはそれは強力な軍を率いて──」


『ヴオオォォ──』


『アアァァァ──』



カシブとティファの言葉を遮るように強い腐敗臭が鼻に突き刺さる。青く崩れた皮膚、焦点の定まらない瞳、狂気に溺れた表情──間違いなくそれは彼らの本意に反して蘇ることを強いられた死霊の姿であった。



「ぎょえっ!?で、出たぁぁ〜!」


「こ、これがゾンビ…」


「クレア、ケイト、怯んでる場合ではありません。戦いを以て彼らを土に還さなければ!」


「モニカさんの言うとおりなのである!いざ、尋常に勝負なのである!」


「酷い…安らかな眠りを妨げるなんて…天よ、彼の者達をお救いください…」



腐肉の人だかりは次々に地中から這い出てきた。夜の闇に傀儡の哀しき叫びが響く中、彩りの力を振るった。



「バグズバンプス!」


「グラッサージュ!」


「よっ、ほっ!ほれほれ、私はこっちなのである!」


『アアアァァ──』


(カシブ、いったい何を?)



カシブは逃げ回りながらゾンビ達を出入口付近へと誘き寄せていく。不審な行動に首を傾げながらも彩りの力で立ち向かうが、ゾンビ達は地を這いながらモニカ達を容赦なく追い詰めてくる。



「ダークスフィア!」


「グアァアァ…」


「チッ、キリがない…厄介な敵だね!」


「フフフ…今こそ私の力をご覧に入れるときなのである!」


「カシブ…まさか彼女まで!?」


「うん…あれは間違いなく祝福の証!」


「地に惑いし骸よ。我が声に応え、我が意に従え。ぬうぅん…フオオォォッ!!」



カシブは何者かに憑かれたように奇声を発しながらチリアンパープルに彩られた左手を杖の黒い宝珠に添え、禍々しい念を送る。怪しい叫びに応えるように地から多数の亡骸がゾンビとなって現れた。



「カシブ…あんた、何やってンだい…」


「争いとは得てして同質の者同士で起こるものである。ゆえにこちらもゾンビで応戦なのである!こちらは下層兵ばかりだが、数で押し切るのである!総員突撃ぃぃッ!」


『ア゛ア゛ァァァ──』


『オ゛オ゛ォォォ──』



カシブが使役するゾンビの兵隊達が敵に群がっていく。呆気に取られた一行はゾンビの軍勢の指揮を執るカシブの背に訝しい視線を投げ掛けていた。



「カシブ…後退りしながら戦っていたのはこの戦術をとるためだったんですね」


「ヴィオお姉様…あの方、やっぱり怖いです…」


「そうだな。リーベの言う通り、奴はどうも信用ならんな……まさか奴が黒幕か?エレン、どう思う?」


「その可能性も十分に考えられるね……亡骸を操る黒魔術を使うなんて只者じゃないよ…」


「うん…私は邪気を感じ取れるから、危険になったら知らせるわ。皆も気を付けて」



フェリーナは邪気を読み取るべくカシブの一挙一動一投足に眼を光らせる。特に怪しい様子を見せることもなくゾンビの兵を率いていたが、死してなお強者は強者なのか、兵士ゾンビ達は猛者ゾンビ達の前に次々に倒れていき、呆気なく返り討ちとなってしまった。



「くう〜っ!数で押し切れなかったのである!全滅なのである……」


「仕方ありませんね…私達で片付けましょう!」


「うう…気が進まないな〜…みんなで早くやっつけよ──」


「あっ!?クレア、後ろッス!」


「ヴアアァァッ!」


(しまった…後ろをとられるなんて…!)


「せぇいや!…っと、危ないところだったのである…これで私に従うようになったからもう大丈夫である!」


「ありがとう。もし噛み付かれてたら、あたし…」


「ご明察。クレアさんもゾンビになってしまっていたのである…」


「ひいっ!そ、そんな…助かった…」


「フッ、カシブのお陰で命拾いしたな。さて、一仕事するか!」



ゾンビの兵達が駆逐され、やむなくモニカ達が再度隊列を組み直す。僅かばかりの思考の欠片もない腐肉の人だかりは次々に迫り来る。その狂刃に触れれば忽ち自らゾンビと化す──掠り傷一つ負えない状況に一行の表情にも焦燥の色が見え始めていた。



「スプラッシュロンド!」


「シードポップガン!」


「グアアァァァ──」


(カシブはいったい何者なのか…カストルの手下?いや、それとも…)


「モニカ姉ちゃん!ぼんやりしてたらアカンで!ほい、これ飲んで元気出しや!」


「アミィ、ありがとう…これを飲んだらすぐに──」


「それだ!ネイシア、手伝って!」



何か妙案を閃いたカタリナに耳打ちをされたネイシアも続く。2人は祈るような姿勢で両の手を胸の前に組む──亡骸達へ向けたのは優しき癒しの心だった。



『ファーストエイド!』


『グア゛ア゛ア゛──』



治癒術を受けたゾンビ達は次々に崩れ堕ちていく。禍々しい狂気に駆られながら一行に迫っていたゾンビの群れは瞬く間にその数を減らしていった。



「うおぉっ!アンデッドの特性を見破るとは、お見事なのである!まさか治癒術が使えたとは…」


「モニカが飲んだエーテルで閃いたの。狙い通りだったね♪」


「チェックメ〜イト!やられちゃったね〜!アッハハ〜!」



相も変わらず緊張感の無い笑い声をあげながらカストルが姿を現した。薄ら笑いを浮かべたまま無邪気さと表裏一体の残酷さを秘めた眼差しは真っ先にコーヒーブラウンの彩りに向けられた。



「あれあれ〜?ヴィオじゃん?なんでこの娘達と一緒にいるのかな〜?」


「フン、初めから貴様は信用していなかったさ。それに例の約束は守っているから安心しろ」


「そっかそっか♪そうだよね〜…あの約束は守ってもらわなきゃ、ね〜?」


「チッ…まあ、時間の問題だ。そのアホ面を晒していられるのもな!」


「あの…ヴィオさん…えっと、もしかして…」


「その通りだ、リデル。すまない…私は奴に雇われてお前達を追っていたのだ」


「まあ、ボクにとってキミは使い捨ての駒だけどね!傭兵ごときが依頼人を裏切るなんて、思い上がりも甚だしいんじゃないの〜?」


「貴様ッ!!クソッ、あれさえなければ…」


「ヴィオさん…今の依頼人はわたくし達ですわ。惑わされてはいけません!」


「へぇ〜、キミ、意外と芯の強い娘なんだね!でも、キミの大好きな黒い髪の娘は──」




『俺のこと呼んだか?ピエロ野郎!』


「うえっ!?な、な、何ぃぃッ!!!?」


『ハハッ、やっぱりアタシらがいなきゃな!』



一行の視線が一点に集まる。闇夜の漆黒に力強く映える黄色、それに対し黒き闇にしっとりと馴染む薄紫の彩りが全員の双眸に飛び込んできた。



「リタ!トリッシュ!」


「さ〜て、役者が揃ったね!覚悟しなよ、カストル!」


「うぐぐ…これはまずい!逃げるが勝ちよ〜♪」


「逃がすかよ!シャドウバレット!」


「オラァ!エレキテルショット!」



リタとトリッシュの攻撃を間一髪で避け、カストルはまたしても逃げ去った。ヴィオは恨めしそうに見つめていたが、首を横に振り、安堵の表情を浮かべる一行に向き直った。



「とにかく、これで事件解決ね。早速バーミリオン領に遣いを出してアイリスさんに報告してもらうわ」


「うむ。ところで、折り入って皆様に頼みがあるのである。あのピエロ男を成敗するまで私を一団に加えてほしいのである!」


「えっ!?カ、カシブ…」


「死は生の証人たる崇高な存在なのである!それを冒涜した奴には怒り心頭なのである!是非とも頼むのである!」


「ん〜…そこまで言うならええんちゃう?ちょいと胡散臭いけどな!」


「感謝感激なのである!全身全霊で協力するのである!」


「うん!カシブ、よろしくね。あの娘達も戻ってきたし…燃えてきたね!」



トリッシュの胸には満面の笑みを浮かべたカタリナが、リタの胸には両目に溢れんばかりの涙を溜めたルーシーが飛び込んだ。狂える凶刃の痕が癒えた2人の帰還を嬉々として迎え、死霊学者カシブを加えた一行は次なる事件へと向かっていくのであった。




To Be Continued…

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