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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter3:カストル篇
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第30話『夜風の詩は怨嗟の声』

シリーズ第30話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

亡骸が蘇る怪事件の現場である騎士団領スカーレット領への道中、何者かによって仕向けられた暗殺者ヴィオと対峙した一行。険しい地形を駆使した俊敏で幻惑的な動きに苦戦を強いられたものの、ケイトを中心に奮戦した末に辛勝。更にビアリーとルーシーの機転によりヴィオを寝返らせ、仲間に加えることに成功した。




「さて、気を取り直してスカーレット領に向かうよ!」


「うむ。さあ、今日からヴィオもワシらの一門の仲間じゃ!しっかり着いてくるんじゃぞい!」


「了解。さて、仕事するか…よろしく頼むぞ」



ヴィオを加えた一行はようやくスカーレット領に踏み入る。山岳地帯に位置し、その険しい地形を生かした独自のトレーニング法を導入しているため、領地は決して広くはないものの騎士団領の中でも強者揃いと謳われている。一行はティファに案内され、現場の墓地のある地区の都市部に到着した。



「さて、まだ決行まで時間はあるわ。街の宿で待機しましょう」


「はい。ところで、ヴィオ…いいのですか?傭兵が契約を破棄して…」


「ああ。恐らく奴は追求しない。仮にバレたとしても出し抜く算段は出来ているから心配するな」


「私達を討つ仕事だなんて…精霊の祝福を受けた貴女が何故そんな仕事を引き受けたの?」


「私は傭兵だ。それで食っているからな」


「そんなお天道様に胸張って言えないような汚い仕事でもやるってンのかい?あたいにゃ理解出来ないね!」


「ああ、そうだ。これも立派なビジネスとして相応に需要もある。お国のために戦うのも窮屈なものだな」


「ハッ!まあ、お手並み拝見といこうじゃないのさ!プロの実力、見せてみなよ!」


「フン、貴様もせいぜい隙を見せないことだな」



夜が近付き、現場の墓地へ向かおうとした刹那、滅紫の禍々しい閃光が夜の闇を切り裂く。騒ぎを聞き付けた一行が口々に騒ぎ立てる騎士達の人だかりを掻き分けて暗い路地裏に入ると、ただ一点に滅紫の凶気が妖しく揺らめいていた。



「皆、何事ですか!?」


「ティファ様…騎士ガレント様が謎の女に倒されて…」


「アンタ、大丈夫!?しっかりして!…カタリナ、ネイシア!」


「うん、ちょっと待って……駄目……呼吸していないし、脈も止まってる…」



駆け付けた路地裏に筋骨隆々の屈強な騎士が倒れ伏している。左胸に付けられた傷は滅紫色に疼いていた。僅か一点の傷痕でありながら、既に息絶えてしまっている。優しく柔らかなネイシアの心に亡き者となった騎士の哀しき心の叫びが響き、次々に涙が溢れ出した。



「ごめんなさい…救えなくて…ごめんなさい…」


「ネイシアお姉様…ああ、愛のない悲しい世の中なのかしら…いったい誰がこんなことを…」


「ムッ…そこだ!」



ヴィオは袂からダガーを取り出し、間髪入れずに投げ付ける。ダガーをかわしながら音も立てずに駆け抜け、一行の前に現れたのは1人の女性だった。濃紫の衣裳に身を包み、長く伸ばした生成り色の髪で右目が隠れている。自らの拳で殺めた騎士に対し、哀れみに満ちた視線を突き刺していた。



「…弱者必滅…」


「アンタ、何者?また暗殺者かい!」


「我はヒイラギ。闇夜の鳳拳を以て、戦の場に生き、修羅の道を行く者也」



ヒイラギの左手に印された滅紫色の紋様が夜の闇に溶け込みながら妖しく光っている。ネイシアは沸き上がる憤りと哀しみを制しながら、ヒイラギの前へと進み出た。



「祝福の証を持ちながら、その拳でどれほどの命を…罪無き人々を修羅の道に陥とすことが許されると思っているのですか?」


「人は皆、明けに生まれ暮れに死す。是、何人にも避けること能わざる道理也。焉んぞ死を恐れん乎…」


「そんな…神々の力で人を殺めるなんて…許せません!天の命に従い、貴女を罰します!」


「フッ…神々の名を謳った綺麗事など笑止。その愚身を以て知るべし…」



ネイシアは溢れ出した涙をそっと拭い、ヒイラギと向かい合う。戦意を汲み取ったヒイラギも構えをとるや否や、飛び掛かった。闇夜に溶け込みそうなヒイラギの滅紫色の紋様と対照的にネイシアのピンクの紋様が夜の闇を優しく包み込むように照らしていた。



「フッ、シャッ!」


「キャッ!」


「ネイシア!私が助太刀して──」


「モニカさん、その助けは不要です。私は…負けません!天の御心のままに!」



ネイシアはピンクに煌めく左手に十字架を構え、右手を添え合わせる。聖なる力を解き放ち、臆することなくヒイラギの暗き力に立ち向かっていった。胸の前で組まれた両手から放たれたピンクの波動が柔らかな羽となって紺碧の夜空を包み込むように舞い上がった。



「エンジェルフェザー!」


「ぬうっ…」



一旦怯んだあとに居直ったヒイラギは最初とは別の構えをとる。建物の煉瓦が敷き詰められた壁を蹴り、眼にも止まらぬ速さでネイシアの背後に回っていた。



「滅!」


「うっ、ああっ…」



延髄に鋭い突きを見舞われ、ネイシアの視界が一瞬にして霞み、激しく揺らぐ。焦点を合わせようと試みるものの、ネイシアの意思に反して視界の揺らぎは収まらない。一行は単身でヒイラギに立ち向かうネイシアを不安そうな様子で見つめていた。



「ううっ、ああっ…はあっ…はあっ…」


「ネイシア…しっかり!」


「フン…ネイシアとやら、真に甘い小娘よ。我が拳に平伏し、黄泉へ去るがよい…」


「やらせません!大切な仲間であるネイシアお姉様を貴女の拳の贄にするつもりはありませんよ!」


「リーベ、ちゃん…大丈夫ですよ…私は…負けません!」



滅紫の傷が首筋に疼くまま、息も絶え絶えに立ち上がる。ネイシアは焦点が定まりきらない瞳で皆に訴えかけている。毅然とした表情を崩すことなく1人で立ち向かっていった。



「あの暗殺者の方、すごい腕ですわ…ネイシアさん1人で大丈夫でしょうか?」


「うん…悪いけど、安心して見てられないねぇ…ネイシアは優しい娘だからさ、助太刀するなって言われても1人で戦わせンのは忍びないよ…」


「ああ〜…ウチらの姫様が単独出陣なんてホンマ心臓に悪いわ…トリッシュ姉ちゃんとリタ姉ちゃんがおればな〜…」


「絶ッ!!」


「キャッ!」


「是、修羅の刃也…!」


「いやああぁぁッ!!」



ネイシアは容赦なく飛び掛かってくるヒイラギの猛攻に耐え忍ぶ。四方八方から次々に見舞われる連撃を堪え続けていたが、続けざまに蹴りを受け、激しく地に体を打ち付けた。




「グスッ、グスッ…もうやめてよ…ネイシアが死ぬのイヤだ…」


「やめて…ネイシアさんを殺さないで…」


「コレット…リデル…わわわっ、どうしたらいいの!?」


「他愛無し…汝を憂う彼奴(きゃつ)らに免じ命までは獲るまい。疾く去ぬが良い…」


「いいえ…退きません。赦されぬ罪を負う貴女を前にして退くわけにはいきません!」


「フン、愚かよな。其が汝の望みなれば、汝もまた修羅の道を行く者よ!神々の名を謳う資格無し!」


「貴女がなんと言おうとも私は迷いません!私の道は修羅ではなく天の導きの道です!」


「グッ…伏してなおの届かぬ天の虜となるか…憐れ也!」



十字架から射ち出されたピンクの閃光がヒイラギの体を撃ち抜く。何度討たれようと闘志を失わぬネイシアに対し、ヒイラギも一切の慈悲を見せなくなっていた。



「フォトン!」


「うおっ!フッ、甘いわ…せぇいや!」


「ううっ…エンジェルフェザー!」


「くっ…去ねぃ!」


「キャ〜〜ッ!!」


「ネイシア!ネイシアァァ〜ッ!!」



一閃を受けたネイシアは遂に地に伏す。両手を暗く冷たい土の地に着きながら激しく息を切らしている。全身に着いた傷痕が滅紫に疼き、燻りながらネイシアの精神力さえも蝕んでいた。



「最早是迄…汝が修羅は此処で潰えたり。我が闇夜の拳に──グウッ!?ううっ、ぐああっ…」


『アアアァァァ──』


『アアアァァァ──』


「なんてことですの…あの方、これほどの恨みを、これほどの業を背負って…フェリーナさん、まさかこれは…」


「ええ。ビアリー、解るのね?私も感じるわ…あれは怨嗟よ!彼女が殺めた人達の怨念が鎖となって縛り付けている!」


「グググウッ…ああああぁぁぁぁッ!!」



黒き亡者の影が縛り付ける禍々しい痛みがヒイラギの全身を駆け抜ける。脳の最奥から全神経の末梢まで締め付けるような軋みにヒイラギは頭を抱え、悲痛な叫び声をあげながらその場にくずおれていった。



「むむ…何がなんだかようわからんが、チャンスじゃぞい!ぶつかっていきんしゃい!!」


「よっしゃ!ネイシア、決めるッス!暗殺女に燃える闘魂を見せつけるッスよ!!」



ネイシアはステラとテリーの熱い後押しに小さく頷く。両手を胸の前に組み、聖なる神々へと捧ぐ祈りはピンクの十字架となってネイシアには加護を、ヒイラギには裁きを与えた。



「受けよ、天の聖なる裁き!サクラーレ・ローザ・クローチェ!!」


「うおおおああぁぁッ!!!」



聖なる十字架に張り付けられ、裁きの光に討たれたヒイラギは俯せに倒れた。地に手を着き上半身を起こすと、ネイシアに恨みとも取れる敵意に満ちた眼差しを突き刺す。が、ネイシアは対照的にヒイラギに左手を差し伸べ、慈悲に満ちた表情で見つめていた。



「ヒイラギさん…どうか悔い改めてください。罪無き人の血で地を朱に染めるより、今からでも貴女の業を精算しましょう」


「フン…我が道に悔いるもの無し。修羅を以て他に我が道は非ず…」



ヒイラギは滅紫の妖しい闘気に包まれて闇へと消えていった。ヒイラギの姿が消えるや否やネイシアの体が揺らめき、倒れ込む。間一髪のところでヴィオが抱き留めたネイシアの左手にはピンクの紋様が優しく柔らかな彩りを放っていた。



「ネイシア!しっかりしてください!ネイシア!!」


「大丈夫だ。僅かだが確かに呼吸している。急いで手当てするぞ!」


「うん、すぐに宿屋に戻って治療しましょう!でも、ネイシアが死ななくて良かった…」


「そうだね。ネイシア、アンタって娘は…今度アイツが来たら私達が守るからね…」



皆の心配と安堵を知ってか知らずか、ネイシアの眠る表情は少しばかり穏やかになっていた。修羅の道を行くヒイラギと戦い、傷付いたネイシア──何を想い、何を感じながら眠っているのだろうか。モニカ達は修羅の道を行くヒイラギと魔族七英雄カストルにその身を狙われる甘桃(スイートピンク)のプリンセスを護る騎士(ナイト)となる決意を、その愛らしい寝顔を見つめながら強く固めた。




To Be Continued…

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