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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter3:カストル篇
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第29話『断影のヴィオ』

シリーズ第29話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

魔族七英雄カストルが引き起こしたバーミリオン領騎士団ギルドでの甲冑騒動の中、一行は紋様を持つ謎のメルヘン少女リーベに付きまとわれ、結局旅の仲間として迎え入れる羽目になってしまった。この先の旅路、果たしてどんな困難が待ち受けているのだろうか……



「さあ、みなさん! まずはこの騎士団領を愛と希望の光で満たしましょう!」


「ええ。素敵ですわね。ウフフッ……さあ、参りましょう♪」


「ハァ……ビアリー姉ちゃん、ノリノリやないか。トリッシュ姉ちゃんとリタ姉ちゃんになんて説明したらええんやろ……エレン姉ちゃん、どないしよ?」


「ノーコメント」




幸いにもこの日は快晴だ。昨日の雨で潤い澄んだ空気の中、一行は入念に準備を整え、スカーレット領へ向けて動き出す。護衛兼現地ガイドとしてティファを仲間に加え、バーミリオン領から勇んで発った。



「ここから山岳地帯よ。天候も変わりやすいから、注意して!」


「険しいですね…みんな、気を引き締めて──」


「カルミン岳だ!イヤッホゥ!!さあ、頑張ろ!」


「フフッ、そうはいかないみたいだね…クレア、あんまり離れないでよ〜!」



クレアが小躍りしながら前へ飛び出す。鼻歌交じりに歩くクレアに先導されながら進むが、リーベが追い付けない。彼女の華奢な体躯と明らかに登山向きではない洒落た靴にカルミン岳の荒々しい山道は少しばかり厳しいようだ。リーベは隊列からどんどん離されていき、遂に疲れ果て、座り込んでしまった。



「ほらほら、みんな頑張って!」


「うぅ…クレアお姉様、お待ちになって…もうダメ…」


「なんじゃ、情けないのぅ…ほれ、背負ってやるわ。乗りんしゃい!」


「ステラお姉様……ああ、なんて逞しいお背中……」


「ったく、だらしないねぇ!これしきで音をあげてどうするってンだい!」


「まあ、これくらいどうってことないわい!そう目くじら立てるな!ハッハッハ!」



スカーレット領が近付くにつれ、乾いた岩場が目立つようになる。バーミリオン領の街が眼下に映るほど遠くなり、水気のない渇ききった大気が肌にピリピリと突き刺さる中を進む途中、不意にエレンの顔色が変わった。



「ん!?」


「エレンさん、どうされましたか?」


「なんか人の気配を感じて…私達以外に誰かいるみたいなんだけど──」


「ほう。よく気付けたな。随分と勘のいいことだ」



精悍さを称えた低い声。その主がそびえる岩壁を蹴り、一行の前に着地する。黒髪を長く伸ばし、ダークブラウンを基調とした衣装に身を包んだ女性だった。鋭い光を放つ切れ長の眼は敵意を秘め、黒く煌めいている。先頭にいたクレアを一行の列に引き戻し、モニカが前に歩み出る。



「…貴女は?」


「私の名はヴィオ・ブラッド。冥土の亡者に教えてやれ。貴様らにはここで消えてもらう」


「ヴィオ…あんた、もしかして断影(かげだち)のヴィオかい!?」


「ほほう、光栄だな。いかにも、その通り。知っているならば話は早いな。いくぞ!」


「みんな、下がりな!こいつは並大抵の敵じゃない。あたいが相手になるよ!」



ヴィオは凄まじい勢いで飛び掛かってきた。列の後方からビクトリアが焦燥に駆られた表情で飛び出す。攻撃を一身に受け止め、2人は激しい攻防を。ビクトリアの背にも明らかに焦りの色が見てとれ、緊迫が高地の大気に溶け込み、息苦しさを感じるほどだ。



「むむむ……アイツはいったい何者ッスか?」


「断影のヴィオ…実は私も聞いたことがあります。彼女に影を踏まれた者はその命はない……そう言われ恐れられているらしいですね」


「それは厄介な相手ね…ビクトリアも押されてるわ…」


「チッ…やっぱりやるようだね…」


「ビクトリア姉ちゃん!?なんでや……傷だらけやで!?」



ヴィオは武器を持たずに殴りかかってきたはずであった。にも拘らず、ビクトリアの体には無数の切り傷が付けられている。常識的に考えれば有り得ない状況に一行は驚きを禁じ得ない。



「こいつは暗器使いさ。刃物を全身に無数に仕込んで相手の影ごと切り刻む……暗殺のプロとして名の知れた、流れ者の傭兵なんだよ」


「フッ、悠長に説明している場合か?消えろ!」


「ガードシェル!」



ティファの紋様がカーキ色の彩りを放つと、巨大な盾がヴィオの一閃を弾き飛ばす。吹き飛ばされたヴィオは研ぎ澄ました矛先のように鋭い敵意に満ちた視線をティファの瞳に突き刺す。



「…何故貴女はこの娘達を…?」


「貴様には関係無い。こいつらを消すのは仕事だからだ。邪魔をするなら貴様も排除する!」



ティファの言葉も聞き入れず、ヴィオは無差別に襲い掛かる。何者かに託されたであろう黒き務めに執着し、狂気すら垣間見得る様相にモニカ達は圧倒されていたが、カタリナの視線がヴィオの左手を捉えた。



「見て!あの人…まさか…」


「ええ…祝福の証ですわ!」



鋭く唸るヴィオの左手にはコーヒーブラウンの紋様が印されている。しかしながら、“仲間”であるはずのヴィオが自分達に襲い掛かる理由が判然としないままだ。明らかにモニカ達を“敵”として狙っていることに恐怖と戦慄が駆け抜ける。



「チッ、いったい誰がヴィオの裏にいるってンだい…」


「ヴィオ…彼女も私達と同じく精霊の祝福を受けているはずなのに…いったいどうして──」


「グッ…うあっ…!」


「貴様の力はその程度か?騎士とやらが聞いて呆れるな」



ヴィオに滅多斬りに刻まれたティファは膝から崩れ、倒れ込んだ。ヴィオの蔑むような視線が俯せに倒れるティファの背に突き立てられる。ダメ押しとばかりに足元の砂をティファに向かって蹴り上げる。鎧が砂埃にまみれるのを見るとモニカ達に視線を移した。



「さあ、邪魔者は片付いた。まとめて切り刻んでやろう!死ね!!」



褐色のオーラを纏った刃がヴィオの両手に煌めく。“仲間”ではなく“標的”であるモニカ達に向かって一直線に飛び掛かってきた。モニカは金色の彩りでヴィオの凶刃に毅然と立ち向かう。



「ブライトエッジ!」


「フン、ぬるい!」


(クッ…断影のヴィオ…強い…!)


「遅い!そこだ!」


「うああぁぁッ!」



身を翻しながらモニカの一閃をかわすヴィオ──しっぺ返しと呼ぶには余りに厳しい駿足の一撃を受ける。モニカは膝をつき、右腕に受けた切り傷に手を当て、苦悶の表情を浮かべた。



「チッ、急所を外した…まあいい、ならばじっくり楽しむとするか」


「ふえぇん…イヤだ…痛いのイヤだよ…」


「怖い…やめて、ください…」


「フフッ、お二人さん、そう怖がらないでおくれ。弱者をいたぶるのは性に合わん。あとでキャンディ買ってやるからな…逃げるなよぉ!!」


『いやああぁぁッ!!』


「コレット!リデル!…くうぅッ!許さんッス!」


「話し合いにはなりそうもないわね…行くわよ!」



怯えるコレットとリデルに対しても甘い言葉とは裏腹に無慈悲な追い討ちを見舞う。情け容赦の一切無いヴィオの姿に一行の戸惑いも否応なしに吹き飛び、臨戦体勢が整った。



「ガッツナックルッス!」


「メタルスピナー!」


「ウインドカッター!」


「ぬるい!ぬるい!!ぬるい!!!話にならん!!!!消えろ消えろ消えろおおぉぉッ!!!!貴様ら切り刻んで、あの方に報いれば必ずや──」


「ソニックブーム!」


「何ッ!?グウッ…」



テリー、クレア、フェリーナの連携をもろともせず、素早い連撃で3人を瞬く間に切り刻み、岩肌を蹴りながらエレンが牽引する後列の一帯に向かって空中から襲い掛かる──それを討ったのは紫。闇の紫でもなく、冥の紫でもなく、時の紫だった。



「ケイト姉ちゃん!?」


「私だって…大切な仲間が傷付けられて、黙って見てられない!許せないわ!」



ラベンダー色の衝撃波が刃となり、ヴィオの体を切り裂く。撃ち落とされた格好になったヴィオは荒々しい岩肌に背を打ち付ける。瞳に秘められた敵意は瞬時にケイトに向けられた。



「ケイト…アンタ…」


「やってくれたな…望み通り、次は貴様だ!」


「タイムスロー!」



辺りに目覚まし時計のベルのような音が鳴り響くと、ケイトを中心にラベンダー色のドームが形成され、その内に収まるヴィオの動きがVTR映像のスローモーションのように遅くなった。飛び掛かってきたヴィオは空中で無防備な状態になり、防御すらままならない。



「クッ…なんだと!?体が、動かん…そんなバカな…!!」


「アンタ、よくも可愛いウチの子達を切り付けてくれたね!覚悟しなよ!」


「許しませんわ!クレッセントムーン・サイス!」


「ハイドロワルツ!」


「コンフィチュール!」


「グッ…グハッ…!」


「反省せぇ!お仕置きのスターダストボムや〜!」


「うおおぉっ!!」



自慢の俊足を封じられ形勢逆転──連撃を受ける立場となり、止めにマゼンタの爆風を受けたヴィオは地に伏せた。思いもよらぬ強敵を退けるも、一行も苦戦を強いられ、目的地スカーレット領を目前にしてかなり消耗していた。



「ふう、ちぃと苦戦したのう…早速みんなの治療をせんとなぁ!」


「うん、急ぎましょう!ネイシアもお願いね!」


「はい。アミィちゃんも手伝ってください!」


「ほいほい〜…こりゃ酷いわ…野戦病院やで…」



カタリナとネイシアが中心となり、早急に一行の手当てが行われた。ヴィオは全身に拘束具を付けられ身動きが取れない状態にされ、エレンとビクトリアから取り調べを受けていた。



「で、誰に言われたの?私達を倒せって」


「それは話せん。私は傭兵だ。契約違反になる」


「ハッ、だんまりかい!見上げた根性だねぇ!」


「あの…ヴィオさん、ちょっとよろしいですか?」



ビアリーとルーシーがヴィオに首飾りと指輪を手渡した。どちらも高貴な佇まいで気品溢れる白金色に輝いており、それを見るや否やヴィオの顔色が変わった。



「何!?これはまさか…それにこっちは…!?」


「ウフフ…私達と添い遂げるのなら、こちらを差し上げますわよ。いかがかしら?」


「フッ…フハハ!これは一本取られたな。違約金を払っても十分な釣りが出る。釣りだけで2、3年は遊んで暮らせる金額だな」


「では、そのお釣りで私達と契約してくださいませ。共に魔族と戦いましょう!」


「フッ…ヒーロー気取りは柄じゃないが、まあ、いいだろう。料金分はきっちり働かせてもらう」


「ふえぇ、ルーシー!?そのお姉さん、仲間になるの!?怖いよぉ…」


「大丈夫ですわ。手強い敵は裏返せば頼もしい味方です。きっとコレットさんも守ってくれますよ」


「そっか…うん、よろしくね。傭兵のお姉さん♪」


「…まあ、よろしく頼む」



一行は何者かによって差し向けられた刺客ヴィオを仲間に加えた。しかし、雇い主の“何者か”の正体は依然わからない。“昨日の敵は今日の友”という言葉があるが、果たしてヴィオの真意やいかに…?



To Be Continued…

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