第23話『諜報の邸』
シリーズ第23話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
アイリスの依頼を受けて訪れたセピア国にて魔族七英雄カストルの奇襲を受けた一行。一旦宿屋に戻り、冥の銃弾を受けて傷を負ったリタの手当てをしていた。
「カタリナ、リタの具合はどうですか…?」
「大丈夫。すぐに回復するわ♪」
「そうですか…良かった…リタさんに万が一のことがあったら、私は…」
「ルーシー…良かったな。やっぱり姉貴とネイシアの治癒術は頼りになるよ!」
「お〜い!リタ姉ちゃんが起きたで〜!」
アミィの呼び掛けで一行はリタが眠る宿の一室に集まった。リタはベッドから上半身を起こし、負傷の影響を感じさせぬ様子だったが、その表情は晴れない。
「リタ、元気出たかい?アンタが無事でよかった…」
「みんな…ゴメン…俺…」
「ふえ…?リタ…どうしたの?泣いてるの…?」
リタの瞳から大粒の涙が次々に零れ落ちた。拭えど拭えど溢れ出るばかりである。普段は理性的で落ち着いたリタが露にした激情に一行の心はざわめいた。
「リタちゃん…」
「悪りぃ…でも…カストルにあんなやられ方して、みんなに心配かけて…俺、悔しくて…」
「大丈夫。あれはただの人真似さ。あんたの術の方がずっと魂のこもったイカす術なんだから、気にするこたぁないよ!」
「ビクトリア…俺の…魂のこもった術…」
「そうじゃ!リタに涙は似合わんぞい!今度会ったときにゃお前さんの闘魂でギャフンと言わせりゃええ!」
「さあ、行きましょう。廃墟の洋館へ。貴女の闘志の向かう先へ。リタなら出来るわ。」
「リタさん、私達が側にいますわ。彩りの導きのもと、恐れずに共に歩みましょう。」
「みんな…よっしゃ!洋館に行くぞ!!」
『おおぉぉ〜ッ!!!』
リタが心身共に元気を取り戻し、一行は現場である洋館へと向かう。バスで郊外へと赴き、畑や果樹園、民家がまばらに建つ農村が連なる平原をただひたすら歩く。
「ケイト、洋館が近いみたいですけど…この辺りは農村地帯なんですか?」
「えっと…今は国有の農地群です。たしかこの一帯全部が目的地である洋館の持ち主の土地だったみたいですよ。」
「ええっ!?すっご〜い!こんなに広かったら敷地でピクニック出来そうだね!」
「はい。セピア国でも広く名の知れた大地主だったのですが、昨年の秋に病没されまして…買い取り手がいなくて現在は国が暫定的に管理しているんですよ。」
「国が管理…?継承者はいらっしゃらなかったんですの?」
「はい、残念ながらお子さんがいらっしゃらなくて…」
「ふーん…まぁ随分と規模の大きな話だねぇ!あたいら庶民には理解しがたい話だわ!」
「むむむ…果物を見てたら腹が減ってきたッス!ちょいとこのリンゴを一つ──」
「テリー!ダメですッ!!」
15分ほど歩き、一行は目的地の洋館に到着した。佇まいこそ品性を感じさせるが、人気は全く無く、寂れ果てている。更に洋館の背後に木々が鬱蒼と生い茂る暗い森が陰鬱な色合いを強調していた。
「ここが現場ですか…どこか暗くて影が見えるようですね。」
「そうね。悪しき気配を感じるわ…周りの空気が震えてる…」
「フェリーナ、そんなのよく分かるな…ん?アイリス、キョロキョロしてるけど、どうした?」
「えっと、実はここで仲間と待ち合わせをしてまして…あ、いた!アンジュさ〜ん!」
「やあ、待ちかねたよ。そちらが神々の子御一行様だね?僕はアンジュ。どうぞよろしく。」
アイリスの隣からアンジュという名の女性が一行の前に歩み出る。よく整えられた栗色の髪、洗練された仕立ての良いダークスーツ、凛々しさをたたえた端整な顔立ちは男性的な印象だ。アンジュは凛々しい表情を崩さぬまま、洋館へと視線を移す。
「ここで所謂ポルターガイスト現象が発生している。霊的な現象と言われているが魔族の仕業という可能性もあるらしい。全員で館内に入り、調査を行おう。」
「あの…全員で固まって動くのは効率が良くないと思いますわ。分かれてはいかがでしょうか?」
「ああ、そうだね。館内は広いから数名ずつのグループに分けよう。」
一行は5人ずつの4組に分かれる。モニカ、エレン、ビクトリア、アンジュが各グループのリーダーとなり、それぞれの持ち場を担う運びとなった。
「よし、早速突入しよう。皆、気を引き締めて!」
「はい!怪事件の真相、必ずやこのカメラに収めてみせます!」
扉は重々しく軋みながら開かれた。館内は灯りが点いておらず、空間に重々しい暗黒が腰を降ろしていた。
「ほえ〜!真っ暗やな〜…こりゃ完全に幽霊屋敷やわ〜」
「待ってて、懐中電灯があるから…よし、これでOK!」
「よし、みんな、あそこの大きなテーブルに着いて。詳細な作戦を練るとしよう。」
エイリアが灯した懐中電灯の灯りを頼りに席に着く。アンジュは屋敷の図面を取り出し、ペンで書き込みながら作戦を指示する。
「まず、割り振りとしては…モニカ班は2階。エレン班は1階。ビクトリア班は外。そして僕達の班は3階をそれぞれ担当する。各班はリーダーの指示のもと、各エリアの…」
「ぬ…暗くてだんだん眠くなって…きたッス…Zzz…」
ゴツンッ!
「なぁ〜にを悠長に寝てンだいあんたは!!」
「うぐおぉ…ビクトリアの鉄拳、熱き闘魂が燃えてるッス…」
各グループはそれぞれの持ち場へと散った。エレン、エイリア、トリッシュ、カタリナ、ステラのグループは1階の大きなリビングを中心に魔の気配を探った。
「エイリア、そっちはどうだった?」
「何も無いわ。広すぎてどこに手掛かりがあるのか…」
「うむぅ…ちぃと難儀な作業じゃのう。困ったもんじゃわい…」
「なあ、姉貴がキッチンに行ったきり戻ってこないんだけど…もしかしたら…」
「トリッシュ、あまり悪い方に考えないで。」
「うむ、カタリナは一度敵の親方にさらわれとるからのう…心配なのも無理はないわい。」
「そうなんだ…じゃあ、2人残って2人探しに行けば──」
「お待たせ〜!」
4人の心配を尻目にカタリナが満面の笑顔でキッチンから飛び出してきた。両手には料理が盛り付けられた皿を持っている。
「はい、ご飯作ったよ!みんな食べてね〜♪」
「あ〜ね〜きいぃ〜!空気読めよ!!本当に何かあったかと心配したんだから…」
「やれやれ…で、エイリアは何を遠慮せずに食べてるのよ!」
「だって腹が減っては戦は出来ないじゃん!おっ、美味しい〜!」
「うむ、ワシもエイリアに同意するぞ!ほれほれ、エレンとトリッシュも食いんしゃい!」
何やら緊張感のないエレン班。そんな様子を外にいるビクトリア、テリー、クレア、アミィ、アイリスのグループは知る由もない。ただアイリスのカメラのシャッター音が響くだけである。
「う〜ん…それっぽいものはなさそうだな〜…」
「ったく、面倒な仕事だこと!汗でベタベタになっちまったねぇ…」
「でっかい塀やな〜…外が見えへんくらいの高さの塀なんて初めて見たわ!」
「ぬぅおぉ〜ッ!高い壁は乗り越えると気持ち良いッス!」
「遊んでンじゃないよ!ったく、緊張感の欠片もないねぇ…」
「ん?これは…?」
アイリスは裏庭の草むらに光る物体を拾い上げる。ビー玉程の大きさの紫の丸い石だった。
(なんだろう…?何かヒントになるかも──)
突如、アイリスの鞄から耳を裂くような警報音が鳴り響く。携帯を取り出すとアンジュからの応援要請が表示されていた。石を鞄にしまい、4人を連れて屋敷の3階へと駆けていった。
「ひいっ!こ、これは…!」
「やはり…僕の読み通りだったな。」
「お前だったか…カストル!!」
アンジュ、リタ、ケイト、ルーシー、ネイシアのグループは怪現象のと対峙する。タンス、テーブル、椅子が浮かぶ中に1人佇む青年──羽織るトレンチコートの下から怪しく光るプリズムが煌めいていた。
「アハハ!そっちから来てくれたんだ!嬉しいな〜♪」
「貴方に会いに来たのではありませんわ!ここが魔の巣窟ならば、貴方を討つまでです!」
「あっ!キミもいたんだね♪いつ見ても可愛いな〜♪」
「ネイシアに触んな!今度こそ俺がブッ飛ばす!」
(リタちゃん…あんなことがあって怖いはずなのに…私を…)
ネイシアを庇うようにリタがカストルの前に毅然と立ち、両手に銃を構える。怯むことなく向き合い、凛とした表情を崩さない。
「ありゃ?穏やかじゃないよ〜?じゃあ…ボクもそれなりのもてなしをしちゃうからね!」
「リタさん!!」
「クッ…やらせない!」
アンジュの銃から蛍光グリーンのビームが放たれ、カストルの胸元を捉えた。真っ直ぐに伸びた光線が薄紫に染まっていたプリズムを蛍光グリーンに塗り替えた。
「うわっと!そういうことしちゃう?手荒な真似するんだ〜?」
「君達が何をしたいかはわからないが…いつまでも好きにやらせるかよ!」
カストルを鋭い眼光で睨み付けるアンジュの左手には藍色に彩られる紋様。その瞳には“神々の子”としての使命感が満ち溢れていた。
「アンジュさん…まさか俺達と同じ…」
「ご名答。僕も君達の“仲間”さ。」
「アンジュさん!みんな、無事でしたか?」
「やっぱりアンタだね!正義の炎でお仕置きしてやるよ!」
「あ〜あ…なんか萎えちゃった…ボク、もう帰る。スロース、お願〜い…」
「かしこまり〜…面倒だからサクッとやっちゃいま〜す。」
カストルの後方からスロースという無気力な青年が現れた。上下黒のスーツに髪と瞳の紫が映える。カストルが去るのと入れ違いに外にいたビクトリア達のグループも合流した。
「なんか賑やかになってきたな…面倒だなぁ…」
「さあ、覚悟なさい!闇に堕として差し上げますわ!」
スロースは浮かぶ家具を魔物に変えて使役してきた。本人もものぐさな様子ながら長尺のロッドを振るう。決して広くはない書斎に総員入り乱れての大乱闘となった。
「ソニックブーム!」
「ギャアァァ!」
「ビーニードル!…あっ、リタさん、後ろ!」
「まずい!リタが危ない──」
「デスサイス・サマーソルト!」
「フッ…リタ、いい腕だね。僕も頑張らなきゃな…」
「ヘヘッ…よし、決めるぜ!」
銃を構える2人の紋様、薄紫と藍色が交差する。互いの彩りが重なり、更に大いなる力へと昇華していった。
『冥臥双烈破!!』
巨大な青いビームが放たれ魔物達が次々に吹き飛ぶ中、スロースは間一髪で逃げていった。綺麗に整っていた書斎は本が無造作に散らばるばかりとなった。
「…敵に逃げられてしまいましたね…」
「ああ、でもここに巣食うことはもうないだろう。早々にセピア国の軍に連絡しておくさ。」
「ふぇ〜…すごく大きな本…あれ?これ…鍵?」
「あっ!これ、詩人さんがアタシにくれたやつに似てるじゃん!」
「本当ね…ん?この紙は…『この邸の影に染まりし森、冥府の門在り。鍵を以て門開かれし刻、冥の精霊の御元に導かれん』…冥の精霊が近くにいるわ!」
「ああ、この裏だな。少し休んだら行こうぜ!」
「そうか。では僕は任務が終わったから失礼するよ。また会おう。リタ、気を付けて。君なら出来る!」
「…ああ!アンジュ…ありがとう。」
To Be Continued…




