第22話『彩りノスタルジア』
シリーズ第22話目です。どうぞご覧くださいませ!
アズーロ合衆国にてクローマ・ジャーナルの記者アイリスと出会い、数々の怪事件に魔族の影を見出だしたモニカ達一行はエレンの親友である女性パイロットのエイリアの協力を受け、怪事件の現場の一つとされる廃墟の洋館が建つセピア国へと飛んだ。
「アイリス、セピア国はどんな国柄なんですか?」
「そうですね〜…街並みがどこか古風な感じで、アズーロ合衆国から来たらカルチャーショックを受けるかもしれないですね」
「おお、そりゃまた大変そうじゃなぁ!世界は広いのう…」
「はい。なので私の仲間に現地ガイドを頼んであります。ちょっと臆病なところもありますが、お茶目で優しくていい娘ですよ」
「ちょっと臆病でお茶目で優しい…コレットとリデルを足して2で割ったような性格って感じがするなぁ♪」
「ふえ?そうなの、カタリナ?じゃあ、私達とも仲良くなれそうだね、リデルちゃん!」
「はい…すごく…楽しみですね。早く着かないかな…セピア国…」
『みなさん、エイリアです。間もなくセピア国に到着しま〜す!』
「うおおぉぉ〜ッ!!仲間と共に踏み締める新たな地、テンション上がってきたッス〜!!!」
「ああ、テリー!危ないですよ!席を立たないでください!!」
一行を乗せた飛行機は無事にセピア国に到着した。降り立ってすぐに他の国々と空気が違っているのがわかる。空港の中も木造の箇所が散見されており、人工的な色合いがかなり薄い。どこか古風で穏やかな空気が流れていた。
「ここがセピア国…すごく古典的な雰囲気ですね」
「ホントだな。どこかレトロで味がある佇まいで…別の世界に来たみたいだぜ」
「アイリス、さっき現地ガイドを呼んだって言ってたけど、どこにいるの?」
「えっと、たしかこのあたりで…あ、いたいた!おーい!!」
アイリスが手を振る方に1人の女性が立っていた。ネイビーを基調とした落ち着いた佇まいの服装、ショートカットのラベンダー色の髪、左目にモノクルをかけている。明るい笑顔を浮かべるその表情には隠しきれぬ知性が滲み出ていた。
「お待たせ!」
「大丈夫ですよ。私もさっき来たところですから♪」
「みなさん、私の仲間のケイト・ザッカーバーグちゃんです。彼女にセピア国を案内してもらいます!」
「ケイトです。お待ちしておりました。ようこそ、セピア国へ!」
「私はモニカです。ご覧の通り大所帯ですが、よろしくお願いします」
「ホント、すごい大所帯ですね。賑やかで素敵な旅になりそう♪では、街まで移動しましょうか!」
ケイトを加えた一行はバスに乗って市街地へと向かう。そのバスもどこか古風な佇まいであるのに加え二階建て構成であり、一行の目に新鮮に映っていた。
「見て見て!レンガの建物がい〜っぱい建ってるよ!」
「うわぁ〜すごい!なんだかワクワクしちゃう♪アイリス、写真撮って!」
「あっ、はい!やっぱり何度来てもセピア国は絵になりますよね〜!」
「姉貴、はしゃぎ過ぎ…ちょっと落ち着けって…」
「ったく、何しに来たんだか…参っちまうねぇ…」
「フフフ、これはまだまだ序の口ですよ。これからセピア国の魅力を目一杯楽しんでくださいね♪」
都市部に着いた頃には日が落ちており、一行はケイトの案内で彼女の父が営む宿屋に通される。その内装も決して華美ではないが、セピア国の個性が垣間見える独自の色合いを感じさせていた。
「お父さん、ただいま〜!」
「おかえり、ケイト!おや、その方々は友達かい?随分と賑やかだなぁ〜!」
「うん、今日セピア国に来たばかりなの。みんなとっても素敵な人よ!」
「よろしくお願い致します。この人数ですが、大丈夫でしょうか?」
「何、気にすることないよ!ウチは観光客や修学旅行のお客さんのために大人数向けの部屋もあるから問題なしさ!ごゆっくりどうぞ!」
セピア国の夜は穏やかに更ける。人々が寝静まった頃、漆黒の夜の闇に怪しげな3人の男の影が浮かび上がっていた。
「ここで奴らを牽制するか…カストル、頼むぞ」
「は〜い。ま、ちゃんと抜かりなくやっとくから大丈夫だって♪」
「その返答が信用出来ない…少なくとも彼女達の美を汚すことのないようにな」
「ん〜?ベガの言うことってイマイチよくわかんないんだよね…まあ、いいや。ボクにお任せよ〜☆」
朝を迎え、魔の影も光に溶け込む。セピア国の穏やかな朝の風は忍び寄る魔族の恐怖を微塵も感じさせない。ケイトが一行の輪の前方に立ち、爽やかな笑顔を見せながら先導していた。
「さて、今日はゆっくりとセピア国を案内しますよ!見所がたっくさんありますからね〜♪」
「わ〜いわ〜い!セピア国をいっぱい見られる!楽しみだね〜♪」
「うむ、昨日はゆっくり観られんかったからなあ。たまにはこうして満喫するのも悪くなかろう!」
「そうだね♪ほらほら、ビアリーも楽しもう!」
「クレアさん、いつも以上にお元気ですのね。貴女の笑顔、輝いてるわ。ウフフッ…♪」
「…?…!!…」
「ネイシア…どうしたの?」
「今、急に強い邪気を感じたような…いったいどこから…」
「邪気…?私は感じなかったわ。すぐに通り過ぎたのかしら?」
「きっと気のせいですわ。大丈夫ですから、気にすることありませんよ」
「はい…だと良いのですが…」
「ルーシーの言う通りだぜ。あまり考え込んでも仕方無いさ。もし万が一何かあったとしても俺達みんながついてるからな。1人で悩んじゃダメだぞ」
「リタさん…ありがとうございます♪」
優しく可愛らしく微笑みながらも拭いきれぬネイシアの心配をよそに一行はセピア国都市部を練り歩く。これまでの旅路で訪れた国々とは一線を画する特別な個性を持った街並みに皆の心は否応無しに高鳴っていた。
「…うん!いい写真が撮れましたよ♪」
「おお〜!こりゃええのう!ここは粋な風景が仰山あって退屈せんわい!」
「よ〜し!次はあっちに行ってみよう!テンション上がるね〜!燃え上がるね〜!」
「OK!ノリノリのビートでガンガン行こうじゃん!」
「う〜ん…いつまでもこんな観光気分でいいのでしょうか…?私達は洋館の怪現象の調査をしにセピア国に来たのに…」
「モニカ姉ちゃん、ちょっとくらいはそういうこと忘れてもええんちゃうん?たまに肩の力抜かな、疲れてまうで?」
「アミィ…すみません。確かにみんなも楽しんでるのに、私は…」
「ま、それがモニカ姉ちゃんのええところやで♪あんま深く悩み込まんときぃや!ほな、一緒に見に行こ?」
朗らかに笑うアミィに手を引かれ、モニカは輪の中へと入っていく。次第に皆の笑顔に頑だったモニカの心は少しばかり解れ、柔らかな空気に溶け込んでいった。セピア国の穏やかな空気に寄り添うようにゆったりと流れる時に心身を委ねていると知らぬ間に昼になろうとしていた。
「じゃ、歩き回ってお腹も空いた頃でしょうから、ここでお昼にしましょう!」
「カフエー…?ケイト、ここはなんのお店ですか?」
「喫茶店ですよ。普通はカフェって書きますけど、セピア国ではカフエーって書くんです♪」
「へぇ〜…そりゃ面白いねぇ!味があるってもんじゃないのさ!!」
「あの…こんな大人数で大丈夫…ですか?」
「大丈夫!実はこっそりとこの時間に予約してあったんです♪」
一行はケイトに促され、店内へ──扉に付けられた鐘がカランカランと乾いた音を響かせる──ケイトは顔馴染みらしく、主人の女性に親しげに語りかける。
「おばさん!」
「あら、ケイトちゃん!いらっしゃい!予約していたお友達のみなさんね?」
「うん、みんなに初めてのセピア国を案内していたんだ」
「そうかい。こんな所までわざわざ…小さい店ですけど、ゆっくりしていってくださいね」
銀色の皿に盛り付けられた懐かしい薫りのナポリタンが一行を待っていた。セピア国の息吹を詰め込んだような優しい味が一行の心を更に和ませる。
「……」
「…!!…待って、今の人…」
不意にネイシアが席を立つ。ハットを目深に被り、トレンチコートを着た1人の男が店先から一行の様子を見つめている。不穏な空気を感じ取ったネイシアは店を飛び出した。
「あの方…ただ者ではない気がしますわ…」
「そうだな、ビアリー…なんか嫌な感じがするぜ。ネイシア1人じゃちょっとヤバいかも──」
『キャ〜〜〜ッ!!!』
「ネイシア!大変だわ!助けないと!!」
「むむっ!?ネイシアを襲う悪の匂いッス!!」
「んなこと言うてる場合とちゃうやろ…急がなアカンで!」
怪しい男はネイシアを連れ去ろうと駆ける。一行も全速力で駆け、テリーが追い付き、飛び掛かった。
「そぉら!悪に制裁ッス!」
「…!?…!!…」
「今ッス!畳み掛けるッス!!」
『掃射!!』
テリーの足払いで地に這った男にクレア、リタ、フェリーナの3人が容赦なく絨毯爆撃を見舞う。激しい銃声と爆発音がセピア国の穏やかな空気を荒々しく逆立たせた。凄まじい砂煙を掻い潜り、テリーがお姫様抱っこでネイシアを助け出す。
「ネイシア…大丈夫ッスか?」
「はい、テリーさん…ありがとうございます♪」
「あの男、まだ来ますよ…私の剣で討つ!」
「…私も…戦います!」
「あ、あの…ケイトさん…紋様が…!」
怪しい男が再び迫り来る中、ケイトの左手がラベンダー色の輝きを放つ。携えていた薙刀を振るうと残像が衝撃波となって放たれた。
「ソニックブーム!!」
「……!!……」
衝撃波は怪しい男のハットを吹き飛ばした。あらわになったその顔は──ブラン教皇国で対峙した──カストルだった。
「やっほー♪また会えたね、神々の子のみんな!」
「貴方は…カストル!」
「へぇ、ボクのこと覚えててくれたんだ〜。それは光栄だよ♪」
「ハッ!堂々と人さらいしといて何をヘラヘラしてンだい!!」
「だって〜♪この娘可愛いじゃ〜ん♪ついついボクのものにしたくなっちゃってさ〜♪」
「テメェ…ネイシアがどれだけ怖い思いをしたかも知らないで…!俺が潰す!」
「そんなに怒らないで〜♪これから面白いもの見せてあげるから!」
コートを脱ぐとその体はプリズムだった。屈折を繰り返している光でカストルの体が薄紫に染まり、その中心にはリタの姿が映し出されていた。
「アッハハ〜!シャドウバレット!!」
「何ッ!?うわあぁッ!!」
「リタちゃん!そんな…」
「ありゃ…泣かせちゃった?ゴメンね〜♪お詫びにもっと楽しい所に招待するから許して?」
「あぁ〜!アンタ見てるとイライラしてくる!私達は用事があるんだからとっとと消えて!!」
「そっか…じゃあ、また今度ね。バイバ〜イ☆」
カストルは一瞬にして消えていった。一行はリタの手当てに宿屋へと戻った。セピア国独自のノスタルジーに浸る時間も束の間、魔の影を感じながら怪事件の真相を探りに廃墟の洋館へと向かうのであった。
To Be Continued…




