第203話『リモーネ傭兵団~後編~』
シリーズ第203話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
土の茶色と岩の灰色が目立つフェアソー山脈には極めて異質な黒紫の蔦が伸びる。偉大なる賢人が待つゴギョウ国に向けて旅路を歩む彩りの義勇軍一行の前に薔薇の貴公子ベガの配下と思われる植物の魔物が立ち塞がる。一行に因縁を付けてきた悪漢集団の親玉である大男の体に寄生し、腹部を食い破って這い出て来た。
「ベガの奴、こんなことまで…敵ながら空恐ろしい輩だな」
「魔物が人間に寄生する例は初めて見ましたね…情報の記録として、あとで写真に撮っておきましょう」
「アイリス、まだもう少し待って。リモーネ達がアイツらを片付けてからよ」
「恐らくはナモ様もテラコッタの騎士様方も彼のように魔の種に蝕まれていたのだな…恐ろしいものよ…」
「リモーネ、みんな…武運を祈ります…!」
彩りの義勇軍一行は固唾を呑んで戦局を見守っていた。フェアソー山脈の地を糧として次々に増殖する植物の魔物達に相対するのはレモンイエローの戦士リモーネ率いる彩りの傭兵団。悪漢の一団との戦いを終え、息つく暇もあらばこそ、黒紫の蔦が凄まじい生命力を以て殖え続け、容赦無く大群で牙を剥く。
「すごい勢いで増殖してるわ!これが魔界の植物なの ね…」
「うわあ~、早く片付けなきゃヤバいんじゃない?ウチみんならのコンビネーションでパパッと倒しちゃおう!」
「…ええ、任せて。ルッツ、後方からの援護は頼んだわよ」
「おっと、抜け駆けは無しだぜ?このヒースの見せ場も残しておいてくれよな!」
「やれやれ、ヒースは相変わらずだなぁ…みんな、傷は僕が治すけど、無理はしないでよね!」
「断じて魔物どもの好きにはさせぬ!灰も残さず焼き払ってくれるわ!!」
「ミネルバ、頼りにしてるわ♪さあ、みんなも気合い入れていくわよ!」
炎竜の双斧使いミネルバの先導で皆が雪崩れ込み、煌めく彩りの力を叩き込む。彩りの傭兵団が一致団結し、歩む道を切り開くための戦いに臆することなく踏み出していった。
「むんッ!ブレイズファング!!」
「隙だらけよ!ツィトローネ・シュヴェールト!!」
「ギリギリギリィッ…!」
「フフン、ま、このくらい楽勝ね♪ミネルバ、バッチリついてきてよ!」
「応。リモーネ、共に参るぞ!」
先陣を切って魔物の群れを切り裂いたミネルバとリモーネに続くは彗星の瞬きの爽やかな青――水色の髪を無造作に伸ばし、銀白色の鎧に身を包み、左手の甲にはコメットブルーの紋様を耀かせるヒースが勇んで飛び込み、魔物に得物の鎚を荒々しく叩き付ける。
「くらええッ!コメットスマッシュ!!」
「ギイイィィッ!」
「そぉら、まだまだ!オラオラオラオラァ!!」
容赦無く鎚のラッシュを浴びせるヒースの背後に陣形をとるのは2人の狙撃手――アイオライトブルーの拳銃使いティアモとフレンチグレーのスナイパーミレディがクールに照準を合わせ、ホットに引き金を引いた。
「くらいなさい!エールバレット!!」
「…マーダーショット!」
「グアアアァァッ!」
「よし、いっちょあがりね!さあ、急いで次いきましょう!」
「ティアモ、ミレディ、サンキュー!どんどんぶっ飛ばしていこう!」
ヒースの明るい呼び掛けにティアモは微笑みながらVサインをしてみせ、ミレディは無言のまま頷く。順調に魔物を討ち、優勢に立つ一帯が目立つ一方で蛍光オレンジの雷術士ルッツとロゼシャンパンピンクの草術士フロリーナは打って変わって苦戦を強いられていた。
「ギイイィ…クカカカッ…!」
「そんな…私達の術が効かないなんて…ルッツさん…」
「フロリーナ、弱気にならないで!ここはウチらでなんとかしなきゃ…」
「ギギギイイィィッ!」
「そうはさせるか!このミシェイルが相手になってやるぞ!」
「2人とも、アタシ達が来たからもう大丈夫だよ!一緒にやっつけちゃおう!」
苦しむルッツとフロリーナのもとにファウンテンブルーの水拳士カチュアとガーネットレッドの轟棍士ミシェイルが増援に駆け付ける。しかし、戦局は好転するどころか、魔物の増殖はますます加速する一方であり、瞬く間に辺りを埋め尽くし、魔の黒紫に染めていた。
「うわあぁ…これってどういうことなの!?」
「アタシ達の攻撃が効かないだけじゃなくて、攻撃を受けて増殖するなんて…!」
「チッ、マジかよ…どれだけの生命力なんだ…!」
「ま、まさか…私達もこの魔物達に寄生されてしまうのでしょうか…」
「アンタ達、何不景気な顔してんのよ!あたし達がコイツら倒して道を切り開くって決めたんだから、シャキッとしなさいよね!」
首領リモーネの熱い想いのこもった一声が胸に響き、劣勢に翳っていた面々の心に一条の光を灯す。いつも傭兵団の先頭に立ち、旗印として躍動するレモンイエローの勇者の堂々たる姿はいつも仲間達を鼓舞してきた。それは彩りの義勇軍の一員となっても変わらない。
「あたし、すごく嬉しいんだよ…この傭兵団で、このメンバーでこの軍に集まって…一緒に旅が出来て…だから、負けたくない!ううん、このメンバーなら負けない!!」
「リモーネさん…!」
「よ~し、あたし達も頑張るね!セルジュさん、レッツゴーだよ!」
「ええ、いきましょう。シンシアちゃん、元気に頑張りましょうね!」
魔物の群れが蔓延る一帯に彩りの傭兵団は毅然とした意思を抱いて立ち向かう。反撃の口火を切るべくキャンディグリーンの矛戦士シンシアとテンダーピーチの斧槍闘士セルジュが心を合わせ、阿吽の呼吸で鮮やかに彩りを織り合わせていた。
「今助けるわ!レディバグスウィング!!」
「いっけえぇ!ストームクラッシュ!!」
「ギイイィィ…!!」
「みんな、大丈夫かい?順番に治癒術かけるから待ってて!」
「ジェローム、治療は任せたわ。さあ、みんな!ここから本気出すわよ!!」
シンシアとセルジュの連携に端を発し、リモーネ傭兵団は一気呵成の勢いで畳み掛ける。危地に陥った4人を救出して瞬く間に攻勢に立つと、魔物の群れはじわじわと数を減らしていく。フェアソー山脈の一帯を染める色彩は魔の黒紫から彩りの傭兵団が紡ぐ18色に移ろっていった。
「そこッ!ヤーピスダガー!!」
「クカカカァ…!」
「さ~て、そろそろフィニッシュよ!シーダ、援護任せたからね!」
「オッケー!私達リモーネ傭兵団の全力フルパワーで悪を吹き飛ばそう!!」
彩りの傭兵団の首領リモーネと副首領シーダが想いを1つに重ね合わせ、彩りの魔方陣を紡ぎ合う。レモンイエローとチアフルレッドが織り重なり、魔を討つ閃光として昇華していった。
『仇為す者を切り裂き、我らの道を切り開け!ツィトローネ・リュミエール!!』
「グギャアアアアッ!!」
リモーネ傭兵団に立ちはだかった魔物の群れは目映い光に焼き尽くされ、黒紫の煙となって消えていった。美しい彩りの力が雌雄が決するや否や、後方で見守っていた彩りの義勇軍が疲れ果てたリモーネ傭兵団のもとに駆け付け、戦いの傷を癒し、奮戦を労った。
その後、ダークグリーンの彩りの従軍記者アイリスが魔物に食い破られた大男の亡骸を写真に収める。魔物に蝕まれ、糧とされた尊い犠牲に心から哀悼の意を表しつつ、魔の脅威を討つための足掛かりとすべく真摯な想いで向き合っていた。
「これが魔物に寄生された方の症例ですか…この写真をクローム・ジャーナル社に送って情報提供を依頼してみますね」
「アイリス、お願いします。あの魔物達、手強かったですね…」
「オッス!でもリモーネ達の熱い闘魂を見せてもらったッス!リモーネ、みんな、お疲れ様ッス~!」
テリーの労いの言葉を皮切りに皆が口々にリモーネ傭兵団の面々に暖かい言葉をかける。悪を討ち、魔を祓った彩りの傭兵団の面々を彩りの義勇軍の誰もが仲間として歓迎していた。
「まあ、あたし達にかかればこんなもんよ♪リモーネ傭兵団、この軍の主力として役立ててよね!」
「ちょっとでも力になれて良かったです…もっともっと頑張りますね!」
「スミア、その意気よ。みんなで力を合わせ、助け合いながら歩んでいきましょう!」
「そうだね、ティアモ!私達のMAXフルパワーで…って、どわわっ!?こ、転んじゃった…いたた…」
「まったく、シーダはおっちょこちょいだなぁ…やっぱり僕達が見てなきゃ危なっかしいね…」
ジェロームの言葉にリモーネ傭兵団の皆が頷き、シーダが照れ笑いを見せると彩りの義勇軍からも大きな笑い声が沸き起こる。戦いの後、穏やかな空気が一行を包み込み、皆が仲間として過ごす時間を共有していく。より一層カラフルな絆を紡ぎ合っていく彩りの義勇軍一行はゴギョウ国へと歩を進めていった。
To Be Continued…